PWR プラントにおける高経年化技術評価の概要について

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カテゴリ: 第13回
1.はじめに
原子力発電所では、プラントの安全性・信頼性確保のために、設備に対する定期的な点検や、経年劣化状況の評価、必要な補修などの保守管理活動を継続的に実施しており、国内外のトラブル事例や最新知見を踏まえた劣化に対する予防保全対策の実施や機器の取替等にも取り組んできている。その上で、原子力発電所の長期運転への対応については、高経年化対策制度に基づいて、運転 開始30年目以降、10年ごとに各機器・構造物に対する60年時点までの運転を想定した高経年化技術評価を実施し、機器・構造物の健全性を確認するとともに、評価結果に基づいて現状保全項目に追加すべき新たな保全策を 長期保守管理方針として策定している。 ここでは、国内代表PWRプラントを具体例として、長期運転のためにこれまで実施してきた取り組み、新規制基準への適合に係る対策や重大事故等時条件等を考慮した40年目の高経年化技術評価の概要、運転期間延長のための特別点検の概要、さらには今後の長期運転へ向けた 課題への取り組み等について紹介する。
2.高経年化に対するこれまでの取り組み
2.1 高経年化への対応経緯
原子力発電所の高経年化対策については、1996 年4月 に通商産業省(現:経済産業省)資源エネルギー庁が「高 経年化に関する基本的な考え方」をまとめ、基本方針を 示して以降、「実用発電用原子炉の設置、運転等に関する 規則」(以下、実用炉規則という。)に基づいて、供用年 数が 30 年となるプラントでは 60 年の運転を想定した高 経年化技術評価を実施、長期保守管理方針(当時は、長 期保全計画 としていた。)の策定等を実施して、国はそ の妥当性の評価、確認を行ってきた。 2008 年8月には、実用炉規則がさらに改正され、高経 年化対策を通常の保全活動の中に位置付けて、高経年化 技術評価に基づく長期保守管理方針が原子炉施設保安規 定の認可事項となった。美浜1号機、美浜2号機などで は、40 年目の高経年化技術評価を実施し、長期保守管理 方針を定めた保安規定変更認可申請を行い、国の意見聴 取会を含む審査を経て認可を受けている。 一方、日本原子力学会では、原子力発電所の運転・管 理を行う事業者が実施する高経年化対策の実施方法を規 定する標準として、「原子力発電所の高経年化対策実施基準」を制定、2009年2月に改正された2008版では、運転期間に応じた経年劣化事象に対する保全プログラムと連携した実施内容を規定するとともに、機器ごとに想定さ れる経年劣化事象を“経年劣化メカニズムまとめ表”(附 属書)として取りまとめ、経年劣化管理への要求事項を 規定している。この日本原子力学会標準は海外の知見や 最新の高経年化技術評価を継続的に反映して改正されて きており、原子力発電所の高経年化技術評価を実施する 際の基準となっている。 2.2 これまでの主な予防保全活動 原子力発電所では、機器・構造物の経年劣化が徐々に 進行して故障等に至ることがないよう定期的な検査や、 状態の監視、必要な補修等の保守管理活動を品質保証体 制の下で継続的に実施している。この中で、国内外の原 子力発電所で発生したトラブルへの対応や、長期運転を 想定した劣化評価等に基づいて、故障に至る前に補修・ 取替等の予防保全対策活動を実施してきている。 PWR プラントでは、Fig.1 に示すように、これまで、 蒸気発生器や原子炉容器上蓋、燃料取替用水タンク、タ ービン、発電機や熱交換器等の大型機器や多くの配管等 の取替を実施してきている。さらに、PWR プラントの代 表的な経年劣化への対策例として、600系ニッケル基合金 に対する応力腐食割れ対策があり、蒸気発生器や原子炉 容器上蓋等の取替、原子炉容器等の管台溶接部への 690 系ニッケル基合金溶接やウォータージェットピーニング 等の応力緩和対策を実施してきている。 Fig.1 Replacement and mitigation measures for main components 3.高経年化技術評価の概要 原子力発電所の各機器・構造物に対する高経年化技術 評価、長期保守管理方針の概要を以下に示す。 3.1 高経年化技術評価の流れ Fig.2 に高経年化技術評価の実施内容の流れを示して いる。 原子力発電所における安全機能を有する機器・構造物*1 を対象として、それらの機器に想定される経年劣化事象 を抽出整理する。各機器の部位ごとに想定される経年劣 化事象に対して、摩耗や腐食のように日常管理などで経 年劣化事象に対する保守管理が適切に行われているもの や、現在までの運転経験や使用条件から得られた材料試 験データとの比較等により、今後も経年劣化の進展が考 えられない、または進展傾向が極めて小さいと考えられ る経年劣化事象を除いた主要な6劣化事象を中心として 高経年化技術評価を行う上で着目すべき経年劣化事象を 抽出する。 さらに、各機器設備の型式、仕様、使用条件等から評 価を行う代表機器を選定して、想定される経年劣化事象 に対して60年の運転を想定した劣化評価を行って健全性 が確保されるかの確認を行い、代表機器で評価した結果 をグループ内の全機器に水平展開するという手法で全て の機器について評価を実施する。 高経年化技術評価に当たっては、最新の規格基準や国 内外のトラブル事例などの最新知見、評価時点までの運 転実績、運転経験を反映した評価を行うとともに、最新 の技術基準への適合のために追加される設備や、重大事 故等時の環境条件なども考慮した技術評価を行う。また、 冷温停止状態を前提とした経年劣化に対する技術評価に ついても実施する。 各機器・構造物に想定される高経年化評価上着目すべ き経年劣化事象に対して、60 年の運転を想定した技術評 - 282 - *1:「発電用軽水型原子炉施設の安全機能の重要度分類 に関する審査指針」において定義されるクラス1、 2及び3の機能を有する機器・構造物、並びに常 設重大事故等対処設備等を対象として抽出。 Fig.2 Flow of Ageing Evaluation 価を実施するに当たっては、設備の技術的な健全性評価 結果と想定される経年劣化事象に対する現状の保全活動 が適切であるかの評価を基に、長期運転に対する総合的 な評価を行う。さらに、耐震、耐津波安全上考慮する必 要のある経年劣化事象に対しては、劣化状態を保守的に 考慮した耐震、耐津波安全性評価を行い、許容値を満足 することを確認している。これらの技術評価の結果、今 後の10年間(運転期間延長に関しては延長しようとする 期間(20年間等))の運転期間に実施すべき長期保守管理 方針を策定する。 なお、40年目の高経年化技術評価では、30 年目に実施 した高経年化技術評価との比較や、それまでの長期保守 管理方針の実施状況等から30年目の評価が有効であった か、改善すべき点がないかの評価も実施する。 3.2 主な高経年化技術評価内容 高経年化技術評価における着目すべき経年劣化事象で ある低サイクル疲労、中性子照射脆化、照射誘起型応力 腐食割れ、2相ステンレス鋼の熱時効、電気・計装設備の 絶縁低下、コンクリートの強度低下等と劣化を考慮した 耐震、耐津波安全性評価の概要をTable1に示す。 Table1 Outline of the ageing technical evaluations 技術評価に当たっては、最新の規格基準や試験等の知 見を用いた評価を行っている。具体例として、ケーブル の絶縁性能低下の評価には、従来の電気学会推奨案*2に基 づく評価に加え、原子力安全基盤機構「原子力発電所の ケーブル経年劣化評価ガイド(JNES-RE-2013-2049)」に 基づく評価により、60 年の通常運転による劣化に事故時 の環境条件が重畳した場合でも絶縁性能が確保されるか を評価するようにしている。 *2:電気学会技術報告II部第 139 号「原子力発電所用 電線・ケーブルの環境試験方法並びに耐延焼性試 験方法に関する推奨案」の略称。 新規制基準への適合に係る重大事故等対処設備等に対 しても評価も実施するとともに、重大事故等時の荷重条 件や温度等環境条件も考慮した評価を行っている。具体 的には、原子炉容器の中性子照射脆化に対する加圧熱衝 撃評価においては、重大事故等時(2次冷却系除熱機能 喪失)の過渡変化を考慮、1次冷却材管の熱時効に対す る評価においても重大事故等時(原子炉停止機能喪失) の荷重条件を考慮したき裂進展力による健全性評価を行 っている。また、電気・計装品の絶縁性能低下に対して は、従来の設計基準事故時だけでなく、重大事故等時(格 納容器過温破損、格納容器過圧破損)の温度や放射線量 を考慮した健全性評価を行っている。 さらに、耐震安全性評価では、劣化に対する技術評価 結果に地震(Ss 基準地震動等)による影響を加えた評価 により、機器・構造物の健全性が維持されることを確認 している。上述の原子炉容器の中性子照射脆化に対する 加圧熱衝撃評価と、1次冷却材管の熱時効に対する健全 性評価においては、事故時にき裂に作用する応力拡大係 数やき裂進展力に地震による増分を考慮した評価を行っ ている。また、屋外タンクの基礎ボルトの腐食を想定し た耐震安全性評価や、2次系炭素鋼配管に必要最小肉厚 までの流れ加速型腐食による減肉を想定した耐震安全性 評価を実施し、許容値を満足することを確認している。 (Example of Takahama 1 & 2) - 283 - 3.3 長期保守管理方針 高経年化技術評価の結果から、現状保全項目に追加す べき新たな保全策として、今後の10年間の長期保守管理 方針を策定し、原子炉施設保安規定に明記する。Table2 に、具体例として、高浜1,2号機の長期保守管理方針 を示す。 Table2 Maintenance program for extended period (注:高浜1,2号機については、運転期間延長認可 申請における保守管理に関する方針を兼ねているため、 20 年までの期間に対する方針となっている。) 4.運転期間延長へ向けた対応 2013 年7月原子炉等規制法により原子力発電所の運転 期間は運転開始から40年とされ、その運転期間満了まで に認可を得た場合、一回に限り最大20年まで運転期間を 延長できるようになった。そのため、40 年を超える運転 のためには運転期間延長認可申請を行って原子力規制委 員会による審査を受けて認可を得る必要がある。運転期 間延長認可申請に当たっては、1特別点検実施結果、2 劣化状況評価書及び3保守管理に関する方針書を添付書 類として提出する必要がある。このうち、劣化状況評価 書と保守管理に関する方針書は、40 年目の高経年化技術 評価書と長期保守管理方針と同様の内容としているので、 以下では国内PWRプラントで初めて実施した高浜1,2 号機の特別点検の内容について説明する。 4.1 特別点検 特別点検は、原子力規制委員会の定める「実用発電用 原子炉の運転期間延長認可申請に係る運用ガイド」に基 づき、原子炉容器、原子炉格納容器及びコンクリート構 造物に対して実施し、これにより設備の状態の詳細な把 握を行うようにしている。(Fig.3 参照) Fig.3 Outline of Special Inspections a.原子炉容器に対する特別点検 原子炉容器に対する特別点検は、胴部(炉心領域部)、 冷却材出入口ノズルコーナ部及び炉内計装筒管台部を 対象箇所としている。 中性子照射脆化に対する健全性評価の必要となる胴 部の炉心領域部に対して、通常の供用期間中検査で対 象としている溶接部とその近傍だけでなく、母材部も 含めて100%の領域に対して、原子炉容器内面からの超 音波探傷試験(UT)を実施し、特に内表面近傍に有意 な欠陥のないことを確認するようにしている。高浜1, 2号機では、炉心領域部の内表面全域において有意な 欠陥のないことを確認することができたが、健全性評 価において想定する欠陥の大きさに対する定量的な保 守性を確認することも出来、有効なデータを得ること ができたと考えられる。 冷却材出入口ノズルコーナ部については、ステンレ ス鋼クラッド表面に対して渦流探傷試験を実施し、疲 労等による有意な欠陥のないことを確認した。 さらに、原子炉容器底部の炉内計装筒管台(600 系 Ni基合金製)とその溶接部(600系Ni基合金溶接)に 対しては、炉内計装筒内面からの渦流探傷試験及び J 溶接部表面に対する目視試験(MVT-1)により割れ等 の欠陥のないことを確認した。炉内計装筒管台部につ いては、応力腐食割れへの予防保全対策としてウォー タージェットピーニングによる応力緩和を実施してい るが、特別点検によりその有効性に問題が生じていな いことの状況を確認することができたと考えられる。 b.原子炉格納容器に対する特別点検 原子炉格納容器に対しては、原子炉容器鋼板の腐食 防止のために鋼板の内面及び外面に施されている塗装 の塗膜に異常や劣化等のないことを目視試験により確 認する。高浜1,2号で実施した目視試験(VT-4)に ついては、照度の確保やグレーカードを使った欠陥の 視認性を検証した上で、直接目視または高倍率カメラ をした遠隔目視による方法としている。点検範囲は接 近できる点検可能範囲全てを対象とし、従来の日常点 検では点検が容易でない原子炉格納容器内の高所の干 渉物の裏側や格納容器鋼板前の設置物の裏側等も可能 な範囲での点検を行った。特別点検の結果、原子炉格 納容器の構造健全性等に影響を与える塗膜の劣化や腐 食は認められなかった。特別点検の結果から、従来の 点検では点検が容易でない範囲に対しても塗膜の健全 性が維持されていることが確認でき、今後も現状の保 全管理活動を継続することで原子炉格納容器鋼板の健 全性を維持することができると考えられる。 c.コンクリート構造物に対する特別点検 コンクリート構造物に対する特別点検は、原子炉格 納施設、原子炉補助建屋、タービン建屋、取水構造物 - 284 - 国際原子力機関 等について、コンクリートコアサンプルを採取し、コ IAEA では、長期運転に関する要件な ンクリートの強度、遮蔽能力、中性化、塩分浸透およ どを定めた標準の整備や、保全活動や経年劣化事象等の びアルカリ骨材反応について確認を行った。 知見の集約などの活動を精力的に実施している。具体的 コンクリートのコアサンプル採取箇所は、各点検項 には、IAEA の長期運転に係る標準に照らし、プラントの 目に対する劣化メカニズムや影響要素等を踏まえて、 経年劣化管理を含む保守管理活動や、環境条件を考慮し 使用材料と使用環境条件が最も厳しくなる場所となる た機器設備の性能保証、旧式化への対応、文書・技術情 よう、使用材料の実績や温湿度等の環境条件の実測値 報管理等の体制・マネジメントシステムのレビュー を考慮した評価に基づいて選定している。高浜1,2 (SALTOピアレビュー)活動による発電所の長期運転へ 号機の特別点検では、運転開始より40年時点において、 の対応支援を実施している。また、日本を含む海外各国 コンクリートの健全性に影響を与える劣化は認められ の保全活動、保守経験や評価方法を含む経年劣化事象へ なかった。 の対応等の知見をデータベースとなる I-GALL 特別点検については、今後、点検実績やその評価結 (International Generic Ageing Lessons Learned for Nuclear 果を踏まえて実施内容の検討がなされていくと考えら Power Plants)報告書として取りまとめ、整備する活動が れるが、運転開始40 年を迎える時期に初めて実施した 続けられている。 ことは、技術評価上は有意と判断していない劣化事象 日本としても、海外の長期運転へ向けた取り組みつい が発生していないことの確認のための検査として有効 ては、その情報を収集評価し、改善活動へ活かすだけで であったと考えられる。 なく、日本の経験や評価方法、研究成果等を提示し国際 貢献を果たすことも継続して実施してきているが、今後 4.2 劣化状況評価と保守管理に関する方針 はますます、長期運転へ向けたさらなる安全性・信頼性 劣化状況評価は、安全機能を有する機器・構造物に対 向上のために海外との連携を強化し、さらに技術情報基 して延長しようとする期間における運転を想定した高経 盤の整備を進めていくことが必要と考える。 年化対策上着目すべき経年劣化事象に対する評価を行い 高経年化技術評価のための調査研究については、実機 健全性の確認を行うものである。劣化状況評価では、特 における劣化状況の調査把握、劣化評価方法のさらなる 別点検結果の評価への反映を行う点がこれまで実施して 精度向上や保守性の検証、劣化メカニズムの解明等に基 きた高経年化技術評価と異なる点である。なお、運転期 づく経年劣化に対する対策設計や次期プラントへ反映す 間延長に伴う40年目の高経年化技術評価については、同 るための改善に資する観点から、国内外研究機関とも協 様の評価内容となる。劣化状況評価の結果、今後運転し 調して、高経年化に係る研究を継続していく必要がある。 ようとする期間に対し10年、20年等までに行うべき保守 これらの高経年化に係る調査研究において、着目されて 管理に関する方針を策定する。 おり、有効と考えているものが、廃止措置プラントから なお、運転期間延長認可申請における劣化状況評価及 の材料を活用した調査研究であり、廃止措置の段階に応 び保守管理に関する方針については、原子力規制委員会 じて有効な調査研究計画を検討していく必要がある。 の定める「実用発電用原子炉の運転の期間の延長の審査 日本では、新規制基準への適合のための対策を行って 基準」により要求事項へ適合すること、要求事項へ適合 安全性の確認がなされたプラントの活用を図っていく必 しない場合には延長しようとする期間における保守管理 要があり、そのためにも、高経年化への対策を進め、今 に関する方針の実施を考慮した上で、延長しようとする 後の長期の運転を実現していくことが有効となる。高経 期間において要求事項に適合することが求められている。 年化技術評価とそれに基づく長期保守管理方針の実施は、 発電所の日々の保守管理活動含む保全活動のPDCA サイ 5.今後の課題への取り組み クルが適切に機能し、改善活動が継続していくことが前 提であり、今後も、そのための取り組みを行っていくこ 米国では既に多くのプラントで40年を超えて運転を行 とが重要である。 っており、米国、欧州等の海外各国では、今後の長期運 転に向けた対応検討や高経年化に係る研究等の取り組み が続けられている。 - 285 -“ “PWR プラントにおける高経年化技術評価の概要について“ “南 安彦,Yasuhiko MINAMI
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