研究開発段階発電用原子炉の特徴を考慮した 保守管理の提案 (1)基本要件
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カテゴリ: 第13回
1.諸言
原子力発電所の保守管理に関しては、総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会「検査の在り方に関する検討会」での議論[1]等を踏まえて、基本要件が日本電気協会で「原子力発電所の保守管理規程(JEAC4209)」[2]として規格化されており、更に内容の理解促進を図るために「原子力発電所の保守管理指針(JEAG4210)」[3]が発行されている。JEAC4209の2007年版[4](以下「JEAC4209-2007」という。)は、規制当局からエンドースされ[5]、現場での保全活動だけでなく、定期事業者検査や定期安全管理審査等の拠り所としても活用されている。但し、「検査の在り方に関する検討会」や日本電気協会における議論の対象は、これまでに長年の運転経験を有する軽水炉(現状で唯一の実用発電用原子炉(以下、「実用炉」という。))であり、運転経験が限られる研究開発段階発電用原子炉(以下、「研開炉」という。)に適用する際には十分な注意が必要である。 研開炉には、実用炉と比較して、運転経験の他にも、期待されている役割の違い等の相違点があるが、これまで、研開炉の保守管理を行う上で考慮すべき特徴が何であり、その特徴を研開炉の保守管理にどのように反映すべきなのかについて、十分な検討が行われていなかった。 そこで、本研究では、保守管理において考慮すべき研開炉の特徴を明確にし、その特徴を考慮して、JEAC4209-2007の研開炉への適用性を分析することとした。さらに分析結果に基づき、研開炉の特徴を考慮した 保守管理を提案した。
2.分析手順 まず、保守管理で考慮すべき研開炉の特徴について整 理する。現在、国内に存在する研開炉は、高速増殖原型 炉「もんじゅ」のみであるが、ここでは、特定の炉や炉 型に限定せず、研開炉一般の特徴について議論する。 次に、保守管理の目的について明確化する。例えば、 JEAC4209-2007 では、原子炉施設の安全性に加えて、電 ――――――――――――――――――――――― 力の供給信頼性も重要視されている。研開炉の保守管理にとっても、原子炉施設の安全性の確保が最重要であることに変わりはないと考えられるが、その他に追加すべき目的がないか、研開炉の特徴に基づき検討する。続いて、研開炉の保守管理の目的と研開炉の特徴に基づき、JEAC4209-2007 の研開炉への適用性について分析する。ここで、JEAC4209-2007 に着目した理由は、原子炉施設の安全性を最優先とする姿勢や品質管理の考え方については、研開炉にも適用可能な部分が多いと考えられることである。さらに、分析結果をまとめ、研開炉の特徴を考慮した保守管理の考え方を提案する。
3.保守管理において考慮すべき研開炉の特徴 法令上、研開炉の一般的な定義はなく、「核原料物質、 核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律施行令」にお いて、高速増殖炉と重水減速沸騰軽水冷却型原子炉が、 具体的に指定されているのみである[6]。ここでは、より 一般的な議論を行うために、研開炉を、「実験炉、原型炉、 実証炉のうち、発電用設備を有するもの」として定義す る。なお、発電用設備の有無が研開炉の保守管理に対す る要求事項の検討に与える直接的な影響は小さいと思わ れるが、現状の法令上の区分に合わせるとともに、原子 炉施設の規模(保全対象となる機器数等)に関する一定 の目安になると考えられることから、発電用設備に関す る制限を便宜的に追加した。 まずその定義から、研開炉は既存実用炉とは異なる新 型炉であり、従って保守管理において考慮すべき研開炉 の第一の特徴として、「既存の実用炉とは基本的なプラン ト仕様が異なっていること」を挙げることができる。さ らに、この特徴から次の二つの特徴が導かれる(図1)。 一つ目は、プラント仕様が新しいことに起因して運転経 験が限られることから、「保全対象や保全技術自体が研究 開発対象であること」である。二つ目は、限られた運転 経験を補うために、通常、「設計段階において大きな裕度 が考慮されること」である。 Fig.1 Features to be Considered for Maintenance Management of NPP at R&D Stage 例えば、「もんじゅ」の場合、既存実用炉である軽水炉 と比較して、原子炉冷却材にナトリウムを使用している こと、そのため高温低圧系であることが代表的な相違点 として挙げられる。低圧系であることから、バウンダリ が破損した場合にもガードベッセル等の外容器で液位を 確保することにより炉心冷却が可能であるが、その一方 で検査・点検の際のアクセス性が低下するという課題が ある。またクリープ温度域で使用されることから、クリ ープ損傷やクリープ疲労損傷への対応が必要となる。ナ トリウムは構造材料との共存性が高く腐食がほとんど無 視できる一方、化学的に活性であることも注意すべき点 である。ここに挙げた個別の内容は、研開炉の特徴でな く、ナトリウム冷却高速炉の特徴として整理されるべき ものであるが、このような「既存実用炉と異なるプラン ト仕様を有すること」を考慮して、プラント仕様に適し た保守管理を新たに実施していかなければならないこと は、研開炉に共通するものである。 二つ目の特徴として挙げた「保全対象や保全技術自体 が研究開発対象であること」に関しては、研開炉には、 実験炉、原型炉、実証炉の各段階において、実用化に向 けて基盤データを取得していくことや発電用原子炉施設 として要求される各種技術を確立していくという使命が 存在することから、保全対象や保全技術自体が研究開発 対象であることは半ば自明のことであり、例えば、「もん じゅ」の具体的な研究計画を策定するために文部科学省 が設置したもんじゅ研究計画作業部会がまとめた報告書 でも、「高速炉プラントの運営については、複雑系・巨大 システムの運営自体が研究開発の側面もあって、商業用 軽水炉の運転とは次元が異なる面があることも念頭に置 くべき」であるとの指摘がなされている[7]。 最後に挙げた「設計段階において大きな裕度が考慮さ れていること」については、例えば、「もんじゅ」の場合、 原子炉容器を縦溶接継手の無いリング鍛造材を用いて製 作するとともに、周方向溶接継手についても熱過渡応力 が大きい液面近傍や、炉心近傍の高照射領域から遠ざけ ることにより原子炉容器の信頼性の向上を図る等の考慮 を実施している[8]。また、接触型やガスサンプリング型 等動作原理の異なる複数のナトリウム漏えい検出器や液 位計等その他のナトリウム漏えい確認が可能な設備が設 置されており[9]、万一の漏えいも、速やかに、かつ確実 に検出できるように備えられている。研開炉においては、 例え研究開発段階の保全技術を適用する場合においても、 このような設計上の裕度も考慮して、原子力施設の安全 性が総合的に確保されることを確認することが重要であ る。 - 322 - 4.研開炉の保守管理の目的 研開炉の保守管理を検討する上で考慮すべき研開炉の 特徴として、「既存実用炉と異なるプラント仕様を有する こと」、「保全対象や保全技術自体が研究開発対象である こと」、「設計段階において大きな裕度が考慮されている こと」の三点を挙げた。実用化に向けては、運転経験を 通じて、研究開発対象である保全対象や保全技術に関す る知見を拡充し、保全を高度化していく一方で、設計・ 設備に関する過度な保守性を取り除き、設計と保全のバ ランスを向上させていくことが重要である。従って、研 開炉の保守管理においては、原子炉施設の安全性確保を 最優先とした上で、上記の三つの特徴を考慮して、プラ ント仕様(炉型)に適した保守管理体系を構築していく 必要がある。 そこで、プラント仕様に適した保守管理体系の構築を 研開炉の目的に追加すべきかについて考察する。この際、 保守管理を実施する当該炉と後継炉に分けて考える必要 がある。当該炉にとって、プラント仕様に適した保守管 理体系の構築は、保全の高度化による研開炉自体の安全 性向上を実現するために実施するものであり、保守管理 の目的としては、「原子炉施設の安全性確保」に含まれる。 一方、得られた知見を実用化に向けた後継炉の設計や保 全計画の検討に具体的に反映していくことが重要である が、これらの内容は後継炉開発で実施すべきものであり、 保守管理の目的に追加する必要はない。 なお、JEAC4209-2007 では、電力の供給信頼性の確保 も、保守管理の目的として挙げられているが、商業用で ない研開炉にとって優先度は高くない。 以上より、研開炉の保守管理の目的は、研開炉の三つ の特徴を考慮して、原子炉施設の安全性を確保すること である。保全対象や保全技術自体が研究開発対象の場合、 設計段階における裕度も考慮して、総合的に原子炉施設 の安全性が確保されていることを確認する必要がある。 また、研開炉の役割である実用炉開発に資する基盤デー タ取得の観点から、実用化の課題を認識した上で、保全 技術を継続的に高度化するとともに、研開炉自身の安全 性向上につなげていくことが重要である。 5.研開炉へのJEAC4209-2007 適用性分析 5.1 一般事項 まず、目的(MC-1)、適用範囲(MC-2)及び保守管理 (MC-4)について検討する。用語の定義(MC-3)につ いては、ここでは省略する。なお、カッコ内の英数字は、 JEAC4209-2007の条項番号である。 目的(MC-1)については、前述の通り、JEAC4209-2007 では、原子炉施設の安全性確保と電力の供給信頼性確保 のために供用期間中に実施すべき保守管理の基本要件を 定めるとあるが、研開炉においては、保守管理の目的が 研開炉の三つの特徴を考慮して、原子炉施設の安全性を 確保することであることに変更する必要がある。 適用範囲(MC-2)については、JEAC4209-2007 では、 原子炉施設の供用期間中に事業者が行う保守管理に適用 すること、原子燃料が初装荷された後の起動試験段階に おいても準用できることの記載があるが、これについて は研開炉においても同様である。 保守管理(MC-4)においては、MC-5からMC-16 の規 定に基づき保守管理を実施することが要求されている。 機器レベルの保全、プラントレベルでの保全、さらに保 守管理の合計三階層でPDCA サイクルが設けられており、 このような考え方は研開炉にも適用できる。より詳細に 確認すると、例えば、研開炉においては、一般にまだ設 備が標準化されておらず研究開発段階であることから、 保全の改善対策として取替や改造工事が選択される場合 が多々あると想定されるが、これらについては、MC-11 で既に規定されている。また、運転経験が限定されるこ とから、特に研開炉特有の機器に対して保全内容の合理 化を実施していくことが重要であるが、保全の合理化(点 検間隔の延長や時間基準保全から状態基準保全への移行 等)については、MC-15 で既に規定されている。このよ うに、実施フローのレベルでは研開炉の特徴を考慮して 変更すべき点は特にない。 5.2 保守管理の基本的要求事項 次に、保守管理に対する基本的要求事項について検討 する。 JEAC4209-2007 では、保守管理の実施方針及び保守管 理目標(MC-5)において、原子炉施設の安全性確保を最 優先として、保守管理の現状や経営的課題等を考慮して、 保守管理に関する実施方針を定めるとともに、具体的な 目標を設定することを要求している。研開炉においても、 原子炉施設の安全性確保を最優先とすることは同じであ るが、実施方針を定める際の考慮事項として、研開炉の 特徴を考慮する必要がある。具体的には、研開炉の役割 である実用炉開発に資する基盤データ取得の観点から実 用化に向けた課題を認識した上で、運転経験の蓄積と関 - 323 - と想定される。このため、実用炉と同様のリスク情報の 連研究開発により保全技術の高度化と保全実施内容の継 続的な改善を行い、さらにその成果を研開炉自身の安全 活用を要求することはできない。しかしながらそのよう 性の向上に役立てていくことが重要である。 な状況であっても、リスク評価のモデル等を積極的に活 保全プログラムの策定(MC-6)では、原子炉施設の安 用して、炉心損傷や格納容器機能喪失を防止するために 全性と電力の供給信頼性の確保のために、保全プログラ 有用なアクシデントマネジメント設備を抽出し、当該系 ムを策定することが要求されているが、研開炉の保守管 統・機器の保全重要度を上げる等の取組を行うことは重 理の目的に関する検討の結果を反映して、電力の供給信 要である。なお、JEAC4209-2007 では、事業者の判断で、 頼性確保は研開炉では必要ない。 電力の供給信頼性や運転経験等を追加考慮することも認 保守管理の有効性評価(MC-16)では、定期的に保守 めているが、研開炉においては、保守管理の目的から、 管理の有効性を評価し、保守管理が有効に機能している これまでと同様に電力の供給信頼性を特に考慮する必要 ことを確認するとともに継続的な改善につなげること等 はない。 が要求されている。本要求は、研開炉にも適用可能であ 保全活動管理指標の設定及び監視計画の策定(MC-9) ると考えられるが、具体的な評価において、研開炉に特 及び保全活動管理指標の監視(MC-10)では、保全の有 徴的なものは、MC-5の保守管理の実施方針の考慮事項と 効性を監視、評価するために、プラントレベル及び系統 して追加した実用化の観点からの有効性評価である。特 レベルの保全活動管理指標を設定し、その監視計画を定 に実用化の観点から重要性が高い保全実施項目について め、監視を行うことを要求している。これらの要求は、 は得られた知見を整理し、課題を抽出することが必要で 保全活動の客観的な評価を可能にするための重要な要求 ある。安全性確保に関する設計への依存度が比較的高い であり、研開炉にも適用すべきものである。なお、 研開炉においては、課題への対応のために、構造設計や JEAG4210では、保全活動管理指標の目標値の設定に関し 設備設計、安全設計等に関する検討が必要となる場合が て、プラントレベルの保全活動管理指標の候補である計 あることから、保守管理の適用範囲にとらわれることな 画外自動スクラム回数等に関して国内プラントの実績や、 くそれら関連活動への影響についても評価することが重 系統レベルの保全活動監視指標に関してリスク情報との 要である。 関連について詳述されているが、前述の通り、研開炉で は、利用可能な実績やリスク情報に限りがあるため、保 5.3 保全プログラムの具備すべき要件 全重要度等を勘案して、工学的判断により目標値を設定 最後に、保守管理の核となる保全プログラムに関する することになると考えられる。実用炉のように他プラン 要求事項について検討する。 トとの比較・評価に用いるというよりも、研開炉自身の 保全対象範囲の策定(MC-7)では、保全を行うべき対 保全技術の向上を測る定量的な指標として活用すること 象範囲が列挙されている。適用される法令等の違いを考 が重要である。 慮する必要があるが、基本的に安全上重要な設備が選択 保全計画の策定(MC-11)については、別途検討結果 されており、研開炉の保守管理の目的から、研開炉への を述べる[10]。 適用に問題ないと考えられる。 保全の実施(MC-12)、点検・補修等の結果の確認・評 保全重要度の設定(MC-8)では、保全重要度を、重要 価(MC-13)及び点検・補修等の不適合管理及び是正処 度分類指針に基づく安全上の重要度とリスク情報に基づ 置(MC-14)では、MC-11 で策定した保全計画に従い、 き設定することを要求している。ここで、保全重要度は、 保全を実施し、その結果を確認・評価し、問題があれば 後述の保全方式(予防保全/事後保全)の選定や系統レ 対応することを求めている。研開炉としての特徴は、既 ベルの保全管理指標の設定の必要性の判断の根拠等に用 に保全計画に反映されているため、これらの条項につい いられる保全プログラムにおいて大変重要なパラメータ ては、研開炉にも変更せずに適用可能である。 である。研開炉の保守管理の目的から、安全上の重要度 保全の有効性評価(MC-15)では、保全活動から得ら に基づき保全重要度を設定することは、研開炉でも同様 れた情報等から、保全の有効性を評価し、保全が有効に である。一方で、研開炉の特徴として、運転経験が少な 機能していることを確認するとともに、継続的な改善に く保全対象が研究開発対象であることが挙げられるが、 つなげることが要求されている。本要求についても、研 そのような状況では、利用可能なリスク情報は限られる 開炉に適用可能である。保全対象や保全技術自体が研究 - 324 - 6.研開炉の特徴を考慮した保守管理 開発対象であるという特徴を有し、実用化に向けて保全 の高度化が重要である研開炉においては、想定する劣化 メカニズムの検証や、より精度や信頼性が高く効率の良 い保全技術の採用等、検討すべき内容は多岐にわたると 想定されるが、実用炉にも増して、保全の改善の重要性 5 章で検討した JEAC4209-2007 の研開炉の保守管理へ の適用性分析結果に基づき、研開炉の特徴を考慮した保 守管理を表1に提案する。 を認識し、有効性評価を実施することが必要である。 Table 1 Proposal of Maintenance Management of Nuclear Power Reactors at R&D Stage 番号 項目 研開炉の特徴を考慮した変更点及び考慮事項 MC-1 目的 ● 研開炉の特徴を踏まえた保守管理を実施する必要があることを明確化 ● 「電力の供給信頼性の確保」を削除。 MC-2 適用範囲 ● 変更なし MC-4 保守管理 ● 変更なし MC-5 保守管理の実施方針及び保守管理目標 ● 保守管理の実施方針を定める際の考慮事項として、実用化に向けた課題を追加 MC-6 保全プログラムの策定 ● 保全プログラムの目的から、「電力の供給信頼性の確保」を削除 MC-7 保全対象範囲の策定 ● 変更なし(適宜、適用される法令に応じた修正は必要) MC-8 保全重要度の設定 ● 安全上の重要度に基づき設定することを明確化 ● 実用炉に比べて制限があると予想されるものの、リスクに関する情報を積極的に 活用することを要求 ● 「供給信頼性」の考慮を削除 MC-9 保全活動管理指標の設定及び監視計画の策定 ● 変更なし MC-10 保全活動管理指標の監視 ● 変更なし MC-11 保全計画の策定 ● 設計的知見や科学的知見等に重点を置いた保全計画の策定 ● 設計・設備の裕度を考慮し、総合的な安全性が確保されることを確認 ● 保全計画の妥当性確認のため、知見の確認用データを取得 ● 安全裕度向上の観点から、健全性維持確認のために監視等を積極的に実施 ● 経年劣化に関する情報の将来的な標準化を目指した知見の拡充 MC-12 保全の実施 ● 変更なし MC-13 点検・補修等の結果の確認・評価 ● 変更なし MC-14 点検・補修等の不適合管理及び是正処理 ● 変更なし MC-15 保全の有効性評価 ● 変更なし MC-16 保守管理の有効性評価 ● 保守管理の適用範囲に限らず、構造設計や安全設計等の関連活動への影響につい ても評価することの重要性を注記 7.結言 研開炉の特徴を考慮した保守管理の考え方について検 討した。まず研開炉の保守管理の目的を、以下の特徴を 踏まえ、原子炉施設の安全性を確保することとした。 1) 既存実用炉と異なるプラント仕様を有すること。 2) 保全対象や保全技術自体が研究開発対象であること。 3) 設計段階において大きな裕度が考慮されていること。 次に、上記の目的等に照らして、JEAC4209-2007 の研 開炉への適用性を分析し、研開炉での要求事項や考慮事 項を提案としてまとめた。 本提案に基づく保守管理により、研開炉の安全性の確 保と保全の高度化が実現されると考える。 - 325 - 謝辞 山口彰教授(東大院)、出町和之准教授(東大院)、鈴 木直浩氏(中部電力(株))、西村貢氏(東京電力(株))、 横田昌樹氏(関西電力(株))、小林則宏氏(中国電力(株))、 笠毛誉士氏(九州電力(株))には、貴重なご意見を頂き ましたことを感謝いたします。 参考文献 [1] 例えば、原子力安全・保安院:“原子力発電施設に対 する検査制度の改善について”, 検査の在り方に関す る検討会第20回配布資料 (2006). [2] 日本電気協会:“原子力発電所の保守管理規程”, JEAC4209-2014 (2014). [3] 日本電気協会:“原子力発電所の保守管理指針”, JEAG4210-2014(2014). [4] 日本電気協会:“原子力発電所の保守管理規程”, JEAC4209-2007(2007). [5] 原子力安全・保安院:“実用発電用原子炉の設置、運 転等に関する規則第 11 条第 1 項及び研究開発段階に ある発電の用に供する原子炉の設置、運転等に関する 規則第30条第1項に掲げる保守管理について(内規)”, 平成20・12・22原院第3号 (2008). [6] “核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法 律施行令(昭和32年11月21日政令第324号)”, (2016). [7] 文部科学省 科学技術・学術審議会 研究計画・評価 分科会 原子力科学技術委員会 もんじゅ研究計画 作業部会 :“もんじゅ研究計画”, (2013). [8] T. Takahashi et al. : “Construction of the MONJU Prototype Fast Breeder Reactor”, Nuclear Technology, vol. 89, pp. 162-176 (1990). [9] 原子力百科事典ATOMICA :“ナトリウムの安全性(1 次系ナトリウム)”(2010). http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No= 03-01-03-04 [10] 近澤ら:“研究開発段階発電用原子炉の特徴を考慮し た保守管理の提案 (2)適用事例”、本学術講演会要旨 集 (2016). - 326 -“ “研究開発段階発電用原子炉の特徴を考慮した 保守管理の提案 (1)基本要件 “ “髙屋 茂,Shigeru TAKAYA,近澤 佳隆,Yoshitaka CHIKAZAWA,林田 貴一,Kiichi HAYASHIDA,田川 明広,Akihiro TAGAWA,久保 重信,Shigenobu KUBO,山下 厚,Atsushi YAMASHITA
原子力発電所の保守管理に関しては、総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会「検査の在り方に関する検討会」での議論[1]等を踏まえて、基本要件が日本電気協会で「原子力発電所の保守管理規程(JEAC4209)」[2]として規格化されており、更に内容の理解促進を図るために「原子力発電所の保守管理指針(JEAG4210)」[3]が発行されている。JEAC4209の2007年版[4](以下「JEAC4209-2007」という。)は、規制当局からエンドースされ[5]、現場での保全活動だけでなく、定期事業者検査や定期安全管理審査等の拠り所としても活用されている。但し、「検査の在り方に関する検討会」や日本電気協会における議論の対象は、これまでに長年の運転経験を有する軽水炉(現状で唯一の実用発電用原子炉(以下、「実用炉」という。))であり、運転経験が限られる研究開発段階発電用原子炉(以下、「研開炉」という。)に適用する際には十分な注意が必要である。 研開炉には、実用炉と比較して、運転経験の他にも、期待されている役割の違い等の相違点があるが、これまで、研開炉の保守管理を行う上で考慮すべき特徴が何であり、その特徴を研開炉の保守管理にどのように反映すべきなのかについて、十分な検討が行われていなかった。 そこで、本研究では、保守管理において考慮すべき研開炉の特徴を明確にし、その特徴を考慮して、JEAC4209-2007の研開炉への適用性を分析することとした。さらに分析結果に基づき、研開炉の特徴を考慮した 保守管理を提案した。
2.分析手順 まず、保守管理で考慮すべき研開炉の特徴について整 理する。現在、国内に存在する研開炉は、高速増殖原型 炉「もんじゅ」のみであるが、ここでは、特定の炉や炉 型に限定せず、研開炉一般の特徴について議論する。 次に、保守管理の目的について明確化する。例えば、 JEAC4209-2007 では、原子炉施設の安全性に加えて、電 ――――――――――――――――――――――― 力の供給信頼性も重要視されている。研開炉の保守管理にとっても、原子炉施設の安全性の確保が最重要であることに変わりはないと考えられるが、その他に追加すべき目的がないか、研開炉の特徴に基づき検討する。続いて、研開炉の保守管理の目的と研開炉の特徴に基づき、JEAC4209-2007 の研開炉への適用性について分析する。ここで、JEAC4209-2007 に着目した理由は、原子炉施設の安全性を最優先とする姿勢や品質管理の考え方については、研開炉にも適用可能な部分が多いと考えられることである。さらに、分析結果をまとめ、研開炉の特徴を考慮した保守管理の考え方を提案する。
3.保守管理において考慮すべき研開炉の特徴 法令上、研開炉の一般的な定義はなく、「核原料物質、 核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律施行令」にお いて、高速増殖炉と重水減速沸騰軽水冷却型原子炉が、 具体的に指定されているのみである[6]。ここでは、より 一般的な議論を行うために、研開炉を、「実験炉、原型炉、 実証炉のうち、発電用設備を有するもの」として定義す る。なお、発電用設備の有無が研開炉の保守管理に対す る要求事項の検討に与える直接的な影響は小さいと思わ れるが、現状の法令上の区分に合わせるとともに、原子 炉施設の規模(保全対象となる機器数等)に関する一定 の目安になると考えられることから、発電用設備に関す る制限を便宜的に追加した。 まずその定義から、研開炉は既存実用炉とは異なる新 型炉であり、従って保守管理において考慮すべき研開炉 の第一の特徴として、「既存の実用炉とは基本的なプラン ト仕様が異なっていること」を挙げることができる。さ らに、この特徴から次の二つの特徴が導かれる(図1)。 一つ目は、プラント仕様が新しいことに起因して運転経 験が限られることから、「保全対象や保全技術自体が研究 開発対象であること」である。二つ目は、限られた運転 経験を補うために、通常、「設計段階において大きな裕度 が考慮されること」である。 Fig.1 Features to be Considered for Maintenance Management of NPP at R&D Stage 例えば、「もんじゅ」の場合、既存実用炉である軽水炉 と比較して、原子炉冷却材にナトリウムを使用している こと、そのため高温低圧系であることが代表的な相違点 として挙げられる。低圧系であることから、バウンダリ が破損した場合にもガードベッセル等の外容器で液位を 確保することにより炉心冷却が可能であるが、その一方 で検査・点検の際のアクセス性が低下するという課題が ある。またクリープ温度域で使用されることから、クリ ープ損傷やクリープ疲労損傷への対応が必要となる。ナ トリウムは構造材料との共存性が高く腐食がほとんど無 視できる一方、化学的に活性であることも注意すべき点 である。ここに挙げた個別の内容は、研開炉の特徴でな く、ナトリウム冷却高速炉の特徴として整理されるべき ものであるが、このような「既存実用炉と異なるプラン ト仕様を有すること」を考慮して、プラント仕様に適し た保守管理を新たに実施していかなければならないこと は、研開炉に共通するものである。 二つ目の特徴として挙げた「保全対象や保全技術自体 が研究開発対象であること」に関しては、研開炉には、 実験炉、原型炉、実証炉の各段階において、実用化に向 けて基盤データを取得していくことや発電用原子炉施設 として要求される各種技術を確立していくという使命が 存在することから、保全対象や保全技術自体が研究開発 対象であることは半ば自明のことであり、例えば、「もん じゅ」の具体的な研究計画を策定するために文部科学省 が設置したもんじゅ研究計画作業部会がまとめた報告書 でも、「高速炉プラントの運営については、複雑系・巨大 システムの運営自体が研究開発の側面もあって、商業用 軽水炉の運転とは次元が異なる面があることも念頭に置 くべき」であるとの指摘がなされている[7]。 最後に挙げた「設計段階において大きな裕度が考慮さ れていること」については、例えば、「もんじゅ」の場合、 原子炉容器を縦溶接継手の無いリング鍛造材を用いて製 作するとともに、周方向溶接継手についても熱過渡応力 が大きい液面近傍や、炉心近傍の高照射領域から遠ざけ ることにより原子炉容器の信頼性の向上を図る等の考慮 を実施している[8]。また、接触型やガスサンプリング型 等動作原理の異なる複数のナトリウム漏えい検出器や液 位計等その他のナトリウム漏えい確認が可能な設備が設 置されており[9]、万一の漏えいも、速やかに、かつ確実 に検出できるように備えられている。研開炉においては、 例え研究開発段階の保全技術を適用する場合においても、 このような設計上の裕度も考慮して、原子力施設の安全 性が総合的に確保されることを確認することが重要であ る。 - 322 - 4.研開炉の保守管理の目的 研開炉の保守管理を検討する上で考慮すべき研開炉の 特徴として、「既存実用炉と異なるプラント仕様を有する こと」、「保全対象や保全技術自体が研究開発対象である こと」、「設計段階において大きな裕度が考慮されている こと」の三点を挙げた。実用化に向けては、運転経験を 通じて、研究開発対象である保全対象や保全技術に関す る知見を拡充し、保全を高度化していく一方で、設計・ 設備に関する過度な保守性を取り除き、設計と保全のバ ランスを向上させていくことが重要である。従って、研 開炉の保守管理においては、原子炉施設の安全性確保を 最優先とした上で、上記の三つの特徴を考慮して、プラ ント仕様(炉型)に適した保守管理体系を構築していく 必要がある。 そこで、プラント仕様に適した保守管理体系の構築を 研開炉の目的に追加すべきかについて考察する。この際、 保守管理を実施する当該炉と後継炉に分けて考える必要 がある。当該炉にとって、プラント仕様に適した保守管 理体系の構築は、保全の高度化による研開炉自体の安全 性向上を実現するために実施するものであり、保守管理 の目的としては、「原子炉施設の安全性確保」に含まれる。 一方、得られた知見を実用化に向けた後継炉の設計や保 全計画の検討に具体的に反映していくことが重要である が、これらの内容は後継炉開発で実施すべきものであり、 保守管理の目的に追加する必要はない。 なお、JEAC4209-2007 では、電力の供給信頼性の確保 も、保守管理の目的として挙げられているが、商業用で ない研開炉にとって優先度は高くない。 以上より、研開炉の保守管理の目的は、研開炉の三つ の特徴を考慮して、原子炉施設の安全性を確保すること である。保全対象や保全技術自体が研究開発対象の場合、 設計段階における裕度も考慮して、総合的に原子炉施設 の安全性が確保されていることを確認する必要がある。 また、研開炉の役割である実用炉開発に資する基盤デー タ取得の観点から、実用化の課題を認識した上で、保全 技術を継続的に高度化するとともに、研開炉自身の安全 性向上につなげていくことが重要である。 5.研開炉へのJEAC4209-2007 適用性分析 5.1 一般事項 まず、目的(MC-1)、適用範囲(MC-2)及び保守管理 (MC-4)について検討する。用語の定義(MC-3)につ いては、ここでは省略する。なお、カッコ内の英数字は、 JEAC4209-2007の条項番号である。 目的(MC-1)については、前述の通り、JEAC4209-2007 では、原子炉施設の安全性確保と電力の供給信頼性確保 のために供用期間中に実施すべき保守管理の基本要件を 定めるとあるが、研開炉においては、保守管理の目的が 研開炉の三つの特徴を考慮して、原子炉施設の安全性を 確保することであることに変更する必要がある。 適用範囲(MC-2)については、JEAC4209-2007 では、 原子炉施設の供用期間中に事業者が行う保守管理に適用 すること、原子燃料が初装荷された後の起動試験段階に おいても準用できることの記載があるが、これについて は研開炉においても同様である。 保守管理(MC-4)においては、MC-5からMC-16 の規 定に基づき保守管理を実施することが要求されている。 機器レベルの保全、プラントレベルでの保全、さらに保 守管理の合計三階層でPDCA サイクルが設けられており、 このような考え方は研開炉にも適用できる。より詳細に 確認すると、例えば、研開炉においては、一般にまだ設 備が標準化されておらず研究開発段階であることから、 保全の改善対策として取替や改造工事が選択される場合 が多々あると想定されるが、これらについては、MC-11 で既に規定されている。また、運転経験が限定されるこ とから、特に研開炉特有の機器に対して保全内容の合理 化を実施していくことが重要であるが、保全の合理化(点 検間隔の延長や時間基準保全から状態基準保全への移行 等)については、MC-15 で既に規定されている。このよ うに、実施フローのレベルでは研開炉の特徴を考慮して 変更すべき点は特にない。 5.2 保守管理の基本的要求事項 次に、保守管理に対する基本的要求事項について検討 する。 JEAC4209-2007 では、保守管理の実施方針及び保守管 理目標(MC-5)において、原子炉施設の安全性確保を最 優先として、保守管理の現状や経営的課題等を考慮して、 保守管理に関する実施方針を定めるとともに、具体的な 目標を設定することを要求している。研開炉においても、 原子炉施設の安全性確保を最優先とすることは同じであ るが、実施方針を定める際の考慮事項として、研開炉の 特徴を考慮する必要がある。具体的には、研開炉の役割 である実用炉開発に資する基盤データ取得の観点から実 用化に向けた課題を認識した上で、運転経験の蓄積と関 - 323 - と想定される。このため、実用炉と同様のリスク情報の 連研究開発により保全技術の高度化と保全実施内容の継 続的な改善を行い、さらにその成果を研開炉自身の安全 活用を要求することはできない。しかしながらそのよう 性の向上に役立てていくことが重要である。 な状況であっても、リスク評価のモデル等を積極的に活 保全プログラムの策定(MC-6)では、原子炉施設の安 用して、炉心損傷や格納容器機能喪失を防止するために 全性と電力の供給信頼性の確保のために、保全プログラ 有用なアクシデントマネジメント設備を抽出し、当該系 ムを策定することが要求されているが、研開炉の保守管 統・機器の保全重要度を上げる等の取組を行うことは重 理の目的に関する検討の結果を反映して、電力の供給信 要である。なお、JEAC4209-2007 では、事業者の判断で、 頼性確保は研開炉では必要ない。 電力の供給信頼性や運転経験等を追加考慮することも認 保守管理の有効性評価(MC-16)では、定期的に保守 めているが、研開炉においては、保守管理の目的から、 管理の有効性を評価し、保守管理が有効に機能している これまでと同様に電力の供給信頼性を特に考慮する必要 ことを確認するとともに継続的な改善につなげること等 はない。 が要求されている。本要求は、研開炉にも適用可能であ 保全活動管理指標の設定及び監視計画の策定(MC-9) ると考えられるが、具体的な評価において、研開炉に特 及び保全活動管理指標の監視(MC-10)では、保全の有 徴的なものは、MC-5の保守管理の実施方針の考慮事項と 効性を監視、評価するために、プラントレベル及び系統 して追加した実用化の観点からの有効性評価である。特 レベルの保全活動管理指標を設定し、その監視計画を定 に実用化の観点から重要性が高い保全実施項目について め、監視を行うことを要求している。これらの要求は、 は得られた知見を整理し、課題を抽出することが必要で 保全活動の客観的な評価を可能にするための重要な要求 ある。安全性確保に関する設計への依存度が比較的高い であり、研開炉にも適用すべきものである。なお、 研開炉においては、課題への対応のために、構造設計や JEAG4210では、保全活動管理指標の目標値の設定に関し 設備設計、安全設計等に関する検討が必要となる場合が て、プラントレベルの保全活動管理指標の候補である計 あることから、保守管理の適用範囲にとらわれることな 画外自動スクラム回数等に関して国内プラントの実績や、 くそれら関連活動への影響についても評価することが重 系統レベルの保全活動監視指標に関してリスク情報との 要である。 関連について詳述されているが、前述の通り、研開炉で は、利用可能な実績やリスク情報に限りがあるため、保 5.3 保全プログラムの具備すべき要件 全重要度等を勘案して、工学的判断により目標値を設定 最後に、保守管理の核となる保全プログラムに関する することになると考えられる。実用炉のように他プラン 要求事項について検討する。 トとの比較・評価に用いるというよりも、研開炉自身の 保全対象範囲の策定(MC-7)では、保全を行うべき対 保全技術の向上を測る定量的な指標として活用すること 象範囲が列挙されている。適用される法令等の違いを考 が重要である。 慮する必要があるが、基本的に安全上重要な設備が選択 保全計画の策定(MC-11)については、別途検討結果 されており、研開炉の保守管理の目的から、研開炉への を述べる[10]。 適用に問題ないと考えられる。 保全の実施(MC-12)、点検・補修等の結果の確認・評 保全重要度の設定(MC-8)では、保全重要度を、重要 価(MC-13)及び点検・補修等の不適合管理及び是正処 度分類指針に基づく安全上の重要度とリスク情報に基づ 置(MC-14)では、MC-11 で策定した保全計画に従い、 き設定することを要求している。ここで、保全重要度は、 保全を実施し、その結果を確認・評価し、問題があれば 後述の保全方式(予防保全/事後保全)の選定や系統レ 対応することを求めている。研開炉としての特徴は、既 ベルの保全管理指標の設定の必要性の判断の根拠等に用 に保全計画に反映されているため、これらの条項につい いられる保全プログラムにおいて大変重要なパラメータ ては、研開炉にも変更せずに適用可能である。 である。研開炉の保守管理の目的から、安全上の重要度 保全の有効性評価(MC-15)では、保全活動から得ら に基づき保全重要度を設定することは、研開炉でも同様 れた情報等から、保全の有効性を評価し、保全が有効に である。一方で、研開炉の特徴として、運転経験が少な 機能していることを確認するとともに、継続的な改善に く保全対象が研究開発対象であることが挙げられるが、 つなげることが要求されている。本要求についても、研 そのような状況では、利用可能なリスク情報は限られる 開炉に適用可能である。保全対象や保全技術自体が研究 - 324 - 6.研開炉の特徴を考慮した保守管理 開発対象であるという特徴を有し、実用化に向けて保全 の高度化が重要である研開炉においては、想定する劣化 メカニズムの検証や、より精度や信頼性が高く効率の良 い保全技術の採用等、検討すべき内容は多岐にわたると 想定されるが、実用炉にも増して、保全の改善の重要性 5 章で検討した JEAC4209-2007 の研開炉の保守管理へ の適用性分析結果に基づき、研開炉の特徴を考慮した保 守管理を表1に提案する。 を認識し、有効性評価を実施することが必要である。 Table 1 Proposal of Maintenance Management of Nuclear Power Reactors at R&D Stage 番号 項目 研開炉の特徴を考慮した変更点及び考慮事項 MC-1 目的 ● 研開炉の特徴を踏まえた保守管理を実施する必要があることを明確化 ● 「電力の供給信頼性の確保」を削除。 MC-2 適用範囲 ● 変更なし MC-4 保守管理 ● 変更なし MC-5 保守管理の実施方針及び保守管理目標 ● 保守管理の実施方針を定める際の考慮事項として、実用化に向けた課題を追加 MC-6 保全プログラムの策定 ● 保全プログラムの目的から、「電力の供給信頼性の確保」を削除 MC-7 保全対象範囲の策定 ● 変更なし(適宜、適用される法令に応じた修正は必要) MC-8 保全重要度の設定 ● 安全上の重要度に基づき設定することを明確化 ● 実用炉に比べて制限があると予想されるものの、リスクに関する情報を積極的に 活用することを要求 ● 「供給信頼性」の考慮を削除 MC-9 保全活動管理指標の設定及び監視計画の策定 ● 変更なし MC-10 保全活動管理指標の監視 ● 変更なし MC-11 保全計画の策定 ● 設計的知見や科学的知見等に重点を置いた保全計画の策定 ● 設計・設備の裕度を考慮し、総合的な安全性が確保されることを確認 ● 保全計画の妥当性確認のため、知見の確認用データを取得 ● 安全裕度向上の観点から、健全性維持確認のために監視等を積極的に実施 ● 経年劣化に関する情報の将来的な標準化を目指した知見の拡充 MC-12 保全の実施 ● 変更なし MC-13 点検・補修等の結果の確認・評価 ● 変更なし MC-14 点検・補修等の不適合管理及び是正処理 ● 変更なし MC-15 保全の有効性評価 ● 変更なし MC-16 保守管理の有効性評価 ● 保守管理の適用範囲に限らず、構造設計や安全設計等の関連活動への影響につい ても評価することの重要性を注記 7.結言 研開炉の特徴を考慮した保守管理の考え方について検 討した。まず研開炉の保守管理の目的を、以下の特徴を 踏まえ、原子炉施設の安全性を確保することとした。 1) 既存実用炉と異なるプラント仕様を有すること。 2) 保全対象や保全技術自体が研究開発対象であること。 3) 設計段階において大きな裕度が考慮されていること。 次に、上記の目的等に照らして、JEAC4209-2007 の研 開炉への適用性を分析し、研開炉での要求事項や考慮事 項を提案としてまとめた。 本提案に基づく保守管理により、研開炉の安全性の確 保と保全の高度化が実現されると考える。 - 325 - 謝辞 山口彰教授(東大院)、出町和之准教授(東大院)、鈴 木直浩氏(中部電力(株))、西村貢氏(東京電力(株))、 横田昌樹氏(関西電力(株))、小林則宏氏(中国電力(株))、 笠毛誉士氏(九州電力(株))には、貴重なご意見を頂き ましたことを感謝いたします。 参考文献 [1] 例えば、原子力安全・保安院:“原子力発電施設に対 する検査制度の改善について”, 検査の在り方に関す る検討会第20回配布資料 (2006). [2] 日本電気協会:“原子力発電所の保守管理規程”, JEAC4209-2014 (2014). [3] 日本電気協会:“原子力発電所の保守管理指針”, JEAG4210-2014(2014). [4] 日本電気協会:“原子力発電所の保守管理規程”, JEAC4209-2007(2007). [5] 原子力安全・保安院:“実用発電用原子炉の設置、運 転等に関する規則第 11 条第 1 項及び研究開発段階に ある発電の用に供する原子炉の設置、運転等に関する 規則第30条第1項に掲げる保守管理について(内規)”, 平成20・12・22原院第3号 (2008). [6] “核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法 律施行令(昭和32年11月21日政令第324号)”, (2016). [7] 文部科学省 科学技術・学術審議会 研究計画・評価 分科会 原子力科学技術委員会 もんじゅ研究計画 作業部会 :“もんじゅ研究計画”, (2013). [8] T. Takahashi et al. : “Construction of the MONJU Prototype Fast Breeder Reactor”, Nuclear Technology, vol. 89, pp. 162-176 (1990). [9] 原子力百科事典ATOMICA :“ナトリウムの安全性(1 次系ナトリウム)”(2010). http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No= 03-01-03-04 [10] 近澤ら:“研究開発段階発電用原子炉の特徴を考慮し た保守管理の提案 (2)適用事例”、本学術講演会要旨 集 (2016). - 326 -“ “研究開発段階発電用原子炉の特徴を考慮した 保守管理の提案 (1)基本要件 “ “髙屋 茂,Shigeru TAKAYA,近澤 佳隆,Yoshitaka CHIKAZAWA,林田 貴一,Kiichi HAYASHIDA,田川 明広,Akihiro TAGAWA,久保 重信,Shigenobu KUBO,山下 厚,Atsushi YAMASHITA