コンクリート埋設物探査技術の開発

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カテゴリ: 第13回
1.諸言
国内原子力プラントでは再稼働に向けてシビアアクシデント対策規制[1]に基づく追加工事が順次進められている(Fig.1)。この際、原子炉建屋等のRC(Reinforced-Concrete) 壁や床に注水ライン等を通すための貫通穴を開けるが、RC内には鉄筋の他、切断できない各種設備への給電管や接地線等が埋設されているため、ボーリング前に図面と埋設物探査機による埋設物調査を実施し、鉄筋との干渉を回避することで誤切断事故を未然に防止している。しかし、既存のレーダ式埋設物探査機は電磁波の干渉影響で鉄筋の下方等、探査が困難な領域が存在し、その領域に隠れた埋設物を発見できないことが問題となっている。
2.コンクリート埋設物探査技術の検討
2.1 埋設物探査の状況
埋設物調査を困難なものとしている要因は次の通りで ある。埋設物探査ではレーダ式埋設物探査機を使用する が鉄筋が密に配筋された裏側や鉄筋真下等の領域は電磁 波の不要反射影響やその浸透が干渉されるため、その領 域内に埋設物が存在していても検出できない場合がある。 Upland New Coolant Injection System Shared Emergency Fresh Water Tank PCV Condensate Tank Intake Chamber RPV Heat Exchanger - 213 - Fig.1 Countermeasure of BWR severe accident Fig..2に探査困難な埋設物例を示す。井形鉄筋組の底部に 存在する埋設物は多段に組まれた鉄筋の干渉により検出 が困難である。 連絡先:隅田晃生 (株)東芝 電力・社会システム技術開発センター 〒235-8523 神奈川県横浜市磯子区新杉田町8 E-mail:akio.sumita@toshiba.co.jp Fig.2 Examples of undetectable buried object Suppression Chamber 200mm 200mm Rebar(φ38mm) Conduit Undetectable 市販の埋設物探査機でRC模擬試験体を探査した結果を Fig.3に示す。上筋から下の埋設物は検出されていない。 Bar arrangement 200mm×200mm Stiffener (φ9mm) Fig.3 Performance of buried object spacecraft 2.2 フェーズドアレイアンテナの検討 鉄筋の干渉を避けて電磁波を浸透させるには電磁波を フォーカシングさせることが有効である[2]。任意方向に 電磁波をフォーカシングする技術としてフェーズドアレ イ法がある。これは、Huygens?Fresnel principleに基づく 波の回折現象を利用して所望の指向性合成波を形成する 技術である。Fig.4 にフェーズドアレイ法の原理を示す。 Delay time of the radio wave transmission (Length of the delay line) Array antenna Beam focusing direction Fig.4 Beam scanning example of a phased array method - 214 - Rebar (φ38mm) RC test piece Exploration target (φ38mm) Undetectable Existing exploration result image (2D) 位相差を設けるには可変位相器やミキサ等を利用して 電子制御できることが望ましい。ただし、フォーカシン グ領域を限定すれば遅延線の利用が可能である。この場 合、挿入損失の増加やSN 比の低下を最小限に抑制できる ため性能面で有利となる。ここで、コンクリート中を伝 搬する電波速度ν1は比誘電率で決定され、ν1=c/λ・√εrで 求まる。電磁波の波長は分解能に影響し、例えば周波数 3GHz、比誘電率が8 の場合、波長は約35mmと気中より も短くなる。よって、埋設物探査の分解能を向上するに はRC内に浸透させる電磁波の周波数を高くすることが 望ましい。しかし一方でRC内を伝搬する電磁波の減衰 はおよそ15dB/15cm(1GHz)、30dB/15cm(3GHz)と周波数が 高くなるに従い大きくなる[3]ため、周波数帯の選定には トレードオフがある。よって今回は、ベクトルネットワ ークアナライザを利用して1GHz~5GHzをステップ入力 し、観測した反射信号を解析する際に周波数を選定でき るようにした。アンテナは小型化が可能で埋設物の各境 界からの反射波に時間的な広がりが小さく、境界の深さ を特定しやすいと言った特徴を重視してボウタイアンテ ナを選定した。アレイアンテナ素子数は、4,8,16,32につ いて検討した結果、サイズとフォーカシング特性を考慮 して一次元列16 素子とした。次に埋設物探査への適用性 を確認する目的でコンクリート中を垂直方向にフォーカ シング(焦点距離は400mmと600mm)できる遅延線長等の パラメータ条件を分析決定し、これを電磁界シミュレー ションで解析した結果、コンクリート中で電磁波が垂直 方向にフォーカシングできることを確認した。Fig.5 に焦 点距離400mm の条件で実施した電磁界シミュレーショ ン解析結果を示す。 Fig.5 Electromagnetic field simulation analysis results 決定した各パラメータ条件を基に試作した埋設物探査 装置をFig.6 に示す。 Frequency@3GHz Concrete surface 1001900/07/181900/10/26Beam focusing S/N>20dB 400 1901/05/14Concrete(εr:8) 600 Concrete(εr:8) Depth (mm) Focus point (400mm) No phase control There phase control Fig.6 Prototype system of buried object exploration 測定は当該埋設物探査機をRC上に置き、アンテナ面 をRC面に密着させた状態を維持しながら所定の距離と 間隔で走査する。反射波信号の解析処理ソフトウエアは MATLABTMを利用して開発した。更に解析処理した信号デー タは周波数選定と合成開口処理を行い探査結果のイメー ジをモニタ画面に出力表示するようにした。 3.試験体系と性能試験方法 試作した埋設物探査機の電磁波フォーカシング特性を 確認する目的でFig.7に示す試験体系を構築した。当該埋 設物探査機は横向き水平となるように固定し、3次元ステ ージに受信アンテナを取り付けて、これを電磁波の放射 領域で走査し、気中における電磁波分布を観測した(Fig.8)。 Vector network analyzer S21 S11 X-direction (550mm) Y-direction (700mm) Fig.7 Performance test system of buried objects spacecraft Receiving antenna Measurement field Prototype system Z-direction Gap(20mm) (0mm) Scanning pitch of receiving antenna is 5mm - 215 - Phase shifter (Delay line) Bowtie antenna 3D Stage Signal analyzer(PC) Vector Network Analyzer Input power:10mW(Max) 1x16 Power divider 1x16 One-dimensional column array antenna 402mm(W)×223mm(H)×50mm(D) Fig.8 Electromagnetic wave distribution in the air 観測結果から電磁波のフォーカシングを確認した。気 中の焦点距離は1/√8になるため、コンクリート換算では 約480mm相当になる。続いて、埋設物探査試験を実施す る。今回は埋設物形状や構造、位置を変更できるように 一様な比誘電率分布を再現できる珪砂槽を使用した。こ の珪砂槽中にφ3.8cm アルミ管で4段組みの井形を形成 し、その底部に探査目標としたφ1.2cm とφ3.8cmのアル ミ管を置いて埋設した(Fig.9)。測定はXYステージを利用 して中央部を起点に距離±25cm を 1cm 間隔で当該探査 装置を走査した。 Aluminum pipe φ38mm Exploration target φ38mm Exploration target φ12mm Silica sand (No.6) Scanning direction Fig.9 Test system of buried objects exploration 4.試験結果 埋設物探査試験結果をFig..10 に示す。垂直方向へのフ ォーカシングにより、上筋と井形鉄筋組底部に埋設した φ1.2cmとφ3.8cmのアルミ管が鉄筋に干渉されず検出で 250mm 80mm Beam focusing Focus point 170mm Frequency@3GHz きることを確認した。 200mm 200mm Surface of the silica sand tank 200mm 160mm 228mm φ38mm φ12mm φ38mm φ12mm φ38mm Exploration target Exploration results image (2D) Fig.10 Buried object exploration test results 5.結言 フェーズドアレイ法を応用したコンクリート埋設物探 査機を開発した。本開発機と珪砂槽を使用して探査が困 難と言われている井形鉄筋構造の底部に置かれた埋設物 を検出できる可能性を示した。今後は、RCを使用した試 験検証を進める。また、斜めのフォーカシング技術を開 発して現在は探査不可と言われている鉄筋裏に密着した 電線管等の埋設物検出にも取り組む予定である。 参考文献 [1] “実用発電用原子炉に係る新規制基準について-概要-”, 原子力規制委員会 [2] 芝田三郎、船戸一寛、“フェーズドアレイ法による欠 陥検出技術”、IIC REVIEW/2005/4. No.33、pp.27-35. [3] 吉野 涼二、遠藤 哲夫“屋内電波環境推定のための一 般建築材料の透過反射特性に関する実験的検討”, 大成建設技術センター報 第38号(2005) - 216 -“ “コンクリート埋設物探査技術の開発 “ “隅田 晃生,Akio SUMITA,尾崎 健司,Kenji OSAKI,正木 克実,Katsumi MASAKI
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