福島第一ミュオン透過法による原子炉調査
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カテゴリ: 第12回
1.目的
本調査は東京電力福島第一原子力発電所における中長期的な廃止措置などにむけた取組を着実に行うために、原子炉内の燃料デブリの位置、量(分布)を把握し、効率的な燃料取り出し方法の選定に資することを目的とする。しかし、1~3号機の原子炉圧力容器の内部は極めて高い放射線環境下にあり、未だ原子炉圧力容器の内部状態を把握できていない。そこで、原子炉圧力容器内の燃料デブリ分布を早期に把握するために宇宙線ミュオンによる観測技術を開発している。 ミュオン観測技術には透過法と散乱法とがある。散乱法は、透過法より詳細な燃料デブリ分布を識別できる可能性を有するが大型の検出器を開発する必要がある。一方、透過法は、平成26年度までに、高エネルギー加速器研究機構を中心とする研究グループにより、東海第二原子力発電所で測定を実施し、1つの小型ミュオン検出器で原子炉の広範囲を観測できることを実証した[1]。 このため、高放射線環境下にある福島第一原発でのミュオン測定を早期に実証するために、東海第二で実績のある透過法を1号機の測定に採用した。
2.測定装置の概要
2.1 ミュオン計測ユニット ミュオンの観測に使用した測定装置は、図1に示すように多数の断面積1[cm]x1[cm]で長さ1[m]のプラスチックシンチレータ(PS)の集合体である。このPSを作り、その端面にMPPC (Multi-Pixel Photon Counter)を付けて、ミュオンがPSを通過するときに発生する光を電気信号に変えて観測する。このようなMPPC 付きのPSを100 本並べて一つの計測面(仮にX面と呼ぶ)を作る。同様な100本のMPPC付きのPSを作り、X面と直行するようにPSを並べた面を作る(これをY面と呼ぶ)。この2 つの面を重ねて1 つのミュオン計測ユニットを作る。 図1 ミュオン透過法計測ユニットの概念図
2.2測定装置のシステム構成 福島第一原発の原子炉建屋周辺は数100μSv/h程度の高放射線環境下にある。ガンマ線によってもPSは発光するため、ミュオンの測定に影響がでないように計測ユニットを遮へい体で覆う。遮へい材は鉄を採用し、事前に福島第一内にて、鉄の厚さを変えてのγ線影響評価試験を実施し、その厚さを10cmと決定した。鉄遮へい体で覆われた測定装置システムを図2に示す。全体の大きさは約2[m]x2[m]x3[m]である。更に、計測ユニットを東海第二での測定時より1台増やして3 台にすることにより、アクシデンタル・コインシデンスの割合の軽減ができるよう対策をした。 内部は空調器により温度が一定に保たれている。ミュオンヒットデータは光ファイバーを経由して免震棟内のパソコンに転送される。 現場作業が制約されることが予想されることから、データの受送信や測定ユニットに障害が生じた際の電源のオン、オフ等は遠隔で制御される。 図2 1号機に設置した透過法測定装置 3.測定結果と評価 平成27 年2 月12 日から平成27 年5 月19 日にかけ、福島第一1 号機原子炉建屋北西及び北側に設置された2 台のミュオン透過法測定装置にて、96 日間分のデータ測定を実施した。これらの測定データから原子炉圧力容器と生体遮へい壁、格納容器、原子炉建屋壁等の大きな物質は確認できた。一方で、元々の炉心位置には、大きな吸収体の塊は見られず、設計情報を用いた予測値との比較から、燃料が残存していないと考えることが自然と思われる結果が得られた。この結果は、東京電力による炉心・格納容器の状態の推定[2]と基本的に一致しているが、今後、更なる検討を行う。なお、仰ぎ角が小さく、ミュオン測定数の少ない原子炉底部の状態評価は課題であり、今後、検討を継続する。 更に、平成27年5月25日より1台の測定装置の場所をかえて3地点目での測定を継続中であり、3次元的評価の精度の向上を図る予定である。図 3 1 号機の透過法による画像 後書きと謝辞 本調査研究は,高エネルギー加速器研究機構の財産の活用と資源エネルギー庁「平成25年度補正予算 廃炉・汚染水対策事業費補助金」による(原子炉内燃料デブリ検知技術の開発)により実施された。 また、計画の遂行にあたっては、日本原子力発電(株)、東京パワーテクノロジー(株)、日立GE(株)をはじめ、多くの方々のご協力があった。ここに感謝を申し上げる。 参考文献[1] 高エネルギー加速器研究機構、2014 年1 月23 日付けプレスリリース「宇宙線ミュオンを用いた原子炉の調査」 [2] 東京電力株式会社、平成27 年 5 月 20 日、「福島第一原子力発電所1~3 号機の炉心・格納容器の状態の推定と未解明問題に関する検討 第3 回進捗報告」“ “福島第一ミュオン透過法による原子炉調査 “ “高﨑 史彦,Fumihiko TAKASAKI,溝上 伸也,Shinya MIZOKAMI,永野 護,Mamoru NAGANO
本調査は東京電力福島第一原子力発電所における中長期的な廃止措置などにむけた取組を着実に行うために、原子炉内の燃料デブリの位置、量(分布)を把握し、効率的な燃料取り出し方法の選定に資することを目的とする。しかし、1~3号機の原子炉圧力容器の内部は極めて高い放射線環境下にあり、未だ原子炉圧力容器の内部状態を把握できていない。そこで、原子炉圧力容器内の燃料デブリ分布を早期に把握するために宇宙線ミュオンによる観測技術を開発している。 ミュオン観測技術には透過法と散乱法とがある。散乱法は、透過法より詳細な燃料デブリ分布を識別できる可能性を有するが大型の検出器を開発する必要がある。一方、透過法は、平成26年度までに、高エネルギー加速器研究機構を中心とする研究グループにより、東海第二原子力発電所で測定を実施し、1つの小型ミュオン検出器で原子炉の広範囲を観測できることを実証した[1]。 このため、高放射線環境下にある福島第一原発でのミュオン測定を早期に実証するために、東海第二で実績のある透過法を1号機の測定に採用した。
2.測定装置の概要
2.1 ミュオン計測ユニット ミュオンの観測に使用した測定装置は、図1に示すように多数の断面積1[cm]x1[cm]で長さ1[m]のプラスチックシンチレータ(PS)の集合体である。このPSを作り、その端面にMPPC (Multi-Pixel Photon Counter)を付けて、ミュオンがPSを通過するときに発生する光を電気信号に変えて観測する。このようなMPPC 付きのPSを100 本並べて一つの計測面(仮にX面と呼ぶ)を作る。同様な100本のMPPC付きのPSを作り、X面と直行するようにPSを並べた面を作る(これをY面と呼ぶ)。この2 つの面を重ねて1 つのミュオン計測ユニットを作る。 図1 ミュオン透過法計測ユニットの概念図
2.2測定装置のシステム構成 福島第一原発の原子炉建屋周辺は数100μSv/h程度の高放射線環境下にある。ガンマ線によってもPSは発光するため、ミュオンの測定に影響がでないように計測ユニットを遮へい体で覆う。遮へい材は鉄を採用し、事前に福島第一内にて、鉄の厚さを変えてのγ線影響評価試験を実施し、その厚さを10cmと決定した。鉄遮へい体で覆われた測定装置システムを図2に示す。全体の大きさは約2[m]x2[m]x3[m]である。更に、計測ユニットを東海第二での測定時より1台増やして3 台にすることにより、アクシデンタル・コインシデンスの割合の軽減ができるよう対策をした。 内部は空調器により温度が一定に保たれている。ミュオンヒットデータは光ファイバーを経由して免震棟内のパソコンに転送される。 現場作業が制約されることが予想されることから、データの受送信や測定ユニットに障害が生じた際の電源のオン、オフ等は遠隔で制御される。 図2 1号機に設置した透過法測定装置 3.測定結果と評価 平成27 年2 月12 日から平成27 年5 月19 日にかけ、福島第一1 号機原子炉建屋北西及び北側に設置された2 台のミュオン透過法測定装置にて、96 日間分のデータ測定を実施した。これらの測定データから原子炉圧力容器と生体遮へい壁、格納容器、原子炉建屋壁等の大きな物質は確認できた。一方で、元々の炉心位置には、大きな吸収体の塊は見られず、設計情報を用いた予測値との比較から、燃料が残存していないと考えることが自然と思われる結果が得られた。この結果は、東京電力による炉心・格納容器の状態の推定[2]と基本的に一致しているが、今後、更なる検討を行う。なお、仰ぎ角が小さく、ミュオン測定数の少ない原子炉底部の状態評価は課題であり、今後、検討を継続する。 更に、平成27年5月25日より1台の測定装置の場所をかえて3地点目での測定を継続中であり、3次元的評価の精度の向上を図る予定である。図 3 1 号機の透過法による画像 後書きと謝辞 本調査研究は,高エネルギー加速器研究機構の財産の活用と資源エネルギー庁「平成25年度補正予算 廃炉・汚染水対策事業費補助金」による(原子炉内燃料デブリ検知技術の開発)により実施された。 また、計画の遂行にあたっては、日本原子力発電(株)、東京パワーテクノロジー(株)、日立GE(株)をはじめ、多くの方々のご協力があった。ここに感謝を申し上げる。 参考文献[1] 高エネルギー加速器研究機構、2014 年1 月23 日付けプレスリリース「宇宙線ミュオンを用いた原子炉の調査」 [2] 東京電力株式会社、平成27 年 5 月 20 日、「福島第一原子力発電所1~3 号機の炉心・格納容器の状態の推定と未解明問題に関する検討 第3 回進捗報告」“ “福島第一ミュオン透過法による原子炉調査 “ “高﨑 史彦,Fumihiko TAKASAKI,溝上 伸也,Shinya MIZOKAMI,永野 護,Mamoru NAGANO