女川原子力発電所2号機 原子炉建屋耐震壁他改良工事の施工
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カテゴリ: 第12回
1.緒言
女川原子力発電所2号機原子炉建屋は,平成23 年3月の東北地方太平洋沖地震における地震後の点検結果や建屋のシミュレーション解析により,建屋の安全性に問題はなかったことを確認している。しかしながら,建屋上部オペレーティングフロア(以下,「オペフロ」と言う。)は,その目的上大空間を必要とする階であり,耐震部材が少ないため,他階に比べ比較的地震時の応答が大きいことが判明した。 そこで,オペフロについて耐震性を向上させるべく,耐震工事を実施[1]したことから,その施工概要を報告する。
2.工事の特徴
本工事は,原子炉建屋オペフロでの工事であり, 厳しく作業管理が行われている場所である。 工事の実施にあたり特に注力した点は以下のとおり。 ・既存鉄骨と補強鉄骨との納まり調整 ・放射線管理区域内でのコンクリート打設管理 ・既存設備との干渉回避,埋設物対策3.施工計画 3.1 既存鉄骨と補強鉄骨との納まり調整 オペフロ内の作業スペースは限定され,補強鉄骨は内壁と仮設足場間の狭隘な場所での施工となるため,建屋内の運搬方法および取付方法は事前に十分検討する必要があった。 今回は事前に工場で作業環境を忠実に模擬したモックアップ試験を実施し,抽出された課題を解決の上,施工の成立性を確認したうえで現場での作業を行った。Fig.1 耐震工事概要
Fig.2 補強鉄骨取付概要 先行設置した鉄骨部材下部の吊ピース(Fig.2 丸) にチェーンブロックを掛けて,既存鉄骨をかわしながら,次の鉄骨部材を吊り組立てる。Fig.3 補強鉄骨取付完了状況 3.2 管理区域内でのコンクリート打設 建屋内にトラックアジテータとポンプ車を設置することが出来ないため,これらは屋外に設置し, 配管をオペフロまで敷設することとした。原子炉建屋内は一般の建物とは違い,放射線管理および負圧管理が必要な建物である。配管が外壁を貫通することから,外壁の配管貫通部にスライドバルブを設置することで遮蔽と負圧状態を維持した。スライドバルブの運用方法は,打設開始時にスライドバルブ手前までのコンクリートを充填後,スライドバルブを開放する。打設終了時は配管内にコンクリートが残っている状態でスライドバルブを閉塞する。このように運用することで建屋内外を常に隔離できる。なお,スライドバルブの動作確認は原子炉建屋取付前に工場でモックアップ試験を実施した。 Fig.4 スライドバルブ Fig.5 コンクリート打設状況 作業幅約1mの狭隘な作業スペース - 40 -Fig.6 建屋内コンクリート打設配管敷設状況 Fig.7 耐震壁施工完了状況 3.3 既存設備との干渉回避,埋設物対策 今回の工事では耐震壁設置に伴い,干渉する既設機電設備の一時的な撤去を行った。また,本工事を実施するにあたっては,既存躯体のはつりやアンカー設置のための穿孔作業が必要となるが,既存躯体内には照明等の建築設備や機器の配管が埋設されており,これらを損傷させずに作業を実施するために,埋設物探査の方法として,通常行われる電磁誘導探査に加え,先行削孔による埋設物確認を行った。 電動ピックをメタルセンサー付電工ドラムに接続して使用した場合でも,配管に電動ピックが接触すると,配管に穴を開けてしまい,配管内の配線を損傷させる可能性がある。 そこで,はつり前にメタルセンサー付電工ドラムを使用しながらドリルにて先行削孔を行い,埋設物が無い深さと平面的範囲を確認したうえで,確認した範囲のみ極めて慎重にはつりを行う。以降,愚直にこの作業を繰り返した。 Fig.8 埋設物対策概要図 4.結言 今回の工事は重要機器が多数設置されている放射線管理区域内での作業であり,過去に経験がない工事であった。特に作業前のリスク想定を十分に行い,小さなリスクであっても必ず対策を行うことが重要であった。今回得られた経験は今後発電所建屋内で行う建築工事に活かしていくことが可能である。 参考文献 [1] 尾形芳博,広谷浄: “大地震に備えて ~想 定された宮城県沖地震への対応(女川原子力 発電所)~”,原子力発電所建築物の寿命を を考える(日本建築学会大会(近畿)構造部 門(原子力建築)パネルディスカッション資 料),PP.41-48(2014) 平面図 断面図 耐震壁 - 41 -
“ “女川原子力発電所2号機 原子炉建屋耐震壁他改良工事の施工 “ “飛田 喜央,Yoshihisa TOBITA ,堀江 仁,Hitoshi HORIE ,櫻井 一雄,Kazuo SAKURAI
女川原子力発電所2号機原子炉建屋は,平成23 年3月の東北地方太平洋沖地震における地震後の点検結果や建屋のシミュレーション解析により,建屋の安全性に問題はなかったことを確認している。しかしながら,建屋上部オペレーティングフロア(以下,「オペフロ」と言う。)は,その目的上大空間を必要とする階であり,耐震部材が少ないため,他階に比べ比較的地震時の応答が大きいことが判明した。 そこで,オペフロについて耐震性を向上させるべく,耐震工事を実施[1]したことから,その施工概要を報告する。
2.工事の特徴
本工事は,原子炉建屋オペフロでの工事であり, 厳しく作業管理が行われている場所である。 工事の実施にあたり特に注力した点は以下のとおり。 ・既存鉄骨と補強鉄骨との納まり調整 ・放射線管理区域内でのコンクリート打設管理 ・既存設備との干渉回避,埋設物対策3.施工計画 3.1 既存鉄骨と補強鉄骨との納まり調整 オペフロ内の作業スペースは限定され,補強鉄骨は内壁と仮設足場間の狭隘な場所での施工となるため,建屋内の運搬方法および取付方法は事前に十分検討する必要があった。 今回は事前に工場で作業環境を忠実に模擬したモックアップ試験を実施し,抽出された課題を解決の上,施工の成立性を確認したうえで現場での作業を行った。Fig.1 耐震工事概要
Fig.2 補強鉄骨取付概要 先行設置した鉄骨部材下部の吊ピース(Fig.2 丸) にチェーンブロックを掛けて,既存鉄骨をかわしながら,次の鉄骨部材を吊り組立てる。Fig.3 補強鉄骨取付完了状況 3.2 管理区域内でのコンクリート打設 建屋内にトラックアジテータとポンプ車を設置することが出来ないため,これらは屋外に設置し, 配管をオペフロまで敷設することとした。原子炉建屋内は一般の建物とは違い,放射線管理および負圧管理が必要な建物である。配管が外壁を貫通することから,外壁の配管貫通部にスライドバルブを設置することで遮蔽と負圧状態を維持した。スライドバルブの運用方法は,打設開始時にスライドバルブ手前までのコンクリートを充填後,スライドバルブを開放する。打設終了時は配管内にコンクリートが残っている状態でスライドバルブを閉塞する。このように運用することで建屋内外を常に隔離できる。なお,スライドバルブの動作確認は原子炉建屋取付前に工場でモックアップ試験を実施した。 Fig.4 スライドバルブ Fig.5 コンクリート打設状況 作業幅約1mの狭隘な作業スペース - 40 -Fig.6 建屋内コンクリート打設配管敷設状況 Fig.7 耐震壁施工完了状況 3.3 既存設備との干渉回避,埋設物対策 今回の工事では耐震壁設置に伴い,干渉する既設機電設備の一時的な撤去を行った。また,本工事を実施するにあたっては,既存躯体のはつりやアンカー設置のための穿孔作業が必要となるが,既存躯体内には照明等の建築設備や機器の配管が埋設されており,これらを損傷させずに作業を実施するために,埋設物探査の方法として,通常行われる電磁誘導探査に加え,先行削孔による埋設物確認を行った。 電動ピックをメタルセンサー付電工ドラムに接続して使用した場合でも,配管に電動ピックが接触すると,配管に穴を開けてしまい,配管内の配線を損傷させる可能性がある。 そこで,はつり前にメタルセンサー付電工ドラムを使用しながらドリルにて先行削孔を行い,埋設物が無い深さと平面的範囲を確認したうえで,確認した範囲のみ極めて慎重にはつりを行う。以降,愚直にこの作業を繰り返した。 Fig.8 埋設物対策概要図 4.結言 今回の工事は重要機器が多数設置されている放射線管理区域内での作業であり,過去に経験がない工事であった。特に作業前のリスク想定を十分に行い,小さなリスクであっても必ず対策を行うことが重要であった。今回得られた経験は今後発電所建屋内で行う建築工事に活かしていくことが可能である。 参考文献 [1] 尾形芳博,広谷浄: “大地震に備えて ~想 定された宮城県沖地震への対応(女川原子力 発電所)~”,原子力発電所建築物の寿命を を考える(日本建築学会大会(近畿)構造部 門(原子力建築)パネルディスカッション資 料),PP.41-48(2014) 平面図 断面図 耐震壁 - 41 -
“ “女川原子力発電所2号機 原子炉建屋耐震壁他改良工事の施工 “ “飛田 喜央,Yoshihisa TOBITA ,堀江 仁,Hitoshi HORIE ,櫻井 一雄,Kazuo SAKURAI