配管破損時の流体漏洩挙動に関する研究

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カテゴリ: 第13回
1.諸言
原子力プラントの定期検査における検査箇所数は、新規制基準対応に伴う安全関連機器の新規・追加設置により、増大する見込みである。検査資源を限ればその分散により機器故障リスクは増大し、逆に検査資源を増やせば検査期間が従来比で延伸し稼働率の低下を招く可能性 がある。軽水炉プラントの安全性を維持しつつ、検査資源の効率的な最適配分に基づく保全体系の適正化に向けた取り組みの先駆的な実施が必要である。本研究においては、軽水炉プラントの中で検査箇所数が多く保全管理の改善の余地がある系統配管を対象に、供給信頼性や作業安全への影響の評価に基づく検査の最適化を目指す。 軽水炉プラントのタービン建屋内の主要系統配管は、 大半が安全機能の重要度の低いクラスに分類される。当該系統配管に対する検査として多く実施されているものは、配管減肉に対応した肉厚検査である。配管減肉に対する肉厚管理箇所数は、2004 年の美浜発電所の配管破損 事故後の調査[1]に基づけば、一基あたりの単純平均(当時 52 基)で約 2,800 箇所に上る。その後に日本機械学会(JSME)にて策定された規格群[2]に則り、各プラントで肉厚測定に基づく配管減肉管理が実施されてきた。
[入力事項] 評価対象系統配管の抽出と条件把握 配管の欠陥形状評価 (劣化予測モデル評価、実機データ分析等) 配管の破損限界肉厚評価 (劣化配管の構造解析、既存評価手法参照等) 配管破損確率のモデル化 [出力・入力事項] 破損開口面積 配管破損時流体漏洩挙動評価 (小規模実験・流動解析・データベース構築) 保全重要度のモデル化 Fig.1 Action Item in this study 2.本研究の実施項目 検査箇所数が多く、安全重要度が低い系統配管に対す る保全重要度[3]の設定においては、「劣化事象による配管 破損確率」と「配管破損時の各種影響度」に基づき評価 されるリスクの大小に応じて、時間基準保全・状態基準 保全・事後保全といった保全方式を選定することを想定 する。これら 2 つの軸の定量化に向けて、図 1 のような 項目の実施を計画している。当該項目の中で、「配管の限 界肉厚評価」や「破損開口面積評価」においては、既存 連絡先: 渡辺瞬、〒240-0196神奈川県横須賀市 長坂2-6-1、一般財団法人 電力中央研究所 E-mail: w-shun@criepi.denken.or.jp 知見として米国機械学会(ASME)の事例規格[4]やJSME の配管破損防護設計規格[5]に記載された評価手法が、劣化 - 228 - おいて圧力開放時の流体挙動が計測される。高温水と蒸 や損傷の条件によっては参照可能である。「配管破損時流 体漏洩挙動評価」においては、流体漏洩実験設備を導入 気の供給を選択することが可能であり、前者の場合には、 し、実験的なアプローチを行う。なお、本研究成果のプ 圧力開放と同時に密度変化によるフラッシング現象を模 ラント保全活動に対する具体的な反映については、電気 擬することができる。実プラントにおいては、腐食や壊 事業・規制当局・学協会の今後の動向を踏まえ、関係者 食といった様々な配管の劣化事象に伴い、配管に生じる と充分に協議の上、最適な方法を模索する。 損傷モードも多様なことから、流体噴射ノズルの形状を、 3.配管破損時の流体漏洩に関わる既存知見 き裂、ピンホール、全周破断の 3 条件から選択できるよ うになっている。各々の損傷モードに対し、開口面積を 図1における実施項目の足がかりとして、「配管破損時 パラメータに設定することで、高温水と蒸気それぞれの 流体漏洩挙動評価」を行うために、流体漏洩現象に関わ 漏洩挙動を系統的に計測することが可能である。本実験 る既存知見を調査した。プラントにおいて高エネルギー 設備で取得される流体の温度、圧力、衝突荷重および拡 配管が破損した際には、噴流の衝突による機器の健全性 散面積を基に、既存知見で網羅されていなかった流体条 や人身安全などへの影響や、被水による機器影響が発生 件におけるデータベースを構築する。 することが考えられる。国内では、JSMEの配管破損防護 設計規格[5]において、噴流の影響範囲の簡易的な評価手法 が記載されている。本規格の内容に対して根拠となる実 験データは衝突荷重のデータが多く、流速分布や噴流形 状などの詳細な流動構造に関するデータは少ない。さら に、JSME規格に引用された研究として、実規模の流体漏 洩実験[6]が挙げられる。冷却材喪失事故(LOCA)条件を 想定して実施された当実験では、実機の圧力条件を模擬 した実験体系から、漏洩流体の衝突荷重や温度の計測、 ならびに漏洩流体が配管に及ぼす反力の評価が行われた。 これらの既存研究においては、安全機能の重要度が高い 系統を対象にした条件(BWR:約7MPa、PWR:約15MPa) のデータが中心に集められており、本研究のターゲット であるタービン建屋内の主要系統配管の条件(およそ 2MPa以下)とは異なる。また、水(高温水のフラッシン グ)と蒸気では密度の違いから影響範囲が異なると考え られるが、現状では画一的な評価がなされており、適用 性について確認する必要がある。 4.流体漏洩実験設備の導入 図 2 は、本研究において導入した流体漏洩実験設備の 概略図である。実験設備は、小口径配管の破断時におけ る流体漏洩挙動の詳細特性を計測し、配管条件パラメー タ(配管口径・圧力・温度・流量・流出体系)に対する 基礎的なデータベースを整備することを目的としている。 温水タンク、高温水循環ループ、蒸気設備(ボイラ、過 熱器)、蒸気供給ライン、温水タンク加圧ライン、噴射室 および計測系から設備が構成される。実験は上限 2MPa をターゲットとする圧力条件によって行われ、噴射室に SV Fig.2 Schematic diagram of experimental equipment 参考文献 [1] 原子力安全・保安院、“配管減肉事象に係る点検に関 する報告徴収結果について”、2004 [2] 日本機械学会、発電用設備規格 JSME S CA1-2005、 発電用原子力設備規格 JSME S NG1-2006、JSME S NH1-2006 [3] 日本電気協会、原子力発電所の保守管理規程 JEAC 4209-2014 [4] ASME Code Case 597-2, “Requirements for analytical evaluation of pipe wall thinning”, Section XI, Division 1, 2003 [5] 日本機械学会、発電用原子力設備規格 配管破損防 護設計規格 JSME S ND1-2002 [6] T. Isozaki and S. Miyazono., “Experimental Study of Jet Discharging Test Results Under BWR and PWR Loss of Coolant Accident Conditions”, Nuclear Engineering and Design, Vol. 96, 1986, pp. 1-9 - 229 - 蒸気供給ライン 温水タンク加圧ライン レーザー SV 高速度 カメラ 加熱器 噴射室 過熱器 蒸気ボイラ 高温水循環ループ 循環ポンプ P 設定圧 2.5MPa 温水タンク 容積 ~1.0m3 圧力 2.0MPa 温度 < 210°C P“ “配管破損時の流体漏洩挙動に関する研究“ “渡辺 瞬,Shun WATANABE,米田 公俊,Kimitoshi YONEDA
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