再処理施設におけるグローブボックスパネル用ガスケットの物性評価
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カテゴリ: 第13回
1.諸言
核燃料再処理施設では、プルトニウム等の放射性物質を安全に取り扱うため、外気と遮断した状況に閉じ込めて作業が可能となるグローブボックス(以下、GB という) が使用されている。GB は、透明パネルやグローブ等を備えた箱型の密閉容器であり、その多くは、本体の材質にステンレス鋼、パネルには透明の樹脂が使用されている。GB 本体とパネル間の接合には、コの字型に半円形の突起 (主リップ、副リップ)を有するクロロプレン製のガスケ ットゴムが使用されており、押さえ板をナットで締め付けてガスケットに圧縮変形を与え、その弾性復元力により接合面を密着させ、密閉性を確保している(図1)。 クロロプレンは、他の合成ゴムよりも機械的強度が高く、ガス透過性も小さく密着性に優れていることが知られている 1)。一方、酸素、オゾン、光、放射線などの様々な外的要因で物性が経年変化 2)して、これによりガスケットの弾性復元力が低下した場合、GB の密閉性能に影響を 及ぼすことが考えられる。しかし、これまでGB で長期間 使用されてきたガスケットの物性値と密閉性能の評価に ついては殆ど報告がない。そこで、本件では、日本原子 力研究開発機構(JAEA)東海再処理施設で実施したGBのパ ネル更新で得られた使用済みガスケットについて、その 物性を調査し、密閉性能に与える影響を評価した。 図1 パネルを更新したグローブボックスとパネル部断面の概要 2.試験 2.1 ガスケット試料 試験で使用した試料は、図 1 に示すように東海再処理 施設の分析所に昭和53 年に設置されたGB のパネルA~F から取り出したガスケットである。当該GBでは、これま で硝酸ウラン溶液及び硝酸プルトニウム溶液を用いて、 施設の安全・安定運転に係る試験及び再処理技術の高度 化のための試験など、様々な試験が実施されてきた。こ のため、本ガスケットは、37 年間にわたり、ウラン、プ 連絡先:後藤 雄一、〒319-1194 茨城県那珂郡東海村 ルトニウム等からの放射線、硝酸及び抽出に使用するリ 村松 4-33、核燃料サイクル工学研究所 再処理技術開発セン ン酸トリブチル、n-ドデカン等の溶媒に暴露されてきた。 ター 施設管理部 分析課 電話:029-282-1111、E-mail: goto.yuichi@jaea.co.jp - 31 - 圧縮永久ひずみ測定 硬さ測定 伸び率・引張り強さ (JIS K6253) 測定(JIS K6251) (JIS K6262) 試験片を重ね合わせ 厚みを6mm以上に調整 ノギス、マイクロメ ータでガスケット リップ部分の高さ を測定 使用前の タイプA デジタルフォースゲ リップ高さ デュロメータ を用いて硬さ を測定 ージと電動計測スタ ンドを用いて、伸び率 と引張り強さを測定 測定結果から圧縮永久 ひずみを評価 2.2 外観・寸法調査 各ガスケットA~F について、目視によるひび割れ、変 色等の損傷状況を観察した。また、ノギス、マイクロメ ータ等を使用してガスケットの外寸、リップ部分の寸法 を測定し、潰れなどの変形量を調査した。 2.3 物性値(硬さ、伸び率、引張り強さ、圧縮永久 ひずみ)の測定方法 外観・寸法の調査結果を基に、ガスケットA~Fのうち、 ひび割れ等の損傷が最も多かったものと少なかったもの について、ゴムの弾性及び強度の指標となる硬さ、伸び 率、引張り強さ、及び密閉性能へ直接影響を及ぼす圧縮 永久ひずみを測定した。測定にあたっては、図 2 に示す サイズに各辺を 150mm 程度にカットした後、シール面、 背面、押し面の各面に切り離して試験片とした。その後、 図 3 に示す手順にて硬さ、伸び率、引張り強さ、圧縮永 久ひずみを測定した。 硬さは、JIS K6253 3)に準じて試験片を 6mm 以上にな るよう重ねて、タイプ A デュロメータ(テクロック製 GS-779G)で測定した。なお、シール面は、リップ部分を 含みデュロメータでの硬さ測定が困難であったため、背 面、押し面の硬さのみを測定した。 ※点線部分にて切断 図2 試験用ガスケットの製作 使用後の リップ高さ 図3 各物性値の測定手順 シール面 背 面 伸び率と引張り強さは、JIS K6251 に準じて 4)試料を 試験片打抜き機(Asker 製試験片打抜き機)でダンベル 3 号形に打抜き、デジタルフォースゲージ(IMADA 製 DS2-200N)、電動計測スタンド(IMADA製MX2-500N)で標線 間の伸びと力を測定して式(1)、(2)を用いて求めた。な お、押し面の試料については、ダンベル 3 号形に打抜く ために必要な幅を有していなかったため、シール面と背 面のみについて測定を行った。 圧縮永久ひずみは、寸法測定で調査した主リップ及び 押し面 副リップの高さ測定結果を基に、JIS K6262 5)に準じて式 (3)から評価した。また、リファレンスとして新品のガス ケットの硬さ、伸び率、引張り強さを測定し、使用済み ガスケットの値と比較した。 3.結果 3.1 ガスケットの外観・寸法 ガスケットA~Fの外観調査の結果、全てのガスケット にひび割れ、変形があり、特にパネル下部に位置する部 分には、著しい変色、汚れ等が見られた。各ガスケット の中で最も損傷が著しかったものは、ガスケット C であ り、最も損傷が少ないものはガスケット D であった。こ れらのガスケットの外観写真を図4に示す。 損傷が多かったガスケットC 下部 損傷が少なかったガスケットD 下部 変色、汚れ 微少のひび割れ - 32 - 図4 ガスケットの外観 3.3 当該GBで過去に実施してきた試験では、パネルC近傍に ガスケットの伸び率、引張り強さ 抽出試験器(ミキサセトラ)を設置し、プルトニウム等の 測定したガスケットの伸び率と引張り強さを図 6 に 溶媒抽出を行っていた。ガスケット C は、この時に使用 示す。伸び率と引張り強さも硬さ測定と同様にガスケ していた有機溶媒の影響で多くの損傷が発生したと推測 ット C,D の上部、右部、下部、左部の 4 箇所に分けて された。ガスケット D は、ミキサセトラからの距離が離 測定した。その結果、全ての部位でガスケットの伸び れていたため、損傷が少なかったと考えられる。また、 ガスケット A~F の寸法調査の結果、外寸は、縦 966~ 982mm、横977~981mmの範囲であり、設計値(縦966mm× 横 964mm)よりも最大で約 2%伸びていた。リップ部分は、 ほぼ全ての位置で設計値(2.5mm)と比較して潰れており、 率は約100%、引張り強さは約5N/mm2であり、硬さと同 様に取り付け部位及びガスケット面の違いによる有意 な差は確認されなかった。リファレンスの測定結果(伸 び率:530%、引張り強さ:13.4N/mm2)と比較すると、測 その高さは 0.8mm 程度であった。これは、ナットの締め 定した伸び率は8割、引張り強さは6割低下しており、 付けトルクにより長期間GBに押さえつけられていたため 物性値の経年劣化が見られた。しかし、伸び率、引張 と考えられる。さらに、リップの一部は、長期間に及ぶ り強さともにクロロプレンゴムの仕様範囲内(伸び 硝酸、有機溶媒の影響でGBに固着していた。 率:100~1000%、引張強さ4.9~24.5N/mm2)であり、固 なお、クロロプレンは、104~105Gyの放射線で劣化する 定シール材として使用する O リングに要求される物性 が 6)、本GBの線量率は、12.5μSv/h 以下で管理されてお 値(伸び率60%以上、引張り強さ3.4N/mm2以上) 9)は満足 り、37 年間使用したガスケットの吸収線量は、最大でも する値であった。これらの結果より、本件の使用済み 4Gy 程度と放射線による影響は殆どないないものと考え ガスケットは、密閉材として必要な性能は十分に有し られる。 ていると考えられる。 3.2 ガスケットの硬さ 1,000 ガスケットC(シール面) ガスケットD(シール面) ガスケットの硬さは、ひび割れ等の損傷が最も多く見 800ガスケットC(背面) ガスケットD(背面) られたガスケットC と最も少なかったガスケットD につ クロロプレンゴムの伸び率仕様 いて、上部、右部、下部、左部の 4 箇所に分けて測定し た。測定した硬さは、図5 に示すように全て約80°であ り、取付け部位及びガスケット面の違いによる有意な差 は確認されなかった 。また、測定した硬さは、リファレ ンスの測定結果(58°)と比べると4割程度高く、GBでの 上 右 下 左 使用によりガスケットが硬化していることがわかった。 ガスケットC なお、ガスケットの硬化は見られたものの、その値はク ロロプレンゴムの硬さの仕様範囲内(10~90°)であり7)、 素材としての性能は維持していると考えられる。高橋ら は、南極昭和基地で35年間使用した構造用ガスケットに ついて硬さを測定し、走査電子顕微鏡による表面観察を 実施している 8)。その結果、35 年間の使用でガスケット は、80°に硬化していたが、表面の状態は良好であり、 密閉性能にも影響を及ぼさないことを報告している。こ のため、本ガスケットの硬さも、GB の密閉性能へ影響を 及ぼすことはないと考えられる。 3.4 ガスケットの圧縮永久ひずみ 80ガスケットの寸法測定結果から、ゴムの復元性能の指 60標となる圧縮永久ひずみを評価した。圧縮永久ひずみも 40ガスケット C,D の主リップと副リップについて上部、右 20部、下部、左部の 4 箇所に分けて評価した。その結果、 0図7に示すように圧縮永久ひずみは、43~70%の範囲であ - 33 - 6004002000:00:00上 右 下 左 ガスケットD 30 ガスケットC(シール面) ガスケットD(シール面) ガスケットC(背面) ガスケットD(背面) 20クロロプレンゴムの引張強さ仕様 100上 右 下 左 上 右 下 左 ガスケットC ガスケットD 図6 ガスケットの伸び率(上)、引張り強さ(下) 120ガスケットC(押し面) ガスケットD(押し面) 100 ガスケットC(背面) ガスケットD(背面) クロロプレンゴムの硬さ仕様 上 右 下 左 上 右 下 左 ガスケットC ガスケットD 図5 ガスケットの硬さ 4.結言 り、密閉性能が低下してリーク発生の可能性が急激に高 まる80%10)には到達していなかった。原子力安全基盤機構 の報告では、ガスケットの圧縮永久ひずみが84%に到達し ても GB からのリークは確認されていない 11)。このため、 本ガスケットでもGBの密閉性能は十分に担保されていた と考えられる。また、主リップの圧縮永久ひずみは、副 リップよりも約10%高い値を示した。これは、主リップが GB 内の試料及び有機溶媒等と接触していたために、復元 性能が低下して圧縮永久ひずみが増加したと考えられた。 圧縮永久ひずみのデータから、GB で使用するガスケット の寿命の評価を試みた。クロロプレン等のゴムの寿命推 定方法としては、熱加速試験で得られた各温度の圧縮永 久ひずみに、温度と時間を関数とするラーソン・ミラー・ パラメータを適用して求める方法がある 11)。本法により GB使用済みガスケットの物性調査を実施した結果、経 年変化によるガスケットの硬化、伸び率及び引張り強さ の低下、圧縮永久ひずみの増加が確認された。しかし、 硬化の程度は、密閉性能に影響を及ぼさないレベルであ り、伸び率と引張り強さは、固定シール材用 O リングに 要求される物性値を満足していた。圧縮永久ひずみも密 閉性能が低下し始める80%を下回っており、本GB のガス ケットゴムによる密閉性は担保される結果であった。な お、圧縮永久ひずみは、時間の経過に伴って増加するた め、GB の密閉性を長期間確実に維持するには、ゴム復元 力の低下に伴う適正なトルク管理による定期的なナット の増し締めが有効と考えられる。 当該GBの使用温度(25°C)において、評価したガスケット 参考文献 の使用可能年数を評価した結果、図8 に示すように約48 1) 谷藤正延:“ガスケットのシール用材料” 年であり、本ガスケット(37 年使用)は、使用可能期間内 真空,2, pp.362-367 (1959). を超えるものではなかった。なお、圧縮永久ひずみが大 2) 山下晋三: “ゴムの劣化とその防止”, 日 きくなるとゴムの復元力が低下するため、GB の密閉性能 本ゴム協会誌, 42, 661-690 (1969). の維持には、ナットの定期的な増し締めが必要と考えら 3) JIS K6253-3:2012 加硫ゴム及び熱可塑性ゴ れる。 ム -硬さの求め方- 第 3 部: デュロメータ 硬さ. 1204) JIS K6251:2010 加硫ゴム及び熱可塑性ゴム ガスケットC(主リップ) ガスケットD(主リップ) 100 ガスケットC(副リップ) ガスケットD(副リップ) ?引張特性の求め方. 80リーク発生の可能性 5) JIS K6262:2013 加硫ゴム及び熱可塑性ゴム -常温、高温及び低温における圧縮永久ひ 60ずみの求め方. 406) 町末男: “ゴムの耐放射線性”, 日本ゴム 20協会誌, 52, pp.115-121 (1979). 07) 日本分析化学会編:改訂版 化学便覧基礎編 上 右 下 左 上 右 下 左 ガスケットC ガスケットD pp.I-718~722,丸善(2004). 図7 ガスケットの圧縮永久ひずみ 8) 高橋弘樹 半貫敏夫, 鮎川勝, 武智義加, 大塚徹: “昭和基地観測棟で35年間使用し 12864た構造ガスケットの硬さ調査”, 南極資料, 58, 42-51 (2014). 329) 日本ゴム協会: “ゴム工業便覧 第 4 版”, 16957 (1994). 810) 加藤浩、三枝利有, “輸送キャスク密封装 4225°C 1置の耐熱限界性能の評価”,電力中央研究 所報告,研究報告U97101(1998).日本ゴム協 3.1E-03 3.3E-03 3.4E-03 3.6E-03 使用温度の逆数(K-1) 会: “ゴム工業便覧 第4版”, 957 (1994). 11) 原子力安全基盤機構: “平成 19 年度 MOX 図8 圧縮永久ひずみとラーソン・ミラー ・パラメータの関係式 燃料加工施設閉じ込め性能等調査・試験 ? グローブボックスの閉じ込め性能に係る調 査報告書-”, 08基シ報-0001(2008). - 34 -“ “再処理施設におけるグローブボックスパネル用ガスケットの物性評価“ “後藤 雄一,Yuichi GOTO,山本 昌彦,Masahiko YAMAMOTO,久野 剛彦,Takehiko KUNO,駿河谷 直樹,Naoki SURUGAYA
核燃料再処理施設では、プルトニウム等の放射性物質を安全に取り扱うため、外気と遮断した状況に閉じ込めて作業が可能となるグローブボックス(以下、GB という) が使用されている。GB は、透明パネルやグローブ等を備えた箱型の密閉容器であり、その多くは、本体の材質にステンレス鋼、パネルには透明の樹脂が使用されている。GB 本体とパネル間の接合には、コの字型に半円形の突起 (主リップ、副リップ)を有するクロロプレン製のガスケ ットゴムが使用されており、押さえ板をナットで締め付けてガスケットに圧縮変形を与え、その弾性復元力により接合面を密着させ、密閉性を確保している(図1)。 クロロプレンは、他の合成ゴムよりも機械的強度が高く、ガス透過性も小さく密着性に優れていることが知られている 1)。一方、酸素、オゾン、光、放射線などの様々な外的要因で物性が経年変化 2)して、これによりガスケットの弾性復元力が低下した場合、GB の密閉性能に影響を 及ぼすことが考えられる。しかし、これまでGB で長期間 使用されてきたガスケットの物性値と密閉性能の評価に ついては殆ど報告がない。そこで、本件では、日本原子 力研究開発機構(JAEA)東海再処理施設で実施したGBのパ ネル更新で得られた使用済みガスケットについて、その 物性を調査し、密閉性能に与える影響を評価した。 図1 パネルを更新したグローブボックスとパネル部断面の概要 2.試験 2.1 ガスケット試料 試験で使用した試料は、図 1 に示すように東海再処理 施設の分析所に昭和53 年に設置されたGB のパネルA~F から取り出したガスケットである。当該GBでは、これま で硝酸ウラン溶液及び硝酸プルトニウム溶液を用いて、 施設の安全・安定運転に係る試験及び再処理技術の高度 化のための試験など、様々な試験が実施されてきた。こ のため、本ガスケットは、37 年間にわたり、ウラン、プ 連絡先:後藤 雄一、〒319-1194 茨城県那珂郡東海村 ルトニウム等からの放射線、硝酸及び抽出に使用するリ 村松 4-33、核燃料サイクル工学研究所 再処理技術開発セン ン酸トリブチル、n-ドデカン等の溶媒に暴露されてきた。 ター 施設管理部 分析課 電話:029-282-1111、E-mail: goto.yuichi@jaea.co.jp - 31 - 圧縮永久ひずみ測定 硬さ測定 伸び率・引張り強さ (JIS K6253) 測定(JIS K6251) (JIS K6262) 試験片を重ね合わせ 厚みを6mm以上に調整 ノギス、マイクロメ ータでガスケット リップ部分の高さ を測定 使用前の タイプA デジタルフォースゲ リップ高さ デュロメータ を用いて硬さ を測定 ージと電動計測スタ ンドを用いて、伸び率 と引張り強さを測定 測定結果から圧縮永久 ひずみを評価 2.2 外観・寸法調査 各ガスケットA~F について、目視によるひび割れ、変 色等の損傷状況を観察した。また、ノギス、マイクロメ ータ等を使用してガスケットの外寸、リップ部分の寸法 を測定し、潰れなどの変形量を調査した。 2.3 物性値(硬さ、伸び率、引張り強さ、圧縮永久 ひずみ)の測定方法 外観・寸法の調査結果を基に、ガスケットA~Fのうち、 ひび割れ等の損傷が最も多かったものと少なかったもの について、ゴムの弾性及び強度の指標となる硬さ、伸び 率、引張り強さ、及び密閉性能へ直接影響を及ぼす圧縮 永久ひずみを測定した。測定にあたっては、図 2 に示す サイズに各辺を 150mm 程度にカットした後、シール面、 背面、押し面の各面に切り離して試験片とした。その後、 図 3 に示す手順にて硬さ、伸び率、引張り強さ、圧縮永 久ひずみを測定した。 硬さは、JIS K6253 3)に準じて試験片を 6mm 以上にな るよう重ねて、タイプ A デュロメータ(テクロック製 GS-779G)で測定した。なお、シール面は、リップ部分を 含みデュロメータでの硬さ測定が困難であったため、背 面、押し面の硬さのみを測定した。 ※点線部分にて切断 図2 試験用ガスケットの製作 使用後の リップ高さ 図3 各物性値の測定手順 シール面 背 面 伸び率と引張り強さは、JIS K6251 に準じて 4)試料を 試験片打抜き機(Asker 製試験片打抜き機)でダンベル 3 号形に打抜き、デジタルフォースゲージ(IMADA 製 DS2-200N)、電動計測スタンド(IMADA製MX2-500N)で標線 間の伸びと力を測定して式(1)、(2)を用いて求めた。な お、押し面の試料については、ダンベル 3 号形に打抜く ために必要な幅を有していなかったため、シール面と背 面のみについて測定を行った。 圧縮永久ひずみは、寸法測定で調査した主リップ及び 押し面 副リップの高さ測定結果を基に、JIS K6262 5)に準じて式 (3)から評価した。また、リファレンスとして新品のガス ケットの硬さ、伸び率、引張り強さを測定し、使用済み ガスケットの値と比較した。 3.結果 3.1 ガスケットの外観・寸法 ガスケットA~Fの外観調査の結果、全てのガスケット にひび割れ、変形があり、特にパネル下部に位置する部 分には、著しい変色、汚れ等が見られた。各ガスケット の中で最も損傷が著しかったものは、ガスケット C であ り、最も損傷が少ないものはガスケット D であった。こ れらのガスケットの外観写真を図4に示す。 損傷が多かったガスケットC 下部 損傷が少なかったガスケットD 下部 変色、汚れ 微少のひび割れ - 32 - 図4 ガスケットの外観 3.3 当該GBで過去に実施してきた試験では、パネルC近傍に ガスケットの伸び率、引張り強さ 抽出試験器(ミキサセトラ)を設置し、プルトニウム等の 測定したガスケットの伸び率と引張り強さを図 6 に 溶媒抽出を行っていた。ガスケット C は、この時に使用 示す。伸び率と引張り強さも硬さ測定と同様にガスケ していた有機溶媒の影響で多くの損傷が発生したと推測 ット C,D の上部、右部、下部、左部の 4 箇所に分けて された。ガスケット D は、ミキサセトラからの距離が離 測定した。その結果、全ての部位でガスケットの伸び れていたため、損傷が少なかったと考えられる。また、 ガスケット A~F の寸法調査の結果、外寸は、縦 966~ 982mm、横977~981mmの範囲であり、設計値(縦966mm× 横 964mm)よりも最大で約 2%伸びていた。リップ部分は、 ほぼ全ての位置で設計値(2.5mm)と比較して潰れており、 率は約100%、引張り強さは約5N/mm2であり、硬さと同 様に取り付け部位及びガスケット面の違いによる有意 な差は確認されなかった。リファレンスの測定結果(伸 び率:530%、引張り強さ:13.4N/mm2)と比較すると、測 その高さは 0.8mm 程度であった。これは、ナットの締め 定した伸び率は8割、引張り強さは6割低下しており、 付けトルクにより長期間GBに押さえつけられていたため 物性値の経年劣化が見られた。しかし、伸び率、引張 と考えられる。さらに、リップの一部は、長期間に及ぶ り強さともにクロロプレンゴムの仕様範囲内(伸び 硝酸、有機溶媒の影響でGBに固着していた。 率:100~1000%、引張強さ4.9~24.5N/mm2)であり、固 なお、クロロプレンは、104~105Gyの放射線で劣化する 定シール材として使用する O リングに要求される物性 が 6)、本GBの線量率は、12.5μSv/h 以下で管理されてお 値(伸び率60%以上、引張り強さ3.4N/mm2以上) 9)は満足 り、37 年間使用したガスケットの吸収線量は、最大でも する値であった。これらの結果より、本件の使用済み 4Gy 程度と放射線による影響は殆どないないものと考え ガスケットは、密閉材として必要な性能は十分に有し られる。 ていると考えられる。 3.2 ガスケットの硬さ 1,000 ガスケットC(シール面) ガスケットD(シール面) ガスケットの硬さは、ひび割れ等の損傷が最も多く見 800ガスケットC(背面) ガスケットD(背面) られたガスケットC と最も少なかったガスケットD につ クロロプレンゴムの伸び率仕様 いて、上部、右部、下部、左部の 4 箇所に分けて測定し た。測定した硬さは、図5 に示すように全て約80°であ り、取付け部位及びガスケット面の違いによる有意な差 は確認されなかった 。また、測定した硬さは、リファレ ンスの測定結果(58°)と比べると4割程度高く、GBでの 上 右 下 左 使用によりガスケットが硬化していることがわかった。 ガスケットC なお、ガスケットの硬化は見られたものの、その値はク ロロプレンゴムの硬さの仕様範囲内(10~90°)であり7)、 素材としての性能は維持していると考えられる。高橋ら は、南極昭和基地で35年間使用した構造用ガスケットに ついて硬さを測定し、走査電子顕微鏡による表面観察を 実施している 8)。その結果、35 年間の使用でガスケット は、80°に硬化していたが、表面の状態は良好であり、 密閉性能にも影響を及ぼさないことを報告している。こ のため、本ガスケットの硬さも、GB の密閉性能へ影響を 及ぼすことはないと考えられる。 3.4 ガスケットの圧縮永久ひずみ 80ガスケットの寸法測定結果から、ゴムの復元性能の指 60標となる圧縮永久ひずみを評価した。圧縮永久ひずみも 40ガスケット C,D の主リップと副リップについて上部、右 20部、下部、左部の 4 箇所に分けて評価した。その結果、 0図7に示すように圧縮永久ひずみは、43~70%の範囲であ - 33 - 6004002000:00:00上 右 下 左 ガスケットD 30 ガスケットC(シール面) ガスケットD(シール面) ガスケットC(背面) ガスケットD(背面) 20クロロプレンゴムの引張強さ仕様 100上 右 下 左 上 右 下 左 ガスケットC ガスケットD 図6 ガスケットの伸び率(上)、引張り強さ(下) 120ガスケットC(押し面) ガスケットD(押し面) 100 ガスケットC(背面) ガスケットD(背面) クロロプレンゴムの硬さ仕様 上 右 下 左 上 右 下 左 ガスケットC ガスケットD 図5 ガスケットの硬さ 4.結言 り、密閉性能が低下してリーク発生の可能性が急激に高 まる80%10)には到達していなかった。原子力安全基盤機構 の報告では、ガスケットの圧縮永久ひずみが84%に到達し ても GB からのリークは確認されていない 11)。このため、 本ガスケットでもGBの密閉性能は十分に担保されていた と考えられる。また、主リップの圧縮永久ひずみは、副 リップよりも約10%高い値を示した。これは、主リップが GB 内の試料及び有機溶媒等と接触していたために、復元 性能が低下して圧縮永久ひずみが増加したと考えられた。 圧縮永久ひずみのデータから、GB で使用するガスケット の寿命の評価を試みた。クロロプレン等のゴムの寿命推 定方法としては、熱加速試験で得られた各温度の圧縮永 久ひずみに、温度と時間を関数とするラーソン・ミラー・ パラメータを適用して求める方法がある 11)。本法により GB使用済みガスケットの物性調査を実施した結果、経 年変化によるガスケットの硬化、伸び率及び引張り強さ の低下、圧縮永久ひずみの増加が確認された。しかし、 硬化の程度は、密閉性能に影響を及ぼさないレベルであ り、伸び率と引張り強さは、固定シール材用 O リングに 要求される物性値を満足していた。圧縮永久ひずみも密 閉性能が低下し始める80%を下回っており、本GB のガス ケットゴムによる密閉性は担保される結果であった。な お、圧縮永久ひずみは、時間の経過に伴って増加するた め、GB の密閉性を長期間確実に維持するには、ゴム復元 力の低下に伴う適正なトルク管理による定期的なナット の増し締めが有効と考えられる。 当該GBの使用温度(25°C)において、評価したガスケット 参考文献 の使用可能年数を評価した結果、図8 に示すように約48 1) 谷藤正延:“ガスケットのシール用材料” 年であり、本ガスケット(37 年使用)は、使用可能期間内 真空,2, pp.362-367 (1959). を超えるものではなかった。なお、圧縮永久ひずみが大 2) 山下晋三: “ゴムの劣化とその防止”, 日 きくなるとゴムの復元力が低下するため、GB の密閉性能 本ゴム協会誌, 42, 661-690 (1969). の維持には、ナットの定期的な増し締めが必要と考えら 3) JIS K6253-3:2012 加硫ゴム及び熱可塑性ゴ れる。 ム -硬さの求め方- 第 3 部: デュロメータ 硬さ. 1204) JIS K6251:2010 加硫ゴム及び熱可塑性ゴム ガスケットC(主リップ) ガスケットD(主リップ) 100 ガスケットC(副リップ) ガスケットD(副リップ) ?引張特性の求め方. 80リーク発生の可能性 5) JIS K6262:2013 加硫ゴム及び熱可塑性ゴム -常温、高温及び低温における圧縮永久ひ 60ずみの求め方. 406) 町末男: “ゴムの耐放射線性”, 日本ゴム 20協会誌, 52, pp.115-121 (1979). 07) 日本分析化学会編:改訂版 化学便覧基礎編 上 右 下 左 上 右 下 左 ガスケットC ガスケットD pp.I-718~722,丸善(2004). 図7 ガスケットの圧縮永久ひずみ 8) 高橋弘樹 半貫敏夫, 鮎川勝, 武智義加, 大塚徹: “昭和基地観測棟で35年間使用し 12864た構造ガスケットの硬さ調査”, 南極資料, 58, 42-51 (2014). 329) 日本ゴム協会: “ゴム工業便覧 第 4 版”, 16957 (1994). 810) 加藤浩、三枝利有, “輸送キャスク密封装 4225°C 1置の耐熱限界性能の評価”,電力中央研究 所報告,研究報告U97101(1998).日本ゴム協 3.1E-03 3.3E-03 3.4E-03 3.6E-03 使用温度の逆数(K-1) 会: “ゴム工業便覧 第4版”, 957 (1994). 11) 原子力安全基盤機構: “平成 19 年度 MOX 図8 圧縮永久ひずみとラーソン・ミラー ・パラメータの関係式 燃料加工施設閉じ込め性能等調査・試験 ? グローブボックスの閉じ込め性能に係る調 査報告書-”, 08基シ報-0001(2008). - 34 -“ “再処理施設におけるグローブボックスパネル用ガスケットの物性評価“ “後藤 雄一,Yuichi GOTO,山本 昌彦,Masahiko YAMAMOTO,久野 剛彦,Takehiko KUNO,駿河谷 直樹,Naoki SURUGAYA