下部プレナム制御棒支持管のジェットブレークアップ挙動への影響解析

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カテゴリ: 第13回
1.はじめに
2011年に福島第一原子力発電所で原子炉の炉心溶融が起こった.しかし高濃度の放射線のため炉心溶融の過程を観測した計器やデータは存在していない.そのため炉心溶融の過程はほとんど明らかになっていない. そこでシミュレーションすることで制御棒が臨海現象を起こして相変化し液化する,液化した炉心溶融物が原子炉の下部プレナムに溜まっている冷却水中に落下する, 落下した炉心溶融物が自身の高熱によって原子炉自体を溶かしメルトダウンさせる過程を解明する試みがなされてきた. 中でも本研究においては炉心溶融物が下部プレナムに落下する際のシミュレーションを行った.先行研究には以下のような研究が存在する.表面張力を考慮したMPS法を用いた2次元のジェットブレークアップ挙動に関する研究は柴田ら[1]のものが上げられる.RD-MS 法を用いた3次元のジェットブレークアップの研究はPark et al.[2] のものがあげられる.しかし,沸騰水型原子炉(BWR)の下部プレナムに存在する制御棒指示管の影響がどの様にジェットブレークアップに反映されるかを数値的に評価する研究は存在していない. そのため,本研究の目的は韋ら[3]の実験を模擬したシミュレーション体系において,下部プレナムに存在する制御棒指示管のジェットブレークアップに対する影響を, 近藤ら[4]の表面張力モデルを3次元化したものを用い, 3次元空間においてMPS 法によって数値的に評価することとする.
2.MPS 法の概略 2.1 MPS 法とは 非圧縮流体の運動量保存に関する支配方程式はラグランジュ微分を用いると
1899/12/29と表すことが出来る.ここで は粘 性係数, は表面張力である.本研究では表 面張力を粒子間ポテンシャル の勾配で表現している.支 連絡先: 結城 喬、〒113-8654 東京都 文京区 本 配方程式に含まれる微分演算子を計算する際,重み関数 郷 7-3-1 工学部8号館402B、東京大学大学院工 学系研究科原子力国際専攻 E-mail: yuki@vis.t.u-tokyo.ac.jp - 169 - は圧力, は密度, は速度, -2を用いて計算コストを抑える.ただし, の間の距離である. は粒子 今,考える対象は非圧縮流体であるので,粒子数密度(加 重平均の計算に用いる近傍粒子の重みの和) -3は一定である.そのため,計算初期に粒子数密度の計算 を行い,得られた値を とおき,その値を基準値として 常に計算に用いる.重み関数 を用いて, 支配方程式中の微分演算子,勾配とラプラシアンは -5の様に離散モデルによって定式化される.ただし, は 粒子 は空間の次元を表す.ま た, 1899/12/24のようにあらわされる.これらの微分演算子を用いて支 配方程式を解くが,計算アルゴリズムは第一段階の陽的 な計算で支配方程式の右辺第一項の粘性項と第三項の表 面張力項を計算し,粒子を仮移動させる.そして第二段 階の陰的な計算で支配方程式の右辺第二項の圧力項を計 算し第一段階の計算で元の値とずれた粒子数密度を に 戻す.圧力の計算は質量保存の方程式および圧力勾配の 方程式から得られるポアソン方程式 -7を用いて行う.ただし, から粒子 は規格化のためのパラメータで と粒子 へのベクトル, は第一段階で粒子を仮移動さ と粒子数密度 は影響半径, -4と粒子間ポテンシャ ル力の関係を導くことが出来ると近藤ら[4]は主張した (Fig.1).しかし近藤ら[4]のモデルは2次元のみに適用され るものであった.そこで,本研究では近藤ら[4]のモデル を3次元に拡張した.以下のように,流体からその一部 を引き離して表面を作る際に粒子間距離が大きく変わら ないと仮定して,Fig.1の粒子の集合A を粒子の集合Bか ら引き離すことを考える. - 170 - せた後の仮の粒子数密度である. 2.2 表面張力項の計算について 本研究では表面張力として近藤ら[4]のモデルを3次元 に拡張したモデルを採用した..粒子間ポテンシャル力 は -9のように粒子間ポテンシャルの大きさ定数 と粒子間ポ テンシャルの形状 は 粒子間距離, は粒子間ポ テンシャルの影響半径である.本研究では と した.粒子間ポテンシャルの形状 で微分可能で, 微分したとき近距離では斥力,近距離では引力となるよ うに設定した近藤らのモデルに従っている.ここで,近 藤ら[4]は表面張力係数と粒子間ポテンシャルの関係を導 いた.表面張力係数 が単位面積当たりの流体の表面に蓄 えられているエネルギーが等価であるということが知ら れている.つまり,ある面積の表面を作るためのエネル ギーを求めることで,表面張力係数 は初期最近接粒子間距離, の積であらわされる.ただし, は -8であるので,粒子間 この時に形成される表面積は ポテンシャルに関する(10)式が成立する. を求 この式によって粒子間ポテンシャルの大きさ定数 以下のような下部プレナムを模擬したFig.2,Fig.3を 用いて数値実験を行った. 以下のような下部プレナムを模擬したFig.2,Fig.3を 用いて数値実験を行った. Time Step めることが出来る.よって表面張力 は粒子間ポテンシ ャルの勾配として, -11と表される. 3.ジェットブレークアップのシミュレーショ ン 沸騰型原子炉の下部プレナムを模擬した環境を用意し, 制御棒指示管(CRGTs)がない場合とある場合においてジ ェットブレークアップの結果がどのように異なるかにつ いて数値実験を通して検証した. 下部プレナムの中に溜められている水(water pool)の 中に,原子核の崩壊熱によって溶け出した炉心溶融物を 模擬した合金U-alloyに初速(3m/s)を与えジェットとし, パイプでもって注入(インジェクション)する環境とし た. 3.1 パラメータなど諸条件 数値実験をする際の各種パラメータはTable 1のように とった. -10Fig.1 Ensembles of particle A, B 3.2 下部プレナムおよびCRGTs を模擬した図 Fig.2 Conditions like lower plenum without CRGTs - 171 - Table 1 Calculation conditions Density of U-alloy Surface Tension of U-alloy Density of water Kinematic Viscosity of water Surface Tension of water Particle Number Initial Particle Distance Fig.3 Conditions like lower plenum with CRGTs それぞれの0.3秒後での断面図はFig.4、Fig.5 のように なった. Fig.4 A Cross Section of Model without CRGTs in 0.3(s) - 172 - Fig.5 A Cross Section of Model with CRGTs in 0.3(s) なお、水粒子は見やすさのため表示していない。U-alloy の粒子を水色で表示している。 0.3s 後における,粒子の中心軸からの距離と粒子の個 数の関係を表すヒストグラムはFig.6 のようになった。 ここで言う中心軸とは、初速を与えて注入したU-alloy が通るpipeの鉛直方向の直線ことであり、それぞれの粒 子と中心軸との距離を計測した値を中心軸からの距離と している。 参考文献 210180 without Pillar with Pillar [1] 柴田和也, 越塚誠一, 岡芳明, “粒子法によ るジェット分散挙動の数値解析”, Transactions of 150 JSCES, Paper No.20040013. 120[2] Shane Park, Hyun Sun Park, Byeong Il Jang, Hong Ju 90Kim, “3-D simulation of plunging jet penetration into a denser liquid pool by the RD-MPS method”, Nuclear 60Engineering and Design, 299, 2016, pp.154-162. 30[3] Hongyang WEI, Nejdet ERKAN, Kojo OKAMOTO, 0“Experimental investigation of the effect of control rod 0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 Distance from the center axis (mm) guide tubes on the breakup of a molten metal jet in the lower plenum of a boiling water reactor under isothermal Fig.6 A Histogram of Particle Distance from the Center conditions”, Doctoral thesis of the University of Tokyo, and Particle Number of Both Models unpublished. Fig.6を見ると、制御棒指示管がある場合においては、 [4] 近藤雅裕, 越塚誠一,滝本正人,“MPS 法におけ 中心軸に最も近い4本の内側の制御棒指示管(中心軸と る粒子間ポテンシャル力を用いた表面張力モデル”, の距離が3.8mm から12.3mm)と中心軸に2番目に近い Transactions of JSCES, Paper No.20070021 8本の制御棒指示管(中心軸との距離が13.2mm から 22.4mm)によってU-alloyの拡散する範囲が限定されて いることが分かる。 4.おわりに 本研究の目的はBWRの下部プレナムに存在する制御 棒指示管のジェットブレークアップ現象に対する影響を 考察することであった。 そのために、粒子間ポテンシャルを用いた3次元の表 面張力モデルを導入した粒子法の一種であるMPS法を用 いて、韋ら[3]の実験を模擬したシミュレーション体系に おいて数値的なシミュレーションを行った。 結論としては本研究のシミュレーションによって,制 御棒指示管によってU-alloy の拡散(U-alloy のジェットブ レークアップ)する範囲がある一定の範囲内に制限され ることがヒストグラムによって明らかにされた。 今後の展望としては,韋ら[3]の実験との比較をし、本 研究におけるシミュレーションが実際に正しいことを検 証することである. また,実験との検証の結果によっては,水とU-alloyと の相互作用を考えたモデルにすることも必要であると考 えられる. - 173 -“ “下部プレナム制御棒支持管のジェットブレークアップ挙動への影響解析“ “結城 喬,Takashi YUKI,近藤 雅裕,Masahiro KONDO,岡本 孝司,Koji OKAMOTO,韋 宏洋,Hongyang WEI
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