コアキャッチャーによる原子炉格納容器底部損傷防止に関する研究
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カテゴリ: 第13回
1.緒論
福島第一原子力発電所における2011年の事故のような炉心溶融の際には、高温の溶融燃料(コリウム)が圧力容器底部から格納容器に漏えいする。コリウムと格納容器のコンクリートが接触すると、コアコンクリート反応により可燃性ガスが発生し爆発のリスクが高まる。また高熱により格納容器が侵食されると、放射性物質漏えいのリスクが高まるだけでなく、その後の事故収束にも大きな影響を与える。 そのため、炉心溶融事故時にコリウムを受けとめ、冷却する皿状の構造物であるコアキャッチャーの重要性が注目され、開発が推進されている。現在開発されているコアキャッチャーの多くは、新設される炉に設置されることが前提の大型のもの[1]であり、既設炉の限られたスペースに設置するためには小型化が必須である。図1にコアキャッチャーの概略を示す。 本研究室における先行研究[2][3]より、コアキャッチャーの材料としては、品質保証のされた工業的な耐火物が望ましいことが分かっている。そこで本研究では、コアキャッチャーの材料候補として耐火煉瓦を設定し、コアキャッチャーとして利用するための基礎データの取得と実機のFEM解析を行った。 Fig.1 Installation of Core catcher
2.テルミット反応による高温溶融実験
耐火煉瓦上で酸化鉄(III)とアルミニウムの混合粉末に着火し、テルミット反応によって高温(約2000°C)の溶融物を起こした。生成された金属の混合物を炉心溶融物の模擬として使用し、材料の侵食の有無や熱伝導について調べた。溶融物の温度測定には高温用タングステンレニウム(WRe)熱電対を、内部温度の測定にはK型熱電対を使用した。熱電対の挿入位置を図2に、実験結果を図3,4に示す。 実験後の溶融物を観察したところ、溶融物は耐火煉瓦上に円形に広がり、内部には鉄が生成されていることを確認した。耐火煉瓦と溶融物は溶着しておらず、手で触れるだけで容易に分離できた。耐火煉瓦の侵食や融解は見られなかった。K型熱電対による耐火煉瓦の内部温度の測定結果を図5に示す。またWRe熱電対によるテルミット溶融物の温度測定結果を図6に示す。
Fig.2 Refractory brick Fig.3 Thermite process Fig.4 Molten material
4001900/10/261900/07/182mm 4mm 100 6mm 8mm 0:00:000 20 Time [s] 40 60 Fig.5 Internal temperature 1904/05/181400120010008006004002000 20 Time [s] 40 60 Fig.6 Thermite temperature
3.高温溶融実験のFEM解析
高温溶融実験の体系をFEM解析ソフトを用いて模擬し、 温度分布を計算した。また、実験結果と比較することで材料の熱伝導率、比熱を推定した。解析では、先に示した溶融物の温度の時間変化を参考に境界条件を設定した。 解析の結果推定した物性値を表1に示す。 Table1 Heat physical properties of refractory brick Density [kg/m3] 2890 Specific heat [J/kg・K] 1400 Thermal conductivity [W/m・K] 10
4.コアキャッチャー実機のFEM解析
高温溶融実験の解析より求められた物性値を用いて、実際に今回使用した耐火煉瓦でコアキャッチャーを作成した場合の評価を行った。解析条件の設定では福島第一原発事故を参考として、全電源喪失により核燃料の冷却が停止してから16時間後に圧力容器の下部が損傷、燃料 集合体と制御棒が原子炉格納容器内に落下したと仮定した。コアキャッチャーの寸法は、原子炉下部のペデスタル床を覆う厚さ0.1m半径3mの円形とし、解析モデルを一辺0.5mの立方体とした。コアキャッチャーの上面はコリウムによる荷重と熱の流入があり、底面は冷却水と接触し温度は一定(100°C)とした。側面は断熱境界とした。 また圧力容器から漏えいしたコリウムはすべてコアキャッチャー上にとどまることとした。解析に用いた値を表2に示す。解析結果を図7に示す。 解析の結果、耐火煉瓦表面の端部で応力が 100MPaを超えるが、耐火煉瓦内部の応力は圧縮強さ以下となることを確認した。また、材料表面の中心部では、コリウムの荷重による圧縮応力と熱応力が互いに打ち消しあい、応力が比較的小さくなることを確認した。 そのため材料の表面や端部が破損しても、全体としては形状を保ち、コアキャッチャーとしての機能を保つことができると考えられる。
Table2 Curriculum condition Component Mass [t] Fuel assembly 100 Control rod 4.8
Fig7. Stress analysis
5.結論 今回想定したような炉心溶融事故においては、実験で使用した耐火煉瓦はコアキャッチャーの素材として有効であることが確認された。一方で、燃料が落下した際の熱衝撃や、コアキャッチャーを冷却する際の熱流動等についての解析が[今後の課題である。本研究は日本保全学会コアキャッチャー分科会の研究成果の1部である。 参考文献 [1] Franc ?Ois Bouteille, Garo Azarian, Dietmar Bittermann, Joerg Brauns, Juergen Eyink.. The EPR overall approach for severe accident mitigation Nuclear Engineering and Design 236, 1464?1470. (2006). [2] 奈良林ら、溶融燃料によるMCCI反応とコアキャッチャーの 開発、2-2-B-3, 保全学会学術講演会(2014)、 [3] Marta Z. SYLWESTER,et,al., Molten Core Concrete Interaction and Development of Core Catcher(2)Thermal shock effects for advanced high temperature ceramics, 2-2-B-4, 保全学会学術講演会(2014).“ “コアキャッチャーによる原子炉格納容器底部損傷防止に関する研究“ “倉 佑希,Yuki KURA,奈良林 直,Tadashi NARABAYASHI,千葉 豪,Go CHIBA,林 司,Tsukasa HAYASHI,藤岡 隆,Takashi HUJIOKA,今野 隆博,Takahiro KONNO,西田 浩二,Koji NISHIDA
福島第一原子力発電所における2011年の事故のような炉心溶融の際には、高温の溶融燃料(コリウム)が圧力容器底部から格納容器に漏えいする。コリウムと格納容器のコンクリートが接触すると、コアコンクリート反応により可燃性ガスが発生し爆発のリスクが高まる。また高熱により格納容器が侵食されると、放射性物質漏えいのリスクが高まるだけでなく、その後の事故収束にも大きな影響を与える。 そのため、炉心溶融事故時にコリウムを受けとめ、冷却する皿状の構造物であるコアキャッチャーの重要性が注目され、開発が推進されている。現在開発されているコアキャッチャーの多くは、新設される炉に設置されることが前提の大型のもの[1]であり、既設炉の限られたスペースに設置するためには小型化が必須である。図1にコアキャッチャーの概略を示す。 本研究室における先行研究[2][3]より、コアキャッチャーの材料としては、品質保証のされた工業的な耐火物が望ましいことが分かっている。そこで本研究では、コアキャッチャーの材料候補として耐火煉瓦を設定し、コアキャッチャーとして利用するための基礎データの取得と実機のFEM解析を行った。 Fig.1 Installation of Core catcher
2.テルミット反応による高温溶融実験
耐火煉瓦上で酸化鉄(III)とアルミニウムの混合粉末に着火し、テルミット反応によって高温(約2000°C)の溶融物を起こした。生成された金属の混合物を炉心溶融物の模擬として使用し、材料の侵食の有無や熱伝導について調べた。溶融物の温度測定には高温用タングステンレニウム(WRe)熱電対を、内部温度の測定にはK型熱電対を使用した。熱電対の挿入位置を図2に、実験結果を図3,4に示す。 実験後の溶融物を観察したところ、溶融物は耐火煉瓦上に円形に広がり、内部には鉄が生成されていることを確認した。耐火煉瓦と溶融物は溶着しておらず、手で触れるだけで容易に分離できた。耐火煉瓦の侵食や融解は見られなかった。K型熱電対による耐火煉瓦の内部温度の測定結果を図5に示す。またWRe熱電対によるテルミット溶融物の温度測定結果を図6に示す。
Fig.2 Refractory brick Fig.3 Thermite process Fig.4 Molten material
4001900/10/261900/07/182mm 4mm 100 6mm 8mm 0:00:000 20 Time [s] 40 60 Fig.5 Internal temperature 1904/05/181400120010008006004002000 20 Time [s] 40 60 Fig.6 Thermite temperature
3.高温溶融実験のFEM解析
高温溶融実験の体系をFEM解析ソフトを用いて模擬し、 温度分布を計算した。また、実験結果と比較することで材料の熱伝導率、比熱を推定した。解析では、先に示した溶融物の温度の時間変化を参考に境界条件を設定した。 解析の結果推定した物性値を表1に示す。 Table1 Heat physical properties of refractory brick Density [kg/m3] 2890 Specific heat [J/kg・K] 1400 Thermal conductivity [W/m・K] 10
4.コアキャッチャー実機のFEM解析
高温溶融実験の解析より求められた物性値を用いて、実際に今回使用した耐火煉瓦でコアキャッチャーを作成した場合の評価を行った。解析条件の設定では福島第一原発事故を参考として、全電源喪失により核燃料の冷却が停止してから16時間後に圧力容器の下部が損傷、燃料 集合体と制御棒が原子炉格納容器内に落下したと仮定した。コアキャッチャーの寸法は、原子炉下部のペデスタル床を覆う厚さ0.1m半径3mの円形とし、解析モデルを一辺0.5mの立方体とした。コアキャッチャーの上面はコリウムによる荷重と熱の流入があり、底面は冷却水と接触し温度は一定(100°C)とした。側面は断熱境界とした。 また圧力容器から漏えいしたコリウムはすべてコアキャッチャー上にとどまることとした。解析に用いた値を表2に示す。解析結果を図7に示す。 解析の結果、耐火煉瓦表面の端部で応力が 100MPaを超えるが、耐火煉瓦内部の応力は圧縮強さ以下となることを確認した。また、材料表面の中心部では、コリウムの荷重による圧縮応力と熱応力が互いに打ち消しあい、応力が比較的小さくなることを確認した。 そのため材料の表面や端部が破損しても、全体としては形状を保ち、コアキャッチャーとしての機能を保つことができると考えられる。
Table2 Curriculum condition Component Mass [t] Fuel assembly 100 Control rod 4.8
Fig7. Stress analysis
5.結論 今回想定したような炉心溶融事故においては、実験で使用した耐火煉瓦はコアキャッチャーの素材として有効であることが確認された。一方で、燃料が落下した際の熱衝撃や、コアキャッチャーを冷却する際の熱流動等についての解析が[今後の課題である。本研究は日本保全学会コアキャッチャー分科会の研究成果の1部である。 参考文献 [1] Franc ?Ois Bouteille, Garo Azarian, Dietmar Bittermann, Joerg Brauns, Juergen Eyink.. The EPR overall approach for severe accident mitigation Nuclear Engineering and Design 236, 1464?1470. (2006). [2] 奈良林ら、溶融燃料によるMCCI反応とコアキャッチャーの 開発、2-2-B-3, 保全学会学術講演会(2014)、 [3] Marta Z. SYLWESTER,et,al., Molten Core Concrete Interaction and Development of Core Catcher(2)Thermal shock effects for advanced high temperature ceramics, 2-2-B-4, 保全学会学術講演会(2014).“ “コアキャッチャーによる原子炉格納容器底部損傷防止に関する研究“ “倉 佑希,Yuki KURA,奈良林 直,Tadashi NARABAYASHI,千葉 豪,Go CHIBA,林 司,Tsukasa HAYASHI,藤岡 隆,Takashi HUJIOKA,今野 隆博,Takahiro KONNO,西田 浩二,Koji NISHIDA