自走式構内作業車に多用される蓄電池の電極部保護対策
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カテゴリ: 第13回
1.はじめに
大型原子力施設等の構内で多用される小型工事用車両 の一部には、簡易設置型の駆動用蓄電池を使用している機種がある。 自走式垂直昇降型構内作業車(以下、高所作業車とい う)を使用して保守点検を行った際に経験した電極部の発熱・焦げ痕事例、及びその原因調査と安全上のリスクを低減させるために実施した電極部の保護対策について報告する。(図1及び表1参照) 図1高所作業車の概念 表1高所作業車概略仕様と使用頻度 納入年月 2003 年9月 最大床高 5.8m 最大作業高 7.8m 製造国 米国製
使用期間 11 年7ヶ月(事例発生当時)
蓄電池 6V 220AH×4個 使用頻度 1~5日 / 月
屋内で高所作業車を使用して保守点検を行い、他の常設場所へ戻すために屋外(アスファルト舗装)を走行後、 車両点検を行った際に駆動用蓄電池の電極部カバーに焦げ痕を発見した。 備考 使用環境 屋内(雨天時以外では屋外も使用可) 点検頻度 ・定期自主検査(1 回 / 月) ・定期自主検査(1 回 / 月) ・作業開始前点検(使用前) ・特定自主検査(1回 / 年) 補修実績 2009 年蓄電池交換
2.事例紹介と推定原
屋外走行では、スロープ及びアスファルト舗装の継目 等の小さな段差が多くあり、ここを通過時の断続的な振 動が大きな影響を与えたと考えられた。 (図2,3参照) 屋外走行中の振動により電極部のナットに緩みが生じ、 端子間の隙間にアークが発生・発熱し、電極部カバーが 焦げたと推測された。
図3 蓄電池電極部カバー内部(ケーブル端子部) 3.要因分析とリスク低減措置 3.1 要因分析 機械的要因(ハード面)・作業手順(ソフト面)・人的 要因(ヒューマンエラー)・外的要因(作業環境)の項目 において要因分析を行い検証した結果、下記の項目を抽 出した。 (1) 機械的要因(ハード面) 1 構造上の問題を分析・検証した結果、ボルトの ネジ山がナットから出ていないことによる締付力 不足が要因として考えられた。また、蓄電池電極 部のケーブル端子固定に使用される平座金の使用 状況が、各電極部で使用枚数と取付位置に統一性 がない状態を確認した。 (図4,5参照) 図2 蓄電池電極部カバー焦げ痕 - 104 - 図4 蓄電池電極部ケーブル端子固定(平座金有り) 図6 蓄電池収納状態 3 タイヤの仕様については、クッション性能が低 いエアレスタイヤであることにより、振動が大き くなったと考えられた。 (図7参照) 図5 蓄電池電極部ケーブル端子固定(平座金無し) 2 当該高所作業車は、蓄電池自体が枠内への自重 設置型であり、ボルト等で固定されていないため、 振動の影響を受けやすい状態を確認した。 (図6参照) (他の高所作業車は、メーカ純正で蓄電池の固定対 策がされていた) 図7 エアレスタイヤ 4 操作機の性能については、ジョイスティックの 角度により変速するタイプであることから、操作 の仕方によっては急発進となって、振動が発生し うることを確認した。 (2) 作業手順(ソフト面) 点検手順の問題を分析・検証した結果、高所作業車 の作業開始前点記録表について、法的要求事項(安衛 則第194 条の7)を網羅しているものの、蓄電池電極 部の緩みまで確認できる内容では無かった。 ―安衛則第194 条の7〈作業開始前点検〉― 事業者は、高所作業車を用いて作業を行うときは、 その日の作業を開始する前に、制動装置、操作装置及 び作業装置の機能について点検を行わなければなら ない。 (3) 人的要因(ヒューマンエラー) ヒューマンエラー等の問題を分析したが、影響力の 大きい項目は無かった。 (4) 外的要因(作業環境) 作業環境の問題を分析・検証した結果、走行経路に は段差があり、自走時に断続的な振動が発生すること を確認した。 また構内にある全ての類似作業車の使用状況を確 認し、屋外を移動した実績は当該事例の車両のみであ ることを確認した。 3.2 リスク低減措置 要因分析の結果をもとにリスク低減装置を検討し、次 の通り実施した。 (1) 機械的要因(ハード面) 1 電極部のケーブル端子固定について締付方法を 統一し、蓄電池電極部 → ケーブル端子 → ばね 座金 → ナットの締付け順として、ボルト上部の ネジ山が固定用ナットから1山以上出るように固 定した。 合いマーク - 105 - A B C A B C 図8 電極部ケーブル端子固定状況 2 蓄電池については、振動による影響で、ケーブ ル端子固定部の緩みを防止するため、蓄電池自体 を蓄電池収納箱へ固定した。尚、蓄電池固定につ いては、納入会社の見解を確認した上で実施した。 (図9,10,11参照) (納入会社見解:使用者側で固定することは、特 段問題無い) 図10 固定図拡大(A・B・C) また蓄電池の個体差よる電極部のボルト長さの 変化は、平座金を追加することにより吸収した。 (図8参照) (納入会社見解:ケーブル端子 → ばね座金 → ナ ットの順で問題無い) 図9 蓄電池固定図 図11 蓄電池固定状況 3 クッション性能が低いエアレスタイヤ、また急 発進により振動を拡大させる走行性能について は、仕様変更等をせず、振動の影響を考慮した 操作方法の必要性を使用者へ注意喚起・教育す ることで抑制することとした。 4 機械的要因のリスク低減措置後、約1000m の 屋外アスファルト舗装路面を走行することで、 新たな固定方法の検証を行ったが蓄電池の電極 ケーブル端子固定部の緩みは発生しなかった。 また、蓄電池本体のずれもなかった。 (2) 作業手順(ソフト面) 作業開始前点記録表に蓄電池電極部ケーブル端子 の緩み確認項目と方法を記載した。また、当社で実施 している、高所作業車の月例・年次点検作業の作業手 順については、わずかな緩みでも発見できるように詳 細点検方法を記載した。(図12参照) (4)蓄電池電極部、ケーブル端子固定箇所の合いマークで、 緩み(ずれ)が無いか目視確認する。 (5)蓄電池電極部のケーブル端子固定箇所に隙間が無いか 目視確認する。 ※プラス電極部に隙間を確認した場合は、増締め前に必ず マイナス電極部を外し、電極部の絶縁処理を行う。 (6)蓄電池電極部の緩み確認は工具を使用して締め方向へ 回して確認する。 ※増締めを実施した場合、品質記録の備考欄に締めた回転 数を記載すること。(例:1/5回転) (7)(5)でマイナス電極部を外した場合、復旧する。 図12 作業手順書抜粋 A B C 本事例内容および対策、手順書への反映事項等を関 係者へ周知教育を実施したほか、新規作業者への入所 時教育及び作業着手前の手順書読合せなどで繰り返 し教育を実施することで、本事象の発生リスク低減を 図った。 (4) 外的要因(作業環境) 走行経路に段差がある場所で使用する際は、段差に 養生を行い、振動を低減させることとし、注意喚起表 示を本体へ掲示し周知した。 4.まとめ 本事例は、最悪の場合には蓄電池が発火源となる可能 性があった。 今回は、被害が最小限に留まったこともあり、現存す る物的証拠より要因分析を的確に実施することが出来た。 要因分析後のリスク低減措置については、安全面・コ スト・労力面も考慮し、最善の対策を実施することがで きたと考える。 リスク低減措置以降の効果としては、同様・類似事例 の発生は起きていない。 本事例のみならず、軽微なインシデントであったとし ても、適格な要因分析と速やかにリスク低減措置を実施 することにより、事故・災害を未然に防ぐ手段として取 組んでいく所存である。 - 106 - (3) 人的要因(ヒューマンエラー)“ “自走式構内作業車に多用される蓄電池の電極部保護対策 “ “金濱 勝宏,Katsuhiro KANEHAMA,米内口 和也,Kazuya YONAIGUCHI,小菅 英昭,Hideaki KOSUGE
大型原子力施設等の構内で多用される小型工事用車両 の一部には、簡易設置型の駆動用蓄電池を使用している機種がある。 自走式垂直昇降型構内作業車(以下、高所作業車とい う)を使用して保守点検を行った際に経験した電極部の発熱・焦げ痕事例、及びその原因調査と安全上のリスクを低減させるために実施した電極部の保護対策について報告する。(図1及び表1参照) 図1高所作業車の概念 表1高所作業車概略仕様と使用頻度 納入年月 2003 年9月 最大床高 5.8m 最大作業高 7.8m 製造国 米国製
使用期間 11 年7ヶ月(事例発生当時)
蓄電池 6V 220AH×4個 使用頻度 1~5日 / 月
屋内で高所作業車を使用して保守点検を行い、他の常設場所へ戻すために屋外(アスファルト舗装)を走行後、 車両点検を行った際に駆動用蓄電池の電極部カバーに焦げ痕を発見した。 備考 使用環境 屋内(雨天時以外では屋外も使用可) 点検頻度 ・定期自主検査(1 回 / 月) ・定期自主検査(1 回 / 月) ・作業開始前点検(使用前) ・特定自主検査(1回 / 年) 補修実績 2009 年蓄電池交換
2.事例紹介と推定原
屋外走行では、スロープ及びアスファルト舗装の継目 等の小さな段差が多くあり、ここを通過時の断続的な振 動が大きな影響を与えたと考えられた。 (図2,3参照) 屋外走行中の振動により電極部のナットに緩みが生じ、 端子間の隙間にアークが発生・発熱し、電極部カバーが 焦げたと推測された。
図3 蓄電池電極部カバー内部(ケーブル端子部) 3.要因分析とリスク低減措置 3.1 要因分析 機械的要因(ハード面)・作業手順(ソフト面)・人的 要因(ヒューマンエラー)・外的要因(作業環境)の項目 において要因分析を行い検証した結果、下記の項目を抽 出した。 (1) 機械的要因(ハード面) 1 構造上の問題を分析・検証した結果、ボルトの ネジ山がナットから出ていないことによる締付力 不足が要因として考えられた。また、蓄電池電極 部のケーブル端子固定に使用される平座金の使用 状況が、各電極部で使用枚数と取付位置に統一性 がない状態を確認した。 (図4,5参照) 図2 蓄電池電極部カバー焦げ痕 - 104 - 図4 蓄電池電極部ケーブル端子固定(平座金有り) 図6 蓄電池収納状態 3 タイヤの仕様については、クッション性能が低 いエアレスタイヤであることにより、振動が大き くなったと考えられた。 (図7参照) 図5 蓄電池電極部ケーブル端子固定(平座金無し) 2 当該高所作業車は、蓄電池自体が枠内への自重 設置型であり、ボルト等で固定されていないため、 振動の影響を受けやすい状態を確認した。 (図6参照) (他の高所作業車は、メーカ純正で蓄電池の固定対 策がされていた) 図7 エアレスタイヤ 4 操作機の性能については、ジョイスティックの 角度により変速するタイプであることから、操作 の仕方によっては急発進となって、振動が発生し うることを確認した。 (2) 作業手順(ソフト面) 点検手順の問題を分析・検証した結果、高所作業車 の作業開始前点記録表について、法的要求事項(安衛 則第194 条の7)を網羅しているものの、蓄電池電極 部の緩みまで確認できる内容では無かった。 ―安衛則第194 条の7〈作業開始前点検〉― 事業者は、高所作業車を用いて作業を行うときは、 その日の作業を開始する前に、制動装置、操作装置及 び作業装置の機能について点検を行わなければなら ない。 (3) 人的要因(ヒューマンエラー) ヒューマンエラー等の問題を分析したが、影響力の 大きい項目は無かった。 (4) 外的要因(作業環境) 作業環境の問題を分析・検証した結果、走行経路に は段差があり、自走時に断続的な振動が発生すること を確認した。 また構内にある全ての類似作業車の使用状況を確 認し、屋外を移動した実績は当該事例の車両のみであ ることを確認した。 3.2 リスク低減措置 要因分析の結果をもとにリスク低減装置を検討し、次 の通り実施した。 (1) 機械的要因(ハード面) 1 電極部のケーブル端子固定について締付方法を 統一し、蓄電池電極部 → ケーブル端子 → ばね 座金 → ナットの締付け順として、ボルト上部の ネジ山が固定用ナットから1山以上出るように固 定した。 合いマーク - 105 - A B C A B C 図8 電極部ケーブル端子固定状況 2 蓄電池については、振動による影響で、ケーブ ル端子固定部の緩みを防止するため、蓄電池自体 を蓄電池収納箱へ固定した。尚、蓄電池固定につ いては、納入会社の見解を確認した上で実施した。 (図9,10,11参照) (納入会社見解:使用者側で固定することは、特 段問題無い) 図10 固定図拡大(A・B・C) また蓄電池の個体差よる電極部のボルト長さの 変化は、平座金を追加することにより吸収した。 (図8参照) (納入会社見解:ケーブル端子 → ばね座金 → ナ ットの順で問題無い) 図9 蓄電池固定図 図11 蓄電池固定状況 3 クッション性能が低いエアレスタイヤ、また急 発進により振動を拡大させる走行性能について は、仕様変更等をせず、振動の影響を考慮した 操作方法の必要性を使用者へ注意喚起・教育す ることで抑制することとした。 4 機械的要因のリスク低減措置後、約1000m の 屋外アスファルト舗装路面を走行することで、 新たな固定方法の検証を行ったが蓄電池の電極 ケーブル端子固定部の緩みは発生しなかった。 また、蓄電池本体のずれもなかった。 (2) 作業手順(ソフト面) 作業開始前点記録表に蓄電池電極部ケーブル端子 の緩み確認項目と方法を記載した。また、当社で実施 している、高所作業車の月例・年次点検作業の作業手 順については、わずかな緩みでも発見できるように詳 細点検方法を記載した。(図12参照) (4)蓄電池電極部、ケーブル端子固定箇所の合いマークで、 緩み(ずれ)が無いか目視確認する。 (5)蓄電池電極部のケーブル端子固定箇所に隙間が無いか 目視確認する。 ※プラス電極部に隙間を確認した場合は、増締め前に必ず マイナス電極部を外し、電極部の絶縁処理を行う。 (6)蓄電池電極部の緩み確認は工具を使用して締め方向へ 回して確認する。 ※増締めを実施した場合、品質記録の備考欄に締めた回転 数を記載すること。(例:1/5回転) (7)(5)でマイナス電極部を外した場合、復旧する。 図12 作業手順書抜粋 A B C 本事例内容および対策、手順書への反映事項等を関 係者へ周知教育を実施したほか、新規作業者への入所 時教育及び作業着手前の手順書読合せなどで繰り返 し教育を実施することで、本事象の発生リスク低減を 図った。 (4) 外的要因(作業環境) 走行経路に段差がある場所で使用する際は、段差に 養生を行い、振動を低減させることとし、注意喚起表 示を本体へ掲示し周知した。 4.まとめ 本事例は、最悪の場合には蓄電池が発火源となる可能 性があった。 今回は、被害が最小限に留まったこともあり、現存す る物的証拠より要因分析を的確に実施することが出来た。 要因分析後のリスク低減措置については、安全面・コ スト・労力面も考慮し、最善の対策を実施することがで きたと考える。 リスク低減措置以降の効果としては、同様・類似事例 の発生は起きていない。 本事例のみならず、軽微なインシデントであったとし ても、適格な要因分析と速やかにリスク低減措置を実施 することにより、事故・災害を未然に防ぐ手段として取 組んでいく所存である。 - 106 - (3) 人的要因(ヒューマンエラー)“ “自走式構内作業車に多用される蓄電池の電極部保護対策 “ “金濱 勝宏,Katsuhiro KANEHAMA,米内口 和也,Kazuya YONAIGUCHI,小菅 英昭,Hideaki KOSUGE