原子力プラントの現場作業を支援するウェアラブルシステム
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カテゴリ: 第13回
1.はじめに
原子力プラントなどの大規模複雑なプラント設備では、安全性と信頼性を維持するため、日々の巡回点検や定期的な保守保全が実施されている。これらの現場作業は、設備の異常を未然に防止すると共に、万が一異常があった場合に早期検知して重大事故に至る前に対処することが期待できるため重要である。しかし一方で、ポンプや バルブなどの設備の分解点検では、多くの場合プラントを停止させて実施する必要があるため、その間は発電などの生産活動が停止するため稼働率は低下する。プラントの運転保守では、信頼性と稼働率を高い水準で維持する必要があるため、保守等の現場作業の効率化やヒューマンエラーの防止が望まれる。 そこで近年では、タブレット型PCなどの情報端末を活用して現場作業を支援する試みがなされている。特に、身に着けられるほどに小型軽量化したウェアラブルデバイスを活用した事例が注目されている[1][2]。これらの事例では、作業者がメガネ型の表示デバイスを装着することで、情報端末から出力された映像を閲覧する構成となっているため、作業者は手ぶらのままで作業手順や確認項目などの情報を見ることができるよう工夫されている。本稿では、これらのウェアラブルデバイスを原子力プラントの現場作業に展開する試みとして、作業支援システムを試作した結果について報告する。
2.現場作業でのニーズ プラント設備の巡回点検や定期検査などの現場作業では、決められた作業を確実に遂行するため作業要領書やチェックリストが使用される。また、手動機器の操作や計器チェックなどを行う際には、機器の取り違え等を防ぐため、必要に応じて配置図などの図面が参照される。原子力プラントをはじめとする多くのプラント設備では、これらの情報は紙に印刷された図書として現場に持ち込まれており、大規模複雑なプラントでは枚数も膨大となる。また、印刷忘れなどあった場合は、事務所まで取りに戻るなどの後戻りの原因となる可能性がある。これらの課題に対して、近年では必要な図書を電子媒体として、表示手段としてヘッドマウントディスプレイ(HMD) を採用することでハンズフリーでの情報提示を実現した。詳細は後述するが、HMD とカメラは、原子力プラントの高汚染エリアでも利用できるよう、全面マスクなどの呼吸保護具の内部に取り付けることができるよう設計した。スティック型PC は、無線LANで事務所の PC と通信し、画像や音声などのデータを送受信する。
Fig.1 Constitution of Support System
タブレット型 PC に保存して現場に持ち込む手段が取ら れ始めている。しかし、タブレット端末の操作で作業の 妨げになる他、原子力プラントの作業では端末の汚染も 懸念される。 情報端末の現場利用が進むと、事務所などの遠隔地と の連携の高度化も期待できる。例えば、巡回点検中に異 常検知した際や、保全作業中に現場の人員だけで対処す るのが困難な事象が発生した場合など、事務所などの遠 隔地で執務するエキスパートに状況を報告し、判断を仰 ぐ必要がある。現状では一般的に、即時報告として現場 から事務所へ電話を掛けて状況を説明するが、口頭だけ で正確に伝達することは困難である。また現場で撮影し た画像を事務所に持ち帰って詳細報告する場合も、事象 の発生からのタイムラグが発生するほか、写真の写りが 悪い場合は取り直しなどの後戻りが生じ、対策や判断の 遅れにつながることが懸念される。 また原子力プラントの作業現場では、被ばく線量の管理 も行われている。放射線管理区域で作業を行う際には、 作業ごとに定められた被ばく線量の制限値を超過しない よう厳密に管理されている。全ての作業者は個人線量計 を身に着けて自身の被ばく線量を計測しているが、管理 される線量データとしては、退域するまでうけた被ばく 線量の総量である。もし、被ばく線量の時系列的な変動 や被ばくをうけた場所のデータを併せて管理することが できれば、被ばく低減に寄与することができる可能性が ある。 Office Work site Work site Camera HMD Portable device Stick PC Battery Dosimeter Earphone & microphone Dosimeter Earphone & microphone Access Point Access Point 3.2 ハンズフリーな情報端末 視覚情報の閲覧、現場端末の操作、通話を全てハン ズフリーで行うシステムを構築した。視覚情報の閲覧 については、頭部に装着するディスプレイ、所謂HMD を採用することでハンズフリー化を実現した。原子力 プラントでは、高汚染エリアに立ち入る際、放射性物 質の吸引による内部被ばくを防止するため、全面マス ク等の呼吸保護具を着用しなければならない。このよ うな状態でもHMD を使用できるよう、Fig.2 に示すよ うに全面マスクの内部に HMD を格納できるよう設計 した。 HMD を着用する際、眼球位置に個人差があること から、着用者によってはスクリーンと瞳孔の位置がず れるため画面が欠落して視認される。この個人差を緩 3.作業支援システムの試作 現場作業でのニーズから、求められる機能としては 以下の3点を想定した。 1ハンズフリーな情報端末 2映像共有しながらコミュニケーション機能 3線量情報の共有機能 本章では、各々の機能を実現するために試作したシス テムについて説明する。 3.1 システム構成 試作システムの全体構成を Fig.1 に示す。作業者が 使用する現場端末(Portable device)は、スティック型 PC とバッテリ、線量計、イヤフォンマイクで構成され る。バッテリと線量計は USB、イヤフォンマイクは Bluetooth でそれぞれスティック型 PC と接続される。 - 368 - 衝するために、マスク内の狭隘なスペースに配置した HMD の位置を調整する機構を実装した。成人男性の 瞳孔間距離は平均61.9mm、標準偏差3.54mm[3]である。 HMD の位置を、瞳孔間距離平均値の位置から±5mm で調整可能としたため、安全側に見積もっても 92.1% の装着者に使用可能とした。 現場端末の操作は、事務所などからの遠隔操作を可 能とすることで、現場で直接操作することなく画面の 切り替えや情報の提示を可能とした。事前に事務所の PC に現場端末を登録しておけば、スティック型PC の 電源を ON して起動するだけで事務所の PC との通信 が確立され遠隔操作を開始することができる。通話制 御に関しても、開始と終了を全て遠隔から制御できる ため、作業者がイヤフォンマイクを使用することでハ ンズフリーでの通話が可能となる。 Screen Camera Projector Fig.2 Full-Face Mask Type HMD 3.3 映像共有しながらコミュニケーション 現場の映像を撮影し、ネットワーク上で共有する手 段のひとつとしてWeb カメラの活用が有効である。作 業エリアに設置するWeb カメラは、全域を見渡すには 有効だが、作業者の手元を撮影する目的には不向きで ある。事務所などの遠隔地から、現場の状態や作業の 状況を詳細に把握するためには、手元の映像が有効で あると考えられるため、HMD と同様に頭部に搭載し たカメラを採用することとした。Fig.2 に示したように、 小型のカメラも同様に全面マスク内に配置することで、 ハンズフリーで作業者の前方領域の撮影を可能とした。 試作したシステムでは、Table.1 に示した仕様のカメラ を使用したため、作業者の手元だけではなく現場の風 景の撮影にも対応できることを確認した。 - 369 - Table1 Camera Specifications 次に、事務所側で所有する図面等の情報を現場側に 共有する手段について説明する。プラントの設計図面 等は機密情報であり、厳密な管理が要求される。これ らの機密情報を現場で確認するため端末に保存すると、 端末の紛失や盗難があった場合に情報も漏えいする。 また、設計図面をサーバ上に保存し共有することでロ ーカル端末への保存を禁止したまま情報共有が可能だ が、比較的アクセスしやすい領域で機密情報を管理す ることになるため情報セキュリティ上望ましくない。 そこで本システムでは、事務所側で許可した情報のみ を画像として現場側に共有する機能を開発した。事務 所側 PC では、共有したい情報を含む図面をデスクト ップ画面に表示し、必要な領域を指定する。その領域 が画像化され、現場の HMD に表示される。この画像 データは、現場端末がシャットダウンされるか事務所 側からの操作により削除されるため、現場端末を紛失 などしても情報漏えいを防止することができる。 Fig.3 は、コミュニケーション機能を利用した遠隔作 業支援の例である。現場作業者が身に着けたWeb カメ ラで撮影した映像は、事務所PCの画面に表示される。 また、事務所 PC で閲覧している図面は、画像データ として現場のスティック型PC に伝送され、HMD に表 示される。事務所 PC では、図面や映像からキャプチ ャした静止画に手描きで文字や矢印などの図形を書き 込むことができる。これらの手描き指示情報も現場の スティック型PC に伝送され、HMD に表示することが できる。これらの機能を利用することで、事務所では 現場の作業の映像をリアルタイムで確認しながら、図 面などの視覚情報を用いながら音声で指示をすること ができる。 Angle of View 60deg (diagonal) F-Value 2.8 Resolution 640×480 (VGA) Fig.3 Example of Remote Instruction 3.4 線量情報の共有機能 線量情報の配信/受信は、ServerとViewerの二種類の ソフトウェアで実現する。線量計を接続した情報端末 でServer ソフトウェアを起動すると、計測された雰囲 気線量率と積算線量を周期的に取得する。この情報端 末とネットワーク接続されたPCでViewerソフトウェ アを起動すると、Server ソフトウェアから線量情報が 伝送される。Viewerソフトウェアは、線量計が接続さ れた情報端末でも起動させて線量情報を受け取ること が可能である。Viewerソフトウェアは、受信した雰囲 気線量率と積算線量を表示することができる。表示画 面を HMD に表示させた際の視野のイメージを Fig.4 に示す。試作したシステムでは、透過型の HMD を採 用したため、画面が透けて風景に重畳するように見え る。このようにして作業者に線量情報を提示すること で、現在位置での雰囲気線量率と自分の積算線量を容 易に把握することができる。そのため作業者は、周囲 の状況を確認しながらや、作業しながら自分の被ばく 線量や雰囲気線量率を確認することができる。また、 線量情報と同時に計測した位置の情報も測定する構成 とした。これにより、複数の作業者によって計測され た、線量率と測定位置の情報を集約することで、作業 Worker HMD View of the HMD Movie Camera Hand-painted instruction エリア内で比較的高線量率な場所を特定することが可 Office PC 能となる。 Share Area Fig.4 Field of View of the Dose Display 4.おわりに 本研究では、原子力プラントの現場作業における課 題を改善することを目的とした作業支援システムを開 発した。現状の現場作業におけるニーズから必要な機 能として、「ハンズフリーな情報端末」「映像共有しなが らコミュニケーション機能」「線量情報の共有機能」に着 目し、これらを実現するシステムを試作した。今後、 フィールドでの運用試験を行い、システムの成立性と 効果の検証、および改善と必要な機能の追加検討を進 める。 参考文献 [1] 眼鏡端末で浄水場点検、日本経済新聞、2014-5-10、 朝刊、pp.15. [2] 日経BP 社、“特集 現場みんなにウェアラブル”、日 経ものづくり、2015、第733号、pp.44-63. [3] 河内まき子・持丸正明,、2005 AIST 人体寸法デー タベース、産業技術総合研究所H16PRO 287. - 370 -“ “原子力プラントの現場作業を支援するウェアラブルシステム“ “重山 武蔵,Musashi SHIGEYAMA,尾崎 健司,Kenji OSAKI,廣瀬 行徳,Yukinori HIROSE,加藤 貴来,Takaki KATO
原子力プラントなどの大規模複雑なプラント設備では、安全性と信頼性を維持するため、日々の巡回点検や定期的な保守保全が実施されている。これらの現場作業は、設備の異常を未然に防止すると共に、万が一異常があった場合に早期検知して重大事故に至る前に対処することが期待できるため重要である。しかし一方で、ポンプや バルブなどの設備の分解点検では、多くの場合プラントを停止させて実施する必要があるため、その間は発電などの生産活動が停止するため稼働率は低下する。プラントの運転保守では、信頼性と稼働率を高い水準で維持する必要があるため、保守等の現場作業の効率化やヒューマンエラーの防止が望まれる。 そこで近年では、タブレット型PCなどの情報端末を活用して現場作業を支援する試みがなされている。特に、身に着けられるほどに小型軽量化したウェアラブルデバイスを活用した事例が注目されている[1][2]。これらの事例では、作業者がメガネ型の表示デバイスを装着することで、情報端末から出力された映像を閲覧する構成となっているため、作業者は手ぶらのままで作業手順や確認項目などの情報を見ることができるよう工夫されている。本稿では、これらのウェアラブルデバイスを原子力プラントの現場作業に展開する試みとして、作業支援システムを試作した結果について報告する。
2.現場作業でのニーズ プラント設備の巡回点検や定期検査などの現場作業では、決められた作業を確実に遂行するため作業要領書やチェックリストが使用される。また、手動機器の操作や計器チェックなどを行う際には、機器の取り違え等を防ぐため、必要に応じて配置図などの図面が参照される。原子力プラントをはじめとする多くのプラント設備では、これらの情報は紙に印刷された図書として現場に持ち込まれており、大規模複雑なプラントでは枚数も膨大となる。また、印刷忘れなどあった場合は、事務所まで取りに戻るなどの後戻りの原因となる可能性がある。これらの課題に対して、近年では必要な図書を電子媒体として、表示手段としてヘッドマウントディスプレイ(HMD) を採用することでハンズフリーでの情報提示を実現した。詳細は後述するが、HMD とカメラは、原子力プラントの高汚染エリアでも利用できるよう、全面マスクなどの呼吸保護具の内部に取り付けることができるよう設計した。スティック型PC は、無線LANで事務所の PC と通信し、画像や音声などのデータを送受信する。
Fig.1 Constitution of Support System
タブレット型 PC に保存して現場に持ち込む手段が取ら れ始めている。しかし、タブレット端末の操作で作業の 妨げになる他、原子力プラントの作業では端末の汚染も 懸念される。 情報端末の現場利用が進むと、事務所などの遠隔地と の連携の高度化も期待できる。例えば、巡回点検中に異 常検知した際や、保全作業中に現場の人員だけで対処す るのが困難な事象が発生した場合など、事務所などの遠 隔地で執務するエキスパートに状況を報告し、判断を仰 ぐ必要がある。現状では一般的に、即時報告として現場 から事務所へ電話を掛けて状況を説明するが、口頭だけ で正確に伝達することは困難である。また現場で撮影し た画像を事務所に持ち帰って詳細報告する場合も、事象 の発生からのタイムラグが発生するほか、写真の写りが 悪い場合は取り直しなどの後戻りが生じ、対策や判断の 遅れにつながることが懸念される。 また原子力プラントの作業現場では、被ばく線量の管理 も行われている。放射線管理区域で作業を行う際には、 作業ごとに定められた被ばく線量の制限値を超過しない よう厳密に管理されている。全ての作業者は個人線量計 を身に着けて自身の被ばく線量を計測しているが、管理 される線量データとしては、退域するまでうけた被ばく 線量の総量である。もし、被ばく線量の時系列的な変動 や被ばくをうけた場所のデータを併せて管理することが できれば、被ばく低減に寄与することができる可能性が ある。 Office Work site Work site Camera HMD Portable device Stick PC Battery Dosimeter Earphone & microphone Dosimeter Earphone & microphone Access Point Access Point 3.2 ハンズフリーな情報端末 視覚情報の閲覧、現場端末の操作、通話を全てハン ズフリーで行うシステムを構築した。視覚情報の閲覧 については、頭部に装着するディスプレイ、所謂HMD を採用することでハンズフリー化を実現した。原子力 プラントでは、高汚染エリアに立ち入る際、放射性物 質の吸引による内部被ばくを防止するため、全面マス ク等の呼吸保護具を着用しなければならない。このよ うな状態でもHMD を使用できるよう、Fig.2 に示すよ うに全面マスクの内部に HMD を格納できるよう設計 した。 HMD を着用する際、眼球位置に個人差があること から、着用者によってはスクリーンと瞳孔の位置がず れるため画面が欠落して視認される。この個人差を緩 3.作業支援システムの試作 現場作業でのニーズから、求められる機能としては 以下の3点を想定した。 1ハンズフリーな情報端末 2映像共有しながらコミュニケーション機能 3線量情報の共有機能 本章では、各々の機能を実現するために試作したシス テムについて説明する。 3.1 システム構成 試作システムの全体構成を Fig.1 に示す。作業者が 使用する現場端末(Portable device)は、スティック型 PC とバッテリ、線量計、イヤフォンマイクで構成され る。バッテリと線量計は USB、イヤフォンマイクは Bluetooth でそれぞれスティック型 PC と接続される。 - 368 - 衝するために、マスク内の狭隘なスペースに配置した HMD の位置を調整する機構を実装した。成人男性の 瞳孔間距離は平均61.9mm、標準偏差3.54mm[3]である。 HMD の位置を、瞳孔間距離平均値の位置から±5mm で調整可能としたため、安全側に見積もっても 92.1% の装着者に使用可能とした。 現場端末の操作は、事務所などからの遠隔操作を可 能とすることで、現場で直接操作することなく画面の 切り替えや情報の提示を可能とした。事前に事務所の PC に現場端末を登録しておけば、スティック型PC の 電源を ON して起動するだけで事務所の PC との通信 が確立され遠隔操作を開始することができる。通話制 御に関しても、開始と終了を全て遠隔から制御できる ため、作業者がイヤフォンマイクを使用することでハ ンズフリーでの通話が可能となる。 Screen Camera Projector Fig.2 Full-Face Mask Type HMD 3.3 映像共有しながらコミュニケーション 現場の映像を撮影し、ネットワーク上で共有する手 段のひとつとしてWeb カメラの活用が有効である。作 業エリアに設置するWeb カメラは、全域を見渡すには 有効だが、作業者の手元を撮影する目的には不向きで ある。事務所などの遠隔地から、現場の状態や作業の 状況を詳細に把握するためには、手元の映像が有効で あると考えられるため、HMD と同様に頭部に搭載し たカメラを採用することとした。Fig.2 に示したように、 小型のカメラも同様に全面マスク内に配置することで、 ハンズフリーで作業者の前方領域の撮影を可能とした。 試作したシステムでは、Table.1 に示した仕様のカメラ を使用したため、作業者の手元だけではなく現場の風 景の撮影にも対応できることを確認した。 - 369 - Table1 Camera Specifications 次に、事務所側で所有する図面等の情報を現場側に 共有する手段について説明する。プラントの設計図面 等は機密情報であり、厳密な管理が要求される。これ らの機密情報を現場で確認するため端末に保存すると、 端末の紛失や盗難があった場合に情報も漏えいする。 また、設計図面をサーバ上に保存し共有することでロ ーカル端末への保存を禁止したまま情報共有が可能だ が、比較的アクセスしやすい領域で機密情報を管理す ることになるため情報セキュリティ上望ましくない。 そこで本システムでは、事務所側で許可した情報のみ を画像として現場側に共有する機能を開発した。事務 所側 PC では、共有したい情報を含む図面をデスクト ップ画面に表示し、必要な領域を指定する。その領域 が画像化され、現場の HMD に表示される。この画像 データは、現場端末がシャットダウンされるか事務所 側からの操作により削除されるため、現場端末を紛失 などしても情報漏えいを防止することができる。 Fig.3 は、コミュニケーション機能を利用した遠隔作 業支援の例である。現場作業者が身に着けたWeb カメ ラで撮影した映像は、事務所PCの画面に表示される。 また、事務所 PC で閲覧している図面は、画像データ として現場のスティック型PC に伝送され、HMD に表 示される。事務所 PC では、図面や映像からキャプチ ャした静止画に手描きで文字や矢印などの図形を書き 込むことができる。これらの手描き指示情報も現場の スティック型PC に伝送され、HMD に表示することが できる。これらの機能を利用することで、事務所では 現場の作業の映像をリアルタイムで確認しながら、図 面などの視覚情報を用いながら音声で指示をすること ができる。 Angle of View 60deg (diagonal) F-Value 2.8 Resolution 640×480 (VGA) Fig.3 Example of Remote Instruction 3.4 線量情報の共有機能 線量情報の配信/受信は、ServerとViewerの二種類の ソフトウェアで実現する。線量計を接続した情報端末 でServer ソフトウェアを起動すると、計測された雰囲 気線量率と積算線量を周期的に取得する。この情報端 末とネットワーク接続されたPCでViewerソフトウェ アを起動すると、Server ソフトウェアから線量情報が 伝送される。Viewerソフトウェアは、線量計が接続さ れた情報端末でも起動させて線量情報を受け取ること が可能である。Viewerソフトウェアは、受信した雰囲 気線量率と積算線量を表示することができる。表示画 面を HMD に表示させた際の視野のイメージを Fig.4 に示す。試作したシステムでは、透過型の HMD を採 用したため、画面が透けて風景に重畳するように見え る。このようにして作業者に線量情報を提示すること で、現在位置での雰囲気線量率と自分の積算線量を容 易に把握することができる。そのため作業者は、周囲 の状況を確認しながらや、作業しながら自分の被ばく 線量や雰囲気線量率を確認することができる。また、 線量情報と同時に計測した位置の情報も測定する構成 とした。これにより、複数の作業者によって計測され た、線量率と測定位置の情報を集約することで、作業 Worker HMD View of the HMD Movie Camera Hand-painted instruction エリア内で比較的高線量率な場所を特定することが可 Office PC 能となる。 Share Area Fig.4 Field of View of the Dose Display 4.おわりに 本研究では、原子力プラントの現場作業における課 題を改善することを目的とした作業支援システムを開 発した。現状の現場作業におけるニーズから必要な機 能として、「ハンズフリーな情報端末」「映像共有しなが らコミュニケーション機能」「線量情報の共有機能」に着 目し、これらを実現するシステムを試作した。今後、 フィールドでの運用試験を行い、システムの成立性と 効果の検証、および改善と必要な機能の追加検討を進 める。 参考文献 [1] 眼鏡端末で浄水場点検、日本経済新聞、2014-5-10、 朝刊、pp.15. [2] 日経BP 社、“特集 現場みんなにウェアラブル”、日 経ものづくり、2015、第733号、pp.44-63. [3] 河内まき子・持丸正明,、2005 AIST 人体寸法デー タベース、産業技術総合研究所H16PRO 287. - 370 -“ “原子力プラントの現場作業を支援するウェアラブルシステム“ “重山 武蔵,Musashi SHIGEYAMA,尾崎 健司,Kenji OSAKI,廣瀬 行徳,Yukinori HIROSE,加藤 貴来,Takaki KATO