高速炉機器の信頼性評価に関するガイドラインの整備

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カテゴリ: 第12回
1.諸言
供用期間中検査(ISI)要求は、プラントの特徴を考慮して適切に定める必要がある。しかし、プラントの特徴には、環境、材料、設計、製作、施工、運転管理、安全評価等、多岐にわたる項目が含まれ、それらがISI 要求にどのように影響するのかを定量的に扱うことは困難であった。そこで我々はシステム化規格概念に基づくISI 要求の検討を行っている[1]。システム化規格概念とは、関連する全ての技術要求項目を考慮して原子力プラントの信頼性を最適化することを目指した新しい規格体系に関する概念である[2-4]。本概念の具体化に当たっては、信頼性(破損確率)評価手法の整備が重要であり、現在、日本機械学会のシステム化規格作業会において、高速増殖炉の静的機器を対象とした信頼性評価ガイドライン(案) の検討が行われている。本報では、その概要を紹介する。
2.信頼性評価ガイドライン(案)
2.1 全体構成
信頼性評価ガイドライン(案)は、「総則」、「信頼性評価」、「破損シナリオの設定」、「モデル化」及び「破損確率の算出」の五つの章と、高速炉における主要な劣化事象であるクリープ疲労損傷によるき裂の発生及び進展を評価するための手順及び不安定破壊を判定するための限界状態関数を与える添付から構成される。 「総則」では、信頼性評価ガイドライン(案)の目的や適用範囲等が示されている。信頼性評価結果に基づき、ISI 要求を設定するためには、目標信頼性を別途設定し、評価結果との比較を行う必要があるが、本ガイドライン(案)の対象は、信頼試評価の部分に限定している。 「信頼性評価」では、信頼性評価の手順が規定されている。まず、評価対象機器に対して、要求機能及び使用条件を考慮して、破損シナリオを設定する。続いて、設定した破損シナリオのモデル化を行う。ここで、モデル化とは、破損シナリオの定式化や、確率変数の設定を意味する。最後に、破損確率(要求機能を満足しなくなる確率)を算出する。各ステップの詳細について、次節以降で説明する。
2.2 破損シナリオの設定
「破損シナリオの設定」では、要求機能及び使用条件を考慮して、評価対象機器の信頼性を支配する破損モードを定め、当該破損モードによる破損シナリオを設定する。具体的な手順は次のとおりである。 ―――――――――――――――――――――― 連絡先:髙屋 茂、〒311-1393 大洗町成田町4002 番地、日本原子力研究開発機構 高速炉研究開発部門 E-mail: takaya.shigeru@jaea.go.jp - 7 - まず、評価対象機器が、それを超えると要求機能を満足しなくなる状態を限界状態として設定する。例えば、バウンダリ機器に対しては、バウンダリの破損が限界状態の例として考えられる。 次に、使用条件を考慮して、信頼性評価の対象となり得る劣化メカニズムを想定し、想定した劣化メカニズムに基づき破損モードを選定する。クリープ温度域で使用され、熱過渡応力が比較的大きい部位の評価をする場合は、劣化メカニズムとしてクリープ疲労損傷が、破損モードとしてき裂の貫通が考えられる。 最後に、選定した破損モードにより限界状態に至る破損シナリオを決定する。上記の例の場合では、クリープ疲労損傷の蓄積によりき裂が発生・進展し、バウンダリの破損に至るシナリオが考えられる。 2.3 モデル化 「モデル化」では、設定した破損シナリオについて、その進展過程を定式化するととともに、限界状態関数を設定する。また、評価に必要な確率変数もここで設定する。具体的な手順は次のとおりである。 まず、破損過程の定式化を行う。先の例では、クリープ疲労損傷の蓄積によるき裂発生やその後のき裂の進展挙動の定式化がこれに当たる。クリープ疲労損傷は、高速炉における代表的な劣化メカニズムであるため、信頼性評価ガイドライン(案)では、添付に評価式を整備している。 次に、「破損シナリオの設定」で設定した限界状態に対し、以下の状態を満たすように適切な基本変数で構成する限界状態関数を設定する。 Z g.X ,X , ,Xn . 1 2 . ... (1) ここで、Z が0 に等しい場合を限界状態とし、0 を超える場合を健全状態、0 未満の場合を破損状態とする。 最後に、設定した評価式および限界状態関数において、不確実性を有する基本変数を確率変数として設定する。不確実性については、偶然的不確実性と認識論的不確実性を考慮する。なお、一般に、確率変数の設定には労力を要するため、高速炉の代表的な構造材料であるSUS304 と高速炉用SUS316 の機械強度について、その統計的特性を評価し、確率分布形や平均値、標準偏差等のパラメータを整理しており[5]、材料強度の入力データとしてこれを用いることができる。なお、熱過渡荷重等、高速炉において代表的な荷重についても、現在整理中である。 2.4 破損確率の算出 最後に、式(2)に基づき、破損確率を算出する。一般的には、解析的に直接、破損確率を求めることは困難であることから、モンテカルロ法や1 次信頼性解析法等の算定法を用いて、破損確率を評価することとなる。 . . . . n g x x x f X X X n P f x x x dx dx dx n n . . . . 1 2 , , , 0 , , , 1 2 1 2 1 2 . , , , . . (2) X X Xn f 1 , 2 ,., :基本変数X1, X2,…,Xnの結合確率密度関数 3.結言 現在、日本機械学会システム化規格作業会にて整備中の高速炉機器の信頼性評価に関するガイドライン(案) の概要を紹介した。本ガイドラインが整備されることにより、信頼性に基づく合理的な設計や維持について、更に活発に検討されるようになることが期待される。 謝辞 日本機械学会システム化規格作業会委員各位に感謝いたします。 参考文献 [1] S. Takaya, T. Asayama, Y. Kamishima, H. Machida, D. Watanabe, S. Nakai, and M. Morishita, “Application of the System Based Code Concept to the Determination of In-Service Inspection Requirements”, ASME Journal of Nuclear Engineering and Radiation Science, Vol. 1, 2015, #011004. [2] Y. Asada, M. Tashimo and M. Ueta, “System Based Code.Principal Concept”, Proc. 10th International Conference on Nuclear Engineering, 2002, #22730. [3] Y. Asada, M. Tashimo and M. Ueta, “System Based Code.Basic Structure”, Proc. 10th International Conference on Nuclear Engineering, 2002, #22731. [4] Y. Asada, “Japanese Activities Concerning Nuclear Codes and Standards.Part II”, ASME Journal of Pressure Vessel Technology., Vol. 128, 2006, pp. 64.70. [5] 髙屋、佐々木、友部、“高速炉機器の信頼性評価に用“ “高速炉機器の信頼性評価に関するガイドラインの整備 “ “髙屋 茂,Shigeru TAKAYA,町田 秀夫,Hideo MACHIDA,神島 吉郎,Yoshio KAMISHIMA
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