X線2次元検出器による粗大粒のひずみ測定の研究
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カテゴリ: 第13回
1. 緒 言
2 次元検出器を利用したX線応力測定法としてこれまでcos a 法[1] 、2D 法[2] 、直接法[3] が提案されている.それらは、回折環が連続であれば、2 次元検出器で十分に応力測定が可能である.2 次元検出器を利用したX線応力測定法の標準が制定されれば、測定効率の優れた方法として普及することも期待できる.しかしながら、2 次元検出器の利用に期待されているとは、0 次元、1 次元検出器で回折の測定l難な材料の応力測定である.その代表である粗大粒、集合組織溶接部は、「X線応力測定の三大悪魔」と称され、これまでX線応力測定の困難材とされてきた.例えば、粗大粒からのX線回折は斑点状となり、それを0 次元検出器で捉えることは困難である.これに対して、2 次元検出器による回折斑点の検出は容易であり、回折斑点から精度よく回折角が測定できるのであれば、2 次元検出器によるX線応力測定の対象が格段に広がるはずである.粗大粒のひずみを測定するためには、回折斑点を利用して精度よく回折角を決定することが必要であり、回
折斑点数の確保も必要となる.回折斑点から精度の高い回折半径を得るためには、回折半径の誤差要因について詳細に解析する必要があるが、それについての詳細な研究はなされていない.本研究では、粗大粒を持つ材料の回折斑点から得られる回折半径の誤差要因について検討した結果を報告する.
2. 実験方法
2.1 材料および試験片
本研究に使用した材料は、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS316L) を用いた.材料を切り出した後、4 点曲げ試験片を機械加工にて製作した.試験片寸法は、長さ60 mm、幅10 mm、厚さ2 mm である.なお、機械加工の影響を除くため、試験片のX線測定面を電解研磨にて除去した.粗大粒の影響をみるために、Fig. 1 に示すように試験片の結晶粒を平均粒径35 m と150 m の2 種類を用意した.試験片に任意の負荷応力を与えるために、Fig. 2 に示す4 点曲げ治具を製作した.この治具の下部ボルトを回転させることにより引張応力sA を試験片に負荷できる.その負荷ひずみ# は、試験片の背面に貼ったひずみゲージにより測定した.この治具の特徴は、負荷ボルト側の円筒部をベアリングの内輪にはめ込み、曲げ応力を負荷したまま治具を回転できるところにある.この治具の回転は、後述する 法で試験片を回転させるときに役に立つ.回折領域の中心、X線照射制限マスクの中心など、中心の割り出しには、対象物を回転をさせて中心を得る機構が必要となる.本実験のように、曲げ治具が回転することで中心を決定することができ、それによりX線の照射域の中心を得ることができる.
2.2 X線測定方法本実験におけるX線条件をTable 1 に示す.高回折角に回折ピークが現れるように、Mn-Ka 特性X線を用いて-Fe の311 回折を測定した.Cr フィルターを用いてKb 線を除去した.管電圧は20 kV とし、管電流と露光時間はその都度調整した.回折中心を得るときは、W 粉末を試験片の照射領域に塗布して,W 粉末(平均粒径1 m) の220 回折を利用して回折中心を決定した.また、X線照射領域の中心と照射域制限マスク(直径3.5 mm) との中心が一致するように試料ステージで調整した.本研究では、2 次元検出器としてイメージングプレート(IP) を利用してX線回折を測定した.IP の空間分解能は垂直・水平方向ともに0.1 0.1 mm/pixel で、IP の寸法は横252 mm、高さ201 mm である.IP の読み取りは、RAXIA-Di (リガク) を使用した.読み取りした画像データは、画像処理ソフトウェアImageJ でフィルター処理を行い、詳細な解析は自作した専用プログラムで行った.
3. 結果および考察3.1π法による回折角の測定回折環が連続環であれば、試料面にX線を垂直入射する直接法で応力を測定することは十分可能である.しかしながら、回折像が粗大粒のために斑点を呈する場合、回折斑点が回折中心(X線照射域中心) に位置するとは限らない。回折半径r はFig. 3 に示すように各粒の位置ずれを含んでいる.その結果、斑点の位置が回折環からずれると、ひずみ測定における誤差の原因となる.また、回折斑点のずれが、回折中心のずれを引き起こすことも考えられる.その対策として、X線の照射域中心と回折中心を一致させ、回折斑点による中心ずれを補正する方法と“ “X線2次元検出器による粗大粒のひずみ測定の研究“ “鈴木 賢治,Kenji SUZUKI
2 次元検出器を利用したX線応力測定法としてこれまでcos a 法[1] 、2D 法[2] 、直接法[3] が提案されている.それらは、回折環が連続であれば、2 次元検出器で十分に応力測定が可能である.2 次元検出器を利用したX線応力測定法の標準が制定されれば、測定効率の優れた方法として普及することも期待できる.しかしながら、2 次元検出器の利用に期待されているとは、0 次元、1 次元検出器で回折の測定l難な材料の応力測定である.その代表である粗大粒、集合組織溶接部は、「X線応力測定の三大悪魔」と称され、これまでX線応力測定の困難材とされてきた.例えば、粗大粒からのX線回折は斑点状となり、それを0 次元検出器で捉えることは困難である.これに対して、2 次元検出器による回折斑点の検出は容易であり、回折斑点から精度よく回折角が測定できるのであれば、2 次元検出器によるX線応力測定の対象が格段に広がるはずである.粗大粒のひずみを測定するためには、回折斑点を利用して精度よく回折角を決定することが必要であり、回
折斑点数の確保も必要となる.回折斑点から精度の高い回折半径を得るためには、回折半径の誤差要因について詳細に解析する必要があるが、それについての詳細な研究はなされていない.本研究では、粗大粒を持つ材料の回折斑点から得られる回折半径の誤差要因について検討した結果を報告する.
2. 実験方法
2.1 材料および試験片
本研究に使用した材料は、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS316L) を用いた.材料を切り出した後、4 点曲げ試験片を機械加工にて製作した.試験片寸法は、長さ60 mm、幅10 mm、厚さ2 mm である.なお、機械加工の影響を除くため、試験片のX線測定面を電解研磨にて除去した.粗大粒の影響をみるために、Fig. 1 に示すように試験片の結晶粒を平均粒径35 m と150 m の2 種類を用意した.試験片に任意の負荷応力を与えるために、Fig. 2 に示す4 点曲げ治具を製作した.この治具の下部ボルトを回転させることにより引張応力sA を試験片に負荷できる.その負荷ひずみ# は、試験片の背面に貼ったひずみゲージにより測定した.この治具の特徴は、負荷ボルト側の円筒部をベアリングの内輪にはめ込み、曲げ応力を負荷したまま治具を回転できるところにある.この治具の回転は、後述する 法で試験片を回転させるときに役に立つ.回折領域の中心、X線照射制限マスクの中心など、中心の割り出しには、対象物を回転をさせて中心を得る機構が必要となる.本実験のように、曲げ治具が回転することで中心を決定することができ、それによりX線の照射域の中心を得ることができる.
2.2 X線測定方法本実験におけるX線条件をTable 1 に示す.高回折角に回折ピークが現れるように、Mn-Ka 特性X線を用いて-Fe の311 回折を測定した.Cr フィルターを用いてKb 線を除去した.管電圧は20 kV とし、管電流と露光時間はその都度調整した.回折中心を得るときは、W 粉末を試験片の照射領域に塗布して,W 粉末(平均粒径1 m) の220 回折を利用して回折中心を決定した.また、X線照射領域の中心と照射域制限マスク(直径3.5 mm) との中心が一致するように試料ステージで調整した.本研究では、2 次元検出器としてイメージングプレート(IP) を利用してX線回折を測定した.IP の空間分解能は垂直・水平方向ともに0.1 0.1 mm/pixel で、IP の寸法は横252 mm、高さ201 mm である.IP の読み取りは、RAXIA-Di (リガク) を使用した.読み取りした画像データは、画像処理ソフトウェアImageJ でフィルター処理を行い、詳細な解析は自作した専用プログラムで行った.
3. 結果および考察3.1π法による回折角の測定回折環が連続環であれば、試料面にX線を垂直入射する直接法で応力を測定することは十分可能である.しかしながら、回折像が粗大粒のために斑点を呈する場合、回折斑点が回折中心(X線照射域中心) に位置するとは限らない。回折半径r はFig. 3 に示すように各粒の位置ずれを含んでいる.その結果、斑点の位置が回折環からずれると、ひずみ測定における誤差の原因となる.また、回折斑点のずれが、回折中心のずれを引き起こすことも考えられる.その対策として、X線の照射域中心と回折中心を一致させ、回折斑点による中心ずれを補正する方法と“ “X線2次元検出器による粗大粒のひずみ測定の研究“ “鈴木 賢治,Kenji SUZUKI