超音波探傷試験技術者に対する教育・訓練の有効性検討

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カテゴリ: 第13回
1.緒言
わが国の原子力発電プラントの供用期間中検査 (ISI:In-Service Inspection)における超音波探傷試験(UT:Ultrasonic Testing)は、ISI の UT規程である日本電気協会電気技術規程 JEAC4207「軽 水型原子力発電所用機器の供用期間中検査における 超音波探傷試験規程」[1]に従って実施している。この規程には、検査員(試験評価員及び試験員)に対して ISIにおいてUTを実施するための教育・訓練 及びUT検査員としての経験について要求しているものの、具体的にどのような内容の教育・訓練が必要かは明記されていない。そのため、各検査会社では、独自に作成した教育・訓練プログラムを用いて、検査員に対して教育・訓練を行い、探傷(欠陥検出) に関する技量の習得・維持に努めている。これらの運用については、現状、問題が生じていないものの、UT検査員の探傷技量の維持・向上を継続的に確保するために、透明性及び客観性のある制度の構築が 要望されている。このように、検査員に対する教育・訓練の重要性は認識されているものの、これらの調査、研究については、過去に、欠陥検出性に及ぼす時間経過の影響に関する調査等[2][3]が報告されている程度で、検査員に対する教育・訓練の効果を定量的に評価した報告はない。 そこで、著者らは、オーステナイト系ステンレス鋼(以下、ステンレス鋼)配管溶接継手試験体を用いてUTによる欠陥検出性試験を行い、試験員の探傷技量の向上に及ぼす教育・訓練の効果について検討した。その結果、教育・訓練後に欠陥検出性が大幅に改善されたことから、試験員の探傷技量向上に教育・訓練が有効であることを明らかにした[4]。 このような背景から、ISI の UTを実施する検査員に対して、探傷技量の習得・維持・向上を目指した、UT教育・訓練制度の構築に向けた検討を進めている。 本報告では、上記で述べた「試験員に対する教育・ 訓練の有効性」に関する検討結果の概要を示すとと もに、現在検討中のUT 教育・訓練制度の概要について紹介する。
試験員は、教育前後で各々8 2.教育・訓練効果の概要 体程度の試験体を探 傷した。試験体は、試験員に探傷終了後に 1 体ずつ わが国の ISI において、例えば、ステンレス鋼配 支給し、試験体の後戻り探傷は行わないこと、また、 管の突合せ溶接継手の UT については、対象継手の 同一の試験体の繰返し探傷による結果への影響を排 多さ、アクセス性等の観点から、一般に手動 UT が 除するため、教育前後で同一試験体の探傷は行わな 行われ、一人の試験員が、探傷から記録作成までの いこととした。 作業を行っている。これらの作業において、試験員 中間段階での教育では、ステンレス鋼配管の突合 には、検出したエコーから欠陥エコーを確実に検出 せ溶接継手試験体の超音波特性、想定欠陥(SCC 亀 することが求められ、さらに形状エコー等欠陥以外 裂)の形態、配管の溶接継手の探傷で検出されるエ のエコーについても、エコーの反射源を特定し、分 コー源の種類、欠陥検出の着眼点および注意点等の 類するための技量が求められている。そのため、試 説明を行った。 験員個人の技量が探傷結果に大きく影響する。 このような状況から、著者ら[4]は、ステンレス鋼 (600~700) 350A 配管の突合せ溶接継手試験体を用いた手動 UT によ (t25) る欠陥検出性試験を行い、その中間段階で実施した 試験員に対する教育(対象継手の探傷手法、検出エ 0 deg コーの反射源を分類するための要点等)前後の探傷 結果から、欠陥検出性、検出エコーのエコー高さ等 について分析し、評価を行った。 以下に、これらの結果の概要を示す。 用いた試験体は、口径 350A、板厚 25mm の配管 Fig.1 Configuration and dimension of austenitic 状及び短冊状のステンレス鋼配管の突合せ溶接継手 stainless steel piping welds specimen 試験体で、その形状・寸法を Fig.1 に示す。これら (350A, t25) [4] の試験体は、欠陥付与試験体(SCC 亀裂及び EDM ノッチ)及び無欠陥試験体である。 欠陥検出性試験における教育前後の分析結果の一 用いた装置は、汎用のデジタル超音波探傷器(型 例を Fig.2 に示す。図は、全探傷試験体(欠陥付与 式:UI-25)及び振動子寸法 10×10mm、周波数 2MHz 試験体および無欠陥試験体)のデータを対象に、教 の横波斜角超音波探触子(公称屈折角:45°)で、ISI 育前後の正答率、欠陥の見逃し率及び欠陥の誤検出 の UT で使用しているものと同様の機材である。 率の変化を調べた結果である。ここで、正答率、欠 試験員は、UT レベル 2 を保持している 14 名で、 陥の見逃し率及び誤検出率は、以下のように定義し 年齢構成は 20~30 代が 11 名、資格保持期間 3 年以 た。 下が 11 名であった。また、斜角探傷の経験者が 5 ・正答率:対象探傷部位(欠陥付与部位+無欠陥部 名、未経験者が 9 名で、その多くが探傷経験の比較 位)において、対象件数(全指示数+無 的浅い試験員とした。これは、技量の高い熟練試験 欠陥部位数)に対する正答数(欠陥を欠 員より、探傷経験の浅い試験員の方が、教育・訓練 陥と評価した指示数+無欠陥部位を無欠 の効果が顕著に現れると考えたためである。なお、 陥と評価した数)の比率(TCP:True Call 試験前に、試験員が基本的な探傷技量を有している Probability) ことの確認を行った。 ・欠陥の見逃し率:対象件数に対する欠陥の見逃し 試験手順は以下とし、試験員は、試験体を用いて 数(欠陥エコーを欠陥以外のエコーと判 探傷し、探傷記録の作成を行った。 定した数+欠陥の未検出数)の比率 1 試験員に対する指示書の説明 (MCP:Miss Call Probability) 2 教育前の探傷(記録作成を含む) ・欠陥の誤検出率:対象件数に対する欠陥の誤検出 3 中間段階での教育 数(欠陥以外のエコーを欠陥エコーと判 4 教育後の探傷(記録作成を含む) 定した数)の比率(FCP:False Call 5 試験結果の分析・評価 Probability) - 14 - (-) (+)(400) 350A Side B Side A (-) (+)(t25) 30 deg Side BSide A X Y (0,0) Weld Line (100) XFlow Flow Y Specimen No. (0,0) Specimen No. Weld Line (a) Piping specimen (b) Partial piping specimen 験員に対する教育の効果が顕著に認められたと言え Fig.2 より、教育前後の結果をみると、正答率は、 57%から 78%と大幅に向上し、それに伴って、見逃 る。一方、欠陥の見逃し率及び誤検出率の要因分析 し率及び誤検出率はともに半減する結果であった。 から、欠陥エコーと裏波部エコーの識別性向上、及 ステンレス鋼配管溶接継手の探傷で検出される代 び欠陥の未検出の低減が改善項目であった。 表的なエコーは、Fig.3 に示すように、欠陥エコーの なお、本試験に参加した試験員は、探傷経験が比 他に、裏波部エコー、柱状晶伝搬エコー等のエコー 較的浅かったこと、中間段階で実施した教育・訓練 がある。ここで、欠陥の見逃し及び誤検出の要因に は、主に座学による知識習得であったことなどから、 ついて調べた。欠陥見逃し時の誤判定エコーの要因 このような結果が示されたものと考えられる。 を、Fig.4 に示す。図には、欠陥エコーを欠陥以外の また、試験員個人の技量に差が生じる結果も示さ エコー(裏波部エコー、内表面エコー、境界面エコ れ(本稿では、図は未掲載)、個人の技量レベルに応 ー等)と誤判定したエコー及び欠陥の未検出の件数 じた訓練を繰返し実施することの重要性も示された。 を、教育の前後で並べて示す。誤判定エコーは、教 育後に全般的に減少したが、裏波部エコーの件数が 30Before education (44 calls) 7 件あった。また、欠陥の未検出数は、教育後に若 25After education (25 calls) 干増加し 13 件で、裏波部エコーと合わせると 20 件 20となり、見逃し数全体(25 件)の 80%を占めた。 15次に、欠陥の誤検出エコーの要因をFig.5に示す。 10欠陥以外のエコー(裏波部エコー、柱状晶伝搬エコ 5ー及び表面エコー)を欠陥エコーと誤検出した件数 0は、教育後に半減したが、裏波部エコーが 16 件と全 Root ID surface Interface Back Counter un- surface bore detectable 体(205 件)の 8%程度であった。 Fig.4 Distribution of miss call in all specimen [4] 上記の結果から、教育後に正答率は向上し、欠陥 の見逃し率および誤検出率が減少したことから、試 302520151050Root Dendritic OD Surface 3.UT 教育・訓練制度 3.1 制度の概要 UT 検査員の技量の維持・向上には、上記で述べ たように、試験員に対する教育・訓練の有効性が示 されたことから、ISI における検査員の探傷技量の 習得及び維持を目的とした、教育・訓練制度につい て、以下の考え方をもとに検討することとした。 1 透明性、客観性、公正性を確保した制度とする。 2 現行の UT 規程(JEAC 4207)に基づく手順書 を用いた探傷を前提とする。 Fig.3 Typical detected echoes in austenitic stainless steel piping welds 3 対象機器は、ステンレス鋼配管溶接継手を優先 して検討する。 Before education (42 calls) After education (21 calls) 100 21 % 80 0.112 % 6040200Before education (199 calls) FCP MCP 0.22TCP Fig.2 TCP, MCP and FCP in flawed and unflawed specimen [4] 78 % 57 % Fig.5 Distribution of false call in all specimen [4] After education (205 calls) 4 3 2 1 5 Root Crack Counter bore 1 Crack echo 4 Weld metal echo 2 Root echo 5 Counter bore echo 3 Dendritic echo Probe Weld metal Base metal Ultrasonic beam - 15 - 切に実施できるかを評価するため、「検査員に対する 4 訓練内容は、UT に関する知識及び探傷技量の 習得(技量習得)とその確認(技量確認)で構 訓練の試運用」を行い、訓練内容の妥当性の評価及 成する。 び課題の抽出を行った。 5 技量確認では、海外の方法(特に、米国の PD 制 試運用の概要を、Fig.7 に示す。図より、対象機器 度)と比較して遜色の無い達成度を設けた内容と はステンレス鋼配管溶接継手とし、試験員、試験評 する。 価員及び訓練指導員に対する訓練を実施した。ここ で、各訓練の受講者は、原子力プラントメーカの協 上記の考え方をもとに検討した UT 教育・訓練制 力を得て、実機の ISI で UT 検査員としての経験を 度(案)の枠組みを Fig.6 に示す。本制度では、透 有する者とした。試験員訓練では、ISI における UT 明性及び客観性を確保するため、中立訓練機関(第 に関する知識及び試験体を用いた実技による探傷技 三者機関)を設置することとする。中立訓練機関で 量の習得を行い、その後、技量確認を行うこととし、 は、訓練プログラム、訓練用教材(試験体、探傷機 訓練日数は 5 日間とした。次に試験評価員訓練では、 材、標準手順書等)等を整備し、本制度の管理・運 検出エコーの反射源の特定、探傷記録の承認等に関 営を行うものとする。また、訓練対象者は、試験員 する知識及び評価演習による技量習得を行い、その 及び試験評価員に加えて、試験員及び試験評価員に 後、技量確認を行うこととし、訓練日数は 3 日間と 対して定期的に訓練を行う訓練指導員とし、それぞ した。さらに、訓練指導員訓練では、試験員及び試 れの業務内容に関する訓練を行うこととする。なお、 験評価員の技量維持を目的に定期的に訓練するとき 訓練内容は、UT に関する知識と試験体を用いた実 の指導方法に関する技量習得を行い、その後、技量 技による探傷技量の習得(技量習得)とし、技量確 確認を行うこととし、訓練日数は 2 日間とした。 認では、達成基準を満足した訓練対象者を認定する 上記の訓練内容に基づいて試運用を行った。その こととする。ここでの訓練は認定訓練とし、有効期 結果、各訓練において、すべての受講者は、業務を 間が満了した検査員は、更新訓練を受講することで、 遂行する技量を十分保持していることが確認できた。 探傷技量を継続することが可能となる。このように また、訓練内容(カリキュラム、訓練方法等)につ 運用することで、検査員の探傷技量を維持・継続す いては、概ね妥当であるとの評価を得た。なお、訓 ることができるものと考える。 練用試験体の数量不足、時間配分の見直し等が課題 として挙げられた。これらの課題は、訓練内容案に Personnel 反映し、改善を図っていく予定である。 Training center of third-party Classroom ‐Training program ‐Training materials ‐Instructors etc. lecture Skill Hands-on learning practice Test Skill verification ISI (UT)4.結言 オーステナイト系ステンレス鋼配管溶接継手試験 体を用いた UT による欠陥検出性試験結果から、試 3.2 試運用 験員の探傷技量の向上には、教育・訓練が極めて有 上記 3.1 項では、UT 教育・訓練制度の構築に当 効であることが示されたことから、ISI における UT たっての考え方に基づいて、訓練内容等について検 検査員に対する探傷技量の習得・維持を目的とした、 討した。これらの訓練内容が、実運用にあたって適 UT 教育・訓練制度の構築に向けた検討を行い、枠 - 16 - Components Jobs Contents Duration of training Austenitic stainless steel piping welds Examiners ・Skill ・Skill Learning Verification 5 days Analysts ・Skill ・Skill Learning Verification 3 days Instructors ・Skill ・Skill Learning Verification 2 days Nuclear power plant Fig.7 Outline of trial of education and training program Fig.6 Outline of UT education and training program 組み、訓練内容等について纏めた。さらに、訓練内 容の妥当性を評価するために、「検査員に対する訓練 の試運用」を行った。これら結果を以下に纏める。 (1) オーステナイト系ステンレス鋼配管溶接継手試 験体を用いた UT による欠陥検出性試験結果か ら、試験員の探傷技量の向上には、教育・訓練 が極めて有効であることを示した。 (2) UT 教育・訓練制度について、基本的な考え方を もとに、枠組み、訓練対象者、訓練内容(カリ キュラム、訓練方法等)等について概要を纏め た。 (3) 上記 UT 教育・訓練制度案に沿った「検査員に 対する訓練の試運用」を行った結果、訓練内容 は概ね妥当との評価が得られた。また、訓練用 試験体の充実等が課題として挙げられた。 (4) 上記の結果から、UT 教育・訓練制度案について は、今後、さらに詳細内容の詰めを行うととも に、実効性のあるものに改善を図っていく。 謝辞 本検討で実施した「訓練の試運用」には、原子力 プラントメーカの検査員に協力頂き、貴重なデータ を得ることができた。ここに、感謝の意を表す。ま た、本検討は、電力共同委託として実施したもので ある。 参考文献 [1] 軽水型原子力発電所用機器の供用期間中検査に おける超音波探傷試験規程(JEAC 4207-2008), 日 本電気協会, (2008) [2] PISC 計画総合報告書(PISCIII 報告書和訳版), 発 電設備技術検査協会, (1999) [3] B. McGrath: “Programme for the assessment of NDT in industry PANI 3”, Health and Safety Execute, RR617 Research Report, (2008) [4] 平澤泰治,小林輝男、牧原善次、南康雄:ステ ンレス鋼配管突合せ溶接継手の超音波探傷試験 員に対する教育・訓練の有効性に関する検討,保 全学,Vol.15, No.1, (2016), pp.77-91 - 17 -“ “超音波探傷試験技術者に対する教育・訓練の有効性検討“ “平澤 泰治,Taiji HIRASAWA,小林 輝男,Teruo KOBAYASHI,牧原 善次,Zenji MAKIHARA,南 康雄,Yasuo MINAMI
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