泊発電所における安全性向上に向けた自主的な取り組みについて -安全性向上計画の策定とリスク低減に向けた取り組み-
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カテゴリ: 第12回
1. 緒 言
泊発電所では、福島第一原子力発電所の事故後、これまでの設計想定を超える大規模地震・大規模津波等の自然現象や全交流電源喪失等の多重故障が発生した場合でも炉心損傷の防止、原子炉格納容器の破損防止、放射性物質の拡散抑制・影響緩和ができるように様々な安全対策を自主的に実施してきたところである。 当社は、社長のトップマネジメントのもと、新規制基準への適合はもとより、自ら不断の努力を重ね、より一層の安全性向上に取り組むため、包括的リスク評価を継続的に行い、必要な対策を講じることなどを柱とした安全性向上計画を昨年6 月に策定・公表した。今後、この計画を適宜見直しつつ、泊発電所の安全性を計画的により一層向上させるとともに、道民の皆さまに一層のご理解を頂けるよう取り組むこととしている。
2. 安全性向上に向けた自主的な取り組み
2.1 自然現象等の包括的なリスク評価
泊発電所においては、大規模損壊を発生させる可能性のある自然災害および人為事象を国内外の規格基準等を参考に78事象リストアップ(発生する可能性が非常に低い事象等も除外せずリストアップ)し、検討している。 具体的には、これらのハザードに対して、発生規模とそれによる影響を定性的に評価し、設計基準を超える規模の事故に対処するために配備している安全対策設備等(以下「SA設備等」という。)を活用した手順書体系である「大規模損壊発生時の手順書体系」で、どの程度対応できるかを評価検討し、必要に応じて手順書や安全対 策設備を見直していくこととしている。 一例を示すと、地震・津波と同様にハザードの規模が大きくなるにつれ、どのような起因事象が考えられるか、また、その時に「止める」、「冷やす」、「閉じ込める」の安全機能は維持されるのか、更には、安全機能が喪失した際にSA設備等の安全機能が期待できるのかを定性的に評価し、どの程度の大きさのハザードに対してまで対処できるか、また、その規模のハザードの発生頻度はどの程度かを一覧表の形で整理している。 PRA評価・事象の発生頻度・プラントへの影響評価自然現象等の分類・整理弱点の抽出PDCA 残余のリスクを明確化し、継続的にリスク低減対策を検討・実施する。新知見情報の収集・評価反映反映整備した手順書体系で対応可能かを評価ハザードの種類 ハザードの大きさ SA発生頻度評価 共通要因故障の回避策 ①地震 地震加速度 Ss ◇Ss △Ss a.起因事象 b.止める c.冷やす d.閉じ込める ②津波 津波高さ 10.3m ◇m △m a.起因事象 b.止める c.冷やす d.閉じ込める 炉心損傷などの重大事故(SA) に至る可能性や重大事故発生時にSA 設備が共通要因故障により機能喪失しない方策を検討する。 〔安全性向上計画〕 連絡先:西條政明 北海道電力株式会社 〒060-8677 札幌市中央区大通東1 丁目 E-mail: m-saijo@epmail.hepco.co.jp - 37 -これらの評価は、ハザードの発生規模や頻度、更にはプラントへの影響等に関する新知見等も踏まえ、継続して行うことが重要であり、平成26年度は、安全性に影響を与える可能性のある主要な気象データ(気温、積雪量、降雨量、風速等)に過去の観測値や将来予測値からみて有意な変化傾向がないか確認し、一部変化傾向が認められた降雨量については、裕度確認を行っている。 平成27年度は、78事象以外にもこうした評価を行う必要のあるリスクがないか調査検討していくとともに、少しづつではあるが、クリフエッジに至るハザードの規模の定量化や影響の大きいクリティカル機器の特定及び対策の強化に取り組んでいくこととしている。 2.2 教育訓練を通じた改善活動の実施 内部事象はもちろんのこと、地震・津波等の外部ハザードについても、重大事故時等にSA設備等の安全機能が期待できるか否かが事故の拡大防止や放射性物質の大量放出防止・緩和に非常に重要である。現在、当社では地震・津波等のPRAの高度化にも取り組んでいるところであるが、PRAの結果には、SA設備等を操作する要員(以下「SA対応要員」という。)の信頼性が大きな影響を与えることが予想されることから、SA対応要員の教育訓練の充実強化にも取り組んでいる。 具体的には、プラント状況に応じて個別のSA設備等を操作するために作成した手順書の内容を網羅的に訓練する部分訓練と、事象発生から重大事故等が収束するまでの事象進展に併せて部分訓練を組み合わせ、一連で実施する事故シーケンス訓練を基本に、プラント状況に応じた事故対策の選択等の的確な状況判断を行う指揮者の指揮命令訓練や机上での知識教育の他、それらの教育訓練の成果を踏まえて行う総合訓練も合せてSA対応要員の事故対応能力を向上させるべく、体系的な教育訓練計画の策定に取り組んでいる。 3. 結 言 1) 新規制基準への適合はもとよりより一層の安全性向上に取り組むため、安全性向上計画を策定している。 2) 包括的リスク評価に必要な新知見情報を収集し、継続的に評価を行うとともに、体系化された教育訓練計画に基づく教育訓練を反復して実施する。 3) 残余のリスクを明確化し継続的にリスク低減を図るため、PRAや包括的リスク評価の高度化に取り組んでいく。 参考文献 1) 「DIVERSE AND FLEXIBLE COPING STRATEGIES(FLEX) IMPLEMENTETION GUIDE」(NEI-12-06 August 2012) 2) 「日本の自然災害」国会資料編纂会1998 年 3) 「Specific Safety Guide(SSG-3)”Development and Application of Level1 Probabilistic Safety Assessment for Nuclear Power Plants”」(IAEA,April 2010) 4) 「実用発電用原子炉及びその付属施設の技術基準に関する規則の解釈」(平成27 年2 月4 日) 5) 「NUREG/CR-2300 “PRA Procedures Guide” 」(NRC,January 1983) 6) 「実用発電用原子炉及びその付属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則の解釈」(平成26 年7 月9 日) 7) 「ASME/ANS RA-S-2008”Standard for Level 1/Large Early Release Frequency probabilistic Risk Assessment for Nuclear Power Plant Applications”」 8) 「B.5.b Phase2&3 Submittal Guideline」 (NEI-06-12 December 2006)-2011.5 NRC 公表 9) 「地球温暖化予測情報第8 巻」※(平成25 年公表)気象庁 ※:気象庁気象研究所が開発した地域気候モデルを実行した結果に基づく情報 部分訓練事故シーケンス訓練知識教育総合訓練これらの教育訓練を踏まえ、重大事故時等の総合的な事故対応能力向上のための総合訓練を実施する。保安規定運転要領【改正】重大事故等発生時および大規模損壊発生時対応要領【新規制定】可搬型代替電源車給電要則【新規制定】代替給水等要則【新規制定】代替設備等運転要則【新規制定】・・その他の要則“ “泊発電所における安全性向上に向けた自主的な取り組みについて -安全性向上計画の策定とリスク低減に向けた取り組み- “ “西條 政明,Masaaki SAIJO,開米 昌史,Masafumi KAIMAI
泊発電所では、福島第一原子力発電所の事故後、これまでの設計想定を超える大規模地震・大規模津波等の自然現象や全交流電源喪失等の多重故障が発生した場合でも炉心損傷の防止、原子炉格納容器の破損防止、放射性物質の拡散抑制・影響緩和ができるように様々な安全対策を自主的に実施してきたところである。 当社は、社長のトップマネジメントのもと、新規制基準への適合はもとより、自ら不断の努力を重ね、より一層の安全性向上に取り組むため、包括的リスク評価を継続的に行い、必要な対策を講じることなどを柱とした安全性向上計画を昨年6 月に策定・公表した。今後、この計画を適宜見直しつつ、泊発電所の安全性を計画的により一層向上させるとともに、道民の皆さまに一層のご理解を頂けるよう取り組むこととしている。
2. 安全性向上に向けた自主的な取り組み
2.1 自然現象等の包括的なリスク評価
泊発電所においては、大規模損壊を発生させる可能性のある自然災害および人為事象を国内外の規格基準等を参考に78事象リストアップ(発生する可能性が非常に低い事象等も除外せずリストアップ)し、検討している。 具体的には、これらのハザードに対して、発生規模とそれによる影響を定性的に評価し、設計基準を超える規模の事故に対処するために配備している安全対策設備等(以下「SA設備等」という。)を活用した手順書体系である「大規模損壊発生時の手順書体系」で、どの程度対応できるかを評価検討し、必要に応じて手順書や安全対 策設備を見直していくこととしている。 一例を示すと、地震・津波と同様にハザードの規模が大きくなるにつれ、どのような起因事象が考えられるか、また、その時に「止める」、「冷やす」、「閉じ込める」の安全機能は維持されるのか、更には、安全機能が喪失した際にSA設備等の安全機能が期待できるのかを定性的に評価し、どの程度の大きさのハザードに対してまで対処できるか、また、その規模のハザードの発生頻度はどの程度かを一覧表の形で整理している。 PRA評価・事象の発生頻度・プラントへの影響評価自然現象等の分類・整理弱点の抽出PDCA 残余のリスクを明確化し、継続的にリスク低減対策を検討・実施する。新知見情報の収集・評価反映反映整備した手順書体系で対応可能かを評価ハザードの種類 ハザードの大きさ SA発生頻度評価 共通要因故障の回避策 ①地震 地震加速度 Ss ◇Ss △Ss a.起因事象 b.止める c.冷やす d.閉じ込める ②津波 津波高さ 10.3m ◇m △m a.起因事象 b.止める c.冷やす d.閉じ込める 炉心損傷などの重大事故(SA) に至る可能性や重大事故発生時にSA 設備が共通要因故障により機能喪失しない方策を検討する。 〔安全性向上計画〕 連絡先:西條政明 北海道電力株式会社 〒060-8677 札幌市中央区大通東1 丁目 E-mail: m-saijo@epmail.hepco.co.jp - 37 -これらの評価は、ハザードの発生規模や頻度、更にはプラントへの影響等に関する新知見等も踏まえ、継続して行うことが重要であり、平成26年度は、安全性に影響を与える可能性のある主要な気象データ(気温、積雪量、降雨量、風速等)に過去の観測値や将来予測値からみて有意な変化傾向がないか確認し、一部変化傾向が認められた降雨量については、裕度確認を行っている。 平成27年度は、78事象以外にもこうした評価を行う必要のあるリスクがないか調査検討していくとともに、少しづつではあるが、クリフエッジに至るハザードの規模の定量化や影響の大きいクリティカル機器の特定及び対策の強化に取り組んでいくこととしている。 2.2 教育訓練を通じた改善活動の実施 内部事象はもちろんのこと、地震・津波等の外部ハザードについても、重大事故時等にSA設備等の安全機能が期待できるか否かが事故の拡大防止や放射性物質の大量放出防止・緩和に非常に重要である。現在、当社では地震・津波等のPRAの高度化にも取り組んでいるところであるが、PRAの結果には、SA設備等を操作する要員(以下「SA対応要員」という。)の信頼性が大きな影響を与えることが予想されることから、SA対応要員の教育訓練の充実強化にも取り組んでいる。 具体的には、プラント状況に応じて個別のSA設備等を操作するために作成した手順書の内容を網羅的に訓練する部分訓練と、事象発生から重大事故等が収束するまでの事象進展に併せて部分訓練を組み合わせ、一連で実施する事故シーケンス訓練を基本に、プラント状況に応じた事故対策の選択等の的確な状況判断を行う指揮者の指揮命令訓練や机上での知識教育の他、それらの教育訓練の成果を踏まえて行う総合訓練も合せてSA対応要員の事故対応能力を向上させるべく、体系的な教育訓練計画の策定に取り組んでいる。 3. 結 言 1) 新規制基準への適合はもとよりより一層の安全性向上に取り組むため、安全性向上計画を策定している。 2) 包括的リスク評価に必要な新知見情報を収集し、継続的に評価を行うとともに、体系化された教育訓練計画に基づく教育訓練を反復して実施する。 3) 残余のリスクを明確化し継続的にリスク低減を図るため、PRAや包括的リスク評価の高度化に取り組んでいく。 参考文献 1) 「DIVERSE AND FLEXIBLE COPING STRATEGIES(FLEX) IMPLEMENTETION GUIDE」(NEI-12-06 August 2012) 2) 「日本の自然災害」国会資料編纂会1998 年 3) 「Specific Safety Guide(SSG-3)”Development and Application of Level1 Probabilistic Safety Assessment for Nuclear Power Plants”」(IAEA,April 2010) 4) 「実用発電用原子炉及びその付属施設の技術基準に関する規則の解釈」(平成27 年2 月4 日) 5) 「NUREG/CR-2300 “PRA Procedures Guide” 」(NRC,January 1983) 6) 「実用発電用原子炉及びその付属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則の解釈」(平成26 年7 月9 日) 7) 「ASME/ANS RA-S-2008”Standard for Level 1/Large Early Release Frequency probabilistic Risk Assessment for Nuclear Power Plant Applications”」 8) 「B.5.b Phase2&3 Submittal Guideline」 (NEI-06-12 December 2006)-2011.5 NRC 公表 9) 「地球温暖化予測情報第8 巻」※(平成25 年公表)気象庁 ※:気象庁気象研究所が開発した地域気候モデルを実行した結果に基づく情報 部分訓練事故シーケンス訓練知識教育総合訓練これらの教育訓練を踏まえ、重大事故時等の総合的な事故対応能力向上のための総合訓練を実施する。保安規定運転要領【改正】重大事故等発生時および大規模損壊発生時対応要領【新規制定】可搬型代替電源車給電要則【新規制定】代替給水等要則【新規制定】代替設備等運転要則【新規制定】・・その他の要則“ “泊発電所における安全性向上に向けた自主的な取り組みについて -安全性向上計画の策定とリスク低減に向けた取り組み- “ “西條 政明,Masaaki SAIJO,開米 昌史,Masafumi KAIMAI