ナトリウム工学研究施設における高速炉の保全技術開発
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カテゴリ: 第13回
Keywords: Fast Reactor, MONJU, Sodium Engineering Research Facility, Under Sodium Viewer, ISI
1.緒言 ナトリウム工学研究施設は、ナトリウム取扱技術の高度化および高速炉の安全性向上等を目的とした研究開発を行う施設として、「もんじゅ」に隣接する福井県敦賀市に整備された。本施設は「もんじゅ」の安全・安定運転を支援するとともに、国際協力・地域との連携協力の拠点としての役割も期待されている[1]。本稿では、本施設の整備状況と高速炉の保全技術に係る試験計画について報告する。
2.施設及び試験設備の概要
本施設(Fig.1)は、鉄骨造3階建て、建築面積約700m2、約5.5トンのナトリウムを保有する危険物取扱施設である。施設内には以下の試験設備が設置されている。
2.1保全技術開発ループ試験設備
本設備(Fig.2)は、高速炉特有の遠隔保守技術、プラントモニタリング技術およびナトリウム計測技術等の試験研究に柔軟かつ効率的に対応できるよう設計されたナトリウムループである。約 5.4トンのナトリウムを保有し、最高550°Cのナトリウムの循環運転が可能である。また、計装試験部(80 A 配管)では、「もんじゅ」の主冷却系に相当する5m/secのナトリウム流速を実現する。2つの試験タンク(φ0.8×7m、φ1.5×2.5m)を備えている。
Fig.2 Appearance and schematic of sodium test loop
2.2多目的ナトリウムセル試験設備
汎用セル(Fig.3 左側)は、全面にステンレスライナが内張りされた縦横3m、高さ2.5m の作業空間である。排気系は排煙処理設備(スクラバ)に接続されており、ナトリウムが付着した機器をセル内で安全に取り扱うことが可能である。また、セル内の雰囲気を最高240°Cまで昇温することが可能で、メンテナンス中の原子炉容器まわり等の高温環境を模擬できる。
鋼製セル(Fig.3右側)は、内径1.3 m、高さ2.9 mのステンレス製容器である。供給タンクからセル内に最高650°Cの高温ナトリウムを供給することができ、10kg程度のナトリウム燃焼に対しても、バウンダリを維持し外部へのエアロゾルの飛散を防止できる耐圧・気密性能を有することから、ナトリウム燃焼試験やナトリウム-コンクリート反応実験等に使用できる。 Fig.3 Appearance of multipurpose sodium test cells
2.3グローブボックス型試験設備
本設備(Fig.4)は、直径30cmのナトリウムポットを内包する大型のグローブボックスである。アルゴンガス雰囲気中の酸素及び湿分を除去するガス精製装置に加え、ナトリウムポットの昇温(最高400°C)に対応するためガス冷却装置を備えている。また、実験器具等を遠隔操作するための電動ステージが内部に設置されている。ナトリウムポットは、コールドトラップを備えたナトリウム純化供給装置と配管で接続され、高純度の液体ナトリウムを使用できる。 Fig.4 Appearance of the glove box with a sodium pot
2.4ミニループ試験設備
本設備は、「もんじゅ」の1次/2次ナトリウム系、カバーガス系及び水・蒸気系を模擬した小型の容器・配管で構成されており、ナトリウム系は、アルゴンガス雰囲気中で酸素濃度および雰囲気温度を制御可能なグローブボックスに収納されている。系統間のトリチウム/水素の移行挙動を研究するための設備である。 3.研究開発計画
本施設では、ナトリウム管理技術、高速炉の安全性に関する試験研究、ナトリウム計測技術および保全技術の開発を計画している。ここでは、高速炉の保全技術に係る研究開発計画について述べる。 そこでまず、高速炉の遠隔保守に必要な多種・多様な要素技術について、グローブボックス型試験設備等を用いて基礎的な試験を行い、基盤技術として整備する。つぎに、これらの技術を用いて、従来保守が困難とされていた機器(部位)に対し遠隔保守装置のプロトタイプを試作し、保全技術開発ループ試験設備等で試験を行い、システムとして機能・性能を検証する。 基盤技術としては、ナトリウム機器の検査・補修に用いるセンサ・ツールの開発と、これらを搭載し対象物までの距離・姿勢を制御する技術(アクセス装置)の開発が必要となる。センサ・ツールの開発では、超音波によりナトリウム中を可視化する技術、高温・高放射線環境下での使用に耐える非破壊検査用センサ、レーザーによるナトリウム除去、溶接・肉盛、切断等の技術が候補となる。搬送技術としては、ロボットアーム型、 遊泳型および台車型のアクセス装置を想定し、構造材料、駆動装置および制御技術等の開発を行う。アクセス装置の構造材料は、定格運転状態での長期間の使用を前提とした従来の材料開発とは異なり、原子炉停止中 (約 200°C)における短時間の保守作業への適用を念頭に、高剛性かつ軽量な材料の適用を検討する。
また、
3.1ナトリウム機器の遠隔保守技術 原子炉冷却材として不透明かつ化学的に活性なナトリウムを用いる高速炉では、一般にバウンダリ開放を伴うナトリウム機器内部の点検・補修には困難を伴う[2]。バウンダリを保持したまま、ナトリウム中あるいは高温の不活性ガス中でロボットアーム等の遠隔操作により保守を行えることが望まれる。 高温用のモーター・減速機、ナトリウム中軸受、磁気 カップリングおよびベローズの検討に加え、ナトリウ ム中に浸漬される部分の接合法(溶接、ロウ付け及び ナトリウム中フランジ)や、耐食性向上及び濡れ性の 制御を目的とした表面処理技術の検討を行う。
Table 1 A list of technologies behind remote maintenance of Fast Reactors
Fig.6 にグローブボックス型試験設備で実施しているナ トリウム中可視化実験の試験データの一例を示す。
Fig.6 Under sodium visualization of a hexagon nut (M8) by ultrasonic technique
3.2もんじゅ用ISI装置高度化
「もんじゅ」の供用期間中検査(ISI)のうち、原子炉容器、1次系ナトリウム配管、蒸気発生器伝熱管の3つの検査装置については、高温・高放射線環境等の高速炉特有の課題があり、実規模モックアップ設備等を用いてISI装置の開発を進めてきた[3][4]。 Fig.7 Overview of development of ISI systems for MONJU. Fig.7 に「もんじゅ」用ISI装置開発の概要を示す。 例えば、ナトリウムが付着した機器の欠陥検出性を評価する試験[5]のようにナトリウムの取り扱いを要する試験や、汎用セル内で高温環境を模擬して耐熱性を評価する試験等に本施設を活用することにより、技術開発を加速する計画である。 プラントにおける異常の早期検出等を目的として、モニタリング技術の開発を行う。高速炉は定格運転中に系統が500°Cを超える高温になることから、プラントの常時モニタリングを実現するためには、高温環境に対応したセンサ技術が必要になる。既に、超短パルスレーザーシステムを用いて製作したFBGセンサを保全技術開発ループ試験設備の配管エルボ部に取り付け、熱膨張や地震等による応力・歪みのモニタリングに向けた実装を行っている[6]。 ナトリウム工学研究施設の概要及び試験設備の主要目、 高速炉の保全技術に係る試験計画について報告した。本施設は、平成27年3月に危険物取扱施設として完成検査に合格した後、試験設備にナトリウムを充填し、平成 28 年 3 月までに主要設備の試運転及び機能確認試験を終了している。既に、福井大学等と共同で進めている文部科学省の公募型研究や保全技術の要素試験等での活用を進めているが、引き続き試験計画の具体化を図り、地域との連携協力の推進に向けた取り組みを進めるとともに、その成果を積極的に外部に発信していく。
参考文献 [1] エネルギー研究開発拠点化計画 平成 21 年度推進 方針, エネルギー研究開発拠点化推進会議, 福井県, 2008 [2] 前田, 吉田, 伊東ほか, “ナトリウム冷却型高速炉の 原子容器内観察・補修技術開発(9) (1)高速実験炉「常 陽」の 燃料交換機能復旧作業の全体概要”, 日本原 子力学会「2015年春の年会」G08, 2015 - 335 - 3.3プラントモニタリング技術 今後も、運転中のき裂進展や減肉量の把握等、高温環 境下のプラントモニタリング技術を開発・実証する場と して本施設を活用していく。 4.結言 [3] 田川, 岡本, 上田, 山下, “「もんじゅ」原子炉容器ISI システムの開発”, 日本保全学会第3回学術講演会要 旨集, p.376-379, 2006 [4] 前田, 山口, 上田, 藤木, “「もんじゅ」1次主冷却系 配管検査装置の機能試験”, 日本保全学会第 10 回学 術講演会要旨集, p.599 - 601, 2013 [5] T. Yamaguchi, et al., “Experimental Measurements and Simulations of ECT Signal for Ferromagnetic SG Tubes Covered by a Sodium Layer”, Studies in Applied Electomagnetics and Mechanics, Vol.39, pp.144-154, 2014 [6] A. Nishimura, et al., “Demonstration of heat resistant fiber Bragg grating sensors based on femtosecond laser processing for vibration monitoring and temperature change”, Journal of Laser Micro/Nano engineering, 9(3), p.221 - 224, 2014 - 336 -“ “ナトリウム工学研究施設における高速炉の保全技術開発“ “上田 雅司,Masashi UEDA,山口 智彦,Toshihiko YAMAGUCHI,猿田 晃一,Koichi SARUTA
1.緒言 ナトリウム工学研究施設は、ナトリウム取扱技術の高度化および高速炉の安全性向上等を目的とした研究開発を行う施設として、「もんじゅ」に隣接する福井県敦賀市に整備された。本施設は「もんじゅ」の安全・安定運転を支援するとともに、国際協力・地域との連携協力の拠点としての役割も期待されている[1]。本稿では、本施設の整備状況と高速炉の保全技術に係る試験計画について報告する。
2.施設及び試験設備の概要
本施設(Fig.1)は、鉄骨造3階建て、建築面積約700m2、約5.5トンのナトリウムを保有する危険物取扱施設である。施設内には以下の試験設備が設置されている。
2.1保全技術開発ループ試験設備
本設備(Fig.2)は、高速炉特有の遠隔保守技術、プラントモニタリング技術およびナトリウム計測技術等の試験研究に柔軟かつ効率的に対応できるよう設計されたナトリウムループである。約 5.4トンのナトリウムを保有し、最高550°Cのナトリウムの循環運転が可能である。また、計装試験部(80 A 配管)では、「もんじゅ」の主冷却系に相当する5m/secのナトリウム流速を実現する。2つの試験タンク(φ0.8×7m、φ1.5×2.5m)を備えている。
Fig.2 Appearance and schematic of sodium test loop
2.2多目的ナトリウムセル試験設備
汎用セル(Fig.3 左側)は、全面にステンレスライナが内張りされた縦横3m、高さ2.5m の作業空間である。排気系は排煙処理設備(スクラバ)に接続されており、ナトリウムが付着した機器をセル内で安全に取り扱うことが可能である。また、セル内の雰囲気を最高240°Cまで昇温することが可能で、メンテナンス中の原子炉容器まわり等の高温環境を模擬できる。
鋼製セル(Fig.3右側)は、内径1.3 m、高さ2.9 mのステンレス製容器である。供給タンクからセル内に最高650°Cの高温ナトリウムを供給することができ、10kg程度のナトリウム燃焼に対しても、バウンダリを維持し外部へのエアロゾルの飛散を防止できる耐圧・気密性能を有することから、ナトリウム燃焼試験やナトリウム-コンクリート反応実験等に使用できる。 Fig.3 Appearance of multipurpose sodium test cells
2.3グローブボックス型試験設備
本設備(Fig.4)は、直径30cmのナトリウムポットを内包する大型のグローブボックスである。アルゴンガス雰囲気中の酸素及び湿分を除去するガス精製装置に加え、ナトリウムポットの昇温(最高400°C)に対応するためガス冷却装置を備えている。また、実験器具等を遠隔操作するための電動ステージが内部に設置されている。ナトリウムポットは、コールドトラップを備えたナトリウム純化供給装置と配管で接続され、高純度の液体ナトリウムを使用できる。 Fig.4 Appearance of the glove box with a sodium pot
2.4ミニループ試験設備
本設備は、「もんじゅ」の1次/2次ナトリウム系、カバーガス系及び水・蒸気系を模擬した小型の容器・配管で構成されており、ナトリウム系は、アルゴンガス雰囲気中で酸素濃度および雰囲気温度を制御可能なグローブボックスに収納されている。系統間のトリチウム/水素の移行挙動を研究するための設備である。 3.研究開発計画
本施設では、ナトリウム管理技術、高速炉の安全性に関する試験研究、ナトリウム計測技術および保全技術の開発を計画している。ここでは、高速炉の保全技術に係る研究開発計画について述べる。 そこでまず、高速炉の遠隔保守に必要な多種・多様な要素技術について、グローブボックス型試験設備等を用いて基礎的な試験を行い、基盤技術として整備する。つぎに、これらの技術を用いて、従来保守が困難とされていた機器(部位)に対し遠隔保守装置のプロトタイプを試作し、保全技術開発ループ試験設備等で試験を行い、システムとして機能・性能を検証する。 基盤技術としては、ナトリウム機器の検査・補修に用いるセンサ・ツールの開発と、これらを搭載し対象物までの距離・姿勢を制御する技術(アクセス装置)の開発が必要となる。センサ・ツールの開発では、超音波によりナトリウム中を可視化する技術、高温・高放射線環境下での使用に耐える非破壊検査用センサ、レーザーによるナトリウム除去、溶接・肉盛、切断等の技術が候補となる。搬送技術としては、ロボットアーム型、 遊泳型および台車型のアクセス装置を想定し、構造材料、駆動装置および制御技術等の開発を行う。アクセス装置の構造材料は、定格運転状態での長期間の使用を前提とした従来の材料開発とは異なり、原子炉停止中 (約 200°C)における短時間の保守作業への適用を念頭に、高剛性かつ軽量な材料の適用を検討する。
また、
3.1ナトリウム機器の遠隔保守技術 原子炉冷却材として不透明かつ化学的に活性なナトリウムを用いる高速炉では、一般にバウンダリ開放を伴うナトリウム機器内部の点検・補修には困難を伴う[2]。バウンダリを保持したまま、ナトリウム中あるいは高温の不活性ガス中でロボットアーム等の遠隔操作により保守を行えることが望まれる。 高温用のモーター・減速機、ナトリウム中軸受、磁気 カップリングおよびベローズの検討に加え、ナトリウ ム中に浸漬される部分の接合法(溶接、ロウ付け及び ナトリウム中フランジ)や、耐食性向上及び濡れ性の 制御を目的とした表面処理技術の検討を行う。
Table 1 A list of technologies behind remote maintenance of Fast Reactors
Fig.6 にグローブボックス型試験設備で実施しているナ トリウム中可視化実験の試験データの一例を示す。
Fig.6 Under sodium visualization of a hexagon nut (M8) by ultrasonic technique
3.2もんじゅ用ISI装置高度化
「もんじゅ」の供用期間中検査(ISI)のうち、原子炉容器、1次系ナトリウム配管、蒸気発生器伝熱管の3つの検査装置については、高温・高放射線環境等の高速炉特有の課題があり、実規模モックアップ設備等を用いてISI装置の開発を進めてきた[3][4]。 Fig.7 Overview of development of ISI systems for MONJU. Fig.7 に「もんじゅ」用ISI装置開発の概要を示す。 例えば、ナトリウムが付着した機器の欠陥検出性を評価する試験[5]のようにナトリウムの取り扱いを要する試験や、汎用セル内で高温環境を模擬して耐熱性を評価する試験等に本施設を活用することにより、技術開発を加速する計画である。 プラントにおける異常の早期検出等を目的として、モニタリング技術の開発を行う。高速炉は定格運転中に系統が500°Cを超える高温になることから、プラントの常時モニタリングを実現するためには、高温環境に対応したセンサ技術が必要になる。既に、超短パルスレーザーシステムを用いて製作したFBGセンサを保全技術開発ループ試験設備の配管エルボ部に取り付け、熱膨張や地震等による応力・歪みのモニタリングに向けた実装を行っている[6]。 ナトリウム工学研究施設の概要及び試験設備の主要目、 高速炉の保全技術に係る試験計画について報告した。本施設は、平成27年3月に危険物取扱施設として完成検査に合格した後、試験設備にナトリウムを充填し、平成 28 年 3 月までに主要設備の試運転及び機能確認試験を終了している。既に、福井大学等と共同で進めている文部科学省の公募型研究や保全技術の要素試験等での活用を進めているが、引き続き試験計画の具体化を図り、地域との連携協力の推進に向けた取り組みを進めるとともに、その成果を積極的に外部に発信していく。
参考文献 [1] エネルギー研究開発拠点化計画 平成 21 年度推進 方針, エネルギー研究開発拠点化推進会議, 福井県, 2008 [2] 前田, 吉田, 伊東ほか, “ナトリウム冷却型高速炉の 原子容器内観察・補修技術開発(9) (1)高速実験炉「常 陽」の 燃料交換機能復旧作業の全体概要”, 日本原 子力学会「2015年春の年会」G08, 2015 - 335 - 3.3プラントモニタリング技術 今後も、運転中のき裂進展や減肉量の把握等、高温環 境下のプラントモニタリング技術を開発・実証する場と して本施設を活用していく。 4.結言 [3] 田川, 岡本, 上田, 山下, “「もんじゅ」原子炉容器ISI システムの開発”, 日本保全学会第3回学術講演会要 旨集, p.376-379, 2006 [4] 前田, 山口, 上田, 藤木, “「もんじゅ」1次主冷却系 配管検査装置の機能試験”, 日本保全学会第 10 回学 術講演会要旨集, p.599 - 601, 2013 [5] T. Yamaguchi, et al., “Experimental Measurements and Simulations of ECT Signal for Ferromagnetic SG Tubes Covered by a Sodium Layer”, Studies in Applied Electomagnetics and Mechanics, Vol.39, pp.144-154, 2014 [6] A. Nishimura, et al., “Demonstration of heat resistant fiber Bragg grating sensors based on femtosecond laser processing for vibration monitoring and temperature change”, Journal of Laser Micro/Nano engineering, 9(3), p.221 - 224, 2014 - 336 -“ “ナトリウム工学研究施設における高速炉の保全技術開発“ “上田 雅司,Masashi UEDA,山口 智彦,Toshihiko YAMAGUCHI,猿田 晃一,Koichi SARUTA