地層処分のリスクコミュニケーションを可能にするために

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カテゴリ: 第12回
1. はじめに
充分な情報が無く身近でない技術の問題は、社会的受け入れに時間を要する場合が多い。1820 年代半ばにイギリスで始まった鉄道の商業利用はその典型であった。日本では欧米で実績ができた1870年代前半に近代化の象徴として鉄道の利用が始まったため、スムーズに社会に受け入れられた。 原子力発電と高レベル放射性廃棄物処分は、福島第一事故が起きたことに加えて世界で最初のフインランドの処分場操業が2020 年頃であるため、前者には負の実績があり後者には現在まで実績がない。国民とのリスクコミュニケーションが必要であり、日本の地理的環境も含めて、この課題に対して継続的に情報提供をしていく必要がある。この視点で有用と考える活断層と地層(岩石)に関する幾つかの特性と事例について報告する。
2. 活断層と地震動の具体例
2.1 活断層 陸域の活断層は活発なもので千年弱に1回、多くは数千年に1 回、長いもので数万年に1 回の割合で活動を繰り返している。活断層がある地層(岩石)では、力が働きひずみがある量に達すれば、断層が動きひずみを解消し(ほぼ)安定な状態に戻る。その繰り返し周期は、地層のひずみの蓄積割合と断層面の滑りやすさに依存する。断層運動を繰り返す断層面は平滑となり、鏡肌と呼ばれるほど磨かれた面になることもある。また、面に接する 岩石は破壊され破砕帯やせん断帯ができる。日本列島の 活断層の長さは、ほとんどが数10km 程度である。例えば、 松田によるマグニチュードと断層長さの関係式に基づけば、地表に変位が現れるM7.0 地震で断層長さ~20km、M7.5 で~40kmである。糸魚川‐静岡構造線・中央構造線の活断層帯を除いてM8(断層長さ~80km)を超える地震は極めて稀と考えられている。 2.2 活発な活断層での事例 [1] 鉄道・自動車交通網のトンネルは、活断層をよぎっていることがある。1930 年の北伊豆地震(M7.3)は、東海道本線の丹那トンネル開削中にトンネルをよぎる丹那断層を含む北伊豆断層帯が動いて発生した。一つの水抜きトンネルでは開削面が水平方向に2m以上移動し(活発な活断層であることが分かる)鏡面的な断層面が現れた。その後の調査で活動周期が約700 年(現時点では約800 年)と判明し当分の間活動は無いと判定され、1964 年に開通した東海道新幹線の新丹那トンネルも丹那断層を横切って建設された。この地域は北上するフィリピン海プレート上の伊豆地塊(北端が伊豆半島)が衝突している陸上でのプレート衝突境界域で、富士・箱根の火山もあり地質的には複雑で大きな力が生じている。 2004 年の中越地震(M6.8)では魚沼新幹線トンネルをよぎる断層が動き、断層面上ですべり量が大きいと推定される範囲( 1.0m 以上)でコンクリート壁の一部が崩れ落ちるなどの被害が発生した。トンネル自体の変位は生じておらず、断層の動きに対してトンネル構造が大きな抵抗体として作用し、コンクリート壁のクラック発生・一部崩落、床の隆起などで終わっている。被害は堆積層の新第三紀鮮新世(約260 万年以前)のシルト岩層および中新世(約530 万年以前)の泥岩・砂岩互層域に集中している。この地域は、ユーラシアプレートと北米プレー連絡先:杉山憲一郎、〒007-0837 札幌市東区北37 東28 E-mail: oldsugi@yahoo.co.jp - 360 - トが衝突する日本海東縁変動帯の陸域で強い力を受けて褶曲が生じている地域である。この事例の教訓を踏まえてJR東日本では現地調査を行い、震源断層から水平距離で概ね5km 以内の、地層強度が相対的に低いトンネルと覆工背面に空隙があり地震力が局所的に集中しやすいトンネルを対象に補強工事を終了している。2.3 活断層を含まない地震動による事例 [1] 長さ約450km、幅約200km が動いたM9 太平洋沖プレート境界型地震では、トンネル等の地下構造物のある地下では、地震動は地表に比べて1/5 から1/10 に減衰していることが確認できている。東日本の新幹線網の例では、高架線とその支柱などでは損傷が生じたが、トンネル(135 ヶ所、186km)では損傷が発生していない。理由は、地下の均質な(圧縮力に強い)岩盤内では地圧も含めた大きな拘束力(圧縮力)が働いており、地震動による引張力はその圧縮力を減少させるだけで、破壊に繋がる大きな変位を作り出すことが出来ないためである。 より具体的な例を鉱山の地表と坑道で説明する。岩手県釜石鉱山(石炭紀・ペルム紀系の火成岩)の地震動では、地表の事務所では揺れが非常に大きく、机などが移動し立っているのが難しかった。周囲の山で局所的な表土崩落が生じた。山頂直下約600mのミネラルウオーター(地下水)の採水坑道では、Na 濃度の微妙な変化とフイルターにかかる石屑が僅かな増量を示した以外に目立った変化はなかった。地表地震動に比べて、深い坑道の地震動は約1/5 に減衰していた。 岩盤層の応答の対極にあるのが、水分の多い砂泥埋立地である。地震動により砂泥層内の空隙を水分が移動し、近くの埋設物のため動きが制約され水圧が大きく上昇すると、砂泥水が噴出する。所謂、液状化現象であり、構造物が傾いたり、倒れたりすることがある。東日本大震災では、仙台市の海岸線の埋立地だけでなく、東京湾沿岸や千葉・埼玉県内陸部の沼・水田の埋立地でも、液状化現象により大きな被害が出た。3.断層がある粘土質岩堆積層での事例[2] 粘土質岩層に発生した断層挙動に対する高レベルガラス固化体の実規模国際研究がスイスジュラ山脈内のモンテリ岩盤研究場(Mont Terri Rock Laboratory)で行われている。この研究場は、高速自動車トンネルに並行して設置されている救助トンネルから研究用トンネルを掘り、コストパホーマンスにも最大の注意を払い優れた研究成果を挙げている。研究場周辺の地層をFig.1 に示す。研究場は厚さ約150mの粘土質岩層内に位置しており、粘土鉱物の割合は40~80%でその10%は膨潤・可塑性に優れている。現在は大きく褶曲しジュラ山脈の一部であるが約1.8 億年前は海底であった。この粘土質岩層内には断層があり、山頂部は風化しているため、断層面への雨水の侵入性が実験的に検討された。その結果、粘土鉱物の可塑性・膨潤性のため断層近傍の拡散特性は断層から離れた均質地層部と実質的に変わらないことが確認できた。即ち、仮にこのような粘土質岩層に力が働き新しい断層が発生しても、地層が十分厚い場合にはガラス固化体の定置位置に幾分変位が生じるだけで、周囲への放射性物質の拡散特性は実質的に変化しない。スイスでは、このような研究成果に基づき、地層がほぼ水平で安定している北東部に3箇所の高レベル放射性廃棄物処分場候補地が提案されている。Fig.2 に示すベツナウ原子力発電所の原子力地域熱供給網を利用している住宅地域の地下約500mが候補地の一つである。参考資料[1] NUMO, “NAGRA-NUMO Workshop on Impact of the East Japan Earthquake of Underground Structures”, Jan.16 2012, Wettingen, Switzerland.“ “地層処分のリスクコミュニケーションを可能にするために “ “杉山 憲一郎,Ken-Ichiro SUGIYAMA
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