関西電力における保全最適化の取組み

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カテゴリ: 第13回
1.緒言
東日本大震災以降、規制要件の強化や電力市場の自由化等、電力業界を取り巻く環境は大きく変化し、高品質かつ低廉な電力の供給が求められる。電気事業者としては、設備の安全(信頼)性の維持・向上と効率的な業務 運営の両立のため、保全の最適化に取り組んでおり、保全の有効性評価をこれまで以上に機能させていくことが重要となる。 今回、保全の有効性評価をより実効的に行う取組みとして、関西電力グループで実施した保全最適化の活動を紹介する。
2.保全最適化の取組みの概要
関西電力の原子力発電所における保全活動においては、 平成15 年より保全業務全般を支援する「原子力保全総合 システム(M35システム)」を運用している[1]。また、重 要な設備においては、機器の構成部位ごとに劣化事象を 運転・保守経験、メーカー設計的知見等に基づいて科学 的に評価し、点検内容、点検頻度、検査方法等を一義的 に定めた「保全指針」をユニットごとに策定して運用し ている。この「保全指針」を中心とし、プラント運転中 および定期検査中における点検について、保全の有効性 評価を行うことによりPDCAを確実に廻している(図1)。 保全計画の策定 工事の実施 点検計画 点検計画 作成 工事管理 工事結果 の策定 ・工事記録 ・点検手入れ前 の確認 データ 状態監視 データ取得 保全指針 改訂 不具合懸案 評価 保全指針 不具合懸案票 状態監視 データ評価 保全計画 の見直し ・振動診断 ・赤外線サーモ診断 周期・方式)の見直し 保全データに基づく評価 保全データ の評価 ・潤滑油診断 株式会社原子力エンジニアリング 秦 玄 〒550-0001 大阪市西区土佐堀1-3-7(肥後橋シミズビル) ghata@neltd.co.jp PLAN 点検計画表 原子力保全総合システム(M35) 工事計画 ・振動診断 ・赤外線サーモ診断 ・潤滑油診断 保全指針 点検計画 改訂 点検データ 管理 不具合懸案 管理 点検手入れ前 データ評価 ・点検手入れ前 点検計画表 データ 点検手入れ前 データ管理 状態監視 記録管理 図1 保全活動のPDCAの全体像 しかしながら、基本的には各発電所の設備の特性に応じ た改善活動が中心となっており、自社の他発電所におけ る各種保全データを積極的に活用するところまでは至っ ていないのが現状である。 そこで、保全活動の更なる充実化の推進に向けたワー キンググループ(WG)を立ち上げることとした。WG では、関西電力グループと3発電所の連携を強化するた め、グループ会社も含めた役割分担を明確にした(図2)。 - 359 - ACTION CHECK DO ・保全最適化の評価 ・評価結果の取りまとめ ・劣化状況の分析、評価 関西電力 関西電力 ・設計変更等の調査 原子力事業本部 美浜 情報情報 共有 提供 メーカー等 関西電力 関西電力 高浜 大飯 原子力エンジニアリング 原子力エンジニアリング 関電プラント 関電プラント フ゜ラントサービス本部 美浜 原子力事業本部 美浜 情報 共有 情報共有 情報 共有 原子力エンジニアリング 原子力エンジニアリング 関電プラント 関電プラント 高浜 大飯 高浜 大飯 ・保全データの調査、分析 ・工事記録等の整理 ・保全最適化の方向性検討 ・現場聞き取り調査 図2 WGにおける連携内容と主な役割分担 - 360 - 次章では、WGの成果の一例として、海水ポンプの保 1比較対象設備の選定 全最適化について紹介する。 ・比較対象設備は、同型式の設備を設置しているプラ ントから代表の1ユニットを選定する。 3.海水ポンプの保全最適化 ・比較対象設備として、部位ごとの構造や材料を明確 3.1 評価対象設備の選定 化し、設備全体ではなく、部位ごとに劣化事象(以 保全最適化の手法としては、「原子力発電所の保守管理 下、劣化メカニズム)と点検内容を比較できるよう 指針」[2]に、「類似機器のベンチマークによる評価」に関 にする。 する手法が示されている。この手法は、異なるユニット の同構造・同材料の設備について、保全内容を比較して 2保全内容の比較 保全最適化を行うものである。この手法を基に評価を進 ・主な劣化メカニズムを整理し、保全内容の比較対象 めていくこととし、優先度の高い設備として海水ポンプ を明確にする。 および海水ポンプモータを選定した。主な理由は以下の ・クリティカル部位(事実上、点検周期を決定してい とおりである。 る部位)およびサブクリティカル部位(クリティカ ・過酷事故時における重要な水源であり、重要度が高 ル部位の次候補となるもの)を整理し、点検周期を い。 決定付ける劣化メカニズムと保全内容を把握する。 ・内部流体が海水であるとともに屋外に設置されてい るため厳しい環境下にある。 3保全実績の調査 ・ポンプおよびポンプモータは、作業効率上、同定検 ・劣化メカニズムごとに有効な点検が適切な周期(時 時の点検がよい。 期)で実施されているかについて比較評価し、分析 ・新規制基準に伴う対応により、点検作業の工程およ する。 びスペースの最適化が特に必要である。 ・部品等の取替周期(時期)の適切性について分析す る。 3.2 保全最適化の手順 ・過去の不具合による処置が反映されているか、その 保全最適化の手順について、WGで検討を行い、図3 後のフォローが適切かについて確認する。 に示すフローを構築した。各フローでの目的は以下のと ・現場工事担当者やメーカーが持っている工事記録や おりである。 点検手入れ前データ(以下、As-Found データ)を補 2保全内容の比較 3.3 保全最適化の検討結果 3.3.1 比較対象設備の選定 同型式である美浜3号機、高浜3/4号機および大飯 3/4号機の海水ポンプを比較対象設備として選定した。 3.3.2 保全内容の比較 比較対象設備の主な仕様、クリティカル部位ならびに 点検周期を表1に示す。 各設備の流量や揚程、回転数は異なるものの、ポンプ 足するノウハウ情報が反映されているかについて確 認する。 ・保全指針の改定履歴や改定理由を調査し、保全の最 適化に有効な情報を抽出する。 4その他の調査 ・参考にすべき国内外の保全実績がないかについて調 査する。 ・国内外のトラブル事例から想定している劣化メカニ ズムが適切であるかについて調査する。 5保全最適化の総合評価 ・保全最適化の方針をまとめ、その方針を具体化する ためのマスタープランを作成し、その中に課題等を 落とし込む。 ■クリティカル部位の保全内容の調査 ■サブクリティカル部位の保全内容の調査 ・定検工事記録(所見考察、点検記録)の調査 ・As-Foundデータの調査 ・過去の不具合の調査 ・メーカ、工事会社(現場)の見解の調査 ・保全指針の改訂履歴、改訂理由の調査 3保全実績の調査 図3 保全最適化のフロー - 361 - ■点検周期の見直しの実施可否 ■課題・懸案事項への対応検討 ・段階的な点検周期の見直し ・腐食などの劣化への対策強化 ・状態監視、健全性確認の強化 ・保全指針の見直し など 5保全最適化の総合評価 ■クリティカル部位の比較 ■主要材質の比較 ■機器仕様の比較 ■分解点検周期の比較 1比較対象設備の選定 ■国内他電力・海外プラントの調査 ■国内・海外プラントのトラブル事例の調査 ■劣化メカニズム整理表などの調査 4その他の調査 の型式や主な材質、運転状態等の使用環境が同等である ことから、比較対象設備として適切であることが分かる。 ただし、実際の評価にあたっては、部位ごとの構造や材 料の差異についても考慮して評価した。 表1 比較対象設備(海水ポンプ)の保全内容 発電所 美浜3号機 高浜3/4号機 大飯3/4号機 設備 型式/内部流体/ ケーシング材料 流量 (m3/h) 3,200 5,100 5,300 揚程 (m) 30 21 48 回転数 (rpm) 885 506 715 台数 (1プラントあたり) 海水ポンプ たて置斜流ポンプ/海水/ステンレス鋼 4台 3台 (常用1台) (常用1台) 連続 3.3.3 保全実績の調査 各設備の保全指針で定める劣化メカニズムについて、 点検データやAs-Foundデータ、不具合情報等の各種保全 データを網羅的に確認し、真にクリティカルな劣化メカ ニズムに対して現状の保全内容で問題はないかという点 に留意して調査した。 各設備の近年(至近3回程度の分解点検)における保 全実績の調査結果の概要を以下に記す。 (1)ゴム軸受 美浜3号機および高浜3/4号機において、現状は 分解点検を2定検で行っているが、劣化の進展に問題 がなく継続使用しているものが確認された。また、2 定検で取替えている場合でも取替基準に達したものは 少なく、予防保全によるものが大半であった。 一方、大飯3/4号機では、現状は分解点検を4定 検で行っているが、劣化の進展に問題がなく継続使用 しているものが大勢を占めていた。また、4定検で取 替えている場合でも取替基準に達したものはなく、予 防保全によるもののみであった。 (2)ケーシング等、主軸、その他の部位 各部位において使用実績に応じた腐食や摩耗の劣化 は確認されたものの、As-Foundデータの結果は全て「良 い」であり、機能や性能に影響を及ぼす劣化や不具合 は確認されなかった。また、大飯3/4号機の簡略点 検時における試運転記録やプラントの運転期間中にお 3台 (常用1台) 運転状態 各プラントが 想定している クリティカル部位 ・ケーシング等の腐食 ・ゴム軸受*、主軸の摩耗 (ゴム軸受は剥離を含む) ・ケーシング等の腐食 ・ゴム軸受*、主軸の摩耗 点検周期 2定検 2定検 4定検 *内面に優れた摺動特性および耐摩耗性を有するゴムを採用した水潤滑方式のすべり軸受 また、状態監視技術を適切かつ有効に組み合わせるこ ける運転パラメータとして吐出圧力を調査した結果、 分解点検後3~4年の経過後も、異常がないことが確 とにより、時間基準保全(TBM:Time Based Maintenance) 認できた。 を実施している設備の点検周期の最適化や完全な CBM へ さらに、主軸および羽根車は、ANERI(原子力用次世 の移行についても併せて取組んでいく。 代機器開発研究所)が開発した耐食性ステンレス鋼[3] を使用することにより優れた防食効果が得られている ことが確認できた。 参考文献 3.3.4 その他の調査 (1)他電力プラントのトラブル情報 「原子力施設情報公開ライブラリー」調査した結果、他電力プラントにおける海水ポンプの トラブル情報は確認されなかった。 [1]高岡 幸久、吉沢 浩一、津田 和佳、“原子力保全 総合システムの導入”、電気現場技術、Vol.42, [4]に基づいて No.497(2003年10月)、pp.22-27 [2](社)日本電気協会、“原子力発電所の保守管理指針 (JEAG4210-2014)”、2014、p.42 [3]岡崎 旦、森本 庄吾、村上 宣興、大谷 卓、小 (2)海外プラントの保全内容 米国における海水ポンプの保全実績について、米国 電力研究所(EPRI:Electric Power Research Institute) が発行している予防保全基準データベース(PMBD: Preventive Maintenance Basis Database)に基づいて 野 昇一、“原子力発電プラントへの新素材の適用研 究 -ANERI15 年の成果-”、日本原子力学会誌、 Vol.42,No.3(2000) 、pp.2-33 [4](社)原子力安全推進協会、“原子力施設情報公開ラ イブラリー(http://www.nucia.jp/)” 調査した結果、想定すべき劣化メカニズムは網羅され ていることが確認できた。また、米国では状態基準保 全(CBM:Condition Based Maintenance)を主体とし た保全が行われていることも確認できた。 3.3.5 保全最適化の総合評価 3.3.3および3.3.4項に示した調査結果に基づき、本取 組みにて評価対象とした美浜3号機、高浜3/4号機お よび大飯3/4号機の海水ポンプについては、以下のと おり保全内容の見直し(改善)が必要であると評価した。 ・クリティカル部位は、ケーシング等(腐食)ではなく、 ゴム軸受(摩耗および剥離)に見直す。 ・分解点検周期を順次、大飯3/4号機と同じ4定検へ 見直す。ただし、見直しに際しては、慎重を期するこ ととし、軸受の異常を早期に検知するための運転パラ メータの監視強化に努める。 4.結言 本取組みにより、海水ポンプおよび海水ポンプモータ の保全を最適化するとともに、グループ会社を体制に組 み込んだ保全の有効性評価の手順を確立できた。今後は、 他の設備についても同様の改善活動を積極的に進めて保 全最適化を図っていく。 - 362 -“ “関西電力における保全最適化の取組み“ “原田 靖晃,Yasuteru HARADA,横田 昌樹,Masaki YOKOTA,伊藤 雅之,Masayuki ITOU,秦 玄,Gen HATA,内田 順一,Junichi UCHIDA
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