高速実験炉「常陽」における炉内補修技術の開発と実践

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カテゴリ: 第12回
1.「常陽」燃料交換機能の一部阻害について
高速実験炉「常陽」は1977 年に初臨界を達成した我が国初のナトリウム冷却型高速炉であり、2003 年以降、高性能照射炉心(MK-III 炉心、熱出力140MW)として、高速炉用に開発された燃料や、耐放射線性に優れた材料に高速中性子を照射し、性質変化やふるまいを調べる照射試験炉として運転してきた。高速実験炉「常陽」のプラント概要を図1に示す。MK-III 炉心の第6 サイクル運転を完了した後、第15 回施設定期検査を開始し、2007 年5 月30 日に第6 サイクルで計画通り照射試験を完了した計測線付実験装置(以下、「MARICO-2」という)の試料部を原子炉容器外へ取り出すため、MARICO-2 を炉心の照射位置から炉内の燃料貯蔵ラック(以下、「炉内ラック」という)へ移動し、保持装置と試料部の切り離し操作を行った。しかしながら、この切り離し機構に設計上の不備があり、試料部の切り離しができず、その状態を検知できずに回転プラグの回転操作を実施した。図1 高速実験炉「常陽」のプラント概要 この結果、MARICO-2 試料部が炉内ラック内にある移送用ポットから突き出た状態で変形するとともに、炉心上部機構(以下、「UCS」という)の下面の整流板等も損傷していることが、その後の原子炉容器内を観察した結果で明らかとなった(図2)。本事象により、回転プラグの動作範囲のうち、一部の領域ではUCS の下面等と突き出たMARICO-2 試料部の頂部が干渉してしまうことから、炉心の約1/4 の集合体へ燃料交換機孔のアクセスができない状態(回転プラグの運転範囲が制限され、燃料交換機能が一部阻害された状態)となった。このため、「常陽」が有する機能を回復し、安全を確保するためには、回転プラグによる燃料交換機能を復旧する必要があった。図2 「常陽」原子炉容器内の観察結果燃料交換機能の復旧には、変形したMARICO-2 試料部の回収及びUCS の交換が必要と判断されたため、「常陽」では、そのために必要な原子炉容器内補修技術開発を進めてきた。原子炉容器内の調査、関連装置・機器類の開発、炉外モックアップ試験等の準備を着実に進め、2014 年5 月~12 月にUCS の交換及びMARICO-2 試料部の回収を実施した。ここでは、UCS の交換及びMARICO-2 試料部の回収からなる燃料交換機能復旧作業の全体概要について報告する。
2.燃料交換機能復旧作業の概要
燃料交換機能復旧作業の計画検討・実施に当たっては、供用期間中のナトリウム冷却型高速炉の大規模補修である点を踏まえ、以下の点を考慮する必要があった。
(1) 原子炉容器には燃料が装荷され、冷却材のナトリウ
ムが充填された状態であることから、ナトリウムの凝固を防ぐため、原子炉容器内は約200℃の高温に常時保つ必要がある。
(2) 原子炉容器内のナトリウムは化学的に活性なため、
カバーガスであるアルゴンガス雰囲気を維持する必要があり、このためには原子炉容器へのアクセスルートの気密管理、カバーガスの圧力制御及び純度管理等を適切に実施する必要がある。(3) 交換する旧UCS、回収するMARICO-2 試料部は高線量の放射化機器(>100Sv/h)であり、作業員の被ばく防止の観点から適切な遮蔽対策を講じる必要がある。一方で、格納容器内に設置されているクレーンの吊上げ能力は100 トンであり、これら高線量の機器を回収するキャスク等の機器重量はその範囲に収める必要がある。特に旧UCS 用キャスクは大型になることから、詳細な遮蔽設計による最適化が必要である。(4) 旧 UCS は設計上、交換を想定しておらず、回転プラグ側の永久構造物(UCS のガイドスリーブ)とのギャップが狭隘(ノミナルギャップで片側約5mm)である上、30 年以上の共用により、そのギャップにはナトリウム蒸気が付着して固着している可能性があり、旧UCS の引き抜きにあたっては、回転プラグ側のガイドスリーブとの固着や接触によって生じる荷重による変形を防止する必要がある。(5) MARICO-2 試料部は、炉内ラックの移送用ポット内で、頂部が突き出て曲がり、把持機能部品も外れた状態である。このため、MARICO-2 試料部を回収するには、それを収納している移送用ポットを確実に把持し、原子炉容器内で落下させることなく安全・確実に回収するための装置が必要になる。また、頂部が曲がった試料部は旧UCS 引抜き後の開口部(直径約1m)から回収することとしたが、MARICO-2 試料部頂部との干渉を避けるため、旧UCS は引き抜き前にMARICO-2 試料部の上方位置に配置できない(回収孔と回収物であるMARICO-2 試料部が同一軸上にない)ことを考慮してMARICO-2 試料部の回収装置を設計する必要がある。以上の課題を解決するため、「常陽」では、原子炉容器内観察等の事前調査結果を基にUCSの交換とMARICO-2 試料部の回収について検討を進め、各種装置(ジャッキアップ装置及び旧UCS 引抜装置及びMARICO-2 試料部回収装置)を設計し、2010 年から2013 年にかけて製作した。燃料交換機能の復旧作業の工程を図3に示す。図3 「常陽」燃料交換機能の復旧作業工程- 66 - 「常陽」の原子炉格納容器内では、2012 年度から準備作業として、復旧作業用の機器類を設置するため、回転プラグに搭載された機器の撤去工事等を実施するとともに、復旧作業用の機器類と実機の取合調整を進めた。2014 年5 月上旬から、旧UCS の撤去作業を開始し、5 月下旬に旧UCS をキャスク内に収納、6 月上旬にはキャスクを格納容器外に搬出し、保管を完了した。MARICO-2 試料部の回収作業は、旧UCS 撤去作業完了後の6 月下旬から準備を開始して7 月中旬にMARICO-2 試料部回収装置を設置し、9 月末にはMARICO-2 試料部を移送用ポットとともに原子炉容器内から回収した。その後、MARICO-2 試料部は、移送用ポット内のナトリウムをドレンする作業を行った上で、「常陽」と隣接する照射後試験施設に運搬し、X線CT スキャンや外観検査等を実施している。MARICO-2 試料部回収作業完了後の10 月下旬から新UCS 装荷作業の準備を開始し、11 月上旬に新UCS 挿入前のナトリウム掻き落としを行い、11 月下旬の新UCS の装荷及び据付状況確認を経て、12 月17 日に後片付けを含めたすべての作業を完了した(図4)。UCS 交換作業には約4000 人・日、MARICO-2 試料部回収作業には約1300人・日の作業員等が従事した。また、本作業における個人被ばく線量は最大で0.25mSv、総被ばく線量は約1.6 人・mSv と十分低い値で管理することができた。図4 「常陽」燃料交換機能の復旧作業の概要 3.まとめ 「常陽」では、平成26年12月にUCSの交換、MARICO-2 試料部回収等の一連の復旧作業を終了した。ナトリウム冷却型高速炉において、このような炉内大型機器の交換や損傷した炉内機器の取扱いの経験は、世界的にも事例が少ない。本作業の完遂を通じて実証した各種開発技術や作業経験は、ナトリウム冷却型高速炉における原子炉容器内補修技術開発に貢献するものであるとともに、広く原子力施設の遠隔保修技術の開発に資することができる成果であると考えている。参考文献[1] 芦田貴志,伊東秀明他: “「常陽」における燃料交換機能の復旧作業状況”, 平成26 年度弥生研究会「研究炉等の運転・管理及び改良に関する研究会」茨城, 2015 年3 月2 日, pp.4-1-4-10 (2014) [2] 前田幸基,吉田昌宏他:“ナトリウム冷却型高速炉の原子炉容器内観察・補修技術の開発(9);(1)高速実験炉「常陽」の燃料交換機能復旧作業の全体概要”, 原子力学会2015 春の年会予稿集 G8 (2014). (平成 27 年5 月22 日) - 67 -
“ “高速実験炉「常陽」における炉内補修技術の開発と実践 “ “芦田 貴志,Takashi ASHIDA,高松 操,Misao TAKAMATSU,伊東 秀明,Hideaki ITO,大川 敏克,Toshikatsu OHKAWA,吉原 静也,Shizuya YOSHIHARA
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