ナトリウム冷却型高速炉のトラブル事例データベース の開発

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カテゴリ: 第12回
1.緒言
供用期間中検査(ISI:In Service Inspection)は、原子力発電所の安全性及び供給信頼性の維持にとって大変重要である。昨今では、原子の安全性を確保しつつ、従来よりも合理的なISI を行うことを目的として、リスク情報を活用した供用期間中検査(RI-ISI:Risk Informed . ISI)が米国で提案され、活用されている[1]。例えば、最も一般的に利用されているEPRI(Electric Power Research Institute)法は、米国機械学会の維持基準の事例規格[2]として定められており、今までの運転経験から得られた経年劣化に関する情報を元に、故障頻度が大きい箇所と小さい箇所を分け、故障頻度が大きい箇所に対して重点的にISI を適用する。日本では、RI-ISI を商業炉に適用した例はないが、軽水炉(LWR:Light Water Reactor)において検討が進められている[3][4]。リスク情報の活用は、今後、より重要になると考えられる。 ナトリウム冷却型高速炉(SFR:Sodium-cooled Fast Reactor)においても、ISI の重要性は同様である。SFR の特徴として、冷却材であるナトリウムと構造材料の共存性が高く、適切に純度管理を行えば、腐食の懸念がない一方、ナトリウム光学的に不透明であることや、万一の際のナトリウム漏えいの際の液位確保のために設置されたガードベッセルやガードパイプ等により検査性が比較的低い箇所が存在することから、合理的なISI 要求の設定に対する要望は高い。合理的なISI 要求の設定については、システム化規格概念に基づく検討が実施されているが[5]、その考え方については、RI-ISI と共通する部分も多く、機器の要求機能に影響する劣化事象の想定が重要である。劣化事象の想定に際しては、過去の劣化事例のデータベースの活用が有効であると考えられるが、これまで、RI-ISI やシステム化規格への適用という観点では、データベースが整備されていなかった。そこで、EPRI の報告書[6]を参考にして、SFR のデータベースを作成することとした。
2.データベースについて
2.1 整備方針
これまでも、原子力機構(JAEA:Japan Atomic Energy Agency)では、SFR の運転経験をデータベースとしてまとめられており、もんじゅのNa 漏洩事故後に実施されたもんじゅの安全性総点検[7]等に活用されてきた。過去のデータベースでは、特定の事例(例:ナトリウム漏えい)または機器(例:蒸気発生器)に絞り調査を行いもんじゅへ反映すべき事例についてデータベースとしてまとめられていた。そのため、トラブルの網羅性や発生した回数等を考慮していないため、RI-ISI への適用を考えたデータベースが必要となった。なお、RI-ISI やシステム化規格への適用という観点では、運転経験の中で劣化事象に関連するもののみが必要となる。今回は、劣化事象に関する情報の漏れを防ぐために、まず劣化事象に限らず全てのトラブルに関する公開情報を網羅的に収集し、その後、収集した情報の中から劣化事象に関するものを抽出することとした。
22.2 調査対象 データベースの調査対象を、Table 1 に示す。各国で製作されたSFR(実験炉・実証炉・商業炉)とデータの拡充のため、SFR で破損事例が多い試験用の単体の蒸気発生器(Standalone Steam Generator)を対象とした。試験用の単体の蒸気発生器としては、アメリカや日本で製作されたものを対象とした。対象が幅広いため、設計手法や製作、検査方法等に違いがあると考えられる。今後、劣化事象の整理を行う際にはそれらの点を考慮して検討を行う必要がある。 1951 年から運転を開始した米国のEBR-I は世界初の原子炉かつ世界初のSFR であり、約14 年の運転実績がある。また、露国のBOR 60 は、1969 年から改良を重ねながら現在も運転を続けている。これまで、各国でSFR に関する研究が行われ、約60 年にわたって20 基以上の炉の貴重な運転経験が蓄積されている。Table 1 Overview of facilities represented in the Database 2.3 文献調査方法 IAEA が開催した高速炉に関する国際会議(TWGFR:Technical Working Group on Fast Reactor, 旧IWGFR:International Working Group on Fast Reactor) における報告書の調査を中心として行った。TWGFR において、各国の高速炉に関するプロジェクトの進捗状況、今後の予定や発生したトラブル等について報告がなされている。現時点では、TWGFR の会議資料はIAEA のホームページ(INIS)で公開されている[9]。IAEA 報告書を調査することで、各国の高速炉で発生した主要なトラブルを網羅することができる。各トラブルの詳細については、雑誌や各国の機関が発行している報告書を調査し、確認を行った。また、蒸気発生器の情報については、JAEA 報告書や論文を用いて調査を行った。2.3 データベース化 データベースでは各トラブルについて下記の情報が得られるように作成している。RI-ISI を行う際に必要となる情報(発生箇所・原因等)を考慮して項目を作成した。特にトラブル原因については、もんじゅ安全性総点検の際に作成された過去のデータベースの分類分けとEPRI の破損メカニズム表(Table 2)を参考とし、SFR 特有の現象(クリープ等)を考慮して分類分けを作成した。Table 2 のようにトラブル原因の分類分けをL0 からL3 からの4 段階用意し、細かい分類分けを実施している。大きな枠組みとしてL0 を今回のデータベースでは追加している。. プラント名. トラブル発生日付. トラブル発生箇所. トラブル形態. トラブル原因. トラブルの発見方法. トラブル発生時の運転状況. 事故後の運用. 元文献(トラブルが記載されている文献を記載) . その他(Na 漏洩量、漏洩率等) Country Facility MWe MWt Operation EBR I (E) 0.2 1.4 1951 - 1964 EBR II (E) 20 62.5 1963 - 1994 Enrico Fermi (E) 66 200 1963 - 1972 SEFOR (E) - 20 1969 - 1972 CRBRP (D) 350 1000 - Fast Flux Test Facility (E) - 400 1980 - 1993 BR 5/10 (E) - 5/8 1959 - 71, 1973 - BOR 60 (E) 12 55 1969 - BN-350※(D) 135 1000 1972 - 1999 BN-600 (D) 600 1470 1980 - DFR (E) 15 65 1959 - 1977 PFR (D) 270 650 1974 - 1994 Rapsodie (E) - 40 1966 - 1982 Phenix (D) 250 563 1973 - 2009 Super Phenix (C) 1240 3000 1985 - 1998 KNK I (E) 21 58 1971 - 1974 KNK II (E) 21 58 1977 - 1991 SNR-300 (D) 300 762 - Joyo (E) - 140 1978 - Monju (D) 280 714 1994 - India FBTR (E) - 40 1985 - + Standalone Steam Generators ※ Nowadays in Republic of Kazakhstan E: Experimental ; D: Prototype / Demonstration ; C : Commercial USA Russia (ex USSR) UK France Germany Japan - 58 - 3Table 2 Failure Mechanisms in EPRI[9] Table 3 Failure Mechanisms in Database 3.データベースの整備状況 文献の収集状況はTable 4 に示す。現在文献は、352 件収集している。また、現在確認されているトラブル事例の全数は521 件である。Figure 1 に年代毎のトラブル数を示す。データベースには近年のトラブル事例が少ないことが分かる。Figure 2 に年代毎の文献数を示す。文献数も近年のものが少ない。これは今回調査対象とした21 基の内2000 年代に運転を継続していた炉が7 基しかないことも原因の一つであると考えられる。また、近年製作されたインド(PFBR)や中国(CEFR)の炉は運転経験に関して報告されている情報が少ないため、今回の調査対象とはしていない。Table 4 Number of Documents Figure 1 Number of troubles per 5year period L1 L2 L3 Aging - - Acid Corrosion - Galvanic Corrosion - Microbio. Induced Corrosion (MIC) Dealloying Pitting Corrosion - Saltwater Corrosion - Lamination Wrong Material Error Installation Error Lack of Fusion Porosity Slag Dynamic Load - Improper Support - Material Weakness - Cavitation - Single Phase Erosion- Corrosion - Slurry Erosion - Wet Steam Erosion - Corrosion Fatigue - Thermal Fatigue - Vibratory Fatigue - Chloride Stress Corrosion - IGSCC - TGSCC - Fracture Frozen Line Deformation - Wear Corrosion Wear - Water Hammer - - Not Specified - - Erosion, Flow-Assisted Corrosion Fatigue Stress Corrosion Mechanical Damage Failure Mechanisms Corrosion Construction / Fabrication Defect/Error Damage Weld Defect Design Error L1 L2 L3 Stress Corrosion IGSCC Intergranular Corrosion - Oxidation - Pitting Corrosion - Saltwater Corrosion - Cavitation - Flow-Accelerated Corrosion - Thermal Fatigue Thermal Striping Cyclic Stress Flow Oscillation Creep Fatigue - Ratcheting - Corrosion Fatigue - Excessive Stress Delayed Cracking Thermal Expansion Creep (&Swelling) Excessive Stress Delayed Cracking Residual Stress Fretting - Sliding - Corrosion Wear - Base metal Defect - - Slag / Porosity - Blowhole - Lack of Fusion - Specification - Heat Treatment - Thermal Aging - Hydrogen Embrittlement - Nitriding - Irradiation Damage - Installation Error - Maintenance Error - Excessive Insufficient Inapropriate Manual Na sticking - - Contamination - - Flow Instabilities - - Fracture Frozen Line - Power Loss - Noise Short-circuit Arc - Deformation - - Dimensioning Error - - External Hazard Thunderstorm - Other Other Other Unknown Unknown Unknown Unspecified Unspecified Unspecified Trouble Cause Corrosion Erosion Fatigue Mechanical Load Thermal Load Static Load Thermal Load Mechanical Load Wear Weld Defect Material Selection Material Degradation Generic Operator Mistake Tightening Mistake Electrical Problems Document type Number Journal/Conf. 192 Report IAEA 93 Report JAEA 10 Report Other 38 Press/Magazine 9 Book 10 Total 352 - 59 - 4Figure 2 Number of Documents per 5 year period 4.結言 SFR の過去のトラブル事例に基づいて、データベースの整備を行った。幅広い国際文献調査に基づき、トラブル事例の調査を行い、各トラブルの情報をまとめ、過去のデータベースより情報の信頼性や網羅性の向上が図れた。今後は、RI-ISI を行う際に必要となる劣化メカニズムに注目してデータベースの整備を行っていく方針である。また、データの拡充のための文献及びトラブル事例の調査を継続して実施していく予定である。参考文献[1] “An Approach for Using Probabilistic Risk Assessment In Risk-Informed Decisions On Plant- Specific Changes to the Licensing Basis”, U.S. Nuclear Regulatory Commission, Regulatory guide 1.174, 1998 [2] ASME Boiler & Pressure Vessel Code, Sec. XI, Code Case N-716 [3] 前田宜喜,「CCDP とCLERP を考慮したEPRI 手法によるBWR のRI-ISI 試評価に関する報告書」, JNES-RE-Report Series JNES-RE-2012- 0003 , March 2013 [4] 町田他,「リスク情報を活用した供用期間中検査の実用化に関する研究(沸騰水型原子炉のクラス1 配管への適用事例)」, 日本機械学会論文集(A 編)74 巻741 号(2008-5) , 2008 [5] Takaya, et al, “Application of the System Based Code Concept on the Determination of In-Service Inspection Requirements”, Journal of Nuclear Engineering and Radiation Science, January 2015 [6] “Revised Risk-Informed Inservice Inspection Procedure”, EPRI TR-112657, April 1999 [7] 「高速増殖炉もんじゅ安全性総点検に係る対処及び報告について(第5 回報告)」独立行政 法人日本原子力研究開発機構, 平成21 年11 月9 日[8] https://www.iaea.org/inis/ [9] “Nuclear Reactor Piping Failures at US Commercial LWRs: 1961-1997” , EPRI report TR-110102 , 1998/12/01- 60 -
“ “ナトリウム冷却型高速炉のトラブル事例データベース の開発 “ “下村 健太,Kenta SHIMOMURA, ダニエル・ガルシア・ロドリゲス, Daniel Garcia Rodriguez
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