レーザ熱加工による保全ロボットの開発と展開

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カテゴリ: 第13回
1.緒言
平成 23 年3 月 11 日の東日本地震と福島原発事故を境 にして、今後は再稼動する高経年化原子力発電プラント とって保守保全技術の一層の高度化が必要である。一方、 再稼動に必要な規制基準に対応するために必要な費用対効果の観点から、廃止措置となる原子炉も多く現れる。 対策すべき項目の最上位にあるものが配管内部の減肉現象である[1]。 冷却水中で高温となる伝熱管の内壁は酸化被膜に覆われている。運転に伴う伝熱管内の高温水の流動と伝熱管の振動により、内壁の酸化膜の剥離が生じる。プラントの起動と停止の際の大きな温度変化は伝熱管に膨張と収縮を引き起こし、伝熱管接合部に溶接割れを生じさせる。 次世代高速炉の伝熱管の内壁の検査補修を行う新たな方法として、渦電流探傷(ECT)検査と光ファイバ観察及びレーザ溶接の3つの技術を組み合わせたプローブ開発に成功した。本技術は軽水炉の熱交換器伝熱管にも有効である。さらにパルスレーザによる加熱溶融とワイヤ供給機構を付加することで、流れ加速腐食により減肉する エチレンプラント熱交換器伝熱管の内壁の肉盛補修にも役立つ[2]。レーザ熱加工技術を大面積への適用を行うにはロボット技術との本格的な組み合わせが必要となる。 本報では、レーザ熱加工を活用したこれらの保守保全のためのロボット技術との融合について述べる。
2.レーザを搭載した保全装置の開発
2.1 伝熱管内壁検査 平成 19~21 年にかけて原子力システム研究開発事業に て研究開発テーマとして採用された。観察用光ファイバ スコープと溶接用レーザ光の両方の中心を合わせること で同軸伝送を可能とした複合型光ファイバを採用した。 これは ITER ブランケット交換のための特殊光ファイバ であり、今回、この光ファイバを用いた観察用スコープ を高速炉保全に初めて適用した。1インチ伝熱管内壁の欠 陥の発見にはECTを使用した。ECTによる割れの発見と 併せて、ファイバスコープにより割れの程度を目視で確 認できる。この割れに対してレーザ溶接を用いて溶融す る。溶接用レーザには連続出力300W の空冷Yb ファイバ レーザを採用した。複合型光ファイバスコープを軸とし て、ECT用の検知コイルを複数配置した中空構造のECT 部分がある。これはマルチプレクサにより切り替え接続 とすることで接続のための信号線数を減じる工夫をした。 以上のように、1インチ伝熱管の内壁に発生する割れ をECTで発見し、ファイバスコープにより目視で確認後、 その場で溶接補修するというコンセプトをひとつの保守 保全ツールとして製作した。完成した装置は直ちに、原 子力機構白木地区にある ISI 棟において実証試験を行っ た。ISI棟はもんじゅの保守保全のためのロボット機器を 開発するために建設された施設であり、もんじゅのヘリ カル型伝熱管の熱交換機を模擬した既設の試験設備を転 用し、直管型の次世代FBR熱交換器の試験を成功させた。 2.2 伝熱管内壁肉盛補修 平成 23~25 年の 3 年間は、開発成果の新たな応用例と してエチレンプラントの熱交換器伝熱管の補修装置とし 連絡先:西村昭彦、〒914-8585 福井県敦賀市木崎 65-20、日本原子力研究開発機構敦賀事業本部レーザ ー共同研究所、E-mail nishimura.akihiko@jaea.go.jp - 113 - ての開発に注力した。高温のエチレンガス流にはエチレ ンが分解して生成する炭素微粒子が含まれる。多管型熱 交換器の場合、大直径の胴部から小直径の伝熱管にガス が流入する際に、伝熱管の入り口付近(~10cm)の内壁 に渦が発生し渦中の炭素粒子と内壁表面の衝突によって 腐食が生じる。腐食を放置すれば内壁に穴が空き高温の エチレンガスが冷却水側に噴出し水蒸気爆発を起こす。 発生した圧力波は周囲の伝熱管にも損傷を与える。 減肉部分を充填する材料の供給方法として、ワイヤ法 と微粒子法の2種類を検討した。伝熱管が垂直に設置さ れていること及び1インチ径と狭隘なことから、微粒子 供給ではなくワイヤ法を採用した。試作機では回転ロー ラによりワイヤを挟み、パルスモータ駆動により一定速 度で送り出した。ワイヤはガイドパイプを通じてレーザ 加工ヘッド先端に導いた。 肉盛り補修すべき内壁箇所に供給したワイヤが接触し、 且つ、レーザ照射により内壁とワイヤの両方が溶融状態 となれば、溶融部分は一体化する。肉盛り箇所とワイヤ 先端が接触した状態を確保してレーザで加熱する。この 際に重要なのは、配管内壁は大きな熱容量を持つのに対 してワイヤの熱容量が僅かである点である。ワイヤは容 易に融点に達し表面張力で溶融し溶融滴となる。配管内 壁が融点に達していないと溶融滴は表面と一体化しない。 また、溶融したスポットから発生するヒュームは光学 部品表面を汚染する主要因である。内壁をレーザ照射す るためにはレーザ光の方向をレーザ加工ヘッドの中心軸 から90度変える必要がある。このためレーザ加工ヘッド 先端にはミラーを設けることになる。このミラーがヒュ ームで汚染し反射率が低下する問題がある。ミラーは熱 伝導に優れた銅製のベースに誘電多層膜を蒸着すること で製作した。ヒュームが誘電多層膜に付着すると、反射 率が低下し発熱する。ヒュームと誘電多層膜が固着しミ ラーの温度が上がり、熱膨張により設計された誘電多層 膜の膜厚は変化して反射率は更に下がる。このような負 のスパイラルにより最終的にミラーの破壊となった。 2.3 実機対応補修装置 前述した幾つかの問題点を克服し実稼動のプラント現 場で使用できるレーザ補修装置を目的として、中小企業 庁の支援を受けて開発を進めた[4,5]。Fig.1 にレーザ加工 ヘッドの改良型を示す。これは1インチ伝熱管内部に挿 入した様子である。ヘッドの昇降と回転の駆動機構につ いて、ロボット工学の観点から設計を刷新した。 Laser Cladding Position Laser Processing Head Fig.1 Laser processing head in a cut view of 1-inch heat exchanger tube. プラントの熱交換器の保守には幅 60cm 程度の保守点 検用階段を通過して機器を熱交換器の下部ヘッダまで搬 入する必要がある。このため、先ずシステムをレーザ本 体、制御装置、レーザ加工ヘッド駆動機構のそれぞれを 分割して小型化した。 3.まとめと展開 レーザ熱加工技術をプラントの保守保全に役立てるた め、現在、ロボット技術との融合を進めている。また、 廃止措置に関する技術開発においては、融合は更に一歩 進んでいる。ファイバレーザ、距離計測、吸引集塵及び クローラ機構の組み合わせにより、ホットで汚染した鋼 材表面の線量を検出限界程度に低下させる段階にある[6]。 講演ではこれまでの開発経緯と今後の福島原子力発電 所廃止措置に有用な技術課題について報告する。 参考文献 [1]原子力規制委員会 HP より、高経年化対策概要、 https://www.nsr.go.jp/activity/regulation/reactor/unten/unten3_1 .html. [2]寺田隆哉ほか、保全学 13(4), 87-94, 2015-01. [3]原子力システム研究開発事業平成 22 年度成果報告 会、西村昭彦、レーザー加工技術の組み合わせによる FBR熱交換器伝熱管内壁検査技術の高度化に関する 技術開発、http://www.jst.go.jp/nrd/result/h22/p10.html. [4]平成25年度 中小企業・小規模事業者ものづくり・商 業・サービス革新事業「プラント設備における配管補修 ロボットの試作開発」. [5]西條慎吾ほか、日本原子力学会春の年会、3D03. [6]E. J. Minehara and R. Yamagishi, “Technologies of Laser Decontamination and Robotics for Nuclear Reactor Decommissioning”,OPIC-LSSE2016, 9-5. 1-inch Heat Exchanger Tube Wall Filler Wire Guide Pipe Filler Wire Guide Pipe Shield Gas Pipe Shield Gas Pipe - 114 -“ “レーザ熱加工による保全ロボットの開発と展開“ “西村 昭彦,Akihiko NISHIMURA,竹仲 佑介,Yusuke TAKENAKA,岡 潔,Kiyoshi OKA,外山 亮治,Ryoji TOYAMA,寺田 隆哉,Takaya TERADA,峰原 英介,Eisuke MINEHARA
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