AEセンサを用いた鋼棒、鋼管の健全性評価技術の開発 2(1)実験的検討
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カテゴリ: 第13回
1.緒言
原子力発電所では、多数の基礎ボルトや配管が用いられている。これらの基礎ボルトや配管などの鋼棒、 鋼管は、周辺環境(設置場所や内部流体、機械振動など)により経年劣化(腐食、摩耗、き裂など)が発生する可能性が潜在している1-2。従って、機器・構造物の安全性・信頼性を確保する観点より、鋼棒、鋼管の経年劣化を検出する非破壊検査技術が望まれている。 このような鋼棒、鋼管の健全性を検査する手法とし て、一般的には、目視検査や打音検査、超音波検査が採用されている 3-7。しかしながら、目視検査では、たとえば基礎ボルトではナットより下部が、配管では保 温材等がまかれている部分が、容易に確認できない。 また、打音検査は、ハンマーで打撃し、その時の打撃音とハンマーを通した打感との二つから、検査員が異常の有無を判定する手法であるが、検査精度は検査員の熟練度に依存しており、また、周囲の環境よる影響を受けるため、客観的な基準を設けることが困難である。超音波検査は露出部に超音波センサを設置し、反射信号に基づいて、腐食や傷などの欠陥の位置や大きさを検出する手法であり、詳細検査として一般的に広く使用されているが、検査対象部位に保温材等が巻かれている、超音波センサの設置面が平滑でない、製造方法(鋳造、溶接部)によっては超音波が効率よく伝播しない、形状が複雑で超音波の反射波が得られない等により、検査出来る範囲は限定的である。 本研究では、超音波検査のような詳細検査に比べて、より効率的で簡便かつ短時間で実施できるスクリーニング検査を目指し、従来の打音検査での課題点である 検査員の熟練度、客観的な基準について、客観性、記録性のある検査手法としてAE(acoustic emission)センサを用いた鋼棒、鋼管健全性評価技術を開発している 8。 前報 9では、鋼棒、鋼管に対して模擬的に減肉やき裂 を付与した試験体の評価試験結果に基づき、欠陥の検出性について述べた。本報では、現場適用を想定して、 配管の内面腐食に着目し、1欠陥の検出性、2振動測位置の影響を評価するため、鋼管の内面を機械加工により減肉させながら、様々な計測位置で評価した結果を報告する。
2.試験
2.1 試験概要 鋼棒、鋼管の非破壊検査の一例として、配管の内面腐 食を想定した試験を実施した。配管はφ140 mmの炭素鋼 鋼管を用いた。この鋼管の内面を機械切削により減肉を 付与しながら、本検査システムを用いた振動測定を行っ た。 本検査システムは、AE センサ、計測ボックス、タブレ ットPCなどより構成されている(Fig 1)。本装置は検査対 象物を打撃し、振動を加えて、その振動を AE センサで 取得する。取得した振動信号は、検査対象物の振動特性 の情報が含まれ、施工状態や経年変化に依存する。した がって、この振動信号を解析することで、検査対象の健 全度を評価する。 Tablet PC Measurement box AE sensor Fig 1 Portable Inspection Equipment 2.2 試験体の作製 内面腐食の検出を目的とした試験体の外観をFig 2に、 内面減肉の外観をFig 3 に示す。内面減肉の付与度合は、 初期状態から減肉厚を 0.5 mm ずつ増やし、減肉1(0.5 mm)減肉2(1 mm)減肉3(1.5 mm)の3段階変化さ せながら、振動を取得した。 1000 mm700mm Thinning area Carbon steel pipe (inside) Fig 2 Dimension of the specimen for carbon steel pipe 0° 90° 180° 270° Fig 4 Example of measurement location 2.4 信号解析方法 ハンマー打撃により信号が発生し、時間の経過ととも に減衰する信号波形が得られる。次に、この得られた信 号波形に FFT(高速フーリエ変換)を実施し、信号波形 の周波数情報を得る。信号例をFig 6に示す。この周波数 情報と減肉度合を比較・検討した。 100500-50100 80 60 40 20 0 Time (10-3s) Fig 5 Example of an AE signal for steel pipe - 270 - Thinning area Fig 3 Overview of thinning area 2.3 試験方法 AEセンサを試験体に設置し、ハンマーで打撃するこ とで、振動信号を得る。打撃位置については、センサ設 置位置(計測位置)近傍とし、計測位置については、減 肉を付与した面を0°として、周方向90°間隔で4か所、 軸方向300 mm、500 mm、700 mm の3か所の計12か所 で振動を取得した。計測位置の例をFig 4に示す。減肉部 はAの位置の内面に付与した。 A B C 1899/12/3119:12:0014:24:009:36:000.20.0 5000 4000 3000 2000 1000 0 Frequency (Hz) Fig 6 Example of frequency distribution for steel pipe 3.結果と考察 1欠陥の検出性 段階的に減肉を付与させながら、A位置で振動を計 測した結果をFig 7に示す。複数の周波数ピークが減肉 に伴い低周波側にシフトし、また、減肉量に対し、単 調減少していることがわかった。したがって、配管の 内面減肉を検出しうる可能性が示された。 3645Hz 3629Hz before thinning Thining Lv.1 Thining Lv.2 Thining Lv.3 Fig 7 Frequency distribution (position A) 2計測位置による影響 計測位置A、B、Cのそれぞれの位置において、減肉 付与前と最大減肉後(減肉3)の周方向4点の計測結果 をFig 8、Fig 9、Fig 10に示す。 どの計測位置においても、減肉に伴う周波数変化は同 じ傾向が得られた。また、前報では、周方向に不均一な 欠陥が生じた場合は、周方向での計測位置によって有意 な差が生じることを述べたが、今回の内面減肉の範囲で はその差はみられなかった。この結果は、周方向で振動 モードの差が生じるほどの内面減肉ではなかったと推測 される。 この試験より、30%程度(減肉厚1.5 mm程度)の局 所的な減肉であれば、どの計測位置で評価しても同様の 結果が得られるため、配管のスクリーニング検査として の運用が期待できる。 Position C before thinning thinning Lv.3 Fig 10 Frequency distribution (position C) - 271 - Position A before thinning thinning Lv.3 Fig 8 Frequency distribution (position A) Position B before thinning thinning Lv.3 Fig 9 Frequency distribution (position B) 参考文献 4.結言 鋼管に対して、減肉を段階的に付与しながら本検査シ [1] ”高浜発電所3 号炉 高経年化技術評価書”, 関西電力 ステムを用いた試験を実施し、1欠陥の検出性、2計測 株式会社(2014). 位置の影響について検討した。その結果を以下にまとめ [2] “女川原子力発電所1 号炉 高経年化技術評価書”, 東 る。 北電力株式会社(2013). 1 欠陥の検出性 [3] 林山, 福富広幸, 熊野秀樹, 伊藤圭介,”埋め込み基礎 機械加工によって内面減肉させた試験体は、減肉 ボルトにおける減肉欠陥の検出及びその深さの推定”, 日 付与前の試験体と比べて、周波数ピークが低周波側 本機械学会論文集(A編), 77巻783号, pp.1851-1858, 2011. にシフトする傾向が得られるため、ピーク周波数を [4] 小平小次郎, 米谷豊, 河野尚幸, 馬場淳史, 黒崎裕一, 指標とすることで、配管の内面減肉による劣化を検 “基礎ボルトの超音波探傷技術の適用と開発”, 非破壊検 出しうる可能性を見出した。 査第59巻6号, pp.254-258, 2010. 2 計測位置の影響 [5] 秋山哲治, 清宮理, 北澤壮介, 内藤英晴, “合成部材で 前報で、周方向に不均一な欠陥が生じた試験体は、 のコンクリート充填性検査としての打音法の適用性”, コ 周方向の計測位置において、振動計測結果に差が生 ンクリート工学年次論文集, Vol.25, No.1, 2003 じることを述べたが、今回の試験範囲(内面減肉量 [6] 熊野秀樹, 伊藤圭介, 山本千秋, 加古晃弘, 藤尾武成, 30%程度)では周方向計測位置での試験結果の差 城下悟, 林山, 福富広幸, “基礎ボルトの減肉検査技術開 はみられなかった。これは、周方向で振動モードの 発”, 日本保全学会第 7 回学術講演会要旨集, (2010), 差が生じるほどの内面減肉ではなかったと推測され pp.58-60 る。しかしながら、計測位置によらず、一定の試験 [7] 竹之内博行, 榎園正義, 谷倉泉, 半澤貢, “ボルトの疲 結果が得られるため、配管の内面減肉を簡易的に検 労き裂検出に対する超音波探傷法の適用性”, 土木学会論 査するスクリーニング検査としての運用が期待でき 文集, No.404(1989), pp443-449 る。 [8] 原子燃料工業株式会社, “部材の状態評価方法”, 特願 2014-2501 [9] 松永嵩、小川良太、匂坂充行、鵜飼康史、礒部仁博, “AE センサを用いた鋼棒、鋼管の健全性評価技術の開 発 (1)実験的検討” 日本保全学会第12回学術講演会要旨 集 - 272 -“ “AEセンサを用いた鋼棒、鋼管の健全性評価技術の開発 2(1)実験的検討 “ “松永 嵩,Takashi MATSUNAGA,小川 良太,Ryota OGAWA,匂坂 充行,Mitsuyuki SAGISAKA,鵜飼 康史,Yasufumi UKAI,礒部 仁博,Yoshihiro ISOBE
原子力発電所では、多数の基礎ボルトや配管が用いられている。これらの基礎ボルトや配管などの鋼棒、 鋼管は、周辺環境(設置場所や内部流体、機械振動など)により経年劣化(腐食、摩耗、き裂など)が発生する可能性が潜在している1-2。従って、機器・構造物の安全性・信頼性を確保する観点より、鋼棒、鋼管の経年劣化を検出する非破壊検査技術が望まれている。 このような鋼棒、鋼管の健全性を検査する手法とし て、一般的には、目視検査や打音検査、超音波検査が採用されている 3-7。しかしながら、目視検査では、たとえば基礎ボルトではナットより下部が、配管では保 温材等がまかれている部分が、容易に確認できない。 また、打音検査は、ハンマーで打撃し、その時の打撃音とハンマーを通した打感との二つから、検査員が異常の有無を判定する手法であるが、検査精度は検査員の熟練度に依存しており、また、周囲の環境よる影響を受けるため、客観的な基準を設けることが困難である。超音波検査は露出部に超音波センサを設置し、反射信号に基づいて、腐食や傷などの欠陥の位置や大きさを検出する手法であり、詳細検査として一般的に広く使用されているが、検査対象部位に保温材等が巻かれている、超音波センサの設置面が平滑でない、製造方法(鋳造、溶接部)によっては超音波が効率よく伝播しない、形状が複雑で超音波の反射波が得られない等により、検査出来る範囲は限定的である。 本研究では、超音波検査のような詳細検査に比べて、より効率的で簡便かつ短時間で実施できるスクリーニング検査を目指し、従来の打音検査での課題点である 検査員の熟練度、客観的な基準について、客観性、記録性のある検査手法としてAE(acoustic emission)センサを用いた鋼棒、鋼管健全性評価技術を開発している 8。 前報 9では、鋼棒、鋼管に対して模擬的に減肉やき裂 を付与した試験体の評価試験結果に基づき、欠陥の検出性について述べた。本報では、現場適用を想定して、 配管の内面腐食に着目し、1欠陥の検出性、2振動測位置の影響を評価するため、鋼管の内面を機械加工により減肉させながら、様々な計測位置で評価した結果を報告する。
2.試験
2.1 試験概要 鋼棒、鋼管の非破壊検査の一例として、配管の内面腐 食を想定した試験を実施した。配管はφ140 mmの炭素鋼 鋼管を用いた。この鋼管の内面を機械切削により減肉を 付与しながら、本検査システムを用いた振動測定を行っ た。 本検査システムは、AE センサ、計測ボックス、タブレ ットPCなどより構成されている(Fig 1)。本装置は検査対 象物を打撃し、振動を加えて、その振動を AE センサで 取得する。取得した振動信号は、検査対象物の振動特性 の情報が含まれ、施工状態や経年変化に依存する。した がって、この振動信号を解析することで、検査対象の健 全度を評価する。 Tablet PC Measurement box AE sensor Fig 1 Portable Inspection Equipment 2.2 試験体の作製 内面腐食の検出を目的とした試験体の外観をFig 2に、 内面減肉の外観をFig 3 に示す。内面減肉の付与度合は、 初期状態から減肉厚を 0.5 mm ずつ増やし、減肉1(0.5 mm)減肉2(1 mm)減肉3(1.5 mm)の3段階変化さ せながら、振動を取得した。 1000 mm700mm Thinning area Carbon steel pipe (inside) Fig 2 Dimension of the specimen for carbon steel pipe 0° 90° 180° 270° Fig 4 Example of measurement location 2.4 信号解析方法 ハンマー打撃により信号が発生し、時間の経過ととも に減衰する信号波形が得られる。次に、この得られた信 号波形に FFT(高速フーリエ変換)を実施し、信号波形 の周波数情報を得る。信号例をFig 6に示す。この周波数 情報と減肉度合を比較・検討した。 100500-50100 80 60 40 20 0 Time (10-3s) Fig 5 Example of an AE signal for steel pipe - 270 - Thinning area Fig 3 Overview of thinning area 2.3 試験方法 AEセンサを試験体に設置し、ハンマーで打撃するこ とで、振動信号を得る。打撃位置については、センサ設 置位置(計測位置)近傍とし、計測位置については、減 肉を付与した面を0°として、周方向90°間隔で4か所、 軸方向300 mm、500 mm、700 mm の3か所の計12か所 で振動を取得した。計測位置の例をFig 4に示す。減肉部 はAの位置の内面に付与した。 A B C 1899/12/3119:12:0014:24:009:36:000.20.0 5000 4000 3000 2000 1000 0 Frequency (Hz) Fig 6 Example of frequency distribution for steel pipe 3.結果と考察 1欠陥の検出性 段階的に減肉を付与させながら、A位置で振動を計 測した結果をFig 7に示す。複数の周波数ピークが減肉 に伴い低周波側にシフトし、また、減肉量に対し、単 調減少していることがわかった。したがって、配管の 内面減肉を検出しうる可能性が示された。 3645Hz 3629Hz before thinning Thining Lv.1 Thining Lv.2 Thining Lv.3 Fig 7 Frequency distribution (position A) 2計測位置による影響 計測位置A、B、Cのそれぞれの位置において、減肉 付与前と最大減肉後(減肉3)の周方向4点の計測結果 をFig 8、Fig 9、Fig 10に示す。 どの計測位置においても、減肉に伴う周波数変化は同 じ傾向が得られた。また、前報では、周方向に不均一な 欠陥が生じた場合は、周方向での計測位置によって有意 な差が生じることを述べたが、今回の内面減肉の範囲で はその差はみられなかった。この結果は、周方向で振動 モードの差が生じるほどの内面減肉ではなかったと推測 される。 この試験より、30%程度(減肉厚1.5 mm程度)の局 所的な減肉であれば、どの計測位置で評価しても同様の 結果が得られるため、配管のスクリーニング検査として の運用が期待できる。 Position C before thinning thinning Lv.3 Fig 10 Frequency distribution (position C) - 271 - Position A before thinning thinning Lv.3 Fig 8 Frequency distribution (position A) Position B before thinning thinning Lv.3 Fig 9 Frequency distribution (position B) 参考文献 4.結言 鋼管に対して、減肉を段階的に付与しながら本検査シ [1] ”高浜発電所3 号炉 高経年化技術評価書”, 関西電力 ステムを用いた試験を実施し、1欠陥の検出性、2計測 株式会社(2014). 位置の影響について検討した。その結果を以下にまとめ [2] “女川原子力発電所1 号炉 高経年化技術評価書”, 東 る。 北電力株式会社(2013). 1 欠陥の検出性 [3] 林山, 福富広幸, 熊野秀樹, 伊藤圭介,”埋め込み基礎 機械加工によって内面減肉させた試験体は、減肉 ボルトにおける減肉欠陥の検出及びその深さの推定”, 日 付与前の試験体と比べて、周波数ピークが低周波側 本機械学会論文集(A編), 77巻783号, pp.1851-1858, 2011. にシフトする傾向が得られるため、ピーク周波数を [4] 小平小次郎, 米谷豊, 河野尚幸, 馬場淳史, 黒崎裕一, 指標とすることで、配管の内面減肉による劣化を検 “基礎ボルトの超音波探傷技術の適用と開発”, 非破壊検 出しうる可能性を見出した。 査第59巻6号, pp.254-258, 2010. 2 計測位置の影響 [5] 秋山哲治, 清宮理, 北澤壮介, 内藤英晴, “合成部材で 前報で、周方向に不均一な欠陥が生じた試験体は、 のコンクリート充填性検査としての打音法の適用性”, コ 周方向の計測位置において、振動計測結果に差が生 ンクリート工学年次論文集, Vol.25, No.1, 2003 じることを述べたが、今回の試験範囲(内面減肉量 [6] 熊野秀樹, 伊藤圭介, 山本千秋, 加古晃弘, 藤尾武成, 30%程度)では周方向計測位置での試験結果の差 城下悟, 林山, 福富広幸, “基礎ボルトの減肉検査技術開 はみられなかった。これは、周方向で振動モードの 発”, 日本保全学会第 7 回学術講演会要旨集, (2010), 差が生じるほどの内面減肉ではなかったと推測され pp.58-60 る。しかしながら、計測位置によらず、一定の試験 [7] 竹之内博行, 榎園正義, 谷倉泉, 半澤貢, “ボルトの疲 結果が得られるため、配管の内面減肉を簡易的に検 労き裂検出に対する超音波探傷法の適用性”, 土木学会論 査するスクリーニング検査としての運用が期待でき 文集, No.404(1989), pp443-449 る。 [8] 原子燃料工業株式会社, “部材の状態評価方法”, 特願 2014-2501 [9] 松永嵩、小川良太、匂坂充行、鵜飼康史、礒部仁博, “AE センサを用いた鋼棒、鋼管の健全性評価技術の開 発 (1)実験的検討” 日本保全学会第12回学術講演会要旨 集 - 272 -“ “AEセンサを用いた鋼棒、鋼管の健全性評価技術の開発 2(1)実験的検討 “ “松永 嵩,Takashi MATSUNAGA,小川 良太,Ryota OGAWA,匂坂 充行,Mitsuyuki SAGISAKA,鵜飼 康史,Yasufumi UKAI,礒部 仁博,Yoshihiro ISOBE