フェーズドアレイUTによる溶接部探傷試験条件の最適化
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カテゴリ: 第13回
1.はじめに
体積試験法の一つである超音波探傷試験法では、フェ ーズドアレイ技術の導入により従来型の固定角の斜角探触子を用いた探傷試験(以下従来法と呼ぶ)に比べ探傷試験や探傷結果の解釈が効率的に実施できる可能性があり、フェーズドアレイ法の実用化に向けた研究開発が多数行われている[1]。従来法とフェーズドアレイ法を同様に扱う(従来法にかえてフェーズドアレイ法を適用する)ためには、フェーズドアレイ法による探傷結果が従来法と同等かどうかを把握することが重要となる。著者らは これまで、探触子から発生する音場の同等性に着目して従来法とフェーズドアレイ法の同等性について検討し、高屈折角での制約やグレーティングローブの発生等について留意すべき点はあるものの、適正な設定条件のもとではフェーズドアレイ探触子から発生する音場と、固定角の斜角探触子から発生する音場が同等であることを確認してきた[2]。また、従来法の代替を想定した探傷方法 の検討も行われている[3],[4],[5]。本研究では、定期的な探傷試験あるいは過去の試験結果との整合性が必要な試験に対してフェーズドアレイ法 を適用することを想定し、従来法と同等な探傷結果が得られつつ効率的な探傷を行うためのフェーズドアレイ法の試験条件を検討している。本報では、最も基本的な対象部の一つである炭素鋼平板突合せ溶接部に対して、溶接部と探触子間の距離を固定したセクター走査による探傷を適用する際に、探触子の設置位置ときずの検出状況を比較するとともに、JIS Z 3060に準拠して実施した従来法による探傷結果や放射線透過試験結果等と比較した結果を示す。
2.溶接試験体 試験体は約 400mm×約 200mm、板厚 12mm の炭素鋼 平板(材質 SM490)2 枚を突合せ溶接(V 開先、開先角 度 60°)した約 400mm×400mm であり、溶接部内に意 図的に融合不良や溶込み不足、割れ等を複数個所に付与 した。 なお、付与した溶接欠陥の状況は、JIS Z 3104:1995 に 従い放射線透過試験を行い把握した。 3.超音波探傷試験方法 3.1 従来法 従来法はJIS Z 3060:2002に準拠した手動探傷とし、探 触子は周波数4MHz横波70°斜角探触子を使用し、検出 レベルは L 検出レベル(DAC25%)に設定した。表1に 主な探傷条件を示す。後述するフェーズドアレイ法によ る探傷結果との比較では、検出したきずのエコー高さの 連絡先:古川敬、〒230-0044 横浜市鶴見区弁天町14‐ 1、一般財団法人発電設備技術検査協会、 E-mail: furukawa-takashi@japeic.or.jp 領域、指示長さ(L 線を越える指示範囲)および H 線を 超える指示範囲を評価の項目とした。 - 262 - 3.2 フェーズドアレイ法 フェーズドアレイ法は ISO13588:2012(Non-destructive testing of welds -- Ultrasonic testing -- Use of automated phased array technology)の”S-scan at fixed probe position to weld (line scan)”に準拠して実施した。具体的な手順は、きず の検出方法には、TCG (Time corrected gain)を設定して、φ 3mm 横穴からのエコー高さに対し-12dB(以下 L 線相当 と呼ぶ)を超える振幅を評価対象の指示とした。きずの 評価方法は、溶接部と探触子間の距離を変えずにセクタ ー走査内で最大エコー高さの領域、L 線相当を超える指 示範囲およびφ3mm 横穴からのエコー高さ(以下H線相 当と呼ぶ)を超える指示範囲を評価項目とした。表1に 主な探傷条件を示す。 溶接部と探触子間の距離は、試験範囲全体に超音波ビ ームが当たるかという点と、溶接欠陥の発生が最も懸念 される領域にどの様に超音波ビームが当たるか、を考慮 して位置を検討した。図 1 に溶接欠陥の発生が最も懸念 される領域の例を示す。各々1ルート部、2溶接部の表 面近傍、3溶接線越えの反探触子側の開先面(便宜上、 右開先面と呼ぶ)、4探触子側の開先面(便宜上、左開先 面と呼ぶ)、5溶接中央部を想定した。各領域に当たる超 音波ビームと検出性の関連を把握するため、市販のツー ル(ES Beam Tool 6)を用い、図2に示す3種類の溶接部 と探触子間の距離を選定した。各領域に当たる超音波ビ ームを表2 にまとめて示す。 表1 主な探傷試験条件 フェーズドアレイ法 従来法 探傷器 栄進化学MC-256 菱電湘南UI-25 探触子/く さび 4MHz 0.5mm ピッチ-16ch 8x9 相当(GE 115-500-013)/入 射角36°(GE 118-350-024) 4M8x9A70 (GE MWB70-4) 標準試験片 - STB-A1 対比試験片 RB-41 No.2 探傷方向 両側 走査方法 溶接部と探触子間距離固定 (図2 参照) 矩形走査(手動) 走査範囲 40°~75°/1°刻み 0.5S, 1S, 1.5S, 2S 0.5S, 1S 検出レベル L 検出レベル(TCGを設定) L 検出レベル - 263 - 図1 溶接欠陥の発生が懸念される領域の例 (a)溶接線から探触子前面までの距離15mm(オフセット15mm) (b)溶接線から探触子前面までの距離30mm(オフセット30mm) (c)溶接線から探触子前面までの距離40mm(オフセット40mm) 図2 溶接部と探触子間の距離と各領域に当たる超音波ビーム 表2 超音波ビームの当たり方 オフセット 15mm オフセット 30mm オフセット 40mm 試験範囲(溶接部) 全体 0.5S, 1S 0.5S, 1S, 1.5S 1S, 1.5S, 2S 1 ルート部 0.5S: 60°~ 67° 0.5S: 71°~ 74° 1.5S: 47°~ 52° 1.5S: 53°~ 57° 2 表面近傍 1S: 40°~ 55° 1S: 54°~ 71° 2S: 40°~ 42° 1S: 60°~ 67° 2S: 43°~ 51° 1S: 3 右開先面 1S: 40°~ 55°~ 1S: 61°~ 60° 60° 75° 2S: 43°~ 55° 4 左開先面 0.5S: 65°~ 70° 1.5S: 40°~ 50° 1.5S: 55°~ 66° 5 中央部 0.5S: 63°~ 75° 1S: 47°~ 63° 1.5S: 40°~ 48° 1.5S: 50°~ 62° 0.5S: 72~75° 1S: 58°~ 72° 1.5S: 49°~ 58° 2S: 41°~ 49° 1S: 65°~ 75° 1.5S: 54°~ 65° 2S: 47°~ 54° 4.超音波探傷試験結果 従来法の探傷試験結果を、表 3 に示す。従来法では 7 か所にきずが検出された。きず番号 No.1 と No.6 は領域 II(DAC25%~DAC50%)であったが、他のきず番号No.2 からNo.5およびNo.7は領域IV(DAC100%越え)のきず であった。図 3 は、検出したきずの指示範囲を平面図で 表示したものであり、L 線を超える範囲と H 線を超える 範囲を各々上下に図示した。 図 4 はフェーズドアレイ法の探傷結果であり、図 4(a) から(c)は各々オフセットが15mm, 30mm, 40mm における B, C, D スコープ画像である。D スコープ内にまるで囲っ たところが検出したきずである。きず番号は表 3 に対応 させて表記した。フェーズドアレイ法ではきず番号 No.6 は検出不可であったが、それ以外は検出された。 オフセットの違いによる、きず検出性に差異があるも のの主な結果を以下に記す。きず番号No.5は、深さが裏 面付近にありオフセット 30mm で最も明瞭に検出されて いる(領域 IV)。これは、オフセット 30mm ではルート部 に 0.5S で 71°~74°、1.5S では47°~52°で当たるの に対して、オフセット15mm では0.5Sで60°~65°およ びオフセット40mmでは1.5Sで53°~57°であり、きず No.5 がルート部の溶込み不足あるいは垂直な割れと推測 すると、反射率から妥当な結果と考えられる。きず番号 No.4とNo.7は、それらの反射源位置から開先面(左開先 面)の融合不良と推定されるが、オフセット 30mm およ - 264 - び40mmでは明瞭に検出されている(領域IV)のに対し、 オフセット15mm では領域II であった。この理由は、開 先の角度が約 30°程度とした場合に、オフセット 30mm および 40mm では左開先面にほぼ垂直(60°付近)に入 射するが、オフセット 15mm では角度がズレたためと考 えられる。また、オフセット 15mm ではルート部近傍に 裏波エコーと推定される多数の指示が生じており、それ らの識別が煩雑であった。 図 5 に 3 条件でのフェーズドアレイ法によるきず指示 範囲と従来法によるきず指示範囲を比較して示す。これ らの指示範囲は、セクター走査内で最大の振幅がH 線相 当あるいは L 線相当を超える範囲であり、溶接部と探触 子間の距離は固定である。きず番号 No.3 から No.5 およ びNo.7については、オフセット30mm および40mmで従 来法とほぼ同程度の結果であった。領域 II のきず番号 No.6 については、フェーズドアレイ法の逆方向の探傷で 検出レベル未満の指示は確認できており、きず番号 No.2 についても同一断面内に複数のきずがあると考えられる。 図 6 に示す放射線透過試験の結果と比較すると、きず 番号No.1はフィルムに写っていないことから形状エコー を誤認識したものと考えられる。 表3 従来法で検出したきず きず番号 最大エコー L 線越え範囲 (mm) H線越え範囲 d (mm) k (mm) 領域 (mm) No. 1 7.3 -1 II 70~97 - No. 2 9.2 0 IV 99~110 103~104 No. 3 4.9 0 IV 129~144 131~139 No. 4 4.6 -3 IV 153~193 181~189 No. 5 10.5 0 IV 218~236 222~231 No. 6 7.2 1 II 271~274 - No. 7 4.0 -4 IV 283~319 301~308 図3 従来法で検出したきずの指示範囲 (a)オフセット 15mm (b)オフセット 30mm (c)オフセット 40mm 図4 フェーズドアレイ法による探傷試験結果の例 図5 きず指示範囲の比較 図6 放射線透過試験結果 - 265 - 効率的な探傷が期待できるフェーズドアレイ法におい て、溶接部と探触子間の距離を固定したセクター走査に よる探傷を適用する際の探触子位置の決め方について検 討し、従来法ときず検出性を比較した。フェーズドアレ イ法でも従来法と同様にエコー高さに基づく評価を採用 した場合に、セクター走査内で最大の振幅がH 線相当あ るいは L 線相当を超える範囲をきずの指示範囲とした場 合、従来法とほぼ同程度の指示範囲となる結果であった。 今後、他の種類の板厚や開先形状に対しても検討範囲を 広げる予定である。 参考文献 [1]廣瀬壮一“特集 フェーズドアレイ超音波探傷”,非破 壊検査Vol.62,No.2、2013、pp.75-101 [2]上山芳教、古川敬“超音波可視化技術を用いたフェー ズドアレイUT法の適用性評価”、発電技検技術レビ ュー、Vol.9、2013、pp.6-10 [3]古川敬、古村一朗“現行の規格に準拠したきず検出へ のPhased array UTの適用”、平成20 年度日本非破壊 検査協会秋季大会講演概要集、2008、pp.15-16 [4]山本優一郎 “従来UT法へのPA法応用可能性”、第 16回超音波による非破壊評価シンポジウム講演論文 集、2009、pp.139-144 [5]中川真一、矢本守、冨田忠照 “手動フェイズドアレ イ法による鋼溶接部のきず検出性に関する検討”、平 成 21 年度日本非破壊検査協会春季大会講演概要集、 2009、pp.5-6 5.まとめ“ “フェーズドアレイUTによる溶接部探傷試験条件の最適化“ “古川 敬,Takashi FURUKAWA,上山 芳教,Yoshinori KAMIYAMA
体積試験法の一つである超音波探傷試験法では、フェ ーズドアレイ技術の導入により従来型の固定角の斜角探触子を用いた探傷試験(以下従来法と呼ぶ)に比べ探傷試験や探傷結果の解釈が効率的に実施できる可能性があり、フェーズドアレイ法の実用化に向けた研究開発が多数行われている[1]。従来法とフェーズドアレイ法を同様に扱う(従来法にかえてフェーズドアレイ法を適用する)ためには、フェーズドアレイ法による探傷結果が従来法と同等かどうかを把握することが重要となる。著者らは これまで、探触子から発生する音場の同等性に着目して従来法とフェーズドアレイ法の同等性について検討し、高屈折角での制約やグレーティングローブの発生等について留意すべき点はあるものの、適正な設定条件のもとではフェーズドアレイ探触子から発生する音場と、固定角の斜角探触子から発生する音場が同等であることを確認してきた[2]。また、従来法の代替を想定した探傷方法 の検討も行われている[3],[4],[5]。本研究では、定期的な探傷試験あるいは過去の試験結果との整合性が必要な試験に対してフェーズドアレイ法 を適用することを想定し、従来法と同等な探傷結果が得られつつ効率的な探傷を行うためのフェーズドアレイ法の試験条件を検討している。本報では、最も基本的な対象部の一つである炭素鋼平板突合せ溶接部に対して、溶接部と探触子間の距離を固定したセクター走査による探傷を適用する際に、探触子の設置位置ときずの検出状況を比較するとともに、JIS Z 3060に準拠して実施した従来法による探傷結果や放射線透過試験結果等と比較した結果を示す。
2.溶接試験体 試験体は約 400mm×約 200mm、板厚 12mm の炭素鋼 平板(材質 SM490)2 枚を突合せ溶接(V 開先、開先角 度 60°)した約 400mm×400mm であり、溶接部内に意 図的に融合不良や溶込み不足、割れ等を複数個所に付与 した。 なお、付与した溶接欠陥の状況は、JIS Z 3104:1995 に 従い放射線透過試験を行い把握した。 3.超音波探傷試験方法 3.1 従来法 従来法はJIS Z 3060:2002に準拠した手動探傷とし、探 触子は周波数4MHz横波70°斜角探触子を使用し、検出 レベルは L 検出レベル(DAC25%)に設定した。表1に 主な探傷条件を示す。後述するフェーズドアレイ法によ る探傷結果との比較では、検出したきずのエコー高さの 連絡先:古川敬、〒230-0044 横浜市鶴見区弁天町14‐ 1、一般財団法人発電設備技術検査協会、 E-mail: furukawa-takashi@japeic.or.jp 領域、指示長さ(L 線を越える指示範囲)および H 線を 超える指示範囲を評価の項目とした。 - 262 - 3.2 フェーズドアレイ法 フェーズドアレイ法は ISO13588:2012(Non-destructive testing of welds -- Ultrasonic testing -- Use of automated phased array technology)の”S-scan at fixed probe position to weld (line scan)”に準拠して実施した。具体的な手順は、きず の検出方法には、TCG (Time corrected gain)を設定して、φ 3mm 横穴からのエコー高さに対し-12dB(以下 L 線相当 と呼ぶ)を超える振幅を評価対象の指示とした。きずの 評価方法は、溶接部と探触子間の距離を変えずにセクタ ー走査内で最大エコー高さの領域、L 線相当を超える指 示範囲およびφ3mm 横穴からのエコー高さ(以下H線相 当と呼ぶ)を超える指示範囲を評価項目とした。表1に 主な探傷条件を示す。 溶接部と探触子間の距離は、試験範囲全体に超音波ビ ームが当たるかという点と、溶接欠陥の発生が最も懸念 される領域にどの様に超音波ビームが当たるか、を考慮 して位置を検討した。図 1 に溶接欠陥の発生が最も懸念 される領域の例を示す。各々1ルート部、2溶接部の表 面近傍、3溶接線越えの反探触子側の開先面(便宜上、 右開先面と呼ぶ)、4探触子側の開先面(便宜上、左開先 面と呼ぶ)、5溶接中央部を想定した。各領域に当たる超 音波ビームと検出性の関連を把握するため、市販のツー ル(ES Beam Tool 6)を用い、図2に示す3種類の溶接部 と探触子間の距離を選定した。各領域に当たる超音波ビ ームを表2 にまとめて示す。 表1 主な探傷試験条件 フェーズドアレイ法 従来法 探傷器 栄進化学MC-256 菱電湘南UI-25 探触子/く さび 4MHz 0.5mm ピッチ-16ch 8x9 相当(GE 115-500-013)/入 射角36°(GE 118-350-024) 4M8x9A70 (GE MWB70-4) 標準試験片 - STB-A1 対比試験片 RB-41 No.2 探傷方向 両側 走査方法 溶接部と探触子間距離固定 (図2 参照) 矩形走査(手動) 走査範囲 40°~75°/1°刻み 0.5S, 1S, 1.5S, 2S 0.5S, 1S 検出レベル L 検出レベル(TCGを設定) L 検出レベル - 263 - 図1 溶接欠陥の発生が懸念される領域の例 (a)溶接線から探触子前面までの距離15mm(オフセット15mm) (b)溶接線から探触子前面までの距離30mm(オフセット30mm) (c)溶接線から探触子前面までの距離40mm(オフセット40mm) 図2 溶接部と探触子間の距離と各領域に当たる超音波ビーム 表2 超音波ビームの当たり方 オフセット 15mm オフセット 30mm オフセット 40mm 試験範囲(溶接部) 全体 0.5S, 1S 0.5S, 1S, 1.5S 1S, 1.5S, 2S 1 ルート部 0.5S: 60°~ 67° 0.5S: 71°~ 74° 1.5S: 47°~ 52° 1.5S: 53°~ 57° 2 表面近傍 1S: 40°~ 55° 1S: 54°~ 71° 2S: 40°~ 42° 1S: 60°~ 67° 2S: 43°~ 51° 1S: 3 右開先面 1S: 40°~ 55°~ 1S: 61°~ 60° 60° 75° 2S: 43°~ 55° 4 左開先面 0.5S: 65°~ 70° 1.5S: 40°~ 50° 1.5S: 55°~ 66° 5 中央部 0.5S: 63°~ 75° 1S: 47°~ 63° 1.5S: 40°~ 48° 1.5S: 50°~ 62° 0.5S: 72~75° 1S: 58°~ 72° 1.5S: 49°~ 58° 2S: 41°~ 49° 1S: 65°~ 75° 1.5S: 54°~ 65° 2S: 47°~ 54° 4.超音波探傷試験結果 従来法の探傷試験結果を、表 3 に示す。従来法では 7 か所にきずが検出された。きず番号 No.1 と No.6 は領域 II(DAC25%~DAC50%)であったが、他のきず番号No.2 からNo.5およびNo.7は領域IV(DAC100%越え)のきず であった。図 3 は、検出したきずの指示範囲を平面図で 表示したものであり、L 線を超える範囲と H 線を超える 範囲を各々上下に図示した。 図 4 はフェーズドアレイ法の探傷結果であり、図 4(a) から(c)は各々オフセットが15mm, 30mm, 40mm における B, C, D スコープ画像である。D スコープ内にまるで囲っ たところが検出したきずである。きず番号は表 3 に対応 させて表記した。フェーズドアレイ法ではきず番号 No.6 は検出不可であったが、それ以外は検出された。 オフセットの違いによる、きず検出性に差異があるも のの主な結果を以下に記す。きず番号No.5は、深さが裏 面付近にありオフセット 30mm で最も明瞭に検出されて いる(領域 IV)。これは、オフセット 30mm ではルート部 に 0.5S で 71°~74°、1.5S では47°~52°で当たるの に対して、オフセット15mm では0.5Sで60°~65°およ びオフセット40mmでは1.5Sで53°~57°であり、きず No.5 がルート部の溶込み不足あるいは垂直な割れと推測 すると、反射率から妥当な結果と考えられる。きず番号 No.4とNo.7は、それらの反射源位置から開先面(左開先 面)の融合不良と推定されるが、オフセット 30mm およ - 264 - び40mmでは明瞭に検出されている(領域IV)のに対し、 オフセット15mm では領域II であった。この理由は、開 先の角度が約 30°程度とした場合に、オフセット 30mm および 40mm では左開先面にほぼ垂直(60°付近)に入 射するが、オフセット 15mm では角度がズレたためと考 えられる。また、オフセット 15mm ではルート部近傍に 裏波エコーと推定される多数の指示が生じており、それ らの識別が煩雑であった。 図 5 に 3 条件でのフェーズドアレイ法によるきず指示 範囲と従来法によるきず指示範囲を比較して示す。これ らの指示範囲は、セクター走査内で最大の振幅がH 線相 当あるいは L 線相当を超える範囲であり、溶接部と探触 子間の距離は固定である。きず番号 No.3 から No.5 およ びNo.7については、オフセット30mm および40mmで従 来法とほぼ同程度の結果であった。領域 II のきず番号 No.6 については、フェーズドアレイ法の逆方向の探傷で 検出レベル未満の指示は確認できており、きず番号 No.2 についても同一断面内に複数のきずがあると考えられる。 図 6 に示す放射線透過試験の結果と比較すると、きず 番号No.1はフィルムに写っていないことから形状エコー を誤認識したものと考えられる。 表3 従来法で検出したきず きず番号 最大エコー L 線越え範囲 (mm) H線越え範囲 d (mm) k (mm) 領域 (mm) No. 1 7.3 -1 II 70~97 - No. 2 9.2 0 IV 99~110 103~104 No. 3 4.9 0 IV 129~144 131~139 No. 4 4.6 -3 IV 153~193 181~189 No. 5 10.5 0 IV 218~236 222~231 No. 6 7.2 1 II 271~274 - No. 7 4.0 -4 IV 283~319 301~308 図3 従来法で検出したきずの指示範囲 (a)オフセット 15mm (b)オフセット 30mm (c)オフセット 40mm 図4 フェーズドアレイ法による探傷試験結果の例 図5 きず指示範囲の比較 図6 放射線透過試験結果 - 265 - 効率的な探傷が期待できるフェーズドアレイ法におい て、溶接部と探触子間の距離を固定したセクター走査に よる探傷を適用する際の探触子位置の決め方について検 討し、従来法ときず検出性を比較した。フェーズドアレ イ法でも従来法と同様にエコー高さに基づく評価を採用 した場合に、セクター走査内で最大の振幅がH 線相当あ るいは L 線相当を超える範囲をきずの指示範囲とした場 合、従来法とほぼ同程度の指示範囲となる結果であった。 今後、他の種類の板厚や開先形状に対しても検討範囲を 広げる予定である。 参考文献 [1]廣瀬壮一“特集 フェーズドアレイ超音波探傷”,非破 壊検査Vol.62,No.2、2013、pp.75-101 [2]上山芳教、古川敬“超音波可視化技術を用いたフェー ズドアレイUT法の適用性評価”、発電技検技術レビ ュー、Vol.9、2013、pp.6-10 [3]古川敬、古村一朗“現行の規格に準拠したきず検出へ のPhased array UTの適用”、平成20 年度日本非破壊 検査協会秋季大会講演概要集、2008、pp.15-16 [4]山本優一郎 “従来UT法へのPA法応用可能性”、第 16回超音波による非破壊評価シンポジウム講演論文 集、2009、pp.139-144 [5]中川真一、矢本守、冨田忠照 “手動フェイズドアレ イ法による鋼溶接部のきず検出性に関する検討”、平 成 21 年度日本非破壊検査協会春季大会講演概要集、 2009、pp.5-6 5.まとめ“ “フェーズドアレイUTによる溶接部探傷試験条件の最適化“ “古川 敬,Takashi FURUKAWA,上山 芳教,Yoshinori KAMIYAMA