高速実験炉「常陽」における原子炉容器内補修技術の開発と実践 - 炉心上部機構の交換 -
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カテゴリ: 第12回
1.緒言
高速実験炉「常陽」では、平成19 年に「計測線付実験装置との干渉による回転プラグ燃料交換機能の一部阻害」が発生し、原子炉容器内において、(1)計測線付実験装置(以下、MARICO-2(MAterial testing RIg with temperature COntrol 2nd))試料部が炉内ラック内の移送用ポットから突出した状態で変形していること、(2)MARICO-2 試料部と炉心上部機構(以下、UCS(Upper Core Structure))の接触により、UCS 下面に設置されている整流板等が変形していることが確認された[1]。当該燃料交換機能を復旧するため、「常陽」では、平成26 年5 月~12 月にUCS 交換作業及びMARICO-2 試料部回収作業を実施した。ここでは、UCS 交換作業の結果について述べる。
2.UCS 交換作業の概要
「常陽」は、30 年以上の運転実績を有するループ型SFR(Sodium-cooled Fast Reactor)である。原子炉容器(図1 参照:内径約3.6m/高さ約10m)には、内包する炉心燃料集合体等を冷却するためナトリウムを充填しており、原子炉停止中、その温度は約200℃に保たれる。また、ナトリウムが化学的に活性であることを踏まえ、ナトリウム液面上部にカバーガスとして不活性ガス(アルゴンガス: 約140~160℃)が充填されている。原子炉容器上部に設置された回転プラグ(UCS を含む)は、カバーガスバウンダリの役割を果たしており、原子炉容器内へのアクセスは、回転プラグに予め設けられた貫通孔を用いて行われるため、そのルートや、アクセスさせるものの数量及びサイズが制約される。 UCS 交換作業の概略手順を図2 に示す。UCS 交換作業は、旧UCS 引抜き作業(旧UCS ジャッキアップ試験及び旧UCS 収納作業)及び新UCS 装荷作業(新UCS 用O リング設置作業及び新UCS 挿入作業)に大別される。「常陽」では、前述した作業環境に留意し、UCS 交換作業に係る技術開発・作業手順整備(フルモックアップ試験の実施を含む)を進め、平成26 年5 月7 日に旧UCS ジャッキアップ試験を実施し、旧UCS 引抜き性に係るデータの取得・評価により旧UCS を確実に引抜き・収納できる見通しを得た後、5 月22 日に旧UCS 収納作業を実施した。また、事前にO リングを設置した後、11 月20~21 日に新UCS 挿入作業、12 月12~15 日に新UCS 据付状況確認を実施して、12 月17 日に作業を完了した。UCS 交換作業には約4000 人・日の作業員が従事している。本作業における個人被ばく線量は最大で約0.13mSv、総被ばく線量は約1.1 人・mSv であり、極めて小さく管理することができた。
3.UCS 交換作業結果
3.1 プラント状態 UCS 交換作業時のプラント状態を以下に示す。なお、旧UCS 引抜きにより、既設のカバーガスバウンダリが開放され、ビニルバッグ等の仮設機器によりカバーガスバウンダリが構成されることから、原子炉容器からカバーガスが流出するリスクを低減することを目的に、カバーガス圧力は、通常より低く運用することとした(通常値: 294~686Pa)。1) ナトリウム液面 : GL-9540mm*1 2) カバーガス圧力 : 110~140Pa*2 3) ナトリウム温度 : 約 200℃ 4) カバーガス温度 : 約 150℃ 5) アルゴンガス供給系 : 運転中 6) 廃ガス処理系 : 運転中 7) 1次補助冷却系 : 停止 *1: ナトリウム液面は、原子炉運転中、原子炉容器出口配管の上方(GL-6100mm)に保持されるが、UCS 交換作業時には、同時期に実施するMARICO-2 試料部回収作業において集合体頂部付近へのアクセスが必要となることを踏まえ、炉心崩壊熱が十分に小さいことを確認した上で、図1 原子炉容器・回転プラグ・炉心上部機構の構造図 2 UCS交換作業概要 - 69 -ナトリウム液位を集合体頂部以下(GL-9540mm)とした。*2: 循環型微正圧制御システム[2]を導入し、カバーガス圧力を制御(既設圧力制御設備をバックアップとして使用:40~170Pa)した。3.2 旧UCS 及び新UCS の揚重作業結果旧 UCS 及び新UCS の揚重作業として、2014 年5 月7 日10:30~16:20 に旧UCS ジャッキアップ試験を実施した。旧UCS を1000mm位置(据付位置:0mm位置)とした後、5 月22 日11:00 より、旧UCS 収納作業を開始し、13:58 に11426mm 位置(上限位置)とした。また、11 月20 日10:35 より、新UCS の挿入を開始し、翌21 日2: 15 に新UCS の着座(0mm位置)を完了した。旧UCS 及び新UCS の揚重作業(旧UCS ジャッキアップ・収納/新UCS 挿入作業)の主な結果を以下に示す。1) 旧UCS ジャッキアップ試験旧UCS ジャッキアップ試験では、旧UCS に付着したナトリウムのせん断により生じる抵抗の有無及び挙動を確認するため、3 点支持構造を有するジャッキアップ治具(3式のネジジャッキを使用)の手動操作にて、旧UCS を0~2mm 位置までジャッキアップした。その際の荷重挙動を図3 に示す。旧UCS のジャッキアップは、旧UCS 設計重量である16.5 トンを超えないよう、約15 トンの引抜き荷重を負荷した状態より開始された。なお、ジャッキアップ速度は約2mm/h を目標とした。引抜き荷重は、約0.75mm位置までは上昇したものの、当該位置以降は約16.8 トンで安定して推移しており、ナトリウムせん断抵抗発生時に想定されるピーク荷重は確認されなかった。ただし、図4 に示すように、旧UCS 側面にはナトリウムが付着していることが確認された。当該ナトリウムを回収し分析した結果から、これらは約97.4wt%の金属ナトリウムで構成されること、また、目視及び触感から、密な金属結晶構造ではなく、微粒子が凝集・堆積した構造(多孔性構造)を有すると推定されることを確認した。ギャップ等に付着するナトリウムの性状や位置は、当該位置に至るまでの流路や温度分布、また、純度管理の状況に依存するため、これを正確に予測することは困難であるが、今回は、当該ナトリウムが上述した構造を有したため、これがせん断されるのではなく、案内スリーブと接触していた付着ナトリウムの表面が脆性破壊し、案内スリーブ表面を滑る形となり、ナトリウムせん断抵抗が発生しなかったと考えられる。2~1000mm 位置ジャッキアップ時の荷重挙動を図5 に示す。なお、ここでは、干渉等により発生した荷重を精度よく検知するため、ジャッキアップ開始前に荷重計をゼロリセット(旧UCS 等の自重をキャンセルアウト)するとともに、3 式のネジジャッキの同期ズレにより生じる偏荷重を是正するため、適宜、荷重均等化措置(単軸駆動による水平度調整)を実施した。また、ジャッキアップ治具には、干渉が発生した場合に水平方向にスライドすることでこれを解消する機能を持たせており、約750mm位置において、旧UCS と案内スリーブ間に干渉が生じたが、当該機能により、水平方向にスライドさせ、偏芯を是正することで、旧UCS ジャッキアップ作業を継続できており、ジャッキアップ治具における高精度な水平度管理・荷重管理による図3 ジャッキアップ時の荷重挙動図 4 旧UCSのナトリウム付着状況図 5 ジャッキアップ時の荷重挙動(2~1000mm) - 70 -干渉検知機能、また、解消機能は有効であった。旧UCS ジャッキアップ試験では、最終的に、旧UCS を1000mm位置までジャッキアップし、次のステップである旧UCS 収納作業を問題なく実施できる見込みを得た。2) 旧UCS 収納作業及び新UCS 挿入作業旧UCS収納作業及び新UCS挿入作業における荷重挙動を図6 に示す。ここでは、必要な揚重ストローク(11426mm)を確保するため、揚重治具をワイヤジャッキ治具(3 点支持構造:3 式のワイヤジャッキを使用) に変更している。初期の総引抜き荷重は、約18 トンであったものの、旧UCS 引抜きを継続することで、旧UCS と案内スリーブの接触に起因する抵抗(もしくは、蒸着ナトリウムに起因する抵抗)が減少し、約4250mm位置以降については、約17.3 トンで概ね安定して推移し、11426mm位置(上限)までの引抜き操作を完了し、旧UCS をキャスクに収納した。新UCS の挿入にあたっては、挿入性向上の観点で、予め、新UCS 下部の外径をφ1060mmからφ1050mmに変更している。さらに、作業にあたっては、No-Go ゲージを兼ねた新UCS と同径の仮蓋(新UCS 用O リング設置作業用遮へいプラグ)を事前挿入し、新UCS を確実に装荷できることを確認している。そのため、ワイヤジャッキ治具による緻密な水平度管理と相まって、総荷重は、約16.6 トンで概ね安定に推移した。なお、ワイヤジッキ治具使用時については、干渉解消するための治具として、ガイドローラーを設けており、約4472mm位置で新UCS と案内スリーブ間に干渉が生じたが、挿入位置を水平方向にスライドさせることで、偏芯を是正し、新UCS 挿入作業を継続した。新UCS の着座時の据付位置調整手順を図7 に示す。ここでは、新UCS フランジのボルト孔が、事前に設置したガイドボルトの先端を通過したことを確認した後、当該ボルト孔にガイドボルトとのギャップを±0.85mm(設計値(最大)) に制限した拘束治具を設置し、新UCS を着座させることで、新UCS 据付位置の精度(要求精度:±1.02mm) を確保した。当該手順により、新UCS は、計画した位置と比較して、-0.35~0.13mm(誤差:±0.1mm)の精度で据付けられたことを確認した。3) カバーガスバウンダリ管理UCS 交換作業では、図2 に示したように、作業中の仮設バウンダリとして、ガイド筒とビニルバッグを回転プラグ上に設置している。このうち、耐熱性に劣るビニルバッグの健全性を確保するためには、原子炉容器とビニルバックが導通した状態で高温のカバーガスの上昇を抑制する必要がある。本作業では、原子炉容器内カバーガス圧力を110~140Pa に制御する一方で、ビニルバッグ圧力を120~150Pa で制御することにより、アルゴンガスブローラインを形成し、ビニルバッグ温度を概ね60℃以下で管理し、作業期間中のカバーガスバウンダリの健全性を確保した。4) 放射線管理UCS 交換作業時の作業環境線量率測定結果の一例として、旧UCS 収納作業時のエリアモニタ指示値を図8 に示す。放射化された旧UCS は、長年に渡る使用により高い表面線量率を有する。旧UCS 収納作業にあたって、仮設ピット蓋・ドアバルブ・キャスクに作業環境線量率の低減に必要な遮へい厚さを確保した。仮設ピット蓋は、鉄100mm+コンクリート600mm 相当の遮へい機能を有している。また、キャスク( 図7 新UCS着座手順 旧 図6 旧UCS収納時(上)及び新UCS 挿入時(下)の荷重挙動 旧UCS 収納作業新UCS 挿入作業- 71 -UCS 用)及びドアバルブについては、キャスク等の表面線量率が1mSv/hを十分に下回るよう遮へい厚さ(最大:270mm 以上)を決定している。立入を禁止した仮設ピット蓋下方のエリアにおいては、旧UCS を引抜き抜いたことで作業環境線量率が一時的に100mSv/h を超過するケースが確認されたものの、作業エリアである仮設ピット蓋上面やその他のエリアにおける作業環境線量率は、最大約5μSv/h であり、適切な遮へい対策を講じることで被ばく低減を図ることができた。5) その他i) 旧UCS 下面及び案内スリーブの観察結果旧 UCS 下面及び案内スリーブの観察結果を図9 に示す。ここでは、旧UCS 下面の状況が、2008 年に観察した結果[3]と一致し、旧UCS 引抜き作業において、脱落部品が生じていないことを確認した。また、案内スリーブ観察により、案内スリーブに有意な変形等はなく、新UCS 装荷作業への移行に問題がないことを確認した。ii) 旧UCS 用Oリングの経年劣化評価結果旧UCS 用Oリング(材質:エチレンプロピレンゴム)については、事前の確認により、シール機能に問題がないことを確認できているものの、30 年以上使用したOリングであることを踏まえ、回収し、経年劣化評価を実施した。主な結果を以下に示す(図10 参照)。・ 外観観察により、シール機能を阻害する有害な摩耗痕や圧縮痕等がないことを確認した。・ 断面観察により、O リング溝(幅12mm・深さ8mm)に模した形状に圧縮影響歪が生じていることを確認した。なお、圧縮永久歪は一般的なシール寿命である80%を超過しているものの、0.4mmの有効つぶし代が確保されていた。・ 硬度測定により、Oリングの硬度はHs 81~85 となり、使用初期(Hs70±5)と比較して大きくなっているものの、ゴム弾性を喪失していないことを確認した。上記より、圧縮永久歪は一般的なシール寿命を超過しているものの、十分な有効つぶし代を保有し、かつゴム弾性が確認できたことから、シール機能が保持されていたと評価できる。図 10 旧UCS用Oリングの概観及び断面監察結果 図8 旧UCS収納作業時のγ線エリアモニタ指示値 図9 旧UCS下面及び案内スリーブ観察結果 - 72 -4.結言 高放射線・高温環境のSFR における原子炉容器内補修には、軽水炉にはない技術開発が必要であり、その技術レベルを高め、供用期間中の運転・保守に反映することはSFRの信頼性の向上に寄与するものである。SFR におけるUCS の交換は、過去に仏国ラプソティにおいて実施された例があるが、世界的に稀少である。「常陽」では、供用中のSFR 作業環境を考慮し、検討・開発した機材・手順を、実機に適用し、UCS 交換作業を成功裏に終了させた。なお、本作業の実施にあたっては、事前にフルモックアップ試験を実施し、これを作業トレーニングの場として有効に活用しており、本作業では、適切な遮へい対策と相まって、約4000 人・日以上の作業員が従事した中で、作業員の被ばくを個人最大被ばく線量で約0.13mSv、総線量で約1.1 人・mSv と極めて低く管理することができた。 参考文献 [1] 高松 操, 小林 哲彦, 長井 秋則, “高速実験炉「常陽」における原子炉容器内保守・補修技術開発:「常陽」炉心上部機構の交換に向けた技術開発”, JAEA Technology 2012-20(2012) [2] H. Ushiki, E. Okuda, N. Suzuki et al., “Replacement of Upper Core Structure in Experimental Fast Reactor Joyo - (2) Development of Cover Gas Recycling system with Precise Pressure Control -,” Proc. ICAPP 2015, Nice, France, May 3.6, 2015, (2015), [3] M. Takamatsu, K. Imaizumi, A. Nagai et al., “Development of Observation Techniques in Reactor Vessel of Experimental Fast Reactor Joyo,” J. Power and Energy System Vol.4 No.1 (2010), pp.113-125. (平成27 年5 月27 日) - 73 -
“ “高速実験炉「常陽」における原子炉容器内補修技術の開発と実践 - 炉心上部機構の交換 - “ “清水 俊二,Shunji SHIMIZU,奥田 英二,Eiji OKUDA,菊池 祐樹,Yuki KIKUCHI,川崎 徹,Toru KAWASAKI,大和田 良平,Ryohei OHWADA
高速実験炉「常陽」では、平成19 年に「計測線付実験装置との干渉による回転プラグ燃料交換機能の一部阻害」が発生し、原子炉容器内において、(1)計測線付実験装置(以下、MARICO-2(MAterial testing RIg with temperature COntrol 2nd))試料部が炉内ラック内の移送用ポットから突出した状態で変形していること、(2)MARICO-2 試料部と炉心上部機構(以下、UCS(Upper Core Structure))の接触により、UCS 下面に設置されている整流板等が変形していることが確認された[1]。当該燃料交換機能を復旧するため、「常陽」では、平成26 年5 月~12 月にUCS 交換作業及びMARICO-2 試料部回収作業を実施した。ここでは、UCS 交換作業の結果について述べる。
2.UCS 交換作業の概要
「常陽」は、30 年以上の運転実績を有するループ型SFR(Sodium-cooled Fast Reactor)である。原子炉容器(図1 参照:内径約3.6m/高さ約10m)には、内包する炉心燃料集合体等を冷却するためナトリウムを充填しており、原子炉停止中、その温度は約200℃に保たれる。また、ナトリウムが化学的に活性であることを踏まえ、ナトリウム液面上部にカバーガスとして不活性ガス(アルゴンガス: 約140~160℃)が充填されている。原子炉容器上部に設置された回転プラグ(UCS を含む)は、カバーガスバウンダリの役割を果たしており、原子炉容器内へのアクセスは、回転プラグに予め設けられた貫通孔を用いて行われるため、そのルートや、アクセスさせるものの数量及びサイズが制約される。 UCS 交換作業の概略手順を図2 に示す。UCS 交換作業は、旧UCS 引抜き作業(旧UCS ジャッキアップ試験及び旧UCS 収納作業)及び新UCS 装荷作業(新UCS 用O リング設置作業及び新UCS 挿入作業)に大別される。「常陽」では、前述した作業環境に留意し、UCS 交換作業に係る技術開発・作業手順整備(フルモックアップ試験の実施を含む)を進め、平成26 年5 月7 日に旧UCS ジャッキアップ試験を実施し、旧UCS 引抜き性に係るデータの取得・評価により旧UCS を確実に引抜き・収納できる見通しを得た後、5 月22 日に旧UCS 収納作業を実施した。また、事前にO リングを設置した後、11 月20~21 日に新UCS 挿入作業、12 月12~15 日に新UCS 据付状況確認を実施して、12 月17 日に作業を完了した。UCS 交換作業には約4000 人・日の作業員が従事している。本作業における個人被ばく線量は最大で約0.13mSv、総被ばく線量は約1.1 人・mSv であり、極めて小さく管理することができた。
3.UCS 交換作業結果
3.1 プラント状態 UCS 交換作業時のプラント状態を以下に示す。なお、旧UCS 引抜きにより、既設のカバーガスバウンダリが開放され、ビニルバッグ等の仮設機器によりカバーガスバウンダリが構成されることから、原子炉容器からカバーガスが流出するリスクを低減することを目的に、カバーガス圧力は、通常より低く運用することとした(通常値: 294~686Pa)。1) ナトリウム液面 : GL-9540mm*1 2) カバーガス圧力 : 110~140Pa*2 3) ナトリウム温度 : 約 200℃ 4) カバーガス温度 : 約 150℃ 5) アルゴンガス供給系 : 運転中 6) 廃ガス処理系 : 運転中 7) 1次補助冷却系 : 停止 *1: ナトリウム液面は、原子炉運転中、原子炉容器出口配管の上方(GL-6100mm)に保持されるが、UCS 交換作業時には、同時期に実施するMARICO-2 試料部回収作業において集合体頂部付近へのアクセスが必要となることを踏まえ、炉心崩壊熱が十分に小さいことを確認した上で、図1 原子炉容器・回転プラグ・炉心上部機構の構造図 2 UCS交換作業概要 - 69 -ナトリウム液位を集合体頂部以下(GL-9540mm)とした。*2: 循環型微正圧制御システム[2]を導入し、カバーガス圧力を制御(既設圧力制御設備をバックアップとして使用:40~170Pa)した。3.2 旧UCS 及び新UCS の揚重作業結果旧 UCS 及び新UCS の揚重作業として、2014 年5 月7 日10:30~16:20 に旧UCS ジャッキアップ試験を実施した。旧UCS を1000mm位置(据付位置:0mm位置)とした後、5 月22 日11:00 より、旧UCS 収納作業を開始し、13:58 に11426mm 位置(上限位置)とした。また、11 月20 日10:35 より、新UCS の挿入を開始し、翌21 日2: 15 に新UCS の着座(0mm位置)を完了した。旧UCS 及び新UCS の揚重作業(旧UCS ジャッキアップ・収納/新UCS 挿入作業)の主な結果を以下に示す。1) 旧UCS ジャッキアップ試験旧UCS ジャッキアップ試験では、旧UCS に付着したナトリウムのせん断により生じる抵抗の有無及び挙動を確認するため、3 点支持構造を有するジャッキアップ治具(3式のネジジャッキを使用)の手動操作にて、旧UCS を0~2mm 位置までジャッキアップした。その際の荷重挙動を図3 に示す。旧UCS のジャッキアップは、旧UCS 設計重量である16.5 トンを超えないよう、約15 トンの引抜き荷重を負荷した状態より開始された。なお、ジャッキアップ速度は約2mm/h を目標とした。引抜き荷重は、約0.75mm位置までは上昇したものの、当該位置以降は約16.8 トンで安定して推移しており、ナトリウムせん断抵抗発生時に想定されるピーク荷重は確認されなかった。ただし、図4 に示すように、旧UCS 側面にはナトリウムが付着していることが確認された。当該ナトリウムを回収し分析した結果から、これらは約97.4wt%の金属ナトリウムで構成されること、また、目視及び触感から、密な金属結晶構造ではなく、微粒子が凝集・堆積した構造(多孔性構造)を有すると推定されることを確認した。ギャップ等に付着するナトリウムの性状や位置は、当該位置に至るまでの流路や温度分布、また、純度管理の状況に依存するため、これを正確に予測することは困難であるが、今回は、当該ナトリウムが上述した構造を有したため、これがせん断されるのではなく、案内スリーブと接触していた付着ナトリウムの表面が脆性破壊し、案内スリーブ表面を滑る形となり、ナトリウムせん断抵抗が発生しなかったと考えられる。2~1000mm 位置ジャッキアップ時の荷重挙動を図5 に示す。なお、ここでは、干渉等により発生した荷重を精度よく検知するため、ジャッキアップ開始前に荷重計をゼロリセット(旧UCS 等の自重をキャンセルアウト)するとともに、3 式のネジジャッキの同期ズレにより生じる偏荷重を是正するため、適宜、荷重均等化措置(単軸駆動による水平度調整)を実施した。また、ジャッキアップ治具には、干渉が発生した場合に水平方向にスライドすることでこれを解消する機能を持たせており、約750mm位置において、旧UCS と案内スリーブ間に干渉が生じたが、当該機能により、水平方向にスライドさせ、偏芯を是正することで、旧UCS ジャッキアップ作業を継続できており、ジャッキアップ治具における高精度な水平度管理・荷重管理による図3 ジャッキアップ時の荷重挙動図 4 旧UCSのナトリウム付着状況図 5 ジャッキアップ時の荷重挙動(2~1000mm) - 70 -干渉検知機能、また、解消機能は有効であった。旧UCS ジャッキアップ試験では、最終的に、旧UCS を1000mm位置までジャッキアップし、次のステップである旧UCS 収納作業を問題なく実施できる見込みを得た。2) 旧UCS 収納作業及び新UCS 挿入作業旧UCS収納作業及び新UCS挿入作業における荷重挙動を図6 に示す。ここでは、必要な揚重ストローク(11426mm)を確保するため、揚重治具をワイヤジャッキ治具(3 点支持構造:3 式のワイヤジャッキを使用) に変更している。初期の総引抜き荷重は、約18 トンであったものの、旧UCS 引抜きを継続することで、旧UCS と案内スリーブの接触に起因する抵抗(もしくは、蒸着ナトリウムに起因する抵抗)が減少し、約4250mm位置以降については、約17.3 トンで概ね安定して推移し、11426mm位置(上限)までの引抜き操作を完了し、旧UCS をキャスクに収納した。新UCS の挿入にあたっては、挿入性向上の観点で、予め、新UCS 下部の外径をφ1060mmからφ1050mmに変更している。さらに、作業にあたっては、No-Go ゲージを兼ねた新UCS と同径の仮蓋(新UCS 用O リング設置作業用遮へいプラグ)を事前挿入し、新UCS を確実に装荷できることを確認している。そのため、ワイヤジャッキ治具による緻密な水平度管理と相まって、総荷重は、約16.6 トンで概ね安定に推移した。なお、ワイヤジッキ治具使用時については、干渉解消するための治具として、ガイドローラーを設けており、約4472mm位置で新UCS と案内スリーブ間に干渉が生じたが、挿入位置を水平方向にスライドさせることで、偏芯を是正し、新UCS 挿入作業を継続した。新UCS の着座時の据付位置調整手順を図7 に示す。ここでは、新UCS フランジのボルト孔が、事前に設置したガイドボルトの先端を通過したことを確認した後、当該ボルト孔にガイドボルトとのギャップを±0.85mm(設計値(最大)) に制限した拘束治具を設置し、新UCS を着座させることで、新UCS 据付位置の精度(要求精度:±1.02mm) を確保した。当該手順により、新UCS は、計画した位置と比較して、-0.35~0.13mm(誤差:±0.1mm)の精度で据付けられたことを確認した。3) カバーガスバウンダリ管理UCS 交換作業では、図2 に示したように、作業中の仮設バウンダリとして、ガイド筒とビニルバッグを回転プラグ上に設置している。このうち、耐熱性に劣るビニルバッグの健全性を確保するためには、原子炉容器とビニルバックが導通した状態で高温のカバーガスの上昇を抑制する必要がある。本作業では、原子炉容器内カバーガス圧力を110~140Pa に制御する一方で、ビニルバッグ圧力を120~150Pa で制御することにより、アルゴンガスブローラインを形成し、ビニルバッグ温度を概ね60℃以下で管理し、作業期間中のカバーガスバウンダリの健全性を確保した。4) 放射線管理UCS 交換作業時の作業環境線量率測定結果の一例として、旧UCS 収納作業時のエリアモニタ指示値を図8 に示す。放射化された旧UCS は、長年に渡る使用により高い表面線量率を有する。旧UCS 収納作業にあたって、仮設ピット蓋・ドアバルブ・キャスクに作業環境線量率の低減に必要な遮へい厚さを確保した。仮設ピット蓋は、鉄100mm+コンクリート600mm 相当の遮へい機能を有している。また、キャスク( 図7 新UCS着座手順 旧 図6 旧UCS収納時(上)及び新UCS 挿入時(下)の荷重挙動 旧UCS 収納作業新UCS 挿入作業- 71 -UCS 用)及びドアバルブについては、キャスク等の表面線量率が1mSv/hを十分に下回るよう遮へい厚さ(最大:270mm 以上)を決定している。立入を禁止した仮設ピット蓋下方のエリアにおいては、旧UCS を引抜き抜いたことで作業環境線量率が一時的に100mSv/h を超過するケースが確認されたものの、作業エリアである仮設ピット蓋上面やその他のエリアにおける作業環境線量率は、最大約5μSv/h であり、適切な遮へい対策を講じることで被ばく低減を図ることができた。5) その他i) 旧UCS 下面及び案内スリーブの観察結果旧 UCS 下面及び案内スリーブの観察結果を図9 に示す。ここでは、旧UCS 下面の状況が、2008 年に観察した結果[3]と一致し、旧UCS 引抜き作業において、脱落部品が生じていないことを確認した。また、案内スリーブ観察により、案内スリーブに有意な変形等はなく、新UCS 装荷作業への移行に問題がないことを確認した。ii) 旧UCS 用Oリングの経年劣化評価結果旧UCS 用Oリング(材質:エチレンプロピレンゴム)については、事前の確認により、シール機能に問題がないことを確認できているものの、30 年以上使用したOリングであることを踏まえ、回収し、経年劣化評価を実施した。主な結果を以下に示す(図10 参照)。・ 外観観察により、シール機能を阻害する有害な摩耗痕や圧縮痕等がないことを確認した。・ 断面観察により、O リング溝(幅12mm・深さ8mm)に模した形状に圧縮影響歪が生じていることを確認した。なお、圧縮永久歪は一般的なシール寿命である80%を超過しているものの、0.4mmの有効つぶし代が確保されていた。・ 硬度測定により、Oリングの硬度はHs 81~85 となり、使用初期(Hs70±5)と比較して大きくなっているものの、ゴム弾性を喪失していないことを確認した。上記より、圧縮永久歪は一般的なシール寿命を超過しているものの、十分な有効つぶし代を保有し、かつゴム弾性が確認できたことから、シール機能が保持されていたと評価できる。図 10 旧UCS用Oリングの概観及び断面監察結果 図8 旧UCS収納作業時のγ線エリアモニタ指示値 図9 旧UCS下面及び案内スリーブ観察結果 - 72 -4.結言 高放射線・高温環境のSFR における原子炉容器内補修には、軽水炉にはない技術開発が必要であり、その技術レベルを高め、供用期間中の運転・保守に反映することはSFRの信頼性の向上に寄与するものである。SFR におけるUCS の交換は、過去に仏国ラプソティにおいて実施された例があるが、世界的に稀少である。「常陽」では、供用中のSFR 作業環境を考慮し、検討・開発した機材・手順を、実機に適用し、UCS 交換作業を成功裏に終了させた。なお、本作業の実施にあたっては、事前にフルモックアップ試験を実施し、これを作業トレーニングの場として有効に活用しており、本作業では、適切な遮へい対策と相まって、約4000 人・日以上の作業員が従事した中で、作業員の被ばくを個人最大被ばく線量で約0.13mSv、総線量で約1.1 人・mSv と極めて低く管理することができた。 参考文献 [1] 高松 操, 小林 哲彦, 長井 秋則, “高速実験炉「常陽」における原子炉容器内保守・補修技術開発:「常陽」炉心上部機構の交換に向けた技術開発”, JAEA Technology 2012-20(2012) [2] H. Ushiki, E. Okuda, N. Suzuki et al., “Replacement of Upper Core Structure in Experimental Fast Reactor Joyo - (2) Development of Cover Gas Recycling system with Precise Pressure Control -,” Proc. ICAPP 2015, Nice, France, May 3.6, 2015, (2015), [3] M. Takamatsu, K. Imaizumi, A. Nagai et al., “Development of Observation Techniques in Reactor Vessel of Experimental Fast Reactor Joyo,” J. Power and Energy System Vol.4 No.1 (2010), pp.113-125. (平成27 年5 月27 日) - 73 -
“ “高速実験炉「常陽」における原子炉容器内補修技術の開発と実践 - 炉心上部機構の交換 - “ “清水 俊二,Shunji SHIMIZU,奥田 英二,Eiji OKUDA,菊池 祐樹,Yuki KIKUCHI,川崎 徹,Toru KAWASAKI,大和田 良平,Ryohei OHWADA