ケミカルアンカの検査技術開発
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カテゴリ: 第13回
1.緒言
原子力発電所では機器・構造物をコンクリート基礎に固定するため、様々なボルトが用いられている。 具体的には、埋め込み基礎ボルトと後打ちアンカに大別される。後打ちアンカには、アンカとコンクリートを樹脂で固めて固定するケミカルアンカとアンカの打ち込みによってアンカ先端をテーパー化して固定するメカニカルアンカがある。 近年、新潟県中越沖地震、東北地方太平洋沖地震 の発生したことにより、地震が原子力発電所の機器・構造物へ及ぼす影響の程度およびその判断方法への関心が高まっている[1]。また、40年を超えて運転する経年化プラントについては、原子炉圧力容器の基礎ボルトをはじめとして、ボルト類の健全性確認が必要になってきている。当社は平成20年頃から埋め込み基礎ボルトの減肉を検知する技術の開発に取り組み、減肉したボルトをフェーズドアレイUT(PA-UT)で検査すると遅れエコーが発生すること、その遅れエコーを指標にすれば減肉の有無が簡便に判定できるという手法を開発した[2]。一方、樹脂の劣化モードを有するケミカルアンカに対しては、PA-UTでは適用性に限界があることから、別の診断方法が必要であると考えた。そこで、 本研究ではケミカルアンカの樹脂劣化の検知技術の探索に取り組んだので報告する。
2.手法の探索 本研究では、実機ケミカルアンカの樹脂劣化や施 工不具合を検知する手法を探索するため、共通試験 体を製作し、検査技術・装置を保有する会社から提 案された手法で測定試験を実施し、より適切な手法 を選定した。各手法について以下に示す。 1手法A アンカボルトの露出部をテストハンマーで打撃し、 AE計測システムにより、ボルトより打音信号を受 信し、その信号の周波数分布を評価することにより、 不具合を検知する方法 2手法B アンカボルトの露出部をテストハンマーまたは鋼 球で打撃し、打撃音をマイクで受信すると共にコン クリート面の加速度計で打撃信号を受信し、その波 形の振幅を評価することで不具合を検知する方法 3手法C 手法Bの逆で、コンクリートを打撃し、打撃音を マイクで受信すると共にボルト頭部の加速度計で打 撃信号を受信し、その波形の振幅を評価することで 不具合を検知する方法 試験の結果、手法Aでは、数 kHz 付近に特徴的な 周波数ピークが見られ、健全でない場合はピーク周 波数の低下が見られることが分かった。手法BとC の場合は、鋼球で打撃した場合、欠陥の性状とある 連絡先:熊野秀樹 〒437-1695 静岡県御前崎市佐倉 5561 中部電力(株)原子力安全技術研究所 電話: 050- 7772-8765、 E-mail:Yuya.Hideki@chuden.co.jp 程度の相関が得られた。手法の優劣を比較した結果、 僅かではあるが手法Aの方法が適しているとの評価 結果となった。 - 267 - 3.試験と結果 3.1 試験体の製作 本研究では、図1に示すような施工不良模擬試験 体と経年劣化模擬試験体を作製した。 図1 試験体 3.2 試験 (1)試験方法の特徴 AE法は、図2に示すようにセンサはナット側面 部に設置し、ハンマー等でボルト頭部を打撃する簡 便な手法である。設置が容易で、周辺環境(騒音等) に依存しにくいという特徴を有し、検査対象の状態 (重量や形状など)と周囲からの拘束の変化を検出 する方法である。打音信号はセンサで取得し、図右 に示すように、得られた信号を周波数解析し、最大 強度の30%強度ラインを超える評価ピークについ て周波数を判断することとした。本方法は検査員の 熟練度に依存しない客観的な診断を可能とし、検査 結果のデジタル保存・データベース管理により、検 査合理化・保全計画策定に寄与すると考えられる。 図2 測定・解析方法 健全 コンクリート強度 28.7N/mm2 1900/04/091900/02/180信号処理システム (アンプ、解析PC等) 打撃 -50アンカーボルト ナット -100 AEセンサ スプリングワッシャ 40 60 80 100 ベースプレート 平ワッシャ 時間 [ms] ケミカル樹脂 5回測定 平均値 評価ピーク コンクリート 30%強度ライン 0:00:002 4 6 8 10 周波数 [kHz] - 268 - (2)結果 図3に試験結果をまとめて示した。周波数分布内 の最強ピークと比較して30%以上の強度を持つピ ークを抽出し、かつ抽出したピークで最も低周波側 ピークの周波数を「評価に用いた固有振動数」とし ている。健全なケミカルアンカに比べ、施工不良お よび経年劣化を模擬した試験体は、固有周波数が概 ね低下した。 図3 試験結果 4.まとめと今後の展開 本研究では、ケミカルアンカを対象とした非破壊 劣化診断技術についての探索を行い、AE法が有力 であると判断した。引き続き、M16サイズのケミ カルアンカをコンクリートに埋め込んだモックアッ プを対象に打音試験を行い、健全なケミカルアンカ に比べ、施工不良および経年劣化を模擬した試験体 は、固有周波数が概ね低下することを確認できた。 今後は、ケミカルアンカが実用上、どの程度引抜 強度が低下しているかについて、信号低下との対応 付けを行うとともに、現場で簡易に判断可能なツー ルの開発を行っていきたい。 参考文献 [1] 小平小治郎他、“柏崎刈羽原子力発電所におけ る中越沖地震後の原子力機器の健全性評価-基 礎ボルトの超音波探傷技術の適用と開発-”、 日本非破壊検査協会平成 20 年度秋季大会講演 概要集、pp.33-36、(2008) [2] 熊野秀樹他、“基礎ボルトの減肉検査技術開 発”、第 7 回保全学会講演概要集、pp.163-164、 (2010) 樹脂量 樹脂量 コンクリート 強度 80% 0.827.5N/mm2 樹脂量 樹脂量 40% 80% ななめ 樹脂量 施工 0.4剥離量 コンクリート 強度 20% 47.3N/mm2 剥離量 樹脂量 40%40%剥離量 樹脂量 樹脂量 樹脂量 20% 20% 80%20% ひび割れ 幅0.5mm ひび割れ 幅1.0mm 加熱5分 加熱10分“ “ケミカルアンカの検査技術開発“ “熊野 秀樹,Hideki YUYA,加古 晃弘,Akihiro KAKO,礒部 仁博,Yoshihiro ISOBE
原子力発電所では機器・構造物をコンクリート基礎に固定するため、様々なボルトが用いられている。 具体的には、埋め込み基礎ボルトと後打ちアンカに大別される。後打ちアンカには、アンカとコンクリートを樹脂で固めて固定するケミカルアンカとアンカの打ち込みによってアンカ先端をテーパー化して固定するメカニカルアンカがある。 近年、新潟県中越沖地震、東北地方太平洋沖地震 の発生したことにより、地震が原子力発電所の機器・構造物へ及ぼす影響の程度およびその判断方法への関心が高まっている[1]。また、40年を超えて運転する経年化プラントについては、原子炉圧力容器の基礎ボルトをはじめとして、ボルト類の健全性確認が必要になってきている。当社は平成20年頃から埋め込み基礎ボルトの減肉を検知する技術の開発に取り組み、減肉したボルトをフェーズドアレイUT(PA-UT)で検査すると遅れエコーが発生すること、その遅れエコーを指標にすれば減肉の有無が簡便に判定できるという手法を開発した[2]。一方、樹脂の劣化モードを有するケミカルアンカに対しては、PA-UTでは適用性に限界があることから、別の診断方法が必要であると考えた。そこで、 本研究ではケミカルアンカの樹脂劣化の検知技術の探索に取り組んだので報告する。
2.手法の探索 本研究では、実機ケミカルアンカの樹脂劣化や施 工不具合を検知する手法を探索するため、共通試験 体を製作し、検査技術・装置を保有する会社から提 案された手法で測定試験を実施し、より適切な手法 を選定した。各手法について以下に示す。 1手法A アンカボルトの露出部をテストハンマーで打撃し、 AE計測システムにより、ボルトより打音信号を受 信し、その信号の周波数分布を評価することにより、 不具合を検知する方法 2手法B アンカボルトの露出部をテストハンマーまたは鋼 球で打撃し、打撃音をマイクで受信すると共にコン クリート面の加速度計で打撃信号を受信し、その波 形の振幅を評価することで不具合を検知する方法 3手法C 手法Bの逆で、コンクリートを打撃し、打撃音を マイクで受信すると共にボルト頭部の加速度計で打 撃信号を受信し、その波形の振幅を評価することで 不具合を検知する方法 試験の結果、手法Aでは、数 kHz 付近に特徴的な 周波数ピークが見られ、健全でない場合はピーク周 波数の低下が見られることが分かった。手法BとC の場合は、鋼球で打撃した場合、欠陥の性状とある 連絡先:熊野秀樹 〒437-1695 静岡県御前崎市佐倉 5561 中部電力(株)原子力安全技術研究所 電話: 050- 7772-8765、 E-mail:Yuya.Hideki@chuden.co.jp 程度の相関が得られた。手法の優劣を比較した結果、 僅かではあるが手法Aの方法が適しているとの評価 結果となった。 - 267 - 3.試験と結果 3.1 試験体の製作 本研究では、図1に示すような施工不良模擬試験 体と経年劣化模擬試験体を作製した。 図1 試験体 3.2 試験 (1)試験方法の特徴 AE法は、図2に示すようにセンサはナット側面 部に設置し、ハンマー等でボルト頭部を打撃する簡 便な手法である。設置が容易で、周辺環境(騒音等) に依存しにくいという特徴を有し、検査対象の状態 (重量や形状など)と周囲からの拘束の変化を検出 する方法である。打音信号はセンサで取得し、図右 に示すように、得られた信号を周波数解析し、最大 強度の30%強度ラインを超える評価ピークについ て周波数を判断することとした。本方法は検査員の 熟練度に依存しない客観的な診断を可能とし、検査 結果のデジタル保存・データベース管理により、検 査合理化・保全計画策定に寄与すると考えられる。 図2 測定・解析方法 健全 コンクリート強度 28.7N/mm2 1900/04/091900/02/180信号処理システム (アンプ、解析PC等) 打撃 -50アンカーボルト ナット -100 AEセンサ スプリングワッシャ 40 60 80 100 ベースプレート 平ワッシャ 時間 [ms] ケミカル樹脂 5回測定 平均値 評価ピーク コンクリート 30%強度ライン 0:00:002 4 6 8 10 周波数 [kHz] - 268 - (2)結果 図3に試験結果をまとめて示した。周波数分布内 の最強ピークと比較して30%以上の強度を持つピ ークを抽出し、かつ抽出したピークで最も低周波側 ピークの周波数を「評価に用いた固有振動数」とし ている。健全なケミカルアンカに比べ、施工不良お よび経年劣化を模擬した試験体は、固有周波数が概 ね低下した。 図3 試験結果 4.まとめと今後の展開 本研究では、ケミカルアンカを対象とした非破壊 劣化診断技術についての探索を行い、AE法が有力 であると判断した。引き続き、M16サイズのケミ カルアンカをコンクリートに埋め込んだモックアッ プを対象に打音試験を行い、健全なケミカルアンカ に比べ、施工不良および経年劣化を模擬した試験体 は、固有周波数が概ね低下することを確認できた。 今後は、ケミカルアンカが実用上、どの程度引抜 強度が低下しているかについて、信号低下との対応 付けを行うとともに、現場で簡易に判断可能なツー ルの開発を行っていきたい。 参考文献 [1] 小平小治郎他、“柏崎刈羽原子力発電所におけ る中越沖地震後の原子力機器の健全性評価-基 礎ボルトの超音波探傷技術の適用と開発-”、 日本非破壊検査協会平成 20 年度秋季大会講演 概要集、pp.33-36、(2008) [2] 熊野秀樹他、“基礎ボルトの減肉検査技術開 発”、第 7 回保全学会講演概要集、pp.163-164、 (2010) 樹脂量 樹脂量 コンクリート 強度 80% 0.827.5N/mm2 樹脂量 樹脂量 40% 80% ななめ 樹脂量 施工 0.4剥離量 コンクリート 強度 20% 47.3N/mm2 剥離量 樹脂量 40%40%剥離量 樹脂量 樹脂量 樹脂量 20% 20% 80%20% ひび割れ 幅0.5mm ひび割れ 幅1.0mm 加熱5分 加熱10分“ “ケミカルアンカの検査技術開発“ “熊野 秀樹,Hideki YUYA,加古 晃弘,Akihiro KAKO,礒部 仁博,Yoshihiro ISOBE