多点分析手法による回転機器構造系異常の検出
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カテゴリ: 第12回
1.背景
日本保全学会では平成18 年度以降「状態監視技術の高度化に関する調査検討分科会(CMT 分科会)」を設置し、海外調査、文献調査、検証・確認試験等を通じて状態監視技術及び状態基準保全に対する様々な調査、検討を行ってきた。平成24~25 年度(第4フェーズ)は複数センサの相関性に着目した多点的手法による異常検出技術が検討されその有効性が示された。平成26 年度(第5 フェーズ)はこのような多点的手法を回転機器の構造系異常異常の検出に適用し、診断技術の高度化を図ることがテーマとなっている。 本研究は保全学会CMT分科会第5フェーズ1年目における技術ワーキンググループの活動として行われたものであり、横型ポンプの各種構造系異常に対し、複数点で取得された振動加速度データを複合的に分析する手法を考案し、異常の検出性を評価したものである。
2.構造系異常模擬試験
2.1 試験条件 横型ポンプにミスアライメント、アンバランス等の各種構造系異常を付与し、振動加速度データを取得する試験を行った。全試験条件の概要をTable 1 に示す。 Table 1 Experimental conditions それぞれの試験では、正常状態に加え異常の程度を2 ~5 段階変化させている。異常の程度の詳細をTable 2 に示す。 Table 2 Degree of abnormality 試験名カップリング種類異常種類異常模擬方法試験条件1ミスアライメント1 たわみ軸継手偏心+偏角モーターと基礎の間にシムを挿入正常+ 異常3段階2ミスアライメント2 固定軸継手偏心モーターと基礎の間にシムを挿入正常+ 異常5段階3アンバランス固定軸継手インペラのアンバランスインペラにおもりを装着正常+ 異常2段階4基礎のゆるみ固定軸継手基礎のボルトのゆるみ基礎のボルトをゆるめる正常+ 異常3段階状態偏心・偏角量正常0.02mm以下偏心+偏角1 偏心0.8mm 偏角0.3mm 偏心+偏角2 偏心1.4mm 偏角0.5mm 偏心+偏角3 偏心2.0mm 偏角0.7mm ミスアライメント2 状態偏心量正常0.02 mm以下偏心1 0.5mm 偏心2 1.0 mm 偏心3 1.5 mm 偏心4 2.5 mm 偏心5 3.0mm ミスアライメント1 状態アンバランス量(g・mm) 正常0 アンバランス1 476.4 アンバランス2 770.9 状態状態正常正常ゆるみ1 ゆるみ小ゆるみ2 ゆるみ中ゆるみ3 ゆるみ大アンバランス基礎のゆるみ連絡先: 角皆学、〒110-0008 東京都台東区池之端2-7-17 井門池之端ビル7F、電話 03-5814-5350 E-mail:tsunokai@iiu.co.jp - 367 -試験に使用したポンプの外観と主な仕様をFig.1に示す。Fig.1 Horizontal centrifugal pump 振動加速度データは、3 軸の振動加速度計2 個をポンプ及びモーターの軸受部に設置して取得した。計6 チャンネルの同時測定で、1 条件につき10 回のデータ収録を行った。測定条件及びセンサ設置位置をFig.2 に示す。Fig.2 Measurement conditions 2.2 試験結果 簡易診断結果として、各試験条件における振動速度RMS の平均値をFig.3 に示す。振動速度RMS は振動加速度データを数値積分して求めたものである。図中の凡例はセンサの設置箇所と検出方向(H:水平方向、A:軸方向、V:鉛直方向)を示している。(a) ミスアライメント1 (b) ミスアライメント2 (c) アンバランス(d) 基礎のゆるみFig.3 RMS of vibration velocity ミスアライメント1 および基礎のゆるみ試験では異常程度の大きさに伴って振動速度RMS が上昇する傾向が見られるが、その他の試験では明確な傾向が見られない。次に周波数スペクトルの結果例を示す。Fig.4 はアンバランス試験におけるモーター側振動加速度の周波数スペクトルで、1つの試験条件における10 回のデータ収録で得られた周波数スペクトルを平均化したものである。ポンプ概略仕様横型ターボポンプ出力1.5kW 回転速度約3000rpm 吐出し量75L/min 全揚程23.2m X 23X 1 564サンプリングレート20kHz サンプリング時間10sec 6チャンネル同時測定1条件につき10回のデータ収録3軸振動加速度計検出方向00.511899/12/31 12:00:0022.51900/01/023.5F-A0 F-A1 F-A2 F-A3 振動速度RMS(mm/s)motor H motor A motor V pump H pump A pump V 正常偏心偏角1 偏心偏角2 偏心偏角3 00.51899/12/311899/12/31 12:00:001900/01/011900/01/01 12:00:001900/01/021900/01/02 12:00:00M0 M1 M2 M3 M4 M5 振動速度RMS(mm/s) motor H motor A motor V pump H pump A pump V 正常偏心1 偏心2 偏心3 偏心4 偏心5 00.511.522.533.5正常アンバランス1 アンバランス2 振動速度RMS(mm/s)motor H motor A motor V pump H pump A pump V 00.511.522.533.544.55正常ゆるみ1 ゆるみ2 ゆるみ3 振動速度RMS(mm/s)motor H motor A motor V pump H pump A pump V - 368 -Fig.4 Frequency spectrum Fig.4 から異常が付与されている場合、軸回転周波数の高調波のピークが増大していることが分かる。その他の試験条件においてもFig.4 同様、主な変化は軸回転周波数またはその高調波成分に見られた。このような変化は構造系異常に対する一般的な知見と合致するが、変化の現れ方については機器や状態によってばらつきが大きく一般的な知見のみで異常の原因や程度を判別することは困難である。そこでこのような構造系異常に対する診断技術の高度化を図るため、以下に記す多点分析手法を考案した。 2.3 多点分析手法による診断 前述のとおり、構造系異常は軸回転周波数及びその高調波成分に変化が現れる。そこで構造系異常の検出に有用な情報のみを抽出するため、周波数スペクトルにおける軸回転周波数の1 倍~10 倍までのピーク値を要素としたベクトルを構築し、同時測定している6 チャンネルについてそのベクトルを結合したものを、1つの状態を代表する特徴ベクトルとして定義する。Fig.5 に特徴ベクトルの定義を示す。 Fig.5 Definition of feature vector この定義により、1 回の測定データ(10 秒間)から1 つの特徴ベクトルが得られる。全試験データから得られた特徴ベクトルを可視化したものをFig.6 に示す。 (a)ミスアライメント1 (b)ミスアライメント2 (c)アンバランス (d)基礎のゆるみ Fig.6 Visualization of feature vector motor H motor A motor V 正常アンバランス1 アンバランス2 軸回転周波数とその高調波正常アンバランス1 アンバランス1 アンバランス2 アンバランス2 正常p1 p2 p3 p4 p5 p6 p7 p8 p9 p10 1回の測定の振動加速度周波数スペクトルにおける軸回転周波数の1倍~10倍までのピーク値を抽出ch_i . 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10. x . p , p , p , p , p , p , p , p , p , p . . ch1 ch2 ch3 ch4 ch5 ch6 特徴ベクトル x . x ,x ,x ,x ,x ,x (全60成分) モーターH, A, V方向ポンプH, A, V方向系列1系列11 系列21 系列31 00.511.522.531899/12/31111900/01/201900/01/30411900/02/19ベクトルの要素の値(スペクトルピーク値m/s2) 正常偏心偏角1 偏心偏角2 偏心偏角3 1つの特徴ベクトル系列1 系列11 系列21 系列31 系列41 系列51 00.511.522.511121314151ベクトルの要素の値(スペクトルピーク値m/s2) 正常偏心1 偏心2 偏心3 偏心4 偏心5 系列1系列11系列21 00.20.40.60.811.21.41899/12/311900/01/1021314151ベクトルの要素の値(スペクトルピーク値m/s2) 正常アンバランス1 アンバランス2 系列1 系列11系列21 系列31 00.20.40.60.811.21.41.61.8211121314151ベクトルの要素の値(スペクトルピーク値m/s2) 正常ゆるみ1 ゆるみ2 ゆるみ3 - 369 -図から分かるように、特徴ベクトルは異なる試験の正常状態同士においても違いがあるため、このような正常時のばらつきの範囲内は正常と判定し、そこから逸脱した場合には異常と判定するような手法が必要である。そこで、ベクトルの類似度を評価する手法であるSBM(Similarity Based Modeling)を特徴ベクトルに適用し、異常を判定する手法を検討する。 SBM の原理[1]-[3] 正常時のある時刻 におけるm個の物理量のセットを1つの特徴ベクトル とし、正常時のばらつきをカバーできるだけのn 個のベクトルからなる行列を正常時のモデル (m×n 行列)とする。 -1ここである時刻の物理量のセット(実測値) y を正常時のモデル . の一次結合で再現することを考え、 に係る重み を成分とするベクトル を用いて、再現ベクトル を式(2)のように定義する。 -2この を以下の式により求める。 -3-4なお、 はij 成分が のi 番目の列ベクトル 及び のj 番目の列ベクトル の類似度 で定義される行列であり、同様に はi 成分がAのi 番目の列ベクトル 及び の類似度 で定義されるベクトルである。 なお2 つのベクトルの類似度 は(6)式を用いた。 -6(3)式でサンプルベクトルの係数 の成分の合計を1とする規格化を行っていることから、正常時のモデル . が張る空間の部分空間のみ再現可能となり、その部分空間から逸脱した場合を異常として評価することが可能となる。ここでは実測値と再現値の残差r を(7)のように定義し、異常の程度を示す指標とする。 -7前述したように、それぞれの試験における正常データ同士においても違いが見られたため、このばらつきを含めて正常状態として学習させるため、それぞれの試験の正常データのうち半数を正常時のモデルとして使用した。また評価対象はそれ以外の取得データとした。これを図示したものをFig.7 に示す。 Fig.7 Usage of each data Fig.8 に全試験データに対するSBM による評価結果を示す。値は各条件における残差r の平均値であり、異常の程度を示すものである。異常判定の閾値は正常時の値の標準偏差の3 倍とし、図中に赤い点線で示している。 Fig.8 Average value of residual Fig.8 から分かるように、RMS では検出が困難であった(Fig.3 参照)ミスアライメント2、アンバランス試験も含め、全ての試験において異常付与時に閾値を越えており、異常の検出が可能となっている。正常時の値はモデルとして使用したデータ以外の正常時データについての評価結果であるが、全ての場合において低い値に収まっており、正常時のばらつきをカバーできる程度の一部のデータからモデルを作成する手法が有効であることが分かる。 正常偏心偏角1 偏心偏角2 偏心偏角3 1マス= 1回の測定データミスアライメント1 正常偏心1 偏心2 偏心3 偏心4 偏心5 ミスアライメント2 アンバランス正常アンバランス1 アンバランス2 基礎のゆるみ正常ゆるみ1 ゆるみ2 ゆるみ3 1つの状態につき10回の測定データ。1測定データから1つの特徴ベクトルを求める色付きのマスは正常時のモデルとするデータ。(計20個の特徴ベクトル) 白色のマスは評価対象データ。00.511.522.533.544.5正常ミス1 ミス2 ミス3 正常ミス1 ミス2 ミス3 ミス4 ミス5 正常アン1 アン2 正常ゆる1 ゆる2 ゆる3 残差r の平均値(m/s2) 常偏心偏角1偏心偏角2偏心偏角3正常偏心1偏心2偏心3偏心4偏心5正常アンバランス1 アンバランス2 正常ゆるみ1ゆるみ2ゆるみ3ミスアライメント1 ミスアライメント2 アンバランスゆるみ正常時の標準偏差×3 - 370 -SBM による異常原因の特定 Fig.6 から分かるように特徴ベクトルは各異常状態に固有の状態をとる傾向があるため、各異常状態で作成したモデルとベクトルの類似性を比較することで異常原因の特定が可能になると考えられる。ここでは正常時のモデル作成同様、各異常模擬試験における測定データの半分をその異常のモデルデータとし、その他の測定データを評価対象として異常原因の特定手法としての有効性を検証する。 それぞれの異常時のデータを5 種類のベースモデルと比較し類似度を算出した結果をFig.9 に示す。なお類似度は残差r の逆数とした。 (a) ミスアライメント1 (b) ミスアライメント2 (c) アンバランス (d) 基礎のゆるみ Fig.9 Similarity to each model Fig.9 から分かるように、全ての条件において評価対象データに対応するモデルとの類似度が最も高い結果となっており、手法が有効であることを示している。 3 まとめ アンバランスやミスアライメント等の回転機器の構造系異常は、軸回転周波数とその高調波に変化が現れるという一般的知見があるものの、変化の表れ方については機種や状態ごとによるばらつきが大きく、異常の検出や原因の特定が困難な対象である。本研究はこのような構造系異常の診断技術の高度化を図るため、振動加速度周波数スペクトルから軸回転周波数及びその高調波成分のみを抽出したベクトルを1つの状態を表す特徴ベクトルとして定義し、これに対してベクトルの類似性を評価する手法であるSBMを適用し、構造系異常に対する検出性及び原因の特定性能を評価した。 その結果、いくつかの条件においては振動速度RMS では異常が検出不可能であったのに対し、本手法により全ての条件において明確に異常を検出可能であることが示された。また各異常時のデータをモデルとして類似度を評価することで、異常原因の特定も可能であることが示された。 異常原因の特定精度は異常時のデータが蓄積されるほど高まると考えられ、データを蓄積するとともに本手法を用いることで、回転機器の構造系異常の診断を高度化することが可能であると考えられる。 比較モデル残差r の平均値の逆数評価対象データ012345正常ミス1 ミス2 アンバランスゆるみミス1-1 ミス1-2 ミス1-3 012345正常ミス1 ミス2 アンバランスゆるみミス2-1 ミス2-2 ミス2-3 ミス2-4 ミス2-5 比較モデル評価対象データ残差r の平均値の逆数012345正常ミス1 ミス2 アンバランスゆるみアン1 アン2 評価対象データ比較モデル残差r の平均値の逆数012345正常ミス1 ミス2 アンバランスゆるみゆる1 ゆる2 ゆる3 評価対象データ比較モデル残差r の平均値の逆数- 371 -参考文献 [1] Stephan W. Wegerich, Robert M. Pipke, ““Nonparametric Modeling of Vibration Signal Features for Equipment Health Monitoring““ Aerospace Conference, 2003. Proceedings. 2003 IEEE (Volume:7 ) [2] Stephan W. Wegerich, ““ Similarity Based Modeling of“ “多点分析手法による回転機器構造系異常の検出 “ “角皆 学,Manabu TSUNOKAI,萱田 良,Ryo KAYATA,高瀬 健太郎,Kentaro TAKASE
日本保全学会では平成18 年度以降「状態監視技術の高度化に関する調査検討分科会(CMT 分科会)」を設置し、海外調査、文献調査、検証・確認試験等を通じて状態監視技術及び状態基準保全に対する様々な調査、検討を行ってきた。平成24~25 年度(第4フェーズ)は複数センサの相関性に着目した多点的手法による異常検出技術が検討されその有効性が示された。平成26 年度(第5 フェーズ)はこのような多点的手法を回転機器の構造系異常異常の検出に適用し、診断技術の高度化を図ることがテーマとなっている。 本研究は保全学会CMT分科会第5フェーズ1年目における技術ワーキンググループの活動として行われたものであり、横型ポンプの各種構造系異常に対し、複数点で取得された振動加速度データを複合的に分析する手法を考案し、異常の検出性を評価したものである。
2.構造系異常模擬試験
2.1 試験条件 横型ポンプにミスアライメント、アンバランス等の各種構造系異常を付与し、振動加速度データを取得する試験を行った。全試験条件の概要をTable 1 に示す。 Table 1 Experimental conditions それぞれの試験では、正常状態に加え異常の程度を2 ~5 段階変化させている。異常の程度の詳細をTable 2 に示す。 Table 2 Degree of abnormality 試験名カップリング種類異常種類異常模擬方法試験条件1ミスアライメント1 たわみ軸継手偏心+偏角モーターと基礎の間にシムを挿入正常+ 異常3段階2ミスアライメント2 固定軸継手偏心モーターと基礎の間にシムを挿入正常+ 異常5段階3アンバランス固定軸継手インペラのアンバランスインペラにおもりを装着正常+ 異常2段階4基礎のゆるみ固定軸継手基礎のボルトのゆるみ基礎のボルトをゆるめる正常+ 異常3段階状態偏心・偏角量正常0.02mm以下偏心+偏角1 偏心0.8mm 偏角0.3mm 偏心+偏角2 偏心1.4mm 偏角0.5mm 偏心+偏角3 偏心2.0mm 偏角0.7mm ミスアライメント2 状態偏心量正常0.02 mm以下偏心1 0.5mm 偏心2 1.0 mm 偏心3 1.5 mm 偏心4 2.5 mm 偏心5 3.0mm ミスアライメント1 状態アンバランス量(g・mm) 正常0 アンバランス1 476.4 アンバランス2 770.9 状態状態正常正常ゆるみ1 ゆるみ小ゆるみ2 ゆるみ中ゆるみ3 ゆるみ大アンバランス基礎のゆるみ連絡先: 角皆学、〒110-0008 東京都台東区池之端2-7-17 井門池之端ビル7F、電話 03-5814-5350 E-mail:tsunokai@iiu.co.jp - 367 -試験に使用したポンプの外観と主な仕様をFig.1に示す。Fig.1 Horizontal centrifugal pump 振動加速度データは、3 軸の振動加速度計2 個をポンプ及びモーターの軸受部に設置して取得した。計6 チャンネルの同時測定で、1 条件につき10 回のデータ収録を行った。測定条件及びセンサ設置位置をFig.2 に示す。Fig.2 Measurement conditions 2.2 試験結果 簡易診断結果として、各試験条件における振動速度RMS の平均値をFig.3 に示す。振動速度RMS は振動加速度データを数値積分して求めたものである。図中の凡例はセンサの設置箇所と検出方向(H:水平方向、A:軸方向、V:鉛直方向)を示している。(a) ミスアライメント1 (b) ミスアライメント2 (c) アンバランス(d) 基礎のゆるみFig.3 RMS of vibration velocity ミスアライメント1 および基礎のゆるみ試験では異常程度の大きさに伴って振動速度RMS が上昇する傾向が見られるが、その他の試験では明確な傾向が見られない。次に周波数スペクトルの結果例を示す。Fig.4 はアンバランス試験におけるモーター側振動加速度の周波数スペクトルで、1つの試験条件における10 回のデータ収録で得られた周波数スペクトルを平均化したものである。ポンプ概略仕様横型ターボポンプ出力1.5kW 回転速度約3000rpm 吐出し量75L/min 全揚程23.2m X 23X 1 564サンプリングレート20kHz サンプリング時間10sec 6チャンネル同時測定1条件につき10回のデータ収録3軸振動加速度計検出方向00.511899/12/31 12:00:0022.51900/01/023.5F-A0 F-A1 F-A2 F-A3 振動速度RMS(mm/s)motor H motor A motor V pump H pump A pump V 正常偏心偏角1 偏心偏角2 偏心偏角3 00.51899/12/311899/12/31 12:00:001900/01/011900/01/01 12:00:001900/01/021900/01/02 12:00:00M0 M1 M2 M3 M4 M5 振動速度RMS(mm/s) motor H motor A motor V pump H pump A pump V 正常偏心1 偏心2 偏心3 偏心4 偏心5 00.511.522.533.5正常アンバランス1 アンバランス2 振動速度RMS(mm/s)motor H motor A motor V pump H pump A pump V 00.511.522.533.544.55正常ゆるみ1 ゆるみ2 ゆるみ3 振動速度RMS(mm/s)motor H motor A motor V pump H pump A pump V - 368 -Fig.4 Frequency spectrum Fig.4 から異常が付与されている場合、軸回転周波数の高調波のピークが増大していることが分かる。その他の試験条件においてもFig.4 同様、主な変化は軸回転周波数またはその高調波成分に見られた。このような変化は構造系異常に対する一般的な知見と合致するが、変化の現れ方については機器や状態によってばらつきが大きく一般的な知見のみで異常の原因や程度を判別することは困難である。そこでこのような構造系異常に対する診断技術の高度化を図るため、以下に記す多点分析手法を考案した。 2.3 多点分析手法による診断 前述のとおり、構造系異常は軸回転周波数及びその高調波成分に変化が現れる。そこで構造系異常の検出に有用な情報のみを抽出するため、周波数スペクトルにおける軸回転周波数の1 倍~10 倍までのピーク値を要素としたベクトルを構築し、同時測定している6 チャンネルについてそのベクトルを結合したものを、1つの状態を代表する特徴ベクトルとして定義する。Fig.5 に特徴ベクトルの定義を示す。 Fig.5 Definition of feature vector この定義により、1 回の測定データ(10 秒間)から1 つの特徴ベクトルが得られる。全試験データから得られた特徴ベクトルを可視化したものをFig.6 に示す。 (a)ミスアライメント1 (b)ミスアライメント2 (c)アンバランス (d)基礎のゆるみ Fig.6 Visualization of feature vector motor H motor A motor V 正常アンバランス1 アンバランス2 軸回転周波数とその高調波正常アンバランス1 アンバランス1 アンバランス2 アンバランス2 正常p1 p2 p3 p4 p5 p6 p7 p8 p9 p10 1回の測定の振動加速度周波数スペクトルにおける軸回転周波数の1倍~10倍までのピーク値を抽出ch_i . 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10. x . p , p , p , p , p , p , p , p , p , p . . ch1 ch2 ch3 ch4 ch5 ch6 特徴ベクトル x . x ,x ,x ,x ,x ,x (全60成分) モーターH, A, V方向ポンプH, A, V方向系列1系列11 系列21 系列31 00.511.522.531899/12/31111900/01/201900/01/30411900/02/19ベクトルの要素の値(スペクトルピーク値m/s2) 正常偏心偏角1 偏心偏角2 偏心偏角3 1つの特徴ベクトル系列1 系列11 系列21 系列31 系列41 系列51 00.511.522.511121314151ベクトルの要素の値(スペクトルピーク値m/s2) 正常偏心1 偏心2 偏心3 偏心4 偏心5 系列1系列11系列21 00.20.40.60.811.21.41899/12/311900/01/1021314151ベクトルの要素の値(スペクトルピーク値m/s2) 正常アンバランス1 アンバランス2 系列1 系列11系列21 系列31 00.20.40.60.811.21.41.61.8211121314151ベクトルの要素の値(スペクトルピーク値m/s2) 正常ゆるみ1 ゆるみ2 ゆるみ3 - 369 -図から分かるように、特徴ベクトルは異なる試験の正常状態同士においても違いがあるため、このような正常時のばらつきの範囲内は正常と判定し、そこから逸脱した場合には異常と判定するような手法が必要である。そこで、ベクトルの類似度を評価する手法であるSBM(Similarity Based Modeling)を特徴ベクトルに適用し、異常を判定する手法を検討する。 SBM の原理[1]-[3] 正常時のある時刻 におけるm個の物理量のセットを1つの特徴ベクトル とし、正常時のばらつきをカバーできるだけのn 個のベクトルからなる行列を正常時のモデル (m×n 行列)とする。 -1ここである時刻の物理量のセット(実測値) y を正常時のモデル . の一次結合で再現することを考え、 に係る重み を成分とするベクトル を用いて、再現ベクトル を式(2)のように定義する。 -2この を以下の式により求める。 -3-4なお、 はij 成分が のi 番目の列ベクトル 及び のj 番目の列ベクトル の類似度 で定義される行列であり、同様に はi 成分がAのi 番目の列ベクトル 及び の類似度 で定義されるベクトルである。 なお2 つのベクトルの類似度 は(6)式を用いた。 -6(3)式でサンプルベクトルの係数 の成分の合計を1とする規格化を行っていることから、正常時のモデル . が張る空間の部分空間のみ再現可能となり、その部分空間から逸脱した場合を異常として評価することが可能となる。ここでは実測値と再現値の残差r を(7)のように定義し、異常の程度を示す指標とする。 -7前述したように、それぞれの試験における正常データ同士においても違いが見られたため、このばらつきを含めて正常状態として学習させるため、それぞれの試験の正常データのうち半数を正常時のモデルとして使用した。また評価対象はそれ以外の取得データとした。これを図示したものをFig.7 に示す。 Fig.7 Usage of each data Fig.8 に全試験データに対するSBM による評価結果を示す。値は各条件における残差r の平均値であり、異常の程度を示すものである。異常判定の閾値は正常時の値の標準偏差の3 倍とし、図中に赤い点線で示している。 Fig.8 Average value of residual Fig.8 から分かるように、RMS では検出が困難であった(Fig.3 参照)ミスアライメント2、アンバランス試験も含め、全ての試験において異常付与時に閾値を越えており、異常の検出が可能となっている。正常時の値はモデルとして使用したデータ以外の正常時データについての評価結果であるが、全ての場合において低い値に収まっており、正常時のばらつきをカバーできる程度の一部のデータからモデルを作成する手法が有効であることが分かる。 正常偏心偏角1 偏心偏角2 偏心偏角3 1マス= 1回の測定データミスアライメント1 正常偏心1 偏心2 偏心3 偏心4 偏心5 ミスアライメント2 アンバランス正常アンバランス1 アンバランス2 基礎のゆるみ正常ゆるみ1 ゆるみ2 ゆるみ3 1つの状態につき10回の測定データ。1測定データから1つの特徴ベクトルを求める色付きのマスは正常時のモデルとするデータ。(計20個の特徴ベクトル) 白色のマスは評価対象データ。00.511.522.533.544.5正常ミス1 ミス2 ミス3 正常ミス1 ミス2 ミス3 ミス4 ミス5 正常アン1 アン2 正常ゆる1 ゆる2 ゆる3 残差r の平均値(m/s2) 常偏心偏角1偏心偏角2偏心偏角3正常偏心1偏心2偏心3偏心4偏心5正常アンバランス1 アンバランス2 正常ゆるみ1ゆるみ2ゆるみ3ミスアライメント1 ミスアライメント2 アンバランスゆるみ正常時の標準偏差×3 - 370 -SBM による異常原因の特定 Fig.6 から分かるように特徴ベクトルは各異常状態に固有の状態をとる傾向があるため、各異常状態で作成したモデルとベクトルの類似性を比較することで異常原因の特定が可能になると考えられる。ここでは正常時のモデル作成同様、各異常模擬試験における測定データの半分をその異常のモデルデータとし、その他の測定データを評価対象として異常原因の特定手法としての有効性を検証する。 それぞれの異常時のデータを5 種類のベースモデルと比較し類似度を算出した結果をFig.9 に示す。なお類似度は残差r の逆数とした。 (a) ミスアライメント1 (b) ミスアライメント2 (c) アンバランス (d) 基礎のゆるみ Fig.9 Similarity to each model Fig.9 から分かるように、全ての条件において評価対象データに対応するモデルとの類似度が最も高い結果となっており、手法が有効であることを示している。 3 まとめ アンバランスやミスアライメント等の回転機器の構造系異常は、軸回転周波数とその高調波に変化が現れるという一般的知見があるものの、変化の表れ方については機種や状態ごとによるばらつきが大きく、異常の検出や原因の特定が困難な対象である。本研究はこのような構造系異常の診断技術の高度化を図るため、振動加速度周波数スペクトルから軸回転周波数及びその高調波成分のみを抽出したベクトルを1つの状態を表す特徴ベクトルとして定義し、これに対してベクトルの類似性を評価する手法であるSBMを適用し、構造系異常に対する検出性及び原因の特定性能を評価した。 その結果、いくつかの条件においては振動速度RMS では異常が検出不可能であったのに対し、本手法により全ての条件において明確に異常を検出可能であることが示された。また各異常時のデータをモデルとして類似度を評価することで、異常原因の特定も可能であることが示された。 異常原因の特定精度は異常時のデータが蓄積されるほど高まると考えられ、データを蓄積するとともに本手法を用いることで、回転機器の構造系異常の診断を高度化することが可能であると考えられる。 比較モデル残差r の平均値の逆数評価対象データ012345正常ミス1 ミス2 アンバランスゆるみミス1-1 ミス1-2 ミス1-3 012345正常ミス1 ミス2 アンバランスゆるみミス2-1 ミス2-2 ミス2-3 ミス2-4 ミス2-5 比較モデル評価対象データ残差r の平均値の逆数012345正常ミス1 ミス2 アンバランスゆるみアン1 アン2 評価対象データ比較モデル残差r の平均値の逆数012345正常ミス1 ミス2 アンバランスゆるみゆる1 ゆる2 ゆる3 評価対象データ比較モデル残差r の平均値の逆数- 371 -参考文献 [1] Stephan W. Wegerich, Robert M. Pipke, ““Nonparametric Modeling of Vibration Signal Features for Equipment Health Monitoring““ Aerospace Conference, 2003. Proceedings. 2003 IEEE (Volume:7 ) [2] Stephan W. Wegerich, ““ Similarity Based Modeling of“ “多点分析手法による回転機器構造系異常の検出 “ “角皆 学,Manabu TSUNOKAI,萱田 良,Ryo KAYATA,高瀬 健太郎,Kentaro TAKASE