最新のリスクマネジメントの活用によるマネジメントの最適化

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カテゴリ: 第13回
1.管理からマネジメントへ
Quality management を品質管理というように、わが国では、マネジメントを管理と言い換える場合がある。しかし、品質管理は本来quality controlという用語の翻訳であり、コントロールとマネジメントは同じ概念ではない。 マネジメントを管理と翻訳したことで失われたものも多い。管理という概念は、決められた手順を着実に実施するというように捉えられていることが多い。その為に管理は、その担当者が活動工程を遵守していることを確認することと考えられがちである。しかし、本来様々な活動は、その重要性や予算等も併せて判断することが求められるものであり、経営者の判断は必須であり、マネジメントの視点がないと硬直的になりがちである。 施設は、年々変化しており、保全も今までの活動の延長線上に望ましい姿があるとは限らない。保全活動もまた同じく、管理ではなくマネジメントの観点で考えることが重要である。 保全をマネジメントの視点でそのあり方を考えるためには、対象となる施設を現場の視点で見るだけではなく、経営者の視点で保全のあり方を経営や事業の最適化の観点で考える必要がある。
2.保全活動におけるリスクアプローチ
保全におけるリスクとは何か?この問いへの答えは、思ったより難しいかもしれない。それは、保全 のリスクとは、保全活動を行うそもそもそもの目的 によって変化するからである。保全が何らかの施設 の稼働を支えるものであるのであれば、保全は単に安全であることを保証するだけのものではないはずだ。保全活動におけるリスクアプローチについては、これまで様々な議論がなされてきている。しかし求める安全が、トラブルが発生した箇所について再発防止を行うということで十分でないとすれば、リスクという概念を持ち込むしかないことは自明の理である。しかし、リスクアプローチにより保全のあり方がより効果的になったかといえば、必ずしもリスクアプローチが保全にとって、有価であるとは言い切れない現実がある。リスクアプローチを保全に有効に活用するためには、リスクのどの要素に着目するかが問題である。これまでのリスクアプローチは、リスクの持つ不確かさを定量的に評価し、その発生確率によって保全の必要性を考えようとすることが多かった。しかし、発生確率の推定の精度を上げようとすると、故障データがある程度得られているものに限定される。しかしその場合、故障データが多く 得られている機器・部品の保全の必要性はリスク論を使用しなくても判断できるという矛盾が存在する。この矛盾は、リスク論を定量評価でのみ価値があるという考え方によるからである。 リスク論は、定量評価のみに存在意義があるわけではない。リスク論の特徴は、不確かなものを不確かなままに取り扱うことに意味がある。リスク論では、どの箇所の変化が施設や事業にどのような影響を持つかを考え、その発生についてどのようなレベルまで知見を得られているかを整理することが大事である。定量評価には使用できないような知見しかないということは、その事象に対して知見がないということがわかるということであり、その重大さは 影響の大きさによって変わってくる。定量評価がで きないからといってリスク論が活用できないわけで はない。寧ろ、不確かさが大きい事象への判断こそ が、リスク論を適用すべきことである。 何十万点とある部品・機器を持つ巨大システムや 複雑システムにおいて全ての項目を同じレベルでチ ェックすることには、無理がある。定まった手順を 確実に実施すれば、保全活動がうまくいくわけでも ない。その状況が施設に与える影響を踏まえリスク を考えることが重要であり、そのシステムにとって、 何をどのレベルでチェックすれば良いかと言うこと を、常に検討する必要がある。 リスクの定量評価にこだわるのは、リスク評価の 結果のみで判断を行おうとするからである。リスク マネジメントは、判断の材料を提供するものであり、 リスク評価の結果がすぐに最終判断になるわけでは ない。 3.保全活動における最新のリスクマネジ メントの活用 最新リスクマネジメント規格である ISO31000: 2009 では、リスクマネジメントは、好ましくない影 響の最小化から組織目的達成のための最適化手法へ とその位置づけを変えている。この特徴を示してい るのが ISO31000 のリスクの定義である。 ISO31000 では,リスクは,「目的に対する不確か さの影響」と定義された。 この定義の特徴は,二つある。一つは,リスクの 定義に「目的との関係を記したこと」であり,もう 一つは,定義の注記で「影響とは,期待されている ことから,よい方向及び/又は悪い方向に逸脱する こと」に記されたことである。このことによって, リスクの影響を好ましくないことに限定していない ことになる。このリスクの定義により,ISO31000 では,リスクマネジメントが各分野の好ましくない 影響の管理手法というレベルから,組織目標を達成 する手法へと進化した。保全活動も、この組織目的 の達成という視点で、そのあり方を考えるべきであ る。保全を如何に行うかということは、保全を含め た組織の全ての活動との関係でも議論をする必要が ある。 また、保全活動をどのように実施するかは、対象 とする施設だけで無く、組織の内外の状況によって も変化する。ISO 31000 では、リスク分析に先だち、 組織の内外状況を特定することを求めているのは、 その為である。 5.まとめ リスクを検討することと検査の共通点は、どちら も安全であることを前提にしないことである。 保全活動において、安全確認という概念は望まし いものではない。安全確認という概念は、「安全」で あることを前提にしているために、問題箇所が見つ からなくても、そのことが当たり前に捉えられて、 検査等に課題があるかもしれないという観点で自ら の活動を見直すことができなくなる可能性があるか らである。リスク分析も同様で、安全であることを 前提としてリスクが小さいことを安全のエビデンス として使用しようとすると、大きなリスクが見つか らなくても気にならなくなるという危険性がある。 安全におけるリスクとは、安全に影響を及ぼす事 象であり、保全におけるリスクとは保全活動に影響 を及ぼす事象である。本来、この二つのリスクは重 なり合う概念と考えられるが、保全活動において実 施すべきことを定められた項目に関して定められた 通りに行っているか否かということに注意を向けた チェックを行うと、保全活動におけるリスクと安全 に関するリスクには差異が生まれる。 保全も管理からマネジメントへの転換の次期に来 ている、対象となる施設が変化する状況に対応し、 保全のあり方も変化する必要がある。保全の視点に よる保全の実施から、事業活動最適化の為に保全の あり方を考えるべきである。 参考文献 [1] Risk management -- Principles and guidelines, ISO 31000:2009, 2009.. - 344 -“ “最新のリスクマネジメントの活用によるマネジメントの最適化 “ “野口 和彦,Kazuhiko NOGUCHI
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