核セキュリティのための内部脅威者の自動検知技術の開発
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カテゴリ: 第13回
1.1. 原子力発電所における核セキュリティの脅威
福島第一事故後重要機器の構造などの情報がメディアを通じて発信され、これは原子力発電所における重大事故に繋がるシナリオの開示を意味し、テロリズムの脅威が増加している可能性を示唆している。Fig.1は国際原子力機関(IAEA)による核テロリズムの分類であり、核テロリズムは核兵器の盗取、核物質の盗取、ダーティーボムの製造、妨害破壊行為の4つに分類される。原子力施設の安全という観点から考えると特に注目すべきは妨害破壊行為である。
Fig.1 Threats of nuclear security
1.2. 物理的防護システム(PPS)
原子力施設におけるテロ対策システムとして物理的防 護システム(PPS)がある。PPS の主な目的はテロリスト の侵入を防ぎ行為の完遂を阻止することである。侵入さ れた場合、侵入後の位置を知る「検知」、行為完遂のため の時間を稼ぐ「遅延」、対抗手段としての外部武力である 「対応」の三つの段階がある。しかしこの PPS は問題を 抱えている。 1.3. PPS の問題点 テロリストはアウトサイダーとインサイダー(内部脅 威者)に分類され、アウトサイダーは組織外部に位置し武 力装備しており、インサイダーは組織内部に潜伏し専門 的な知識を有するという特徴がある。PPSの主な対象はア ウトサイダーでありインサイダーに対する効力は低い。 加えてインサイダーと通常作業員との区別は困難であり、 前述した様にインサイダーの自動検知には通常作業員 原子力発電所内を人力で監視することが実質不可能であ る。また侵入防護としての身辺調査等は整備予定である。 従って本研究ではインサイダーの自動検知技術の開発に 焦点を当てる。 1.4. インサイダー検知へのアプローチ との区別が必要である。また、重大事故に繋がるシナリオ を特に検知する必要からインサイダーの行為そのものを 検知する必要がある。これに対する本研究の提案は以下 連絡先:、〒113-0033 東京都文京区本郷 7 丁目 3-1、東京 大学大学院工学系研究科原子力国際専攻 E-mail : yu_ten@live.jp - 183 - の通りである。初めにインサイダーによる妨害破壊行為 をその構成要素(顔、ID、行動情報(全体姿勢、手の動き)、 所持物、等)に分解する。その後それぞれの要素ごとの解 析を行う。最後に解析結果を組み合わせることで多層的 に行為の危険度を評価する。この手法により本来不可能 である人間の行動の検知を間接的に可能とする。また、構 成要素の情報の取得には監視カメラのような動画像によ る取得が効率的であると考え本研究では動画像を対象に 解析を行うものとする。 1.5. 先行研究 一般的に画像の自動認識には機械学習、特に近年では 深層学習が用いられる。また異常検知の手法は世の中に 数多く存在している。しかしこれらの手法において動画 を対象に扱っているものはない。従って本研究における 解析対象は動画とする。これによりインサイダーの危険 行動の変化の予兆を検知することが可能となりより早期 の検知が可能となる。 1.6. インサイダーの自動検知の全体の流れ 本研究の最終的な目的であるインサイダーのけちシス テムの全体の流れは以下の通り。撮影されたインサイダ ーの妨害破壊行為から特徴量を抽出する。次にそれらを 時系列データとして解析する。その時系列データから変 化の予兆を検知する。ここで、人の全体姿勢等の体全体の 動きの情報と手の動きの情報が特に人の行動を決定づけ ていること、手の動きを取得・解析する手法が確率されて いないことから、この中でもさらに手の動きに着目し機 械学習法を用いた画像解析による特徴量の抽出のための 基礎技術の開発を行うものとする。 2.目的 インサイダーの妨害破壊行為を自動検知できるシステ ムの開発を本研究の目的とする。特に手の動きに着目し、 機械学習法を用いた画像解析により特徴量の抽出のため の基礎技術の開発を目的とする。 3. 手法 3.1. Convolutional Neural Network (CNN) 一般的に画像の自動認識には機械学習法が用いられ、 中でも画像認識の分野では Convolutional Neural Network (CNN)が非常に高性能である。本研究でもこの CNNを用いる。 CNNは畳み込み部とサブサンプリング部、全素子結合部 の三つから成り、フィルタリング処理と識別の役割を担 っている。この構造中には多くのパラメータがあり、事前 の最適化が必要なハイパーパラメータと自動更新される 学習パラメータがある。 4.結果 4.1. CNNによる手書き文字認識 CNN の画像認識における性能の確認のため手書き文字 認識(MNIST)を行った。3000枚の画像による学習を行い 500 枚の画像により検証を行ったところ、誤回答率は 5% 以下となり、非常に高い性能を示した。 4.2. 手の動きの特徴量抽出のためのデータセット の作製 事前学習のためのデータセットの作製を行った。この データセットは 600 枚の画像とそれに対するラベルで構 成されている。画像は元の画像から背景除去、トリミング 後に手の中心を画像の中心に移動させ手以外のノイズを 除去することで作製した。ラベルは各指がどの程度開い ているかを0~1の値で評価したものである。Fig.2 に 示すのは元画像とそこから作製されたデータセットの画 像の例である。 Fig.2 Raw image and image for CNN 5.結論及び課題 CNNは画像認識、特にMNISTでは非常に高性能な結果を 示した。また、CNNによる手の動きの特徴量抽出のための データセットを作製した。 今後の課題として CNN による手の動きの特徴抽出プロ グラムの作製、特徴量の解析手法の作製、解析結果からの 予兆検知手法の作製がある。 参考文献 [1] Yann LeCun, et al.: Learning Methods for Generic Object Recognition with Invariance to Pose and Lighting, CVPR, IEEE, 2004. - 184 -“ “核セキュリティのための内部脅威者の自動検知技術の開発“ “川崎 祐典,Yusuke KAWASAKI,出町 和之,Kazuyuki DEMACHI,笠原 直人,Naoto KASAHARA
福島第一事故後重要機器の構造などの情報がメディアを通じて発信され、これは原子力発電所における重大事故に繋がるシナリオの開示を意味し、テロリズムの脅威が増加している可能性を示唆している。Fig.1は国際原子力機関(IAEA)による核テロリズムの分類であり、核テロリズムは核兵器の盗取、核物質の盗取、ダーティーボムの製造、妨害破壊行為の4つに分類される。原子力施設の安全という観点から考えると特に注目すべきは妨害破壊行為である。
Fig.1 Threats of nuclear security
1.2. 物理的防護システム(PPS)
原子力施設におけるテロ対策システムとして物理的防 護システム(PPS)がある。PPS の主な目的はテロリスト の侵入を防ぎ行為の完遂を阻止することである。侵入さ れた場合、侵入後の位置を知る「検知」、行為完遂のため の時間を稼ぐ「遅延」、対抗手段としての外部武力である 「対応」の三つの段階がある。しかしこの PPS は問題を 抱えている。 1.3. PPS の問題点 テロリストはアウトサイダーとインサイダー(内部脅 威者)に分類され、アウトサイダーは組織外部に位置し武 力装備しており、インサイダーは組織内部に潜伏し専門 的な知識を有するという特徴がある。PPSの主な対象はア ウトサイダーでありインサイダーに対する効力は低い。 加えてインサイダーと通常作業員との区別は困難であり、 前述した様にインサイダーの自動検知には通常作業員 原子力発電所内を人力で監視することが実質不可能であ る。また侵入防護としての身辺調査等は整備予定である。 従って本研究ではインサイダーの自動検知技術の開発に 焦点を当てる。 1.4. インサイダー検知へのアプローチ との区別が必要である。また、重大事故に繋がるシナリオ を特に検知する必要からインサイダーの行為そのものを 検知する必要がある。これに対する本研究の提案は以下 連絡先:、〒113-0033 東京都文京区本郷 7 丁目 3-1、東京 大学大学院工学系研究科原子力国際専攻 E-mail : yu_ten@live.jp - 183 - の通りである。初めにインサイダーによる妨害破壊行為 をその構成要素(顔、ID、行動情報(全体姿勢、手の動き)、 所持物、等)に分解する。その後それぞれの要素ごとの解 析を行う。最後に解析結果を組み合わせることで多層的 に行為の危険度を評価する。この手法により本来不可能 である人間の行動の検知を間接的に可能とする。また、構 成要素の情報の取得には監視カメラのような動画像によ る取得が効率的であると考え本研究では動画像を対象に 解析を行うものとする。 1.5. 先行研究 一般的に画像の自動認識には機械学習、特に近年では 深層学習が用いられる。また異常検知の手法は世の中に 数多く存在している。しかしこれらの手法において動画 を対象に扱っているものはない。従って本研究における 解析対象は動画とする。これによりインサイダーの危険 行動の変化の予兆を検知することが可能となりより早期 の検知が可能となる。 1.6. インサイダーの自動検知の全体の流れ 本研究の最終的な目的であるインサイダーのけちシス テムの全体の流れは以下の通り。撮影されたインサイダ ーの妨害破壊行為から特徴量を抽出する。次にそれらを 時系列データとして解析する。その時系列データから変 化の予兆を検知する。ここで、人の全体姿勢等の体全体の 動きの情報と手の動きの情報が特に人の行動を決定づけ ていること、手の動きを取得・解析する手法が確率されて いないことから、この中でもさらに手の動きに着目し機 械学習法を用いた画像解析による特徴量の抽出のための 基礎技術の開発を行うものとする。 2.目的 インサイダーの妨害破壊行為を自動検知できるシステ ムの開発を本研究の目的とする。特に手の動きに着目し、 機械学習法を用いた画像解析により特徴量の抽出のため の基礎技術の開発を目的とする。 3. 手法 3.1. Convolutional Neural Network (CNN) 一般的に画像の自動認識には機械学習法が用いられ、 中でも画像認識の分野では Convolutional Neural Network (CNN)が非常に高性能である。本研究でもこの CNNを用いる。 CNNは畳み込み部とサブサンプリング部、全素子結合部 の三つから成り、フィルタリング処理と識別の役割を担 っている。この構造中には多くのパラメータがあり、事前 の最適化が必要なハイパーパラメータと自動更新される 学習パラメータがある。 4.結果 4.1. CNNによる手書き文字認識 CNN の画像認識における性能の確認のため手書き文字 認識(MNIST)を行った。3000枚の画像による学習を行い 500 枚の画像により検証を行ったところ、誤回答率は 5% 以下となり、非常に高い性能を示した。 4.2. 手の動きの特徴量抽出のためのデータセット の作製 事前学習のためのデータセットの作製を行った。この データセットは 600 枚の画像とそれに対するラベルで構 成されている。画像は元の画像から背景除去、トリミング 後に手の中心を画像の中心に移動させ手以外のノイズを 除去することで作製した。ラベルは各指がどの程度開い ているかを0~1の値で評価したものである。Fig.2 に 示すのは元画像とそこから作製されたデータセットの画 像の例である。 Fig.2 Raw image and image for CNN 5.結論及び課題 CNNは画像認識、特にMNISTでは非常に高性能な結果を 示した。また、CNNによる手の動きの特徴量抽出のための データセットを作製した。 今後の課題として CNN による手の動きの特徴抽出プロ グラムの作製、特徴量の解析手法の作製、解析結果からの 予兆検知手法の作製がある。 参考文献 [1] Yann LeCun, et al.: Learning Methods for Generic Object Recognition with Invariance to Pose and Lighting, CVPR, IEEE, 2004. - 184 -“ “核セキュリティのための内部脅威者の自動検知技術の開発“ “川崎 祐典,Yusuke KAWASAKI,出町 和之,Kazuyuki DEMACHI,笠原 直人,Naoto KASAHARA