AE センサを用いたメカニカルアンカの非破壊検査技術の開発
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カテゴリ: 第12回
1.緒言
2012 年に中央自動車道笹子トンネル天井板の落下事故が発生した。事故調査委員会が纏めた報告書によれば[1]、天井板を支えていた接着系アンカーボルトの施工不良や樹脂部の経年劣化がトンネル天井板落下の原因と推定された。この事故を契機として、道路構造物において常時引張力を受ける機器構造物の支持には、金属拡張系アンカ(メカニカルアンカ)の使用が有力な選択肢の一つと認識されている。 メカニカルアンカは、原子力プラントにおいて機器の支持に用いられている。メカニカルアンカは施工後も全体が大気環境下にあるため、ボルトやスリーブの腐食あるいはコンクリートの劣化が可能性として考えられる。高経年化技術評価書には、原子力プラントの高経年化に対応した長期保守管理項目の一つとして、メカニカルアンカの全面腐食が挙げられており[1]、メカニカルアンカの健全性維持の必要性が認識されている。 原子力プラントにおけるメカニカルアンカに対しては、通常目視点検、異常振動の有無の確認が定期的に行われており、さらに機器の取替え時等を利用したサンプル調査により腐食・付着力等が調査される[2]。しかしながら、目視点検が困難な埋設部の健全性を、機器供用中に非破壊的に評価可能であれば、原子力プラントの安全性、信頼性を維持管理していく上で有益な情報となることが期待できる。 筆者らは、メカニカルアンカの健全性を評価するAE(acoustic emission)センサを用いた非破壊検査システムを進めている。本システムを用いた検査では、AE センサは、主にAE センサが設置されているボルトが発する打音信号を受信し、検査環境(騒音・振動など)に比較的依存しないという特徴がある。本報では、AE センサを用いたメカニカルアンカの非破壊検査の一例として、施工不良、経年劣化等による締付けトルクの緩み、またコンクリートの割れを模擬したボルト試験体を作製し、本検査システムを用いたメカニカルアンカの健全性評価に関する有効性について検討する。
2.実験条件
2.1 AE センサを非破壊検査システム 開発を進めている非破壊検査システム(Fig.1)は、AE センサをメカニカルアンカ露出部(頭頂部等)に設置し、- 365 -ハンマー等でボルトを打撃して、得られた信号の周波数分布が施工不良、経年劣化に感度を有することを利用している。本システムによる検査は、検査精度が検査員の熟練度に依存しない客観的な検査が可能であること、検査環境(騒音・振動など)に比較的依存しない、定量的な検査結果が得られる、等の特徴を有している。Fig.1 Schematic view of the inspection system 2.2 供試体 本実験には、全長120mm のM16 ウェッジ式メカニカルアンカ(材料:SS400)を用いた。このメカニカルアンカを一辺が200mm、圧縮28N/mm2の立方体形状のコンクリートブロックに深さ105mmの穴を穿孔し施工した。供試体は、コンクリートの経年劣化を模擬するため、コンクリートブロックに割れを生じさせたものと、割れの無いものの2種類を作製した。それぞれの供試体の外観をFig.2 に示した。Fig.2 Mechanical anchor bolt installed in concrete block 2.2 試験条件 締付トルクが評価値に及ぼす影響を調べるため、締付けトルクをM16 メカニカルアンカの標準締付けトルクである100 Nmまで段階的に変化させて、試験を実施した。本システムによりメカニカルアンカの固有周波数を評価した。3.結果及び考察 コンクリート割れの無い試験体に施工したメカニカルアンカに対する試験では、主にその固有周波数に起因する周波数ピークが検出された。評価試験結果をFig.3 に示す。メカニカルアンカの締付トルクが低下するにつれて、メカニカルアンカの固有周波数は低周波側へシフトする傾向が見られた。また、ナットを外した状態での計測では、コンクリート割れにより固有周波数は低周波側へシフトした。これらの結果から、メカニカルアンカの締付トルク低下、経年劣化を非破壊的に定量評価する可能性が示された。Fig.3 Peak frequency changes obtained from mockups 4.結言 メカニカルの健全性を評価するAE センサを用いた非破壊検査システムを構築し、経年劣化を模擬した試験体を作製して、構築した非破壊検査システムの有効性について評価した。固有周波数の変化から、メカニカルアンカの締付トルク低下、経年劣化を非破壊的に定量評価する可能性が示された。 参考文献[1] ”トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会報告書”, トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会(2013). [2] ”美浜発電所3 号炉 高経年化技術評価書”, 関西電力株式会社(2006) 他. - 366 -“ “AE センサを用いたメカニカルアンカの非破壊検査技術の開発 “ “匂坂 充行,Mitsuyuki SAGISAKA,松永 嵩,Takashi MATSUNAGA,小川 良太,Ryota OGAWA,鵜飼 康史,Yasufumi UKAI,礒部 仁博,Yoshihiro ISOBE
2012 年に中央自動車道笹子トンネル天井板の落下事故が発生した。事故調査委員会が纏めた報告書によれば[1]、天井板を支えていた接着系アンカーボルトの施工不良や樹脂部の経年劣化がトンネル天井板落下の原因と推定された。この事故を契機として、道路構造物において常時引張力を受ける機器構造物の支持には、金属拡張系アンカ(メカニカルアンカ)の使用が有力な選択肢の一つと認識されている。 メカニカルアンカは、原子力プラントにおいて機器の支持に用いられている。メカニカルアンカは施工後も全体が大気環境下にあるため、ボルトやスリーブの腐食あるいはコンクリートの劣化が可能性として考えられる。高経年化技術評価書には、原子力プラントの高経年化に対応した長期保守管理項目の一つとして、メカニカルアンカの全面腐食が挙げられており[1]、メカニカルアンカの健全性維持の必要性が認識されている。 原子力プラントにおけるメカニカルアンカに対しては、通常目視点検、異常振動の有無の確認が定期的に行われており、さらに機器の取替え時等を利用したサンプル調査により腐食・付着力等が調査される[2]。しかしながら、目視点検が困難な埋設部の健全性を、機器供用中に非破壊的に評価可能であれば、原子力プラントの安全性、信頼性を維持管理していく上で有益な情報となることが期待できる。 筆者らは、メカニカルアンカの健全性を評価するAE(acoustic emission)センサを用いた非破壊検査システムを進めている。本システムを用いた検査では、AE センサは、主にAE センサが設置されているボルトが発する打音信号を受信し、検査環境(騒音・振動など)に比較的依存しないという特徴がある。本報では、AE センサを用いたメカニカルアンカの非破壊検査の一例として、施工不良、経年劣化等による締付けトルクの緩み、またコンクリートの割れを模擬したボルト試験体を作製し、本検査システムを用いたメカニカルアンカの健全性評価に関する有効性について検討する。
2.実験条件
2.1 AE センサを非破壊検査システム 開発を進めている非破壊検査システム(Fig.1)は、AE センサをメカニカルアンカ露出部(頭頂部等)に設置し、- 365 -ハンマー等でボルトを打撃して、得られた信号の周波数分布が施工不良、経年劣化に感度を有することを利用している。本システムによる検査は、検査精度が検査員の熟練度に依存しない客観的な検査が可能であること、検査環境(騒音・振動など)に比較的依存しない、定量的な検査結果が得られる、等の特徴を有している。Fig.1 Schematic view of the inspection system 2.2 供試体 本実験には、全長120mm のM16 ウェッジ式メカニカルアンカ(材料:SS400)を用いた。このメカニカルアンカを一辺が200mm、圧縮28N/mm2の立方体形状のコンクリートブロックに深さ105mmの穴を穿孔し施工した。供試体は、コンクリートの経年劣化を模擬するため、コンクリートブロックに割れを生じさせたものと、割れの無いものの2種類を作製した。それぞれの供試体の外観をFig.2 に示した。Fig.2 Mechanical anchor bolt installed in concrete block 2.2 試験条件 締付トルクが評価値に及ぼす影響を調べるため、締付けトルクをM16 メカニカルアンカの標準締付けトルクである100 Nmまで段階的に変化させて、試験を実施した。本システムによりメカニカルアンカの固有周波数を評価した。3.結果及び考察 コンクリート割れの無い試験体に施工したメカニカルアンカに対する試験では、主にその固有周波数に起因する周波数ピークが検出された。評価試験結果をFig.3 に示す。メカニカルアンカの締付トルクが低下するにつれて、メカニカルアンカの固有周波数は低周波側へシフトする傾向が見られた。また、ナットを外した状態での計測では、コンクリート割れにより固有周波数は低周波側へシフトした。これらの結果から、メカニカルアンカの締付トルク低下、経年劣化を非破壊的に定量評価する可能性が示された。Fig.3 Peak frequency changes obtained from mockups 4.結言 メカニカルの健全性を評価するAE センサを用いた非破壊検査システムを構築し、経年劣化を模擬した試験体を作製して、構築した非破壊検査システムの有効性について評価した。固有周波数の変化から、メカニカルアンカの締付トルク低下、経年劣化を非破壊的に定量評価する可能性が示された。 参考文献[1] ”トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会報告書”, トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会(2013). [2] ”美浜発電所3 号炉 高経年化技術評価書”, 関西電力株式会社(2006) 他. - 366 -“ “AE センサを用いたメカニカルアンカの非破壊検査技術の開発 “ “匂坂 充行,Mitsuyuki SAGISAKA,松永 嵩,Takashi MATSUNAGA,小川 良太,Ryota OGAWA,鵜飼 康史,Yasufumi UKAI,礒部 仁博,Yoshihiro ISOBE