局部破損メカニズムの検討とそれに基づく破壊曲面の提案

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カテゴリ: 第13回
1. 序論
福島第一原子力発電所事故の教訓から「事故が起こらないように設計する」から「事故が起こることを前提とした設計と対策」への意識転換が求められるようになった(1)。一方で、原子炉等の機器構造物に、シビアアクシデント等の従来想定していなかった極限荷重が作用した時の原子炉構造物の壊れ方は十分には解明されていない。 従来、高温高圧状態における原子炉構造物等の機器構造物の構造不連続部では、内圧に対する破損モードとして局部応力による塑性崩壊及びその延長上の延性破壊が取り上げられてきた。しかし、近年条件によって は、局部破損の可能性があることが指摘され、非原子力分野の設計コードでは既に取り上げられている(1)。 一般に、多軸応力状態を考慮した限界ひずみは式(1)で表すことができる。
εmf = [TAF] ? εuf (1) εmf : 多軸応力状態での限界ひずみ εuf : 単軸応力状態での限界ひずみ [TAF] : 多軸応力状態を考慮した限界ひずみ減衰率 式(1)の[TAF]にはいくつかの式が提案されている。(2) (3) 多軸応力状態が激しい特定の構造不連続部は、一般部 のような単軸応力場を形成する箇所に比べて、[TAF] が小さくなり、限界ひずみが低下する。これが要因と なる破損がいわゆる局部破損である。 以上のように、これまでの局部破損の研究の多くは多 軸応力状態を考慮した限界ひずみに関するものであり、 局部破損のメカニズムについてはあまり解明されてい ない。 本研究では、一般部のような単軸応力場を模擬する 平滑丸棒試験片と構造不連続部のような多軸応力場を 模擬する切欠き付き丸棒試験片を用いた引張り試験お よび有限要素法による大変形弾塑性解析を行い、局部 破損メカニズムの分析を行う。さらに、その結果に基 づいて延性破壊から局部破損まで統一的に説明できる 破壊曲面の提案を行う。 2. 平滑丸棒および切欠き付き丸棒引張試験 2.1 試験条件 SUS 304(ステンレス)製の丸棒試験片を用いて引 張試験を行った。丸棒試験片は、一般部のような単軸 応力場を模擬する平滑丸棒と、構造不連続部のような 多軸応力場を模擬する大小の切欠きを付けた切り欠き 付き丸棒を用いた。これらの3種類の丸棒の具体的な 形状及び寸法を以下の図 1、表 1 に示す。また、塑性 拘束の影響を直接比較観察できるように、これらの試 験片は最小断面積を一致させている。
(a) Smooth specimen (b) Small notch specimen (c) Large notch specimen Fig.1 Shape of specimens
Table.1 Test specimen data Specimen Notch Shape No. radius Stress concentration factor (a) smooth - 1 (b) small notch 0.875 2.0 (c) large notch 3 1.37 引張試験には、図2に示すSHIMADZU AG-XDplus 試 験機を用いた。最大負荷容量は50kNであり、負荷方式 は高精度定速ひずみ制御方式である。試験片を8 mm / min の一定速度で引張って変位を記録し、ロードセル で荷重を記録する。 - 158 - Fig.2 Tensile testing machine 2.2 試験結果 図 3 に各試験片の破面を示す。この図から、平滑丸 棒の破面は典型的なカップアンドコーン型の破面を形 成しており、丸棒表面付近ではせん断型の破面を、丸 棒中心付近では繊維状型(ディンプル型)の破面を形 成しており、比較的せん断型の破面の割合が大きいこ とがわかる。切欠き付き丸棒では、切欠き底付近のせ ん断型の破面の割合が小さく、全断面にわたり繊維状 型の破面の割合が大きいことがわかる。また、切欠き が大きくなるほどこの傾向が強くなっている。 Fig.3 Fracture surface 荷重―変位曲線を図 4 に示す。この図から、最小断面 積が同じであるにも関わらず、切欠き付き丸棒のほう が平滑丸棒よりも、最大荷重が上昇している。また、 切欠きが大きいほどこの傾向が強くなっている。一般 に、応力集中係数が大きい形状ほど強度が低下するこ とが知られている。つまり、切欠きの曲率半径が小さ いほど強度が低下する(切欠弱化)。しかし、今回の結 果は、切欠きの曲率半径が大きいような形状ほど最大 荷重が大きくなっており、切欠きによって強化されて いることがわかる。 Fig.4 Load ? Displacement curves obtained by experiments 3. 有限要素法解析 3.1 解析条件 上記のような試験結果となった理由を明らかにする ために、平滑丸棒および切欠き付き丸棒試験片モデル について有限要素法による大変形弾塑性解析を行った。 3種類の解析モデルおよび境界条件を図 5 に示す。解 析コードは Finas とし、軸対称要素を用いた。解析モ デルは対称性を考慮して 1/2 モデルとした。荷重は試 験片モデルの上部に強制変位を与えた。 Fig.5 FEM models また、図 5 にメッシュモデルと境界条件を、塑性解析 に用いる構成式(公称応力-公称ひずみ関係式)を図6 に示す。 1995/10/281982/02/1825000 ] N[d aoL20000 smooth S15000 small Snotch 10000 L large notch 1913/09/080:00:000 5 10 15 20 25 30 Displacement [mm] 900 800 700 600 500 400 300 200 100 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 1.1 Strain [mm/mm] 00Fig.6 Stress ? Strain cuve for FEM 3.2 解析結果 解析により得られた、荷重-変位曲線を図7に示す。 図 7 から、切欠き付き丸棒のほうが平滑丸棒よりも、 最大荷重が上昇していることが確認できた。また、切 欠きが大きくなるほど、最大荷重が上昇していること も確認できた。この傾向は実験と一致している。 24001905/06/221600 ] N[d aoLSmooth Small notch Large notch 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 Displacement [mm]Fig.7 Load ? Displacemnt curve estiamted by FEM 4. 考察 4.1 切欠き効果 各試験片の弾性領域から塑性領域に遷移直後の主応 力(軸方向、半径方向、周方向応力)を図 8 に示す。 図 8 より、平滑丸棒では軸方向応力に比べて半径方向 応力や周方向応力が無視できるくらい小さいので、応 力状態は単軸応力状態であるといえる。一方、切欠き 付き丸棒では軸方向応力に比べて半径方向応力や周方 向応力が無視できない大きさなので、応力状態は多軸 応力状態であるといえる。また、この傾向は切欠きが 大きくなるほど強いことがわかる。 - 159 - 12008004006001901/05/14400Axial stress 300Circumferential 200stress Radial stress 1000 -1000 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 Distance from the center of the bar [mm] 0(a) Smooth specimen 900 800 700 ] aPM[s sertS600 500 400 Axial stress Circumferential stress 300Radial stress 200 100 0 Distance 0.5 from 1 the 1.5 center of 2 the bar 2.5 [mm] 3 3.5 (b) Small notch specimen 14001200] aPM[s sertS0 (c) Large notch specimen Fig.8 Stress distributions on minimum cross-sections 各試験片の最小断面に生じる応力状態がどの程度なの かを定量的に求めるために、式(2)で定義される3軸 応力度を求めた。その結果を図9に示す。 Tr = σ3σ1+σMises 2+σ3 -2この図から明らかなように、平滑丸棒の3軸応力度は、 最小断面全域にわたって単軸応力状態を表す 0.333 と なった。また、切欠き付き丸棒の 3 軸応力度は、最小 断面全域にわたって 0.333 よりも大きな値となってお 1000Axial stress 800Circumferential 600 stress Radial stress 400 2000 Distance from 1 the center 2 of the bar [mm] 3- 160 - り、多軸応力状態となっていることを表している。ま た、切欠きが大きくなるほど、3軸応力度も大きくなっ ている。さらに、切欠き付き丸棒では表面よりも中心 部付近で3軸応力度が大きくなる傾向にある。 1.4] aPM/aPM[r otcafy tilaixairT1.2 1 0.8Large notch Small notch Smooth 0.60.40.200 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 Distance from the center of the bar [mm] Fig.9 Triaxiality factor distributions on minimum cross-sections 切欠きが大きいほど半径方向応力や周方向応力が大き くなり 3 軸応力度が大きい値を示す理由として塑性拘 束が挙げられる。 Fig.10 Explanation of plastic constraint 図10のような丸棒試験片に引張荷重を与えたときを 考える。すると、太い部分と細い部分では、ポアソン 比効果によって縮む総量に差が出てくる。この差によ って、太い部分と細い部分のつなぎ目では、お互いが お互いの変形を拘束しあい、軸方向応力以外にも半径 方向応力や周方向応力が発生する。その結果、多軸応 力状態が形成される。そして、太い部分と細い部分の 大きさの差が大きければ大きいほど、この傾向は強く なり、3軸応力度は大きい値を示す。これが塑性拘束の 考え方である。塑性拘束は形状の差異によって引き起 こされることから、塑性拘束の度合いは、荷重のかか 限界ひずみ評価式としては次式の っている物体の最大主応力方向の断面積の変化率に比 ASME Sec. VIII 例して大きくなると思われる。つまり、塑性拘束は荷 Div. 2[1] の式(3)を適用した。 重方向の形状の変化の激しさに比例して大きくなると 思われる。切欠き付き丸棒においては、最小断面から 最大断面までの軸方向の距離と、最小断面積と最大断 εLm = εLu ? exp [?( 1+mαsl 2)(Tr ? 13)] (3) 面積の差の比に依存すると思われる。以上の検討より、 切欠き付き丸棒の強度に大きく影響する3軸応力度は αsl , m2 : 材料定数 最小断面の塑性挙動に影響を与える塑性拘束によって Tr : 3軸応力度 = 静水圧応力/Mises 応力 決まることが明らかになった。一方、切り欠きによる εLu : 単軸状態での限界塑性ひずみ 応力集中係数は強度に影響を与えないことが、2章の実 εLm : 多軸状態での限界塑性ひずみ 験から明らかになっている。 この式と図 4 の平滑丸棒の荷重―変位曲線から求め 4.2 破壊曲面の検討 た応力―ひずみ関係を用いて、以下の手順を各Trに対 して繰り返すことにより破壊曲面を作成した。図12 に 引張試験と解析から得られた結果に合理的な説明を 破壊曲面の作成手順を、図13に作成した破壊曲面を示 与えるために、静水圧応力を考慮した破損メカニズム す。 を検討する。設計の基礎となっている強度モデルでは、 物体の降伏挙動は Mises 応力のみに依存し、結果とし て破損に関しても Mises 応力のみに依存するとしてい εLm,1 = εLu ? exp [?( 1+mαsl 2)(Tr,1 ? 13)] (4) る(図 11 上)。しかし、ミーゼス応力が小さければ静水 700圧応力がどれだけ大きくても破損には至らないという 600考え方は、すべての条件における破損現象に則してい るとは言い難い。以上のような理由から、図11に示す ような Mises 応力と静水圧応力に依存した破壊曲面が 存在すると考えた。この曲面に応力状態が達したとき に物体は破損に至ると考えられる。 ] aPM[s sertS0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 Strain [mm/mm] Von Mises Stress Fracture Line Fracture Fracture Not Fracture Hydrostatic Pressure Von Mises Stress Fig.12 Metod to make fracture surface Hydrostatic Pressure Fig.11 Upper:Failure criteria without considering triaxiality Lower:Failure criteria considering triaxiality 1901/05/14for 400 3001900/07/181900/04/090:00:00] aPM[s sertssesiM700 0 0 300 600 900 1200 1500 1800 Hydrostatic pressure [MPa] - 161 - 1901/08/22500400300200100Fracture Surface Fracture Fracture Fracture 4.3 700 Ductile fracture 破壊曲面を用いた試験結果の考察 Local failure 図13に示す破壊曲面を用いて、試験結果である図4 に示した最大荷重の上昇といった現象に合理的な説明 First yield を与える。まず、切欠き丸棒試験片の 3 軸応力度が大 surface きくなるのは、最小断面の塑性変形が断面積の大きい Limited hydro 周辺によって拘束される(塑性拘束)ことによる。ま pressure 0 300 600 900 1200 1500 1800 静水圧応力[MPa/MPa] た、切欠き丸棒試験片の最小断面の 3 軸応力度が大き いということは、図13,14から分かるように破壊時の静 水圧応力が大きくなる。これは軸方向応力も大きくな ることを意味し、結果として図 4 のように最大荷重が 増加する。 5. 結論 平滑丸棒試験片と切欠き丸棒試験片の引張り試験及 び有限要素法による大変形弾塑性解析を行い、以下の ような結論を得た。 ・構造不連続部を模擬した切欠き付き丸棒の強度は、 Mises応力と共に、最小断面の塑性挙動に影響を与え る塑性拘束によって生じる静水圧応力の両者から決 まるという局部破損のメカニズムを明らかにした。 ・このメカニズムに基づいて、延性破壊と局部破損の 両破損モードの強度を Mises 応力-静水圧応力の平 面で記述する破壊曲面を提案した。 ・この破壊曲面によって圧力容器一般部の延性破壊か ら構造不連続部の局部破損まで統一的に説明できた。 ・この破壊曲面により、平滑丸棒より切欠き丸棒の引 張り強度が大きいという試験結果を説明できた。 参考文献 [1] David A. Osage, P.E., “ASME Section VIII-Division2 Criteria and Commentary”, The Equity Engineering Group, Inc., (2009). [2] 宮崎他, “局部減肉を有する炭素鋼配管の破壊クラ イテリオン”, 圧力技術, 第40巻第2号, 2002. [3] McClintock, F.A., “A Criterion for Ductile Fracture by the Growth of Holes,” Tran. ASME, J. of Applied Mechanics, 1968. Break point ] aPM[s sertssesiM600 500 Uniaxial stress condition Tr = 0.333 0First yield 400 point 300200Multiaxial Fracture surface 100stress condition Tr = 1.5 0 Hydrostatic pressure [MPa] Fig.13 Fracture surface 1 図13に示す破壊曲面という考え方を導入することに より、延性破壊から局部破損までを統一的に説明する ことができる。さらに、図13の考えを拡張したものを 図14に示す。 700 Ductile fracture 600 Local failure Final yield ] aPM[s sertssesiM500 surface First yield surface Inclination is small = Triaxiality is large Limited hydro pressure 0 300 600 900 1200 1500 1800 静水圧応力[MPa/MPa] Fig.14 Fracture surface 2 図14から、以下のようなことが言える。 ・3軸応力度が大きくなるような構造不連続部では破壊 時のMises応力が低下する ・3軸応力度が大きくなるような構造不連続部では破壊 時の静水圧応力が増加する ・3軸応力度が大きいほどMisesの降伏曲面を通過しに くいので、塑性変形が進みにくい 以上のように、この破壊曲面は、3軸応力度が大きい ほど塑性変形しにくくなるとともに、比較的小さな Mises 応力でも破壊が生じるという局部破損の現象を うまく表している。また、提案した破壊曲面は、延性 破壊と局部破損を連続的な現象として表現できること に特徴がある。 Mises yield 400 surface 300Mises stress goes down 200at the break point 100Hydrostatic pressure [MPa] - 162 -“ “局部破損メカニズムの検討とそれに基づく破壊曲面の提案“ “窪田 穣穂,Shigeho KUBOTA,小木曽 慎,Shin OGISO,佐藤 拓哉,Takuya SATO,笠原 直人,Naoto KASAHARA
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