PD 資格試験開始から 10 年の実施状況
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カテゴリ: 第13回
1.背景
電力中央研究所材料科学研究所PDセンターは、2006年3月より日本非破壊検査協会規格NDIS0603 の附属書 に従った、軽水型原子力発電所のオーステナイト系ステンレス鋼配管溶接部に対するSCC亀裂高さ(深さ)測定のPD資格試験を実施している。これまでに、2014年度までのPD資格試験結果を報告[1-9]した。本講演では2015年度までのPD 資格試験結果及びPD資格試験結果から得られた受験者の傾向について報告する。
2.PD 資格試験の実施状況
2.1 PD資格試験受験者及び合格者の推移 各年度の PD 資格試験回数、受験者数及び結果の推移 をFig.1に示す。また、年度毎のPD資格試験回数、受験 者数及び受験者の成績(SCC 亀裂高さ(深さ)測定値の 平方根平均自乗誤差(Root Mean Square Error:RMSE))を Table 1 に示す。NDIS 0603上で再認証は、「資格の有効期 限内に同じ手順書を用いて再度認証を受けること」と定 義されている。また、再認証について「連続した更新によ る有効期限内、かつ、最大10年を超えない範囲で、PD技 術者は、認証機関によって再認証を受けることができる」 と規定されている。上記の規定から PD 資格を取得して 4020 合格(新規) 合格(再認証) 30合格(再試験) 15不合格 試験回数 2010105020052006200720082009201020112012201320142015 0年度 - 18 - Fig.1 PD 資格試験回数、受験者数と合格者の推移 から10年目の再認証受験申請者は、手続き上新規受験に 分類されるが、本稿では PD 資格の有効期限あるいは手 順書番号に拘らず、一度 PD 資格を取得した者が再度受 験する場合を再認証として扱うこととした。RMSE は(1) 式で表されるもので、PD資格試験受験者の測定技量を示 RMSE = ?∑ nnii=1 (mmnn ii ? ttii)2 ?12 ... (1) mi :第i番目のSCC亀裂高さ(深さ)測定値 連絡先:電力中央研究所 材料科学研究所 PDセンター 〒240-0196 神奈川県横須賀市長坂2丁目6-1 ti :第i番目のSCC亀裂高さ(深さ)の真とする値 n :SCC亀裂の数 http://criepi.denken.or.jp/pd/index.html Table 1 PD資格試験の実施回数、受験者数、合格者数及び受験者のRMSE値 年度 試験回数 受験者 合格者(カッコ内:合格率) 年度 受験者のRMSE* 新規 再認証 新規 再認証 新規 再認証 再試験 再試験 再試験 再試験 再試験 再試験 2005 2 8 ― ― ― 3 ― ― ― 2005 3.49 ― ― ― 2006 10 21 14 ― ― 7 7 ― ― 2006 5.19 2.94 ― ― 2007 6 7 6 ― ― 1 4 ― ― 2007 4.81 2.51 ― ― 2008 5 2 5 ― ― 1 4 ― ― 2008 3.15 2.04 ― ― 2009 3 5 1 ― ― 3 1 ― ― 2009 3.29 ― ― ― 2010 3 2 3 2 ― 1 3 2 ― 2010 2.52 1.51 1.92 ― 2011 5 2 ― 7 ― 2 ― 5 ― 2011 2.51 ― 3.27 ― 2012 3 1 1 1 1 0 0 0 0 2012 ― ― ― ― 2013 3 1 ― 3 2 1 ― 3 1 2013 ― ― 1.92 2.40 2014 2 ― ― 3 1 ― ― 3 1 2014 ― ― 1.37 ― 2015 2 1 ― 4 ― 1 ― 4 ― 2015 ― ― 2.06 ― 計 44 50 30 20 4 20 -0.419 (63%) 17 (85%) 2 (50%) 4.36 2.59 2.69 2.99 104 58 (56%) 3.58 * 全データでの統計値(1名以下の場合は示さず) す指標である。 2015年度は2回のPD資格試験(2015年7月、2016年 Table 2 過去 10 年間の PD 資格試験合格者・不合 格者の測定誤差の平均値、RMSE 及び標準 1 月)を実施した。延べ受験者数は5名(再認証4名,新 偏差 規1名)で,全員が合格した。これにより2006年3月の 測定誤差の 試験開始以降の累計受験者数は 104 名、再認証も含めた 平均値 合格基準に達した者は延べ58名となった。 (mm) PD資格更新の最大期間は5年であることから、2010年 度より新規試験、再試験に加えて再認証試験を実施して いる。2015 年度には PD 資格試験開始時に PD 資格を取 得してから10年目の再認証受験申請があった。2005年度 の受験者数、合格者数及び試験回数は少ないが、これは前 述の通り、2006 年 3 月よりPD 資格試験を開始した為で ある。また既報の通り、2005~2007 年度の間に PD 資格 保有者の必要数がある程度充足されたことから、2007 年 度以降はほぼ一定の受験者数で推移している[5]。Table 1 より、過去10年間の再試験及び再認証試験(初回)の合 格率は、何れもPD資格試験全受験者の合格率 [56%] よ り高く、再認証受験者の RMSE[2.69]は全受験者のそれ [3.58]より小さい。 2.2 PD資格試験受験者の探傷結果 過去10年間の合格者・不合格者の測定誤差(ここでは、 回答値-真とする値とする)の平均値及び標準偏差を Table 2に示す。またFig.2は、合格者及び不合格者のRMSE と測定誤差の平均値の関係を示したものである。図 2 中 の横の点線は、PD資格試験の合否判定基準の一つである 「SCC 深さ測定値のRMSE が3.2 mm を超えないこと」 を示している。既報の通り、合格者、不合格者ともに測定 RMSE (mm) 標準偏差 (mm) 合格者 0.33 1.90 1.87 不合格者 1.02 4.94 4.84 1210合格者 不合格者 86420-7 -6 -5 -4 -3 -2 -1 0 +1 +2 +3 +4 +5 +6 +7 測定誤差 (mm) Fig.2 PD資格試験全受験者のRMSEと測定誤差の平均 値の分布結果 RMSE == 3.2 mm 誤差の平均値が全般的にプラス側に偏っている[3-9]が、 不合格者の偏りが特に著しく大きいことがわかる。 Fig.3 は、PD資格合格者の試験結果、特に標準偏差及び 測定誤差の平均値について、PD資格試験開始時からの変 化を纏めたものである。既報の通り、試験開始時から2010 年度頃まで合否判定基準「SCC 亀裂高さ(深さ)測定値 は真とする値に対し 4.4 mm を超えて下回らない(以下 4.4mm基準と称す)」を警戒して、合格者においても若干 過大評価する傾向を示していた[8]。しかしながら2011年 - 19 - 2.521.52005-2006 2007-2008 2009-2010 2011-2012 2013-2015 試験実施年度 標準偏差 1測定誤差の平均 12:00:00Fig.3 PD資格試験合格者の測定誤差の平均値と標準偏 差の推移 度以降、測定誤差の平均値が減少し、標準偏差も 1.5~ 2.0mm 程度を推移している。これらの傾向は、前述のSCC 亀裂高さ(深さ)の過大評価が収まりつつある結果である と考えられる。PD資格試験受験者の探傷技量を確認する 上でも、今後もこれらの値を継続的に注視する必要があ るように思われる。 100580 4603402Fig.4 試験実施年度毎の全受験者の統計値推移 E SMR20±3.2mm以内 ±3.2mm超 1RMSE 02005-2006 2007-2008 2009-2010 2011-2012 2013-2015 0試験実施年度Fig.4 は、受験者全体の統計結果の推移をまとめたもの である。ここでは、各々の期間における全回答について概 ね正解と思われる誤差(回答値-真とする値が±3.2mm 以内)の回答とそれを超える誤差(回答値-真とする値が ±3.2mm超)の比率、及び測定値全体のRMSE を示して いる。年度によって若干の変動はあるものの、ほぼ正解と される計測値を回答する比率が増加し、RMSE 値が改善 されてきているように見受けられる。 2.3 PD資格試験結果と探傷方法 PD資格試験受験者の多くは、フェーズドアレイ法(以 PD 資格試験後期 (2009~2015年度) - 20 - 下PA法)とPA法を使用しない端部エコー法(以下固定 角UT 法)を組み合わせた改良UT 法を主に使うことは既 に報告した[7, 8]。Fig.5 は、PD資格試験前期(試験開始~ 2008年度)と後期(2009年度~2014年度まで)において、 手順書による区分ではなくSCC亀裂高さ(深さ)測定値 を最終判定した探傷手法による分類を合格者及び不合格 者内で纏めたものである。この中で「その他」は垂直探傷 法やタンデム法などを示す。Fig.5 より、合格者は、SCC 亀裂高さ(深さ)の最終判定にPA法の結果を採用するこ とが多いこと、さらに合格者・不合格者ともにPD資格試 験前期における PA 法の比率よりも後期の方が大きいこ とがわかる。このことは、各受験者がPA法の結果をよ り尊重してきていることを示しているものと思われる。 Fig.5 PD 資格試験実施時期によるSCC亀裂高さ(深 さ)測定値を特定した探傷手法の比率 2.4 PD資格試験結果と試験体肉厚との関連性 Fig. 6 は、PD 資格試験で用いられる試験体の肉厚(口 径)毎の測定誤差の平均値と標準偏差を纏めたものであ る。合格者の測定誤差の平均値、標準偏差は試験体の肉厚 (口径)に依らずほぼ一定であるが、不合格者の測定誤差 の平均、標準偏差は試験体の肉厚(口径)の増加とともに 大きくなっていることがわかる。これは、PD資格試験合 格者は試験体の肉厚に関係なくSCC亀裂の先端を特定で きている一方で、PD資格試験不合格者は、SCC亀裂先端 をきちんと把握することができていないため、試験体の 肉厚(口径)が厚くなるほど誤差が大きくなり、さらに前 出の4.4mm基準の逸脱に警戒して過大に評価するものと 推察される。 PD 資格試験前期 (2005~2008年度) 回実施した。この間の累計受験者数は 7 合格者(測定誤差の平均) 104 名で、再認証 合格者(標準偏差) 受験者も含めて合格基準に達した者は延べ58名となった。 不合格者(測定誤差の平均) 5不合格者(標準偏差) 2015年度は 2 回のPD資格試験を実施し,受験者5名全 員が合格した。これまでの試験結果の解析で得られた結 果、以下のようなことが得られた。 31) 過去 10 年間の合格者の RMSE は 1.90mm,標準偏差 は 1.87mm であり、PD 資格試験合格者が高い精度で SCC亀裂高さ(深さ)を測定していることを確認した。 12) PD 資格試験合格者の標準偏差、測定誤差の平均値は、 試験体肉厚によらずほぼ一定である。一方不合格者 0 10 20 30 -1試験体肉厚(mm) は、試験体肉厚が厚くなるにつれて標準偏差、測定誤 差の平均値が増大する傾向である。 Fig.6 試験体の肉厚別の測定誤差の平均値及び標準偏差 3) 近年は、再認証受験者が多く、合格率やRMSE など 2.4 PD資格試験受験者・合格者の年齢 の統計値も向上している。 Fig. 7 は、PD 資格試験受験者数、合格者数及び合格率 を年代別に纏めたものである。2012 年度の PD 資格試験 参考文献 結果の報告では、30代及び40代の受験者数及び合格者数 [1] 笹原,直本,秀,神戸 “PD資格試験開始から一年の が多いことを報告した[7]。しかしながら、2013年度以降 実施状況” 第4回保全学会予稿集,福井,2007. に制度開始時に 30~40 代の受験者であった者が、再認証 [2] 直本,笹原,秀 “PD 資格試験開始から2年の実施状 試験として40~50代の受験者となり、その合格率が非常 況” 第5回保全学会学術講演会予稿集,水戸,2008. に高かったことから、年代間の合格率の差は小さくなっ [3] 秀,笹原,直本,渡辺 “PD 資格試験開始から4年の た。 実施状況” 第 7 回保全学会学術講演会予稿集, 静岡, 50受験者数 100合格者数 2010. [4] 渡辺,笹原,東海林,秀 “PD 資格試験開始から5年 40合格率 80の実施状況” 第 8 回保全学会学術講演会特別編予稿 集, 東京, 2011. 3060[5] 笹原,直本,秀,井上 “SCC深さ測定のPD 試験受 験者の技量評価” 保全学, Vol.9 No.1, p.44, 2010. 2040[6] 渡辺,東海林,秀 “PD 資格試験開始から6年の実施 状況” 第9回保全学会予稿集, 東京, 2012. 1020[7] 渡辺,東海林,秀 “PD 資格試験開始から7年の実 施状況” 第 10 回保全学会学術講演会予稿集, 大阪, 020代 30代 年代 40代 50代以上 02013. [8] 渡辺,東海林,秀 “PD 資格試験開始から8年の実 Fig.7 年代別の受験者数、合格者数及び合格率 施状況” 第 11 回保全学会学術講演会予稿集, 八戸, 3.まとめ 2014. [9] 渡辺,東海林,秀、太田 “PD 資格試験開始から 9 2006 年3 月より開始したオーステナイト系ステンレス 年の実施状況” 第12回保全学会学術講演会予稿集, 鋼配管溶接部に対するSCC亀裂高さ(深さ)測定に関す 日立, 2015. る PD 資格試験を、2016 年 1 月までの約 10 年間で計 44 - 21 -“ “PD 資格試験開始から 10 年の実施状況“ “渡辺 恵司,Keiji WATANABE,林 山,Shan LIN,東海林 一,Hajime SHOHJI,太田 丈児,Joji OHTA
電力中央研究所材料科学研究所PDセンターは、2006年3月より日本非破壊検査協会規格NDIS0603 の附属書 に従った、軽水型原子力発電所のオーステナイト系ステンレス鋼配管溶接部に対するSCC亀裂高さ(深さ)測定のPD資格試験を実施している。これまでに、2014年度までのPD資格試験結果を報告[1-9]した。本講演では2015年度までのPD 資格試験結果及びPD資格試験結果から得られた受験者の傾向について報告する。
2.PD 資格試験の実施状況
2.1 PD資格試験受験者及び合格者の推移 各年度の PD 資格試験回数、受験者数及び結果の推移 をFig.1に示す。また、年度毎のPD資格試験回数、受験 者数及び受験者の成績(SCC 亀裂高さ(深さ)測定値の 平方根平均自乗誤差(Root Mean Square Error:RMSE))を Table 1 に示す。NDIS 0603上で再認証は、「資格の有効期 限内に同じ手順書を用いて再度認証を受けること」と定 義されている。また、再認証について「連続した更新によ る有効期限内、かつ、最大10年を超えない範囲で、PD技 術者は、認証機関によって再認証を受けることができる」 と規定されている。上記の規定から PD 資格を取得して 4020 合格(新規) 合格(再認証) 30合格(再試験) 15不合格 試験回数 2010105020052006200720082009201020112012201320142015 0年度 - 18 - Fig.1 PD 資格試験回数、受験者数と合格者の推移 から10年目の再認証受験申請者は、手続き上新規受験に 分類されるが、本稿では PD 資格の有効期限あるいは手 順書番号に拘らず、一度 PD 資格を取得した者が再度受 験する場合を再認証として扱うこととした。RMSE は(1) 式で表されるもので、PD資格試験受験者の測定技量を示 RMSE = ?∑ nnii=1 (mmnn ii ? ttii)2 ?12 ... (1) mi :第i番目のSCC亀裂高さ(深さ)測定値 連絡先:電力中央研究所 材料科学研究所 PDセンター 〒240-0196 神奈川県横須賀市長坂2丁目6-1 ti :第i番目のSCC亀裂高さ(深さ)の真とする値 n :SCC亀裂の数 http://criepi.denken.or.jp/pd/index.html Table 1 PD資格試験の実施回数、受験者数、合格者数及び受験者のRMSE値 年度 試験回数 受験者 合格者(カッコ内:合格率) 年度 受験者のRMSE* 新規 再認証 新規 再認証 新規 再認証 再試験 再試験 再試験 再試験 再試験 再試験 2005 2 8 ― ― ― 3 ― ― ― 2005 3.49 ― ― ― 2006 10 21 14 ― ― 7 7 ― ― 2006 5.19 2.94 ― ― 2007 6 7 6 ― ― 1 4 ― ― 2007 4.81 2.51 ― ― 2008 5 2 5 ― ― 1 4 ― ― 2008 3.15 2.04 ― ― 2009 3 5 1 ― ― 3 1 ― ― 2009 3.29 ― ― ― 2010 3 2 3 2 ― 1 3 2 ― 2010 2.52 1.51 1.92 ― 2011 5 2 ― 7 ― 2 ― 5 ― 2011 2.51 ― 3.27 ― 2012 3 1 1 1 1 0 0 0 0 2012 ― ― ― ― 2013 3 1 ― 3 2 1 ― 3 1 2013 ― ― 1.92 2.40 2014 2 ― ― 3 1 ― ― 3 1 2014 ― ― 1.37 ― 2015 2 1 ― 4 ― 1 ― 4 ― 2015 ― ― 2.06 ― 計 44 50 30 20 4 20 -0.419 (63%) 17 (85%) 2 (50%) 4.36 2.59 2.69 2.99 104 58 (56%) 3.58 * 全データでの統計値(1名以下の場合は示さず) す指標である。 2015年度は2回のPD資格試験(2015年7月、2016年 Table 2 過去 10 年間の PD 資格試験合格者・不合 格者の測定誤差の平均値、RMSE 及び標準 1 月)を実施した。延べ受験者数は5名(再認証4名,新 偏差 規1名)で,全員が合格した。これにより2006年3月の 測定誤差の 試験開始以降の累計受験者数は 104 名、再認証も含めた 平均値 合格基準に達した者は延べ58名となった。 (mm) PD資格更新の最大期間は5年であることから、2010年 度より新規試験、再試験に加えて再認証試験を実施して いる。2015 年度には PD 資格試験開始時に PD 資格を取 得してから10年目の再認証受験申請があった。2005年度 の受験者数、合格者数及び試験回数は少ないが、これは前 述の通り、2006 年 3 月よりPD 資格試験を開始した為で ある。また既報の通り、2005~2007 年度の間に PD 資格 保有者の必要数がある程度充足されたことから、2007 年 度以降はほぼ一定の受験者数で推移している[5]。Table 1 より、過去10年間の再試験及び再認証試験(初回)の合 格率は、何れもPD資格試験全受験者の合格率 [56%] よ り高く、再認証受験者の RMSE[2.69]は全受験者のそれ [3.58]より小さい。 2.2 PD資格試験受験者の探傷結果 過去10年間の合格者・不合格者の測定誤差(ここでは、 回答値-真とする値とする)の平均値及び標準偏差を Table 2に示す。またFig.2は、合格者及び不合格者のRMSE と測定誤差の平均値の関係を示したものである。図 2 中 の横の点線は、PD資格試験の合否判定基準の一つである 「SCC 深さ測定値のRMSE が3.2 mm を超えないこと」 を示している。既報の通り、合格者、不合格者ともに測定 RMSE (mm) 標準偏差 (mm) 合格者 0.33 1.90 1.87 不合格者 1.02 4.94 4.84 1210合格者 不合格者 86420-7 -6 -5 -4 -3 -2 -1 0 +1 +2 +3 +4 +5 +6 +7 測定誤差 (mm) Fig.2 PD資格試験全受験者のRMSEと測定誤差の平均 値の分布結果 RMSE == 3.2 mm 誤差の平均値が全般的にプラス側に偏っている[3-9]が、 不合格者の偏りが特に著しく大きいことがわかる。 Fig.3 は、PD資格合格者の試験結果、特に標準偏差及び 測定誤差の平均値について、PD資格試験開始時からの変 化を纏めたものである。既報の通り、試験開始時から2010 年度頃まで合否判定基準「SCC 亀裂高さ(深さ)測定値 は真とする値に対し 4.4 mm を超えて下回らない(以下 4.4mm基準と称す)」を警戒して、合格者においても若干 過大評価する傾向を示していた[8]。しかしながら2011年 - 19 - 2.521.52005-2006 2007-2008 2009-2010 2011-2012 2013-2015 試験実施年度 標準偏差 1測定誤差の平均 12:00:00Fig.3 PD資格試験合格者の測定誤差の平均値と標準偏 差の推移 度以降、測定誤差の平均値が減少し、標準偏差も 1.5~ 2.0mm 程度を推移している。これらの傾向は、前述のSCC 亀裂高さ(深さ)の過大評価が収まりつつある結果である と考えられる。PD資格試験受験者の探傷技量を確認する 上でも、今後もこれらの値を継続的に注視する必要があ るように思われる。 100580 4603402Fig.4 試験実施年度毎の全受験者の統計値推移 E SMR20±3.2mm以内 ±3.2mm超 1RMSE 02005-2006 2007-2008 2009-2010 2011-2012 2013-2015 0試験実施年度Fig.4 は、受験者全体の統計結果の推移をまとめたもの である。ここでは、各々の期間における全回答について概 ね正解と思われる誤差(回答値-真とする値が±3.2mm 以内)の回答とそれを超える誤差(回答値-真とする値が ±3.2mm超)の比率、及び測定値全体のRMSE を示して いる。年度によって若干の変動はあるものの、ほぼ正解と される計測値を回答する比率が増加し、RMSE 値が改善 されてきているように見受けられる。 2.3 PD資格試験結果と探傷方法 PD資格試験受験者の多くは、フェーズドアレイ法(以 PD 資格試験後期 (2009~2015年度) - 20 - 下PA法)とPA法を使用しない端部エコー法(以下固定 角UT 法)を組み合わせた改良UT 法を主に使うことは既 に報告した[7, 8]。Fig.5 は、PD資格試験前期(試験開始~ 2008年度)と後期(2009年度~2014年度まで)において、 手順書による区分ではなくSCC亀裂高さ(深さ)測定値 を最終判定した探傷手法による分類を合格者及び不合格 者内で纏めたものである。この中で「その他」は垂直探傷 法やタンデム法などを示す。Fig.5 より、合格者は、SCC 亀裂高さ(深さ)の最終判定にPA法の結果を採用するこ とが多いこと、さらに合格者・不合格者ともにPD資格試 験前期における PA 法の比率よりも後期の方が大きいこ とがわかる。このことは、各受験者がPA法の結果をよ り尊重してきていることを示しているものと思われる。 Fig.5 PD 資格試験実施時期によるSCC亀裂高さ(深 さ)測定値を特定した探傷手法の比率 2.4 PD資格試験結果と試験体肉厚との関連性 Fig. 6 は、PD 資格試験で用いられる試験体の肉厚(口 径)毎の測定誤差の平均値と標準偏差を纏めたものであ る。合格者の測定誤差の平均値、標準偏差は試験体の肉厚 (口径)に依らずほぼ一定であるが、不合格者の測定誤差 の平均、標準偏差は試験体の肉厚(口径)の増加とともに 大きくなっていることがわかる。これは、PD資格試験合 格者は試験体の肉厚に関係なくSCC亀裂の先端を特定で きている一方で、PD資格試験不合格者は、SCC亀裂先端 をきちんと把握することができていないため、試験体の 肉厚(口径)が厚くなるほど誤差が大きくなり、さらに前 出の4.4mm基準の逸脱に警戒して過大に評価するものと 推察される。 PD 資格試験前期 (2005~2008年度) 回実施した。この間の累計受験者数は 7 合格者(測定誤差の平均) 104 名で、再認証 合格者(標準偏差) 受験者も含めて合格基準に達した者は延べ58名となった。 不合格者(測定誤差の平均) 5不合格者(標準偏差) 2015年度は 2 回のPD資格試験を実施し,受験者5名全 員が合格した。これまでの試験結果の解析で得られた結 果、以下のようなことが得られた。 31) 過去 10 年間の合格者の RMSE は 1.90mm,標準偏差 は 1.87mm であり、PD 資格試験合格者が高い精度で SCC亀裂高さ(深さ)を測定していることを確認した。 12) PD 資格試験合格者の標準偏差、測定誤差の平均値は、 試験体肉厚によらずほぼ一定である。一方不合格者 0 10 20 30 -1試験体肉厚(mm) は、試験体肉厚が厚くなるにつれて標準偏差、測定誤 差の平均値が増大する傾向である。 Fig.6 試験体の肉厚別の測定誤差の平均値及び標準偏差 3) 近年は、再認証受験者が多く、合格率やRMSE など 2.4 PD資格試験受験者・合格者の年齢 の統計値も向上している。 Fig. 7 は、PD 資格試験受験者数、合格者数及び合格率 を年代別に纏めたものである。2012 年度の PD 資格試験 参考文献 結果の報告では、30代及び40代の受験者数及び合格者数 [1] 笹原,直本,秀,神戸 “PD資格試験開始から一年の が多いことを報告した[7]。しかしながら、2013年度以降 実施状況” 第4回保全学会予稿集,福井,2007. に制度開始時に 30~40 代の受験者であった者が、再認証 [2] 直本,笹原,秀 “PD 資格試験開始から2年の実施状 試験として40~50代の受験者となり、その合格率が非常 況” 第5回保全学会学術講演会予稿集,水戸,2008. に高かったことから、年代間の合格率の差は小さくなっ [3] 秀,笹原,直本,渡辺 “PD 資格試験開始から4年の た。 実施状況” 第 7 回保全学会学術講演会予稿集, 静岡, 50受験者数 100合格者数 2010. [4] 渡辺,笹原,東海林,秀 “PD 資格試験開始から5年 40合格率 80の実施状況” 第 8 回保全学会学術講演会特別編予稿 集, 東京, 2011. 3060[5] 笹原,直本,秀,井上 “SCC深さ測定のPD 試験受 験者の技量評価” 保全学, Vol.9 No.1, p.44, 2010. 2040[6] 渡辺,東海林,秀 “PD 資格試験開始から6年の実施 状況” 第9回保全学会予稿集, 東京, 2012. 1020[7] 渡辺,東海林,秀 “PD 資格試験開始から7年の実 施状況” 第 10 回保全学会学術講演会予稿集, 大阪, 020代 30代 年代 40代 50代以上 02013. [8] 渡辺,東海林,秀 “PD 資格試験開始から8年の実 Fig.7 年代別の受験者数、合格者数及び合格率 施状況” 第 11 回保全学会学術講演会予稿集, 八戸, 3.まとめ 2014. [9] 渡辺,東海林,秀、太田 “PD 資格試験開始から 9 2006 年3 月より開始したオーステナイト系ステンレス 年の実施状況” 第12回保全学会学術講演会予稿集, 鋼配管溶接部に対するSCC亀裂高さ(深さ)測定に関す 日立, 2015. る PD 資格試験を、2016 年 1 月までの約 10 年間で計 44 - 21 -“ “PD 資格試験開始から 10 年の実施状況“ “渡辺 恵司,Keiji WATANABE,林 山,Shan LIN,東海林 一,Hajime SHOHJI,太田 丈児,Joji OHTA