冷却孔周辺からの熱疲労き裂の初期成長
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カテゴリ: 第12回
1.緒 言
一般に発電用プラントにおいては、熱機関の稼働温度を上昇させることにより高効率化が達成できるが、その一方で、強度を担う材料の強度は高温になるほど低下するため、二つの要素は競合関係になる。この工業的課題に対応するため主要高温部材に種々の冷却構造をもたせ、これら競合要素を両立させてきた構造部材・要素が多々ある。ガスタービンにおける冷却翼の採用はそのよい例であろう。近年におけるこれら構造要素の三次元的形状の複雑化と多機能化を鑑みると、複雑形状による応力集中効果と冷却構造に伴う部材内温度勾配に起因した熱応力とが重畳して、単純な条件下の破損からは予測し難い材料強度的特性や破損が生じることも予測される(1)。これまでにも、冷却構造を対象とした研究は多くなされてきたが(2)、一定温度の下での材料の高温強度特性に注目した研究がほとんどで、冷却部位周辺の局所的な破損挙動に焦点を当て、それを実験的に再現し、かつ、材料強度的特性を定量的に検討した例はごく限られている(3)~(5)。 本研究では、冷却構造を単純モデル化した形状の試験片を用い、試験片内に温度勾配をもたせたうえで、同時に起動・停止サイクルを想定した同位相型熱機械的疲労 負荷を重畳させることができる試験システムを試作した。この試験システムを用いて、Ni 基超合金製の冷却孔模擬試験片に対して実験を実施し、有限要素法による応力解析と合わせて、その破損挙動を力学的観点から考察することを目指した。
2. 再現試験システムの概要
2.1 再現試験システム
本研究では、構造部材の厚さ方向に温度勾配を持たせた上で、冷却機能を有する部位(本研究では冷却用の孔) の周囲の不均一温度分布を再現した状態で、熱機関の起動・停止サイクルを想定した熱機械的疲労負荷が可能な再現試験システムを試作した。再現試験システムの概略図をFig.1 に示す。本システムは、温度を制御する部分、外負荷を与える部分、冷却空気を注入する部分、試験データを収録する部分から構成される。 具体的には、高温入熱源として高周波誘導加熱装置を、冷却源として圧縮空気を用いた。試験片(後述)の厚さ方向に温度勾配を持たせ、その上で冷却孔周囲の不均一温度分布を再現できるようにするため、高周波誘導加熱装置で試験片を加熱しつつ、試験片に加工された冷却孔を通して冷却空気を吐出させる方式とした。このような状態を再現した上で、試験片に熱機械的疲労負荷を加えることができるよう、これら熱源システムと電気・油圧サ
ーボ疲労試験機とを組み合わせている。その際、温度波形と負荷波形を同期(同位相)させて与えている。同時に、圧縮空気の流量は流量計を用いて常時、計測した。 2.2 用いた試験片と試験条件・方法 本研究では、IN738LC 一方向凝固材(以降、DS 材と呼称する)を実験に供した。用いた試験片の形状をFig.2 に示す。中空円筒状の試験片の評点部中央には複数の貫通孔(直径2mm)が冷却孔として人工的に加工してあり、この孔を通じて前述の冷却空気が試験片内側から外側に吐出する。 本研究ではこの試験片に対して、Fig.3 に示すような同位相型の熱機械的疲労負荷を重畳させた。試験片の温度制御位置は、冷却孔から離れた部位(Fig.4 中の点F)とし、その最高温度は880℃、最低温度は300℃とした。熱サイクル中に重畳させた外負荷は、最大270MPa(880℃)、最小0MPa(300℃)の応力比0 の荷重制御型負荷とした。負荷の周期は、各部位の温度が定常的に変化するよう1/240Hz(0.25 cpm)とした。 Fig.2 に示す試験片に上述の熱機械的疲労負荷を繰り返し与え、一定の繰返し数ごとに試験を中断し、試験片外表面をレプリカ法によって、冷却孔内面は実体顕微鏡とSEMにより損傷の様子を定期的に観察した。 3.実験結果および考察 3.1 試験片中の温度勾配 試験片中の各部位の温度分布について、冷却空気を流した状態で計測した。計測した代表位置はFig.4 に示す6 カ所で、このうち温度制御は図中の点F としている。その結果点F の温度を880℃としたとき、長手方向の点C では740℃、冷却孔近傍の点Dでは710℃となっており、長手方向には約7℃/mm(平均)の温度勾配が存在する。このときの試験片の様子をFig.4 に示す。 3.2 冷却孔周囲からのき裂発生と進展挙動 冷却孔内面に発生したき裂のSEM画像をFig.5に示す。多くの場合、試験片内外表面の肉厚中心部付近からき裂発生・成長が見られたが、試験片内表面からき裂発生・成長が見られる場合もあった。また、き裂は1 つの冷却孔内に複数観察される場合もあり、き裂の合体も見られた。以上の様子を模擬的にFig.6 に示した。なお、本研究で扱ったき裂長さはFig.5 からわかるように、肉厚(2mm) 相当以下の長さの微小き裂である。 Fig.2 Specimen geometry. Fig.1 Illustration of a new testing system. Fig.3 Illustration of Thermo-mechanical fatigue. Cooling air Time /min Temp./℃ Load/N 2 1 1 Temperature at a controlled position External load Time /min Air capacity (NL/min) a) Temperature distribution b) Attachment Loading direction ABC D EF K-type thermo couples Attachment positionThermo Couples Cooling hole Fig.4 Temperature distribution on a) b) - 96 -本研究では、冷却孔内でのき裂発生から、貫通き裂に至るまでに注目し、観察を行った。Fig.7 に、サイクル数に対する代表的なき裂進展挙動を示す。き裂長さに対する試験片肉厚の影響を見るため、肉厚で無次元化したき裂長さに対する、き裂進展速度の変化も調べた。( Fig.8.) Fig.9 に試験終了後の破断試験片の写真と破面を示す。この試験片の場合、き裂はFig.6 中の冷却孔3-2 周囲のA 点近傍の内在欠陥を起点として発生し(Fig.10, 11)、そこから伝ぱし破断した(Fig.9). Fig10・11 上にはき裂のおおまかなビーチマークもみられるが、その形はほぼ円形であったことから、き裂の発生と伝ぱは円孔周囲の応力集中と鋳造欠陥という2 つの因子によって引き起こされたと言えるであろう。 本研究で得られたき裂進展速度を他の研究者の結果と比較して、Fig.12 に示す。ここで、本研究の結果に対する応力拡大係数範囲は次の一般式を用いた(Table.1 中のCase1 による評価)。 K F σ πa case ex = Δ 1 1 Δ ・・・(1) 式(1)中のΔσexは外負荷による応力範囲、 a はFig.5 の観察結果によるき裂長さであり、形状係数F1に1.12×2/π を用いた。Fig.12 中には比較のためにCMSX-4@900℃および700℃、CM247LC DS@750℃を共に示す(7),(8)。これより、一定温度の下で得られている他の研究者の結果に比べ、本実験で得られた進展速度は非常に速いことがわかる。 a) b) c) d) External loading axis Fig.5 Crack propagation around the cooling holes. (Crack A around the hole 3-2 in Fig.6.) a)3346cycles b)3986cycles c)4522cycles d)4692cycles Fig.9 Fracture surface. Area A Fig.6 Illustration of crack initiation sites (N=4712cycles). Loading axis 1-1 1-2 2019/02/012019/01/032-2 2-3 3-1 3-2 3-3 A Fig.8 Crack Propagation rate versus Normalized Crack length. 0.0000000010.000000010.00000010.0000010.000010 0.2 0.4 0.6 0.8 1 Crack propagation rate (m/cyces) Normalized Crack length b/t Crack A Crack B Fig.7 Crack length versus number of cycles (A in Fig.6). 00.511.522.50 1000 2000 3000 4000 5000 Crack length(2b)/×10-3m Number of cycle to failure(cycles) Crack A Crack B Coalescence between Crack A and B Crack reachs inner surface Crack reachs outer surface specimen thickness=2mm - 97 -本研究で得られたき裂進展速度を他の研究者の結果と比較して、Fig.12 に示す。ここで、本研究の結果に対する応力拡大係数範囲は次の一般式を用いた(Table.1 中のCase1 による評価)。 K F σ πa case ex = Δ 1 1 Δ ・・・(1) 式(1)中のΔσexは外負荷による応力範囲、 a はFig.5 の観察結果によるき裂長さであり、形状係数F1に1.12×2/π を用いた。Fig.12 中には比較のためにCMSX-4@900℃および700℃、CM247LC DS@750℃を共に示す(7),(8)。これより、一定温度の下で得られている他の研究者の結果に比べ、本実験で得られた進展速度は非常に速いことがわかる。 Table 1 Evaluation methods of ΔK. 3.4 温度分布により発生する熱応力の計算 試験片内の温度勾配によって生じる熱応力の影響 を検討するため、有限要素法による3 次元弾性熱応力解析を行った。計算には、有限要素解析プログラムANSYS14.0 を使用した。解析モデルには試験片の対称性を考慮して1/8 モデルを用いた。計算に用いた要素は四面体要素であり、節点数、要素数はそれぞれ26019、17228 とした。 Fig.13、14 に有限要素解析による温度分布、Z 方向の応力分布をそれぞれ示す。これよりZ 方向の熱応力σzz は円孔近傍で大きく、かつ、引張となっていることがわかる。換言すれば、本研究ではZ 軸方向の温度分布が熱応力の大小に最も大きい影響を及ぼしているようである。 Case Kt F1 σex σth(r) σth(r,z) Eq. Case1 None ○ ○ None None (1) Case2 ○ ○ ○ None None (2-1) Case3-1 ○ ○ ○ ○ None (3) Case3-2 ○ ○ ○ ○ ○ (4) (Evaluation in terms of ΔKcase1) Fig.12 Crack propagation rate versus stress intensity factor. 0.0000000010.000000010.00000010.0000010.000010.00015 50 Crack propagation rate (m/cycles) ΔKcase1(MPa√m) Crack A Crack B CMSX-4 900℃ CMSX-4 700℃ CM247LC DS 750℃ Okazaki,1994 [100] [100] Mukai,2012 10Fig.11 Crack initiating from a cast defect. Fig.14 Stress distribution of Z-direction in the present specimen. Fig.13 Calculation of temperature distribution in the present specimen. A in Fig.6 Fig.10Enlarged photo of the Area A in Fig8. - 98 -4.考察 Fig.12 で示したように本研究で測定されたき裂進展速度は、一定温度条件下の伝ぱ曲線に比べ顕著に加速側に位置していることがわかった。これには、円孔の存在による応力集中と、その周囲に発生している熱応力の寄与が大きいと推測される。これについて考察するため、式(1) によるΔK の評価方法を逐次変化させ(Table 1)、それによって変化する伝ぱ曲線の挙動に注目した。以下にその具体的結果を示す。まず、冷却孔部での応力集中の影響を考慮するため、次式の応力集中係数Kt を含む一般式を用いてΔK を評価した(Case2)。K K F a case t ex = Δσ π 2 1 Δ ・・・(2-1) ここで、Kt=2.6(一定)とした。Fig.16 に検討結果を示す。式(2-1)のF1の評価にあたっては、Fig.15 のモデルに従い式(2-2)を用いた(5)。(Fig.15 のモデルは貫通孔内部に半円き裂が存在する際の応力拡大係数について、孔による応力集中を考慮したモデルとなっている。) ・・・(2-2) つぎに、熱応力の影響を考慮するため、簡易的に外負荷による応力の代わりに、外負荷による応力と熱応力の和を用いる一般式(3)、(4)による評価を試みた(ΔKcase3-1、ΔKcase3-2)。 K KtF r πa case ex th zz = (Δ + Δ , ( )) 3-1 1 Δ σ σ ・・(3) K KtF r z πa case ex th zz = (Δ +Δ , ( , )) 3-2 1 Δ σ σ ・(4) 式(3)中のΔσthzz(r)は、r 方向の温度分布によるz 方向の熱応力(約27MPa)を、一方、式(4)中のΔσthzz(r、z)は、r 方向とz 方向の温度分布によって生じる熱応力(約68MPa) である。 式(3)、(4)によって評価したΔK に対してda/dN を 再整理した結果をFig.17、18 に示す。Fig.16~18 の相互比較より冷却孔周囲の熱応力と応力集中の効果を逐次考慮に入れることにより、本研究の結果は一定温度のda/dN 曲線に漸近することがわかる。換言すれば、上述の2 つの因子を力学的に考慮すれば、冷却孔周囲から発生・伝ぱするき裂の挙動を予測することができるものと思われる。 5.結言 (1)試験片内に温度勾配を強制的にもたせた上で冷却孔近傍から発生・伝ぱする疲労き裂の挙動を実験的に再現可能な新しい試験系を開発した。 (2)冷却孔周囲から発生したき裂の進展速度を外負荷のみ(Evaluation in terms of ΔKcase3-2) Fig.18 Crack propagation rate versus stress intensity factor. 0.0000000010.000000010.00000010.0000010.000010.00015 50 Crack propagation rate(m/cycles) ΔKcase3-2(MPa√m) Crack A Crack B CMSX-4 900℃ CMSX-4 700℃ CM247LC DS 750℃ [100] [100] Mukai,2012 Okazaki,1994 10(Evaluation in terms of ΔKcase3-1) Fig.17 Crack propagation rate versus stress intensity factor. 0.0000000010.000000010.00000010.0000010.000010.00015 50 Crack propagation rate(m/cycles) ΔKcase3-1(MPa√m) Crack A Crack B CMSX-4 900℃ CMSX-4 700℃ CM247LC DS 750℃ [100] [100] Mukai,2012 Okazaki,1994 10(Evaluation in terms of ΔKcase2) Fig.16 Crack propagation rate versus stress intensity factor. 0.0000000010.000000010.00000010.0000010.000010.00015 50 Crack propagation rate(m/cycles) ΔKcase2(MPa√m) Crack A Crack B CMSX-4 900℃ CMSX-4 700℃ CM247LC DS 750℃ [100] [100] Mukai,2012 Okazaki,1994 10θ Fig.15 Model geometry. - 99 -によって生じる公称応力を用いて疲労評価した応力拡大係数によって相関づけると、一定温度の下で得られたき裂伝ぱ速度よりも有意に大きな値を示すことが実験的に確かめられた。 (3)冷却孔近傍から発生・進展する疲労き裂の挙動は、冷却孔近傍の応力集中や温度勾配によって生じる熱応力を考慮しながら、従来のき裂進展特性の知見を適用すれば、概ね予測可能であると思われる。 参考文献 [1] H.Kazempour-Liacy et al, Engineering Failure Analysis, pp517-522, (2011) [2] P.Brauny et al,Materials Science and Technology,pp719-726, vol.1, no.1, (1985). [3] 出崎正人ら,ガスタービン翼冷却孔周りの稼働状況模擬試験機の試作と高温疲労損傷観察, (2010) [4] 岡崎ら,温度勾配下の熱機械的疲労試験機の試作と二三の観察, (2011), M&M2011 [5] 酒井高行ら,電力中央研究所報告,Q (04012), pp1~13, -2005[6] 村上敬宜ら編,Stress intensity factors hand book volume2, pp668~759,(1987),Pergamon Press. [7] M.Okazaki,Metallurgical and Materials Transaction pp1996-1021, volume 27A, (1994) [8] Y.Mukai,Superalloys 2012,pp 225-233,(2012), TMS. - 100 -
“ “冷却孔周辺からの熱疲労き裂の初期成長 “ “岡崎 正和,Masakazu OKAZAKI,関原 傑,Masaru SEKIHARA
一般に発電用プラントにおいては、熱機関の稼働温度を上昇させることにより高効率化が達成できるが、その一方で、強度を担う材料の強度は高温になるほど低下するため、二つの要素は競合関係になる。この工業的課題に対応するため主要高温部材に種々の冷却構造をもたせ、これら競合要素を両立させてきた構造部材・要素が多々ある。ガスタービンにおける冷却翼の採用はそのよい例であろう。近年におけるこれら構造要素の三次元的形状の複雑化と多機能化を鑑みると、複雑形状による応力集中効果と冷却構造に伴う部材内温度勾配に起因した熱応力とが重畳して、単純な条件下の破損からは予測し難い材料強度的特性や破損が生じることも予測される(1)。これまでにも、冷却構造を対象とした研究は多くなされてきたが(2)、一定温度の下での材料の高温強度特性に注目した研究がほとんどで、冷却部位周辺の局所的な破損挙動に焦点を当て、それを実験的に再現し、かつ、材料強度的特性を定量的に検討した例はごく限られている(3)~(5)。 本研究では、冷却構造を単純モデル化した形状の試験片を用い、試験片内に温度勾配をもたせたうえで、同時に起動・停止サイクルを想定した同位相型熱機械的疲労 負荷を重畳させることができる試験システムを試作した。この試験システムを用いて、Ni 基超合金製の冷却孔模擬試験片に対して実験を実施し、有限要素法による応力解析と合わせて、その破損挙動を力学的観点から考察することを目指した。
2. 再現試験システムの概要
2.1 再現試験システム
本研究では、構造部材の厚さ方向に温度勾配を持たせた上で、冷却機能を有する部位(本研究では冷却用の孔) の周囲の不均一温度分布を再現した状態で、熱機関の起動・停止サイクルを想定した熱機械的疲労負荷が可能な再現試験システムを試作した。再現試験システムの概略図をFig.1 に示す。本システムは、温度を制御する部分、外負荷を与える部分、冷却空気を注入する部分、試験データを収録する部分から構成される。 具体的には、高温入熱源として高周波誘導加熱装置を、冷却源として圧縮空気を用いた。試験片(後述)の厚さ方向に温度勾配を持たせ、その上で冷却孔周囲の不均一温度分布を再現できるようにするため、高周波誘導加熱装置で試験片を加熱しつつ、試験片に加工された冷却孔を通して冷却空気を吐出させる方式とした。このような状態を再現した上で、試験片に熱機械的疲労負荷を加えることができるよう、これら熱源システムと電気・油圧サ
ーボ疲労試験機とを組み合わせている。その際、温度波形と負荷波形を同期(同位相)させて与えている。同時に、圧縮空気の流量は流量計を用いて常時、計測した。 2.2 用いた試験片と試験条件・方法 本研究では、IN738LC 一方向凝固材(以降、DS 材と呼称する)を実験に供した。用いた試験片の形状をFig.2 に示す。中空円筒状の試験片の評点部中央には複数の貫通孔(直径2mm)が冷却孔として人工的に加工してあり、この孔を通じて前述の冷却空気が試験片内側から外側に吐出する。 本研究ではこの試験片に対して、Fig.3 に示すような同位相型の熱機械的疲労負荷を重畳させた。試験片の温度制御位置は、冷却孔から離れた部位(Fig.4 中の点F)とし、その最高温度は880℃、最低温度は300℃とした。熱サイクル中に重畳させた外負荷は、最大270MPa(880℃)、最小0MPa(300℃)の応力比0 の荷重制御型負荷とした。負荷の周期は、各部位の温度が定常的に変化するよう1/240Hz(0.25 cpm)とした。 Fig.2 に示す試験片に上述の熱機械的疲労負荷を繰り返し与え、一定の繰返し数ごとに試験を中断し、試験片外表面をレプリカ法によって、冷却孔内面は実体顕微鏡とSEMにより損傷の様子を定期的に観察した。 3.実験結果および考察 3.1 試験片中の温度勾配 試験片中の各部位の温度分布について、冷却空気を流した状態で計測した。計測した代表位置はFig.4 に示す6 カ所で、このうち温度制御は図中の点F としている。その結果点F の温度を880℃としたとき、長手方向の点C では740℃、冷却孔近傍の点Dでは710℃となっており、長手方向には約7℃/mm(平均)の温度勾配が存在する。このときの試験片の様子をFig.4 に示す。 3.2 冷却孔周囲からのき裂発生と進展挙動 冷却孔内面に発生したき裂のSEM画像をFig.5に示す。多くの場合、試験片内外表面の肉厚中心部付近からき裂発生・成長が見られたが、試験片内表面からき裂発生・成長が見られる場合もあった。また、き裂は1 つの冷却孔内に複数観察される場合もあり、き裂の合体も見られた。以上の様子を模擬的にFig.6 に示した。なお、本研究で扱ったき裂長さはFig.5 からわかるように、肉厚(2mm) 相当以下の長さの微小き裂である。 Fig.2 Specimen geometry. Fig.1 Illustration of a new testing system. Fig.3 Illustration of Thermo-mechanical fatigue. Cooling air Time /min Temp./℃ Load/N 2 1 1 Temperature at a controlled position External load Time /min Air capacity (NL/min) a) Temperature distribution b) Attachment Loading direction ABC D EF K-type thermo couples Attachment positionThermo Couples Cooling hole Fig.4 Temperature distribution on a) b) - 96 -本研究では、冷却孔内でのき裂発生から、貫通き裂に至るまでに注目し、観察を行った。Fig.7 に、サイクル数に対する代表的なき裂進展挙動を示す。き裂長さに対する試験片肉厚の影響を見るため、肉厚で無次元化したき裂長さに対する、き裂進展速度の変化も調べた。( Fig.8.) Fig.9 に試験終了後の破断試験片の写真と破面を示す。この試験片の場合、き裂はFig.6 中の冷却孔3-2 周囲のA 点近傍の内在欠陥を起点として発生し(Fig.10, 11)、そこから伝ぱし破断した(Fig.9). Fig10・11 上にはき裂のおおまかなビーチマークもみられるが、その形はほぼ円形であったことから、き裂の発生と伝ぱは円孔周囲の応力集中と鋳造欠陥という2 つの因子によって引き起こされたと言えるであろう。 本研究で得られたき裂進展速度を他の研究者の結果と比較して、Fig.12 に示す。ここで、本研究の結果に対する応力拡大係数範囲は次の一般式を用いた(Table.1 中のCase1 による評価)。 K F σ πa case ex = Δ 1 1 Δ ・・・(1) 式(1)中のΔσexは外負荷による応力範囲、 a はFig.5 の観察結果によるき裂長さであり、形状係数F1に1.12×2/π を用いた。Fig.12 中には比較のためにCMSX-4@900℃および700℃、CM247LC DS@750℃を共に示す(7),(8)。これより、一定温度の下で得られている他の研究者の結果に比べ、本実験で得られた進展速度は非常に速いことがわかる。 a) b) c) d) External loading axis Fig.5 Crack propagation around the cooling holes. (Crack A around the hole 3-2 in Fig.6.) a)3346cycles b)3986cycles c)4522cycles d)4692cycles Fig.9 Fracture surface. Area A Fig.6 Illustration of crack initiation sites (N=4712cycles). Loading axis 1-1 1-2 2019/02/012019/01/032-2 2-3 3-1 3-2 3-3 A Fig.8 Crack Propagation rate versus Normalized Crack length. 0.0000000010.000000010.00000010.0000010.000010 0.2 0.4 0.6 0.8 1 Crack propagation rate (m/cyces) Normalized Crack length b/t Crack A Crack B Fig.7 Crack length versus number of cycles (A in Fig.6). 00.511.522.50 1000 2000 3000 4000 5000 Crack length(2b)/×10-3m Number of cycle to failure(cycles) Crack A Crack B Coalescence between Crack A and B Crack reachs inner surface Crack reachs outer surface specimen thickness=2mm - 97 -本研究で得られたき裂進展速度を他の研究者の結果と比較して、Fig.12 に示す。ここで、本研究の結果に対する応力拡大係数範囲は次の一般式を用いた(Table.1 中のCase1 による評価)。 K F σ πa case ex = Δ 1 1 Δ ・・・(1) 式(1)中のΔσexは外負荷による応力範囲、 a はFig.5 の観察結果によるき裂長さであり、形状係数F1に1.12×2/π を用いた。Fig.12 中には比較のためにCMSX-4@900℃および700℃、CM247LC DS@750℃を共に示す(7),(8)。これより、一定温度の下で得られている他の研究者の結果に比べ、本実験で得られた進展速度は非常に速いことがわかる。 Table 1 Evaluation methods of ΔK. 3.4 温度分布により発生する熱応力の計算 試験片内の温度勾配によって生じる熱応力の影響 を検討するため、有限要素法による3 次元弾性熱応力解析を行った。計算には、有限要素解析プログラムANSYS14.0 を使用した。解析モデルには試験片の対称性を考慮して1/8 モデルを用いた。計算に用いた要素は四面体要素であり、節点数、要素数はそれぞれ26019、17228 とした。 Fig.13、14 に有限要素解析による温度分布、Z 方向の応力分布をそれぞれ示す。これよりZ 方向の熱応力σzz は円孔近傍で大きく、かつ、引張となっていることがわかる。換言すれば、本研究ではZ 軸方向の温度分布が熱応力の大小に最も大きい影響を及ぼしているようである。 Case Kt F1 σex σth(r) σth(r,z) Eq. Case1 None ○ ○ None None (1) Case2 ○ ○ ○ None None (2-1) Case3-1 ○ ○ ○ ○ None (3) Case3-2 ○ ○ ○ ○ ○ (4) (Evaluation in terms of ΔKcase1) Fig.12 Crack propagation rate versus stress intensity factor. 0.0000000010.000000010.00000010.0000010.000010.00015 50 Crack propagation rate (m/cycles) ΔKcase1(MPa√m) Crack A Crack B CMSX-4 900℃ CMSX-4 700℃ CM247LC DS 750℃ Okazaki,1994 [100] [100] Mukai,2012 10Fig.11 Crack initiating from a cast defect. Fig.14 Stress distribution of Z-direction in the present specimen. Fig.13 Calculation of temperature distribution in the present specimen. A in Fig.6 Fig.10Enlarged photo of the Area A in Fig8. - 98 -4.考察 Fig.12 で示したように本研究で測定されたき裂進展速度は、一定温度条件下の伝ぱ曲線に比べ顕著に加速側に位置していることがわかった。これには、円孔の存在による応力集中と、その周囲に発生している熱応力の寄与が大きいと推測される。これについて考察するため、式(1) によるΔK の評価方法を逐次変化させ(Table 1)、それによって変化する伝ぱ曲線の挙動に注目した。以下にその具体的結果を示す。まず、冷却孔部での応力集中の影響を考慮するため、次式の応力集中係数Kt を含む一般式を用いてΔK を評価した(Case2)。K K F a case t ex = Δσ π 2 1 Δ ・・・(2-1) ここで、Kt=2.6(一定)とした。Fig.16 に検討結果を示す。式(2-1)のF1の評価にあたっては、Fig.15 のモデルに従い式(2-2)を用いた(5)。(Fig.15 のモデルは貫通孔内部に半円き裂が存在する際の応力拡大係数について、孔による応力集中を考慮したモデルとなっている。) ・・・(2-2) つぎに、熱応力の影響を考慮するため、簡易的に外負荷による応力の代わりに、外負荷による応力と熱応力の和を用いる一般式(3)、(4)による評価を試みた(ΔKcase3-1、ΔKcase3-2)。 K KtF r πa case ex th zz = (Δ + Δ , ( )) 3-1 1 Δ σ σ ・・(3) K KtF r z πa case ex th zz = (Δ +Δ , ( , )) 3-2 1 Δ σ σ ・(4) 式(3)中のΔσthzz(r)は、r 方向の温度分布によるz 方向の熱応力(約27MPa)を、一方、式(4)中のΔσthzz(r、z)は、r 方向とz 方向の温度分布によって生じる熱応力(約68MPa) である。 式(3)、(4)によって評価したΔK に対してda/dN を 再整理した結果をFig.17、18 に示す。Fig.16~18 の相互比較より冷却孔周囲の熱応力と応力集中の効果を逐次考慮に入れることにより、本研究の結果は一定温度のda/dN 曲線に漸近することがわかる。換言すれば、上述の2 つの因子を力学的に考慮すれば、冷却孔周囲から発生・伝ぱするき裂の挙動を予測することができるものと思われる。 5.結言 (1)試験片内に温度勾配を強制的にもたせた上で冷却孔近傍から発生・伝ぱする疲労き裂の挙動を実験的に再現可能な新しい試験系を開発した。 (2)冷却孔周囲から発生したき裂の進展速度を外負荷のみ(Evaluation in terms of ΔKcase3-2) Fig.18 Crack propagation rate versus stress intensity factor. 0.0000000010.000000010.00000010.0000010.000010.00015 50 Crack propagation rate(m/cycles) ΔKcase3-2(MPa√m) Crack A Crack B CMSX-4 900℃ CMSX-4 700℃ CM247LC DS 750℃ [100] [100] Mukai,2012 Okazaki,1994 10(Evaluation in terms of ΔKcase3-1) Fig.17 Crack propagation rate versus stress intensity factor. 0.0000000010.000000010.00000010.0000010.000010.00015 50 Crack propagation rate(m/cycles) ΔKcase3-1(MPa√m) Crack A Crack B CMSX-4 900℃ CMSX-4 700℃ CM247LC DS 750℃ [100] [100] Mukai,2012 Okazaki,1994 10(Evaluation in terms of ΔKcase2) Fig.16 Crack propagation rate versus stress intensity factor. 0.0000000010.000000010.00000010.0000010.000010.00015 50 Crack propagation rate(m/cycles) ΔKcase2(MPa√m) Crack A Crack B CMSX-4 900℃ CMSX-4 700℃ CM247LC DS 750℃ [100] [100] Mukai,2012 Okazaki,1994 10θ Fig.15 Model geometry. - 99 -によって生じる公称応力を用いて疲労評価した応力拡大係数によって相関づけると、一定温度の下で得られたき裂伝ぱ速度よりも有意に大きな値を示すことが実験的に確かめられた。 (3)冷却孔近傍から発生・進展する疲労き裂の挙動は、冷却孔近傍の応力集中や温度勾配によって生じる熱応力を考慮しながら、従来のき裂進展特性の知見を適用すれば、概ね予測可能であると思われる。 参考文献 [1] H.Kazempour-Liacy et al, Engineering Failure Analysis, pp517-522, (2011) [2] P.Brauny et al,Materials Science and Technology,pp719-726, vol.1, no.1, (1985). [3] 出崎正人ら,ガスタービン翼冷却孔周りの稼働状況模擬試験機の試作と高温疲労損傷観察, (2010) [4] 岡崎ら,温度勾配下の熱機械的疲労試験機の試作と二三の観察, (2011), M&M2011 [5] 酒井高行ら,電力中央研究所報告,Q (04012), pp1~13, -2005[6] 村上敬宜ら編,Stress intensity factors hand book volume2, pp668~759,(1987),Pergamon Press. [7] M.Okazaki,Metallurgical and Materials Transaction pp1996-1021, volume 27A, (1994) [8] Y.Mukai,Superalloys 2012,pp 225-233,(2012), TMS. - 100 -
“ “冷却孔周辺からの熱疲労き裂の初期成長 “ “岡崎 正和,Masakazu OKAZAKI,関原 傑,Masaru SEKIHARA