密閉容器内の放射線分解による水素発生
公開日:
カテゴリ: 第12回
1.緒言
密閉容器内に放射性物質を収納した場合における、水の放射線分解(ラジオリシス)で発生する水素量の評価方法を検討している。容器の移送や開蓋作業時の安全確保のために水素発生量について十分な理解が必要である。 水素発生量を評価する場合、水が吸収した放射線のエネルギーと単位吸収エネルギー当たりの水素収量(G値) が用いられる。このとき、純水や硝酸水溶液系等でラジオリシスが水深の影響を受け水素発生のG 値が小さくなることが指摘されている[1,2]。これは、再結合反応と水素の気相への移動との競争が生じるためである[3]。ところが、輸送容器や収納容器のように密閉空間に気相部と液相部の二相が共存する場合の気相と液相体積の比の影響については十分にわかっていない。 そこで本研究では、気液二相条件がラジオリシスによる水素発生に及ぼす影響を検討することを目的に、気液比(=気相体積/液相体積)をパラメーターに水素発生試験を実施した。
2.研究方法
2.1 実験方法 照射カプセル(内容量300ml、ステンレス製)に純水を設定量注ぎ、気相を空気で形成し密閉した後、室温でコバルト60 線源からのγ線(5.2×103Gy/h)を照射した(Fig.1)。照射開始からの経過時間に対し、気相部圧力を照射カプセル上部に設置した圧力計を用いて測定した。水素と酸素の各分圧増加を考慮して、圧力変化から水素発生量を計算した。試験条件をTable 1 に示した。 60Co source Capsule f:51 L:227 (mm) Fig.1 Capsules for irradiation experiment 連絡先: 和田陽一、〒319-1221 茨城県日立市おおみか町7-2-1、(株)日立製作所研究開発グループ エネルギーイノベーションセンター、E-mail: yoichi.wada.ya@hitachi.com - 55 -Table 1 Experiment conditions 2.2 評価式 密閉容器内の水素発生量は、質量保存則、状態方程式、およびヘンリー則を用いて次の式で与えられる。 .... .... . . .. . . .. . . .. . . .. . . .. . . .. . . g H O l H g V M V kRT N N 21. -1g g g VN RT P . (2) ここで、Ng:気相の水素のモル数、Pg:水素分圧(Pa)、N: ラジオリシスで発生した水素の総モル数、R:気体定数(8.31J/molK)、kH:ヘンリー定数(Pa)、T:温度(K)、Vl: 液相の体積(m3)、Vg:気相の体積(m3)、ρ:水の密度(kg/m3)、MH2O:水の分子量。 3.結果と考察 3.1 実験結果 気液比を変えて吸収線量に対する圧力変化をプロットした(Fig.2)。いずれの気液比でも、吸収線量が増加すると照射カプセル内の圧力が増加した。吸収線量の増加と共に圧力は飽和傾向を示すことがわかった。この圧力変化は、液相でラジオリシスによって発生した水素と酸素が気液平衡となるまで気相に移行するために生じる。 気液比2%のとき、吸収線量が0.1MGy 以下で圧力が急に上昇して0.007MPa 程度で平衡になることがわかった。一方、気液比が25 および33%のときには平衡圧は2%のときより10 倍以上高くなり、圧力増加の勾配は小さくなって平衡到達時の吸収線量も多くなった。さらに気液比が100%では、圧力は吸収線量の増加に比例して小さな勾配で上昇し続けることがわかった。 液相のみの体系で、試験時の温度、線量率で水素濃度の吸収線量依存性をラジオリシスモデルで計算したところ、50ppb で定常濃度になった。これは、水素濃度が高くなると再結合反応の寄与が無視できなくなり分解と再結合が平衡となるためである。そこで式(1)、(2)を用いてこの液相濃度に平衡する気相圧力を計算したところ、気液比への依存性は小さく約0.005 MPa であった。Fig.1 の破線に示したように気液比2 %のときのみ計算結果と誤差の範囲で一致し、他の気液比では式(1)、(2)が成立しなかった。 実験結果から、容器内の気液比が水素の発生量に影響を与えることが分かった。気液比が高いと圧力増加が遅くなり見かけ上G値が低下する。また、気液比100 %を除いて平衡圧は上がる。これは気相への水素の移動が再結合反応と競争[3]して見かけのG値が低下し、気液平衡がヘンリー則からずれるためと考える。 Absorbed dose (MGy) Pressure increase (MPa) 00.020.040.060.080.10.120.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 2% 25% 33% 100% Gas / Liquid ratio Calc. by Eq.(1)&(2) Fig.2 Dependence of pressure increase caused by gas evolution by radiolysis of water on gas/liquid ratio 4.結言 密封容器内のγ線照射下での水の放射線分解による水素発生量を容器内の気液比をパラメーターにして評価した。その結果、気液比が高くなると液相内での再結合反応の影響を強く受けるため、G値の低下と平衡水素圧の上昇が生じることがわかった。 参考文献 [1] 中吉直隆、宮田定次郎. 日本原子力学会誌. 37, 1119 (1995). [2] 永石隆二ら. 日本原子力学会「2014 春の年会」予稿集. G18 (2014). [3] Y. Katsumura et al. Radiolysis of Boiling Water. Proc. of“ “密閉容器内の放射線分解による水素発生 “ “和田 陽一,Yoichi WADA,可児 祐子,Yuko KANI,太田 信之,Nobuyui OTA,上野 学,Manabu UENO,佐々木 麻由,Mayu SASAKI
密閉容器内に放射性物質を収納した場合における、水の放射線分解(ラジオリシス)で発生する水素量の評価方法を検討している。容器の移送や開蓋作業時の安全確保のために水素発生量について十分な理解が必要である。 水素発生量を評価する場合、水が吸収した放射線のエネルギーと単位吸収エネルギー当たりの水素収量(G値) が用いられる。このとき、純水や硝酸水溶液系等でラジオリシスが水深の影響を受け水素発生のG 値が小さくなることが指摘されている[1,2]。これは、再結合反応と水素の気相への移動との競争が生じるためである[3]。ところが、輸送容器や収納容器のように密閉空間に気相部と液相部の二相が共存する場合の気相と液相体積の比の影響については十分にわかっていない。 そこで本研究では、気液二相条件がラジオリシスによる水素発生に及ぼす影響を検討することを目的に、気液比(=気相体積/液相体積)をパラメーターに水素発生試験を実施した。
2.研究方法
2.1 実験方法 照射カプセル(内容量300ml、ステンレス製)に純水を設定量注ぎ、気相を空気で形成し密閉した後、室温でコバルト60 線源からのγ線(5.2×103Gy/h)を照射した(Fig.1)。照射開始からの経過時間に対し、気相部圧力を照射カプセル上部に設置した圧力計を用いて測定した。水素と酸素の各分圧増加を考慮して、圧力変化から水素発生量を計算した。試験条件をTable 1 に示した。 60Co source Capsule f:51 L:227 (mm) Fig.1 Capsules for irradiation experiment 連絡先: 和田陽一、〒319-1221 茨城県日立市おおみか町7-2-1、(株)日立製作所研究開発グループ エネルギーイノベーションセンター、E-mail: yoichi.wada.ya@hitachi.com - 55 -Table 1 Experiment conditions 2.2 評価式 密閉容器内の水素発生量は、質量保存則、状態方程式、およびヘンリー則を用いて次の式で与えられる。 .... .... . . .. . . .. . . .. . . .. . . .. . . .. . . g H O l H g V M V kRT N N 21. -1g g g VN RT P . (2) ここで、Ng:気相の水素のモル数、Pg:水素分圧(Pa)、N: ラジオリシスで発生した水素の総モル数、R:気体定数(8.31J/molK)、kH:ヘンリー定数(Pa)、T:温度(K)、Vl: 液相の体積(m3)、Vg:気相の体積(m3)、ρ:水の密度(kg/m3)、MH2O:水の分子量。 3.結果と考察 3.1 実験結果 気液比を変えて吸収線量に対する圧力変化をプロットした(Fig.2)。いずれの気液比でも、吸収線量が増加すると照射カプセル内の圧力が増加した。吸収線量の増加と共に圧力は飽和傾向を示すことがわかった。この圧力変化は、液相でラジオリシスによって発生した水素と酸素が気液平衡となるまで気相に移行するために生じる。 気液比2%のとき、吸収線量が0.1MGy 以下で圧力が急に上昇して0.007MPa 程度で平衡になることがわかった。一方、気液比が25 および33%のときには平衡圧は2%のときより10 倍以上高くなり、圧力増加の勾配は小さくなって平衡到達時の吸収線量も多くなった。さらに気液比が100%では、圧力は吸収線量の増加に比例して小さな勾配で上昇し続けることがわかった。 液相のみの体系で、試験時の温度、線量率で水素濃度の吸収線量依存性をラジオリシスモデルで計算したところ、50ppb で定常濃度になった。これは、水素濃度が高くなると再結合反応の寄与が無視できなくなり分解と再結合が平衡となるためである。そこで式(1)、(2)を用いてこの液相濃度に平衡する気相圧力を計算したところ、気液比への依存性は小さく約0.005 MPa であった。Fig.1 の破線に示したように気液比2 %のときのみ計算結果と誤差の範囲で一致し、他の気液比では式(1)、(2)が成立しなかった。 実験結果から、容器内の気液比が水素の発生量に影響を与えることが分かった。気液比が高いと圧力増加が遅くなり見かけ上G値が低下する。また、気液比100 %を除いて平衡圧は上がる。これは気相への水素の移動が再結合反応と競争[3]して見かけのG値が低下し、気液平衡がヘンリー則からずれるためと考える。 Absorbed dose (MGy) Pressure increase (MPa) 00.020.040.060.080.10.120.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 2% 25% 33% 100% Gas / Liquid ratio Calc. by Eq.(1)&(2) Fig.2 Dependence of pressure increase caused by gas evolution by radiolysis of water on gas/liquid ratio 4.結言 密封容器内のγ線照射下での水の放射線分解による水素発生量を容器内の気液比をパラメーターにして評価した。その結果、気液比が高くなると液相内での再結合反応の影響を強く受けるため、G値の低下と平衡水素圧の上昇が生じることがわかった。 参考文献 [1] 中吉直隆、宮田定次郎. 日本原子力学会誌. 37, 1119 (1995). [2] 永石隆二ら. 日本原子力学会「2014 春の年会」予稿集. G18 (2014). [3] Y. Katsumura et al. Radiolysis of Boiling Water. Proc. of“ “密閉容器内の放射線分解による水素発生 “ “和田 陽一,Yoichi WADA,可児 祐子,Yuko KANI,太田 信之,Nobuyui OTA,上野 学,Manabu UENO,佐々木 麻由,Mayu SASAKI