プレストレストコンクリート製格納容器の維持管理と高経年化対策

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カテゴリ: 第13回
1.はじめに
日本原子力発電(株)敦賀発電所2号機(以下,「敦賀 2号機」という。)は,1987年2月に営業運転を開始し,2017年2月に運転開始後30年を迎えようとしている。敦賀2号機は,発電出力116万kwの加圧水型軽水炉(以下,「PWR」という。)で,国内の原子力発電所としては初めて原子炉格納容器にプレストレストコンクリート製原子炉格納容器(Prestressed Concrete Containment Vessel)(以下,「PCCV」という。)を採用しており,「敦賀発電所2号機用プレストレスト格納容器に関する技術指針」(昭和57年1月,通商産業省資源エ ネルギー庁)[1] に基づき,工事計画の審査をうけ,認可された。 本報では,約30年の維持管理実績を有する敦賀2号機のPCCVにおける,供用期間中検査(In-service Inspection,)(以下,「ISI」という。)及び高経年化対策の概要について説明する。
2.PCCVについて 2.1 PCCVの概要
原子炉格納容器は,事故時に一次系設備から放出され る放射性物質などの有害な物質の漏えいを防止するため に設けられているものであり,一次冷却材喪失事故時な どに圧力障壁となり,かつ放射性物質の拡散に対する最 終障壁(格納容器バウンダリ)を形成する。 従来,PWRの原子炉格納容器には厚さ 40mm 程度の 鋼製格納容器が採用されていたが,発電出力の大きい4 ループのPWRでは,鋼製格納容器を採用した場合高さ が 100m を超える巨大な容器となり耐震設計が困難とな るため,最高使用圧力を大きくでき,かつ形状を小さく することができるPCCVが採用されることになった。 PCCVは,鉄筋コンクリートの壁中に高強度の緊張 材を網目状に配置して締め付けることにより,あらかじ めコンクリートに圧縮応力を与えておき,内圧により生 じる高い引張応力に抵抗させるようにして鉄筋コンクリ ートを補強した構造のものであり,鋼製格納容器と比較 してその容積を大幅に抑えることができる。漏えい防止 機能については,鋼製ライナプレートをコンクリートに 内張りすることにより対処している。加えて,PCCV は自らのコンクリート部が遮蔽機能も有する合理的な設 計とされている。 2.2 PCCVの基本仕様 敦賀2号機のPCCV主要部位の使用材料及び基本仕 様を表1.及び表2.に,PCCV概略断面図及びテンド ン配置図を図1.及び図2.に示す。PCCVは厚さ8m の基礎盤,内径が43m,高さが65mの円筒部及びド ーム部から構成される容器で,上部構造の円筒部及びド ーム部がプレストレストコンクリート構造である。 連絡先:中間 昌平,〒101-0053 東京都千代田区神田 美土代町1-1,日本原子力発電株式会社 発電管理室 E-mail:shouhei-nakama@japc.co.jp - 286 - 内面の鋼製ライナプレートは漏えい防止の機能を有して いる。 コンクリートは,セメントに骨材(粗骨材,細骨材), 水及び混和材料を混合したものである。鉄筋コンクリー ト構造は,必要な強度を確保するために,圧縮力には強 いが引張力に弱いコンクリートを,引張力に強い鉄筋で 補強した構造である。また,鉄筋コンクリート構造は, 鉄筋を強アルカリ性であるコンクリートで包むことによ り,鉄筋の腐食を防止することができる。 プレストレスシステムとは,テンドンと定着具等から 構成される緊張システムである。テンドンは,PC鋼線 により構成され,定着具は,アンカーヘッド,ボタンヘ 原子炉棟 プレストレスト コンクリート製 格納容器本体 43,000mm アニュラス部 機器搬入口 非常用エアロック テンドンギャラリー 鉄筋コンクリート造原子炉格納容器底部 図1. 敦賀2号機 PCCV概略断面図 図2. テンドン配置図 逆Uテンドン ドームフープテンドン フープテンドン バットレス 機器搬入口 - 287 - ライナプレート PC鋼線 格納容器ポーラクレーン ライナプレート ッド,シム,支圧板等のテンドンの緊張力をコンクリー トに伝達する部品で構成される。 表1. 敦賀2号機 PCCV 主要部位の使用材料 部 位 材 料 鉄筋コンクリート ドーム部 コンクリート 円 筒 部 鉄 筋 底 部 プレストレスシステム テンドン 定着具 PC鋼線 低合金鋼,炭素鋼 ライナプレート 炭 素 鋼 ライナアンカ 炭 素 鋼 表2. 敦賀2号機 PCCV の基本仕様 種類 上部半球,胴部円筒形プレストレストコンクリ ート格納容器(内面炭素鋼ライナプレート付) 最高使用圧力 約0.39MPa[gage] 最高使用温度 約144°C 円筒部内径 43,000mm ドーム部内半径 21,500mm 円筒部厚 1,300mm ドーム部厚 1,100mm 底部厚 8,000mm ライナプレート厚 6.4mm 内高 64,500mm 3.PCCVのISIについて 3.1 PCCVのISIの概要 敦賀2号機のPCCVについては,敦賀発電所の保全 計画に基づき,定期的にISIを実施し,経年劣化の有 無を確認している。 ISIでは,外観検査として,コンクリート外表面可 視部等の目視試験を,機能・性能検査として,テンドン の緊張力試験,防せい材の試験を実施しており,発電用 原子力設備規格コンクリート製原子炉格納容器規格 (2014 年 9 月,日本機械学会)[2]に具体的な内容が記載 されている。 る技術的な評価にあたっては,考慮すべき経年劣化事象 ・外観検査 コンクリート,ライナプレート及びテンドン定着部の に対し,現状が適切に管理されているか,あるいは発生, 表面可視部の目視試験を実施している。 進展の可能性があるか,運転期間中の健全性に対し十分 ・機能・性能検査 な裕度を有するのかなどについて評価が行われ,高経年 テンドンの緊張力検査では,検査対象テンドンに対し 化に対応するための保全活動が評価,審査されている。 て,リフトオフ試験を行い,テンドン緊張力が設計要求 敦賀2号機については,2017年2月に運転開始か 値以上であることを確認している。 ら30年を迎えるため,現在,高経年化対策制度に基づ 防せい材の検査では,検査対象テンドンから採取した き,ISIの実施結果や技術開発結果などを踏まえた経 サンプルを用いて試験を実施している。 年劣化に関する技術的な評価結果について審査を受けて 敦賀2号機のPCCVのISIにおける実施内容を いるところである。 表3.に示す。 表3. 敦賀2号機 PCCV ISI実施内容 4.2 PCCVの高経年化技術評価 検査項目 検査対象 検査箇所 判定基準 PCCVに要求される機能は,支持機能,放射線の遮 外観検査 コンクリート ・P C CV 表 面 部 選 定部 位 蔽機能及び耐圧機能である。したがって,次の3つの項 ・ 定着 部 周 辺 目が必要であり,高経年化対策上も重要である。 1 コンクリート強度の維持 2 コンクリート遮蔽能力の維持 3 テンドン緊張力の維持 以下に,PCCVの特徴であるテンドン緊張力の維持 について,高経年化技術評価の概要を説明する。 4.3 テンドンの緊張力低下(プレストレス損失) 長期間にわたって断続的に生じるプレストレス損失 (コンクリートの乾燥収縮・クリープおよびPC鋼線の リラクセーション)は設計時に考慮されているが,これ らの劣化要因がテンドンの緊張力低下に与える影響は極 めて大きいと考えられ,原子力施設における建築物の維 持管理指針・同解説(2015 年 12 月,日本建築学会)[3] では着目すべき劣化要因としている。 敦賀2号機のPCCVについて,テンドンの緊張力の 長期健全性評価として,ISIの結果を基に緊張力低下 を予測する方法を用いて,運転開始後60年経過時点の テンドンの緊張力を予測・評価した。その結果,運転開 始後60年経過時点のテンドンの緊張力予測値は,設計 要求値を上回ると評価され,プレストレス損失によるテ ンドンの緊張力低下は,長期健全性評価上問題とならな いと考えられる。 また,テンドンの緊張力低下については,ISIで機 能・性能検査(緊張力・防せい材検査)及び外観検査 を実施し,緊張力に支障をきたす可能性のある急激な経 年劣化がないことを確認している。 これらのことから,今後,テンドンの緊張力低下が急 - 288 - 表面に強度・性能に 影響を及ぼすひび 割れ,欠落がないこ と。 外観検査 ライナプレー ト部 表面に強度・性能に 影響を及ぼす腐食, き裂,変形及び漏え いの形跡がないこ と。 外観検査 テンドン定着 部 ・ラ イ ナプ レ ー ト表 面 可 視 部 ・円筒部,ドーム部 検 査対 象 テ ン ド ン定着具 表面に強度・性能に 影響を及ぼす,腐 食,変形,割れがな いこと。 機能・性能検査 (緊張力検査) テンドン ・フ ー プテ ン ド ン ・ド ー ムフ ー プ テン ド ン ・逆 U テン ド ン 緊張力が設計要求 値以上であること。 機能・性能検査 (防せい材検査) 防せい材 検 査対 象 テ ン ド ン防 せ い 材 ・水 溶 性不 純 物 ・含 水 量 ・全 ア ルカ リ 価 これまでのISIでは,コンクリート構造的に有害な 影響を及ぼすようなひび割れ及び破損や,テンドン緊張 力が設計要求値を下回るような事象は確認されていない。 また,防せい材の試験結果に異常のないことを確認して いる。 4.PCCVの高経年化技術評価について 4.1 高経年化技術評価の概要 国内においては,「実用発電用原子炉の設置,運転等に 関する規則」により,運転開始後30年を経過する原子 炉施設について,以降10年ごとに,機器・構造物の経 年劣化に関する技術的な評価などを行うことを義務付け る,高経年化対策制度と呼ばれる制度がある。この高経 年化対策制度においては,安全上重要でかつ補修取替え が困難な機器・構築物を評価対象とし,経年劣化に関す 激に進展する可能性は極めて小さく,ISIで機能・性 能検査(緊張力・防せい材検査)及び外観検査を継続 することにより,健全性の維持は可能であると考える。 5.結言 敦賀2号機のPCCVについては,2017年に運転 開始後30年を迎えるが,定期的なISIにより,長期 健全性に問題となるような経年劣化がないことを確認し ており,良好な状態を維持している。 テンドンの緊張力についても,現在のところ有意な低 下は認められておらず,今後もテンドンの緊張力低下が 急激に進展する可能性は極めて小さいと考えられる。 参考文献 [1] 敦賀発電所2号機用 プレストレストコンクリート 格納容器に関する技術指針(昭和57年1月,通商 産業省資源エネルギー庁) [2] 発電用原子力設備規格コンクリート製原子炉格納容 器規格(2014年9月,日本機械学会) [3] 原子力施設における建築物の維持管理指針・同解説 (2015年12 月,日本建築学会) - 289 -“ “プレストレストコンクリート製格納容器の維持管理と高経年化対策“ “中間 昌平,Shohei NAKAMA,忠田 恭一,Kyoichi CHUDA,森下 友一朗,Yuichiro MORISHITA
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