保全業務高度化に伴う 原子力保全総合システム(M35)の再構築

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カテゴリ: 第13回
1.原子力保全総合システム(M35)の開発
経緯 当社は、それまで機種毎に一律的な内容で実施していた保全から、機器の部位毎に劣化事象を抽出し、故障の 影響が大きい部位(クリティカル部位)を明確にした上で、その設置環境や使用状況に応じた保全である信頼性重視保全(RCM)に移行するため、点検項目や周期を、その根拠も含めて保全指針として制定した。このRCMの導入を効果的なものとするため、その基盤システムとして平成12年7月から原子力保全総合システム(M35)の開発に着手、平成15年3月に運用を開始した。システム開発においては、従来、個別のITシステムにて実施していた発電所の設備情報管理や保全履歴管理、さらには、保全の実施に必要となる点検計画の予実績管理や工事費用積算、予算要 求等の工事計画業務も取り込み、保全業務全般のPDCAサイクルが回せる統合システムとして構築を行った(図1)。
図1 発電所における保全業務概要
2.M35高度化の背景
1章で述べた考えの下に、保全業務全般をカバーするシステム化を逐次行ってきた。しかし、その後、原子力を取り巻く環境が劇的に変化し、M35運開直後の平成15年度には、保全業務の世界にQMSの思想を導入した定期事業者検査制度が施行、平成21年1月には、従来の巡視点検や分解点検に、運転中状態監視や点検手入れ前状態確認等の保全情報も追加して保全の有効性評価を行い、保全活動を継続的に改善する新検査制度が導入、平成23年3月11日の福島第一原子力発電所事故を契機に、重大事故等対処設備の設置、バックフィット、40年運転規制等の新規制基準が展開されてきた。 前述のとおり原子力関連の規制は強化されてきたが、これら規制の枠に囚われず、品質管理の考え方を保守管理にも反映すると共に、現行M35では取り込めていない業務範囲を補い、発電所のより安全な運営、保全業務の高度化を目指して、自主的に平成20年12月からM35の再構築に係わるシステム化構想に着手した(図2)。
3.M35再構築による保全業務高度化の目的
M35の再構築にあたっては、まず第一に、機器毎の 点検手入れ前状態や運転状態監視データ等の保全情報をシステム上で管理する機能を拡充した上で、これらを集約・一覧表示することで、保全の有効性評価の効率化・ 高度化を図った。第二に、新規制基準対応で新たに追加した重大事故等 対処設備(可搬式含む)についても、発電所本体設備と同様に体系的にシステム上で管理し、これらを一元管理することで、M35の機能充実の恩恵を最大限に受け、更なる保守管理の充実を図った。 最後に、PRAの活用拡大に向け、JANSIで取り纏めている国内機器一般故障率から、M35を通じて収集する自社の個別プラントの機器故障率へ置き換えていくこととした。なお、PRAの精度向上に必要な機能喪失有無や故障モード等の情報の登録、収集を保守管理を行う部門が日常的に行い、安全部門がPRAへ活用するなど、PRAを専門的に行わない部署も含めた組織全体でPRAに取り組むこととした。
4.M35の現状と再構築による改善点 4.1 保全有効性評価の充実、効率化
運転中状態監視データや点検手入れ前状態データ等も 本システムに取り込み、不具合/点検/部品取替え実績 等の保全履歴も含んだ 一連の保全情報を集約、 一覧表示することで、保 全有効性評価の効率化、 精度向上をシステムで 支援する事で、保全活動 の継続的改善、保全計画 の更なる適正化が期待 できる(図3)。 4.2新規制基準対応 図2 M35高度化の経緯 全管理に必要な保全標 準(保全指針、点検時の 標準工数)を、本システムに登録管理できるようにし、 恒設設備と同様に、「適切な時期に」、「適切な方法で」保 全を実現する支援機能を提供することで、保全品質の更 なる向上を図った。 4.3PRAの精度向上(個別機器の故障率の整備、 充実) JANSIで取り纏めている一律の国内機器一般故障 率から、プラント固有の個別機器の故障率を使用したP 可搬型設備を含めて、 新規制基準の導入に応 じ追加した重大事故等 対処設備に特有な、設備 情報(体系・仕様)や保 - 364 - RAが行える様になり、現場実態に即したリスク情報の 共有が可能となる他、個別機器の故障情報を踏まえた発 電所の運転・保守が可能となる。 4.4 長期停止中の追加点検 本システムとは別に管理していた長期停止中の追加点 検の考え方、点検計画を取り込み、保全指針に基づく定 期的な点検と統合して一元的に管理できるよう機能の充 実を図る事で、確実な保守管理と保全品質の向上を図る。 4.5 保全業務管理の効率化・高度化 保全業務を実施するための業務システムが独立した複 数のシステムに分かれており、業務管理に必要な情報を 利用者が工夫して収集していたのを、本システムで一元 的に集約・表示できるよう業務進捗状況を見える化する 事で、各職位に応じて業務の進捗状況が一目で確認でき るため、業務管理面での改善や、更なる保全品質の向上 を図る。 4.6 調達管理の改善による工事品質の向上 調達管理に係わる業務は膨大であるため、受注先との 工事調整に入るまでの事務処理に多くの時間を要したが、 調達要求(仕様)を各工事毎に集約、一覧化する等の事 務処理手続きを合理化すると共に、受注先との早期契約 を可能とすることで、作業安全、保全品質の更なる向上 を図る。 4.7 ユーザの利便性向上 保守管理の充実に伴い、メーカーや協力会社が当社シ ステムを利用する機会が増加するが、端末や、利用場所 に制約があったため、社員と同様にシステム利用を可能 とする情報基盤を構築し、保全情報の共有化を図ること で、メーカーや協力会社と設計図面などの設計情報の更 新・反映結果が迅速、タイムリーに共有可能となるとと もに、 協力会社と一体となった保守管理の更なる充実に 繋げたい。 上述してきた保全業務高度化を実現するためのM35 再構築後の姿を他システムとの連携も含め図4に示す。 5.M35のシステム規模と開発概要 5.1 システム規模 本システムの利用者数は、社員、協力会社を含め約 3,000人、管理対象設備数は、美浜、高浜、大飯の 図3 保全有効性評価のための機器カルテ表示 - 365 - 図4 保全業務高度化に伴うM35再構築状況 3発電所11基で約74万機器、設備保全の実施内容を 充する。 定める保全指針数は約13,000件である。 情報基盤面では、発電所構内の無線 LAN 化により、現 5.2 開発における体制と工程 場から保全情報・設計情報を登録、参照できるよう利便 開発体制は、業務担当部署である原子力事業本部、調 性の向上を図る等、今後も諸課題に柔軟に対応すべく各 達本部の2部門と、システム担当部署の経営改革・IT 種機能の拡充・改善を図っていく予定である。 本部で構成されたプロジェクトチームを結成し、3部門 が一体となって開発に当った。 参考文献 また、開発工程については、平成20年12月より再 [1]高岡 幸久,増井 豊広: “安全から安心の原子力 構築に係わるシステム化構想に着手し、平成24年6月 発電に向けて原子力発電における設備保全情報のI から平成28年4月にかけ、本格開発を行い、この5月 T化推進動向”,月刊エネルギー,Vol.35,No.3 , から運用を開始している。 2002年3月,pp.54-58(2002) 6.今後の計画 [2]高岡 幸久,吉沢 浩一,津田 和佳: “原子力保 今回の再構築で追加した支援機能(保全有効性評価、・ 全総合システムの導入” ,電気現場技術,Vol.42, 長期停止中の追加点検、PRA活用推進に向けた個別機 No.497,2003年10月,pp.22-27(2003) 器故障情報収集等)を使って行う業務については、その 業務運用の定着化を、また、美浜1・2号機については、 廃止措置に伴い変更となる機器の保全フローに則り見直 される保全指針、点検計画にも対応できるよう機能を拡 - 366 -“ “保全業務高度化に伴う 原子力保全総合システム(M35)の再構築“ “天野 太一,Taichi AMANO,徳丸 裕章,Hiroaki TOKUMARU,高岡 幸久,Yukihisa TAKAOKA,明神 功記,Katsunori MYOJIN,文能 一成,Kazushige BUNNO
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