Dy箔を用いた高ガンマ線環境下での中性子ラジオグラフィ法

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カテゴリ: 第13回
1.諸言
中性子は、物質を構成する元素の原子核と相互作用して減衰する。一方、X線は、物質内の核外電子との相互作用で減衰される。よって、中性子ラジオグラフィでは、X線の減衰が小さい物質の減衰像が得られると共に、重金属で構成された物体の内部を検査することができる。 中性子ラジオグラフィは、大きく分けて直接法と間接法の2種類がある[1]。図1に直接法と間接法の概要を示す。直接法では、中性子と反応するコンバータ(Gd箔など)と銀塩フィルムを組み合わせ、被写体内部を撮像する。 一方、間接法では金属箔(Dy、In、Au など)を中性子で一旦放射化させ、その放射化した金属箔を別の場所で銀塩フィルムに転写させる。 ここで、原子力プラント内機器の検査に中性子ラジオグラフィを応用する場合を考えると、被写体が放射化しているため、環境中のガンマ線で銀塩フィルムが感光してしまう直接法は適用できない。よって、高ガンマ線環境下での中性子ラジオグラフィ法は、被写体と共に中性子を照射し、内部の透過画像を記録した金属箔を低ガンマ線環境下で銀塩フィルムに転写する必要がある。しかし、現在では、銀塩フィルムや現像液が入手し難くなっているだけでなく、アナログ撮影からデジタル撮影に移行が進んでいる。 そこで、従来の銀塩フィルムに代わる、新たな撮像媒体、および手法の開発を試みた。本報告では、金属箔を放射化させた後のイメージング方法として、1イメージングプレートへ転写する手法、および2シンチレータの発光を高感度カメラで積算撮影する手法の 2 種類につい て実験的に評価した結果を示す。
Film Gd Foil Neutron Object Direct Method Dy Foil Neutron Object Dy Foil Film (Transcription) Indirect Method Fig.1 The methods of neutron radiography 連絡先:中山幸一,〒235-8523 横浜市磯子区新杉田町8, 株式会社東芝 電力・社会システム技術開発センター E-mail: kohichi.nakayama@toshiba.co.jp 1 / 4 - 217 - Cassette HN-2016-1319 [原炉開]-16011 2.測定原理 イメージングプレートは、通常のX線フィルムに対し、 約 1,000 倍の高い感度を有する2次元放射線検出器であ る。有機フィルム上に輝尽性蛍光体が塗布されており、 放射線が入射すると、輝尽性蛍光体中の電子が励起し、 準安定状態に留まる。その後、可視領域のレーザ光を照 射することで、準安定状態から基底状態に緩和し、その 過程で発光を伴う。この発光を光電子増倍管で読み取り、 デジタル画像として記録することで、2次元の放射線検 出が可能となる[2]。 図2は、イメージングプレートへ転写する方法の原理 図である。まず、被写体と共に金属箔を中性子照射場に 設置し、金属箔を放射化させる。放射化させる金属箔と して複数の候補があるが、検査の容易さを考慮し、適度 な中性子吸収断面積(800barn)と半減期(2.3 時間)を有する Dy箔を選定した[3]。次に、放射化させたDy箔をイメー ジングプレートに密着させ、Dy箔から放出されるβ線を イメージングプレートに記録する。最後に、専用のイメ ージングプレート読み取り装置で転写された Dy 箔の放 射化像を読み取る。 図3は、シンチレータの発光を高感度カメラで積算撮 影する方法の原理図である。放射化させたDy箔をシンチ レータに密着させ、Dy箔から放出されるβ線でシンチレ ータを発光させる。このシンチレーション光を暗箱内に て高感度のカメラを用いて積算撮影することで Dy 箔の 放射化像を得る。 Radioactivation Transcription Neutron Object 3.試験方法 新たに提案した撮像手法の検証として、中性子照射試 験を実施した。中性子源としては、住重試験検査株式会 社の中性子照射施設を利用した。この中性子照射施設で は、サイクロトロン加速器で 18MeV まで陽子を加速し、 最大 20μA のビーム電流で Be ターゲットに陽子を衝突 させて中性子を発生させる。Be ターゲットの周囲には、 ポリエチレン製のモデレータが設置されており、中性子 を減速させて熱中性子が生成される。このモデレータ近 傍にコリメータが設置されており、コリメータの性能を 示すL/D の値は44である。ここで、Lはコリメータ入口 から被写体までの距離、Dはコリメータ入口の径である。 図4に照射室の概観を示す。今回撮像する試験体として、 内部に中性子吸収材(B4C)を充填した SUS 製の板を用意 した。この試験体を直接法と今回提案の手法で撮像し、 比較評価を実施した。 Dy foil (for prior confirmation) Fig.4 Irradiation chamber β β イメージングプレートは、GE Healthcare Life Sciences β 社のBAS IP SR 2040を用い、専用のカセッテに入れてDy 箔と密着させて転写を行った。一定時間転写を行った後、 イメージングプレートを取り出し、専用の読み取り装置 (Typhoon FLA 7000)で転写像の読み取りを実施した。 Fig.2 The method of imaging plate transcription 図5にシンチレータの発光を積算撮影するカメラシス Radioactivation Transcription テムの構成を示す。高感度かつノイズの少ないデジタル 一眼レフカメラを選定した。シンチレータは、高輝度で 残光時間の長いものを選択し、Gd2O2S:Eu を選定した。こ こに示すカメラシステム全体を暗箱で覆い、5分間露光撮 影を連続で実施し、転写像を取得した。 Object 2 / 4 - 218 - β Dy foil Imaging Dy foil Plate hν β β Neutron β β Dy foil Scintillator Dy foil Fig.3 The method of scintillator transcription Neutron Collimator Neutron Test Sample Indicator “TOSHIBA” Mark Film Cassette Lead oxide measure Digital single-lens reflex camera (Canon EOS 5D MarkIII) Fig.5 The configuration of the camera system 4.試験結果 図6は、試験体の透過画像であり、それぞれX 線およ び中性子を用いた撮像結果である。中性子の撮像結果は 直接法によるものであり、SUS 製の試験体内部に充填さ れている中性子吸収材(B4C)の分布が確認できる。ここで、 画像の白く見える部分が B4C の存在している領域である。 この時、サイクロトロンのビーム電流は16μA であり、 金箔の放射化量から算出した中性子フラックスは、全中 性子が1.99×105 n/cm2/s、高速中性子が2.62×104 n/cm2/s、 カドミウム比が7.6である。中性子照射時間は2 時間であ る。この直接法の撮像結果を比較用のリファレンスとし、 同様の照射条件で提案手法との比較を実施した。 X-ray Neutron Fig.6 Comparison of the photography result 図7は、イメージングプレートの転写結果をリファレ ンスと比較したものである。ここでは、中性子を 2 時間 照射後、15分の冷却時間を置いてからDy箔を取り出し、 イメージングプレートへの転写を実施した。始めに 5 分 転写した後、別のイメージングプレートに60分転写を実 施した結果を並べている。5分転写の場合でも、B4C間の 2mmの隙間やB4Cの抜けが確認できる。60分転写の場合 もほぼ同様の結果となっているが、これは放射化量が低 下しているためである。よって、放射化量が低い場合で も、転写時間を増加させることで放射化量の低さを補う adherence Scintillator (Gd2O2S:Eu) Dy foil 180 minutes multiplication photography Fig.8 Comparison with scintillator + multiplication photography 3 / 4 - 219 - Reference Imaging Plate 60 minutes transcription Fig.7 Comparison with the Imaging Plate transcription 図8は、シンチレータの積算撮影結果をリファレンス と比較したものである。イメージングプレートの場合と 同様に、中性子を2 時間照射した後、15 分間の冷却時間 を置いてからDy箔を取り出し、シンチレータに密着させ てカメラで発光を撮影した。ここで、カメラの ISO 感度 は6,400、絞りF1.4 で設定し、5分間露光撮影を連続で実 施した。試験終了後、撮影された画像を足し合わせた積 算画像を作成すると共に、同一時間分だけ積算したバッ クグラウンド画像を差し引き、最後に R 成分画像を反転 させて明るさ・コントラストの調整を行い、図8の画像 を得た。5分積算撮影の場合でも、B4C間の2mmの隙間 やB4Cの抜けを確認することができる。また、60分積算 撮影の場合では、ASTM 規格の感度インジケータ[4]内に ある幅250μm のAl スペーサを確認することができる。 全体として、積算時間が長くなるほど統計精度が良くな り、画像が鮮明になっていることも確認できる。 ことができると考えられる。 Reference 5 minutes multiplication photography Imaging Plate 5 minutes transcription 60 minutes multiplication photography 250μm Al spacer of SI Indicator HN-2016-1319 [原炉開]-16011 HN-2016-1319 [原炉開]-16011 ここまでは、典型的な中性子ラジオグラフィの中性子 フラックス105 n/cm2/s 程度の撮影結果で評価した。一方 で、実際に検査を実施する現場で、十分な中性子フラッ クスが得られない可能性が考えられる。そこで、高感度 で鮮明な画像が得られるイメージングプレートへ転写す る方法で、どの程度低いフラックスまで撮影可能かを考 察した。 図9は、サイクロトロン加速器のビーム電流を1μAと した状態で、30 分間照射し、照射終了後から35分間経過 後に1時間転写した結果である。3枚の画像は、試験体の 異なる位置を同時に撮影したものであり、いずれも十分 に B4C の分布を観察することができる。ビーム電流と中 性子フラックスは、比例関係にあると仮定すると、この 時の中性子フラックスは 1.25×104 n/cm2/s であると考え られる。 ここで、Dy箔の放射化量と転写時間からイメージング プレートへ転写されるβ線の個数を見積もる。Dy箔の厚 み0.1mmに対し、中性子フラックス1.25×104 n/cm2/s で 30 分間照射した場合、照射終了直後の放射化量は、 163Bq/cm2と計算できる。35分経過後の転写開始前では、 137Bq/cm2となり、ここから1時間転写されると、転写β 線量は、4.26×105 個/cm2と計算できる。実際に検査を実 施する場合には転写時間を1時間に限定する必要は無く、 さらに長い時間転写をすることも可能と考えられる。よ って、放射化量が転写開始時から 5%以下まで減衰する 10 時間転写の場合を例として考えると、同じ転写β線量 となるためには、転写開始前の放射化量は38Bq/cm2とな る必要がある。この時、中性子を1時間照射した後にDy 箔を取り出し、30 分経過した後に転写を開始すると仮定 すると、中性子フラックスは1.8×103 n/cm2/sと計算でき る。 以上より、放射化させたDy箔をイメージングプレート に転写する方法では、銀塩フィルムに転写する中性子ラ ジオグラフィの中性子フラックスよりも 2 桁程度低いフ ラックスでも被写体の撮影が可能になると考えられる。 Fig.9 The result of Imaging Plate transcription in a low flux condition 5.結言 高ガンマ線環境下での中性子ラジオグラフィ法として、 フィルム転写の間接法に代わるイメージング方法を実験 的に検証した。 Dy箔を放射化させた後のイメージング方法として、イ メージングプレートへの転写、およびシンチレータの発 光を高感度カメラで積算撮影の 2 種類の手法は、いずれ も短時間で直接法の画像と同様に、中性子吸収材の分布 を観察できることを確認した。 また、実用上の観点から低フラックス条件での撮像可 能性を検討し、放射化させたDy箔をイメージングプレー トへ転写する手法で、典型的な中性子ラジオグラフィの フラックスよりも2 桁低い103 n/cm2/s 程度で十分にイメ ージングができる可能性を示した。 実用化に向けては、実際に使用する中性子源の形状や 強度を考慮し、モデレータやコリメータを含めた装置の 最適化を行うことが重要である。 参考文献 [1] 日本アイソトープ協会 理工学部会 中性子イメー ジング専門研究会、“中性子イメージング技術の基礎 と応用”、2009、pp333 [2] Glenn F.Knoll、 “放射線計測ハンドブック(第4版)”、 2013、pp791 [3] 日本アイソトープ協会、“アイソトープ手帳(11版)”、 2011、pp112-123 [4] ASTM E545-91(1991) 、 ”Standard Method for Determining Image Quality in Direct Neutron Radiographic Examination”、1991 4 / 4 - 220 -“ “Dy箔を用いた高ガンマ線環境下での中性子ラジオグラフィ法“ “中山 幸一,Kohichi NAKAYAMA,山本 修治,Shuji YAMAMOTO,日塔 光一,Koichi NITTO
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