女川原子力発電所における防潮堤かさ上げ工事について
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カテゴリ: 第12回
1.緒言
当社では津波対策を重要課題と捉え、女川原子力発電所において、主要施設の高台配置(敷地高さ:O.P.14.8m)、引波時の海水確保のための水路内貯留、非常用海水ポンプのRCピット内配置及び潮位計の二重化等の津波対策を講じてきた。そのような中、平成23 年3 月の東北地方太平洋沖地震(以下3.11 地震)により約13mの津波が来襲したが、敷地高さ(O.P.13.8m、地震の地殻変動約1m沈下後の高さ) を越えずに施設に深刻な損傷がないことを確認した。その後、経済産業省の指示を踏まえ、東京電力㈱福島第一原子力発電所と同程度の津波に備えた緊急安全対策として高さ約3m(O.P.約+17m)の防潮堤を平成24 年度に設置した。また、並行して、3.11 地震等の最新の科学的・技術的知見や新規制基準の議論の動向を踏まえながら津波評価を進め、津波の遡上高さを最大でO.P.23.1mと評価した。既存の防潮堤を上回るため、安全性を高める観点で防潮堤高さをO.P.約+29mにかさ上げすることとし、平成25 年5 月より工事実施中である(図1)。なお、平成25 年12 月に同構造にて新規制基準への適合性審査に係る申請を実施している。ここでは、「防潮堤かさ上げ」に関する設計・施工概要について紹介する。 盛土部 岩盤部 南側 北側 図1 完成予想図
2.防潮堤の構造検討
防潮堤は、既設プラント内の限られたスペースに建設すること及び地下の重要構造物との干渉回避の観点から、発電所敷地側に既存防潮堤を活用した鋼管式鉛直壁(延長約680m)を基本構造とした(図2)。鋼管式鉛直壁は、大口径鋼管(φ2.5m)による下杭と、溶接により一体化した鋼管(φ2.2m)と遮水板による上杭で構成した。下杭は支持杭と摩擦杭(中間杭)を使い分け、鋼管式鉛直壁の設置地盤が盛土となる範囲(延長約420m)には、地盤改良及び背面補強を行い基準地震動・津波に対する安定性を確保した。
背面補強工※O.P.は女川原子力発電所工事用基準面(Onagawa Peil)であり、東京湾平均海面(T.P.)-0.74m 図2 防潮堤(鋼管式鉛直壁)の基本構造 なお、地下の重要構造物との干渉がなく、設置エリアに余裕のある敷地北側区間は、既存防潮堤を巻き込むようにセメント改良土による堤防構造(延長約120m)とした(図3)。大断面構造として、地震や津波に対する抵抗性・安定性を確保するとともに、堤防を横断する道路を設置し、発電所の運用性維持を図った。敷地側 ▽O.P.約29m 港湾側への道路(幅約10m) かさ上げ後の防潮堤: 高さ約15m(O.P.約+29m) 現在の防潮堤: 高さ約3m(O.P.約+17m) 海側▽O.P.約+13.8m 図 3 防潮堤(セメント改良土による堤防)の構造 3.防潮堤の施工 鋼管式鉛直壁は、168 本の鋼管杭と遮水板から構成し、本年5 月末現在、下杭135 本、上杭55 本施工済みである。3.1 事前調査と工事錯綜回避策等 支持杭の長さを決定するため、杭設置位置においてボーリング調査を実施し、その結果に加え発電所新設時から蓄積している既存の地質データとの総合的評価のもと岩盤の深さを推定した。また、既設構内であることから埋設物の調査・移設を実施した。その後、鋼管杭の建込み及び背面補強工の基礎となる地盤改良工(セメント系)を実施した。なお、並行して、他工事との錯綜回避、工事の効率的実施のため、高さO.P.18.5m、幅約30m、延長約500mの作業構台(図4)を設置した。3.2 杭の施工 φ2.5mの下杭を建込むために、国内最大級の全周回転掘削機により直径3mのケーシングを回転圧入し、その内部を掘削した後,空洞部に下杭を建込んだ(図4)。 作業構台からの鋼管杭建込み状況 海側 現在の防潮堤 敷地側 地盤改良箇所 掘削機 全周回転 作業構台 ケーシング 鋼管杭 クローラークレーン 作業構台 作業構台からの掘削状況 海側 現在の防潮堤 敷地側 地盤改良箇所 掘削機 全周回転 ケーシング クローラークレーン 図4 鋼管杭の施工状況(下杭) 上杭建込みにあたっては、下杭と上杭の接合部にコンクリートを打設し、設置基面を造り建込みした(図5)。また、上杭建込み後、上下杭の接続部にコンクリートを打設し一体化を図った。図5 鋼管杭の施工状況(上杭) なお、工事にあたっては、防潮堤かさ上げ工事以外にも安全対策工事全般において大量のコンクリートが必要となるため、構内にバッチャープラントを設置し生コンの確保を図り、地域の震災からの復旧・復興工事の妨げとならないよう配慮をしながら施工している。4.結言 女川原子力発電所における防潮堤かさ上げに関する設計・施工概要について紹介した。 本工事は、地域の皆さまの安心につながる非常に重要な工事であると考えており、工事においては、安全確保を第一に、引き続きより良い品質を確保すべく、関係者一丸となって工事を進めてゆく所存である。 - 43 -
“ “女川原子力発電所における防潮堤かさ上げ工事について “ “熊田 広幸,Hiroyuki KUMATA,尾崎 充弘,Mitsuhiro OZAKI
当社では津波対策を重要課題と捉え、女川原子力発電所において、主要施設の高台配置(敷地高さ:O.P.14.8m)、引波時の海水確保のための水路内貯留、非常用海水ポンプのRCピット内配置及び潮位計の二重化等の津波対策を講じてきた。そのような中、平成23 年3 月の東北地方太平洋沖地震(以下3.11 地震)により約13mの津波が来襲したが、敷地高さ(O.P.13.8m、地震の地殻変動約1m沈下後の高さ) を越えずに施設に深刻な損傷がないことを確認した。その後、経済産業省の指示を踏まえ、東京電力㈱福島第一原子力発電所と同程度の津波に備えた緊急安全対策として高さ約3m(O.P.約+17m)の防潮堤を平成24 年度に設置した。また、並行して、3.11 地震等の最新の科学的・技術的知見や新規制基準の議論の動向を踏まえながら津波評価を進め、津波の遡上高さを最大でO.P.23.1mと評価した。既存の防潮堤を上回るため、安全性を高める観点で防潮堤高さをO.P.約+29mにかさ上げすることとし、平成25 年5 月より工事実施中である(図1)。なお、平成25 年12 月に同構造にて新規制基準への適合性審査に係る申請を実施している。ここでは、「防潮堤かさ上げ」に関する設計・施工概要について紹介する。 盛土部 岩盤部 南側 北側 図1 完成予想図
2.防潮堤の構造検討
防潮堤は、既設プラント内の限られたスペースに建設すること及び地下の重要構造物との干渉回避の観点から、発電所敷地側に既存防潮堤を活用した鋼管式鉛直壁(延長約680m)を基本構造とした(図2)。鋼管式鉛直壁は、大口径鋼管(φ2.5m)による下杭と、溶接により一体化した鋼管(φ2.2m)と遮水板による上杭で構成した。下杭は支持杭と摩擦杭(中間杭)を使い分け、鋼管式鉛直壁の設置地盤が盛土となる範囲(延長約420m)には、地盤改良及び背面補強を行い基準地震動・津波に対する安定性を確保した。
背面補強工※O.P.は女川原子力発電所工事用基準面(Onagawa Peil)であり、東京湾平均海面(T.P.)-0.74m 図2 防潮堤(鋼管式鉛直壁)の基本構造 なお、地下の重要構造物との干渉がなく、設置エリアに余裕のある敷地北側区間は、既存防潮堤を巻き込むようにセメント改良土による堤防構造(延長約120m)とした(図3)。大断面構造として、地震や津波に対する抵抗性・安定性を確保するとともに、堤防を横断する道路を設置し、発電所の運用性維持を図った。敷地側 ▽O.P.約29m 港湾側への道路(幅約10m) かさ上げ後の防潮堤: 高さ約15m(O.P.約+29m) 現在の防潮堤: 高さ約3m(O.P.約+17m) 海側▽O.P.約+13.8m 図 3 防潮堤(セメント改良土による堤防)の構造 3.防潮堤の施工 鋼管式鉛直壁は、168 本の鋼管杭と遮水板から構成し、本年5 月末現在、下杭135 本、上杭55 本施工済みである。3.1 事前調査と工事錯綜回避策等 支持杭の長さを決定するため、杭設置位置においてボーリング調査を実施し、その結果に加え発電所新設時から蓄積している既存の地質データとの総合的評価のもと岩盤の深さを推定した。また、既設構内であることから埋設物の調査・移設を実施した。その後、鋼管杭の建込み及び背面補強工の基礎となる地盤改良工(セメント系)を実施した。なお、並行して、他工事との錯綜回避、工事の効率的実施のため、高さO.P.18.5m、幅約30m、延長約500mの作業構台(図4)を設置した。3.2 杭の施工 φ2.5mの下杭を建込むために、国内最大級の全周回転掘削機により直径3mのケーシングを回転圧入し、その内部を掘削した後,空洞部に下杭を建込んだ(図4)。 作業構台からの鋼管杭建込み状況 海側 現在の防潮堤 敷地側 地盤改良箇所 掘削機 全周回転 作業構台 ケーシング 鋼管杭 クローラークレーン 作業構台 作業構台からの掘削状況 海側 現在の防潮堤 敷地側 地盤改良箇所 掘削機 全周回転 ケーシング クローラークレーン 図4 鋼管杭の施工状況(下杭) 上杭建込みにあたっては、下杭と上杭の接合部にコンクリートを打設し、設置基面を造り建込みした(図5)。また、上杭建込み後、上下杭の接続部にコンクリートを打設し一体化を図った。図5 鋼管杭の施工状況(上杭) なお、工事にあたっては、防潮堤かさ上げ工事以外にも安全対策工事全般において大量のコンクリートが必要となるため、構内にバッチャープラントを設置し生コンの確保を図り、地域の震災からの復旧・復興工事の妨げとならないよう配慮をしながら施工している。4.結言 女川原子力発電所における防潮堤かさ上げに関する設計・施工概要について紹介した。 本工事は、地域の皆さまの安心につながる非常に重要な工事であると考えており、工事においては、安全確保を第一に、引き続きより良い品質を確保すべく、関係者一丸となって工事を進めてゆく所存である。 - 43 -
“ “女川原子力発電所における防潮堤かさ上げ工事について “ “熊田 広幸,Hiroyuki KUMATA,尾崎 充弘,Mitsuhiro OZAKI