耐放射線性を有する水中無線伝送システムの開発

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カテゴリ: 第13回
1.緒言
東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の経験や教訓を踏まえ[1],[2]、2012年から資源エネルギー庁の電用原子炉等安全対策高度化技術基盤整備事業「特殊環境下で使用可能な監視システム高度化」に取り組んできた。その一環である原子炉情報伝送システム高度化として、水中における信号伝送が可能な無線システムの高度化に向けた基盤技術を開発している。主な使用箇所を使用済燃料プールと想定し、過酷事故時に生じうる特殊な環境においても、各種センサ等で取得した温度等の計測データを水中に設置した送信機から発信し、プール外に設置した受信機で安定的に受信しうるシステムの構築を目指している。特殊な環境の設定としては、最大で1MGy の γ 線吸収線量及び100°Cまでの温度上昇等が予測されている[3]。さらに、気泡、ガレキ等の障害物や水中浮遊物、水の濁り等が発生する可能性も考えられる。 こうした厳しい環境下における確実な信号伝送を実現するため、要素開発として、水中における通信に有利な送受信方式を選定し、各構成部品の耐放射線性を調べた。これらの結果を踏まえて、システム開発として、環境ロバスト性を向上する信号処理機能を実装したシステムを試作するとともに水中模擬環境下における送受信試験を実施し、信号伝送の安定性を評価した。次章以降で、これらの技術開発状況について報告する。
2.要素開発
2.1 通信方式 水中における無線通信方式は、主に3種類に分類することができる。超音波による音響モデムを利用した音による方式、アンテナをともなう電磁波の電波による方式、 また近年、光応用技術の発展がめざましいLED(Light Emitting Diode: 発光ダイオード)などの光源を利用した光による方式である。各方式の特徴をTable1にまとめた。電波は、伝送速度は速いが、水中における減衰が激しく、伝送距離が限られるという欠点を持つ。一方、音波は、水中の減衰は小さいが、伝送速度が遅い。これらに対して、光は、可視光域の減衰が小さく、比較的速い伝送速度を有する。したがって、水中無線伝送システムに使用する通信方式として光を選定した。
2.2 発光・受光素子
可視光を利用した送受信に使用する素子を検討した。送信側の発光素子は、小さな消費電力で輝度の高い可視光が得られることから、LEDを候補とした。LEDは、電気エネルギーを光エネルギーに変換する半導体素子である。LEDに電流を流す(順方向バイアス電圧印加)と、pn接合部にキャリアが注入され、電子と正孔(正負キャリア)の再結合が起こり、電荷が消滅する際に光エネルギーに変換される。発光波長は素子の材質によって異なり、紫外線から赤外線まで可視光(360~400nmから 760 ~830nm[4])の全波長帯域に及ぶ。一方、受信側の受光素子は、PD(Photo Diode :フォトダイオード)を候補とした。PD は、LED とは逆に、光エネルギーを電気エネルギーに変換する半導体素子である。pn 接合部の空乏層に入射した光子のエネルギーが、価電子帯の電子が伝導帯に遷移するエネルギーに使われ、電子正孔対が生じることで電気エネルギーに変換される。エネルギー変換が可能な波長帯域、すなわち受光感度を持つ帯域は、素子の材質によ
Table 1 Comparison of in-water wireless communication methods Method Item Fig.1 Wavelength distribution of absorption coefficient of light in pure water (red solid line) and the absolute irradiance of Cherenkov light from KUR core (blue broken line) Radio wave Light Sonic wave Range Several meters Several ten meters Several hundred meters Advantages ? Electromagnetic ? Universal free components ? Low attenuation ? Fast rate of coefficient transmission ? Fast rate of transmission ? Long communication distance Disadvantages ? High coefficient attenuation ? Electromagnetic sensibility ? Interference external light from ? Scattering and reflection ? Low transmission rate of ? Large size of transmitter Examples of usage In-water transceivers Radio for divers In-water transceivers - 380 - 2
って異なるが、市販されているPDの多くは可視光の全帯域に及ぶ受光感度を持つ。 水中無線伝送に使用する波長は、水中における減衰が小さいこと、環境に存在して外乱光となりうる波長を避けることの両方を満たす帯域を選定する必要がある。 Popeらの研究によれば、可視光の水中吸収係数は、およそ 650nm 以上で急激に増大する[5]。一方、使用箇所として想定している使用済燃料プールでは、燃料棒近傍で発生するチェレンコフ光が外乱光として存在する。その波長分布を調べるため、京都大学原子炉炉心における分光測定を行ったところ、紫外~青色光帯域でピークを持ち、およそ570nm以上で急激に減衰することがわかった[6]。 これらを整理したFig.1によれば、およそ580~650nmが上述の両方の条件を満たし得る波長帯域であることがわかる。したがって、同帯域を水中無線伝送システムで使用する波長として選定した。
2.3 発光素子の耐放射線性
1章で述べたように、過酷事故時において水中無電伝送システムは強い放射線環境にさらされることが予想される。各構成部品のうち、送信機は燃料プール内に設置されることから、特に高い線量域までの耐放射線性が求められる。そこで、LEDのγ線照射試験を実施し、光学特性への影響を調べた。照射試験は原子力機構高崎量子応用研究所内のコバルト60線源による照射施設を使用した [7]。試験に供したLEDの基本仕様をTable 2 に示す。砲弾型と表面実装型の 2 つの型式の LED それぞれについて、ピーク発光波長の異なる 3 種類を準備し、計 6 種類に対して照射試験を実施した。照射試験は、室温(約 20°C)で吸収線量1MGyまで行い、照射前後で外観を比較するとともに、電流源(ケースレー社製 2400 SourceMeter及び アドバンテスト社製 TR6143)及び電圧計(ケースレー社製、 2000 Multimeter)を接続し、これを分光器付き積分球(ラブスフェア社製、LCS-100)内に設置して電流電圧特性及び全光束を測定した。 Fig.2に照射前後のLED の外観を示す。照射後、表面実装型は橙黄色系、砲弾型は茶色系に着色した。同図には例として両型式ともにピーク発光波長が635nmのもののみの外観を示しているが、その他の発光波長のものも同様な着色がみられた。 照射後の電流電圧特性は、試験に供した全種類のLED について照射前からほとんど変化しなかった。この結果から、LED の発光原理である順方向バイアス電圧印加時における pn 接合部のキャリア移動や再結合に対して、 1MGy の γ 線照射はほとんど影響を与えなかったことが示唆される。しかし一方で、照射後の全光束は、照射前と比較して明らかな減少を示した。照射前を 1 とした照射後の全光束をFig.3に示す。全光束の減少は型式や発光波長に依存し、表面実装型よりも砲弾型が、また、発光波長が短いほど顕著であることがわかる。 これらの結果は、照射後に全光束が減少した主な原因 が、LED半導体部の照射劣化ではなく、レンズ部の照射損傷によって生じた光吸収であることを示唆する。すなわち、砲弾型は表面実装型よりもレンズ部のサイズ大きいため光吸収の割合が増加し、全光束の減少が大きかったものと考えられる。一方、橙黄色や茶色の着色は、その補色に相当する青色や緑色の波長成分の吸収が大きいことを意味するため、ピーク発光波長が青~緑色領域に近いLEDのほうが全光束の減少が大きかったものと思われる。また、Fig.3によれば、全光束の減少が最も小さかった表面実装型かつ635nmのピーク発光波長をもつLED
Table 2 Basic properties of LEDs used for irradiation test Surface-mounted LED Red Green Blue Peak wavelength 635 nm 522 nm 465 nm Bullet-shaped LED Red Orange Greenish yellow Peak wavelength 635 nm 609 nm 575 nm Fig.2 Appearances of the LEDs before and after 1MGy irradiation
は1MGyの照射後においても照射前の70%以上の全光束を保っており、照射後も実用に耐えうると考えられることから水中無線伝送システムの発光素子として選定した。 3.システム開発
3.1 システムの基本構成
2章で述べた要素開発の結果に基づいて、水中無線伝送システムの基本構成を検討した。Fig.4に水中伝送システム構成概念図を示す。より多くの取得データ情報を確実に伝送するため、送受信素子は共に複数個用いた構成とした。送信機は複数のLED を2次元マトリックス状に並べた構造とし、受信機は多数のフォトダイオードの集まりに相当するイメージセンサ、すなわちカメラを用いた。素子の複数化により、点滅信号に加えて 2 次元パターン信号を送信することができ、単数の素子を用いた場合よりも伝送速度(単位時間当たりの伝送情報量)を上げることができる。また、複数個の送信機から届く信号
Fig.3 The total luminous flux of the LEDs after 1MGy irradiation を、カメラ画像上で空間的に分離することができ、同時並列処理が可能となる。 Fig.5 に送信機の概略構造図を示す。送信機は 2 次元 LED マトリックス、制御回路、AD 変換器、電源、遮蔽 筐体・窓及び計測センサによって構成される。 計測センサより出力されるアナログ信号は、AD変換器でデジタル信号に変換され、制御回路の入力信号となる。制御回路では、入力信号に対応した2次元パターン信号と点滅信号の決定及びLED への電力供給を制御する。こうしたプロセスを経て、LED マトリックスからパターン信号及び点滅信号が受信機へと送信される。マトリックス上のLED配置は縦横8個x8個(12mmピッチ)=64個の構造とした。電源については、過酷事故の収束期間として設定した 3日間、これらの送信機構成要素の駆動に必要な電力を供給し連続駆動が可能であることを開発目標とした。 3.2 送受信信号処理
Fig.6に2 次元パターン信号の具体例を示す。送信時の信号処理では、まずP1、P2 及びP3 が2次元パターンとして送信される。P1~P3は受信機側に送信機の位置及び回転角を認識させるための信号であり、これにより送信機及び受信機が正対していない場合でも2 次元パターン信号の認識が可能となる。P4 は P3 と同一の役割を持つ信号であり、P2 とIL1の間に交互に挿入される。続いて、データ信号であるIL1~4の信号が送信される。 IL1~4 では、過酷事故時に生じうるガレキ等の水中浮遊物によるLED マトリックスの部分的な遮蔽を考慮し、インターリーブを採用して最大 50%が遮蔽されても信号 送信が可能な符号としている。具体的には、まずLED マトリックスを4 個×4 個のサイズに4分割し、ある送信信号(IL1)についてこれら 4分割したマトリックスを時計回りに1 回(IL2)、2回(IL3)、3 回(IL4)回すことで、同一データを計 4 回送信する。受信側ではこうした入れ替えを考慮の上、4回分の受信データの論理和を取る事により、1(点灯) →0(消灯)誤りを訂正する。なお、浮遊物等で光が遮られることはあっても、これらからの発光は無いと考えられるため、1(点灯) →0(消灯)の受信誤りはあるが、0(消灯)→1(点灯)は無いものとした。こうしたインターリーブ化では、4分割パターンに対して同じ部分が遮蔽されると正しく復号できないが、LED マトリックス全体が点滅する1 次元信号によって信号伝送が維持される設計とした。符号則にはマンチェスタ符号を用いてビット誤りを検出するとともに、安定した 1 次元点滅信号を送信するために LED 点灯数を常に 32 個(=50%) とし、平均照度を一定に保つようにした。 受信時の信号処理では、気泡等による水面揺らぎによって生じる受信画像中の 2 次元パターンの乱れを軽減するため、画像を高速でキャプチャし、パターンの乱れを キャンセルする機能を実装した。まず、LED マトリックスを含む全体画像を30fpsで取り込み、送信機の概略位置を決定する。その後、送信機の位置する画像部分をVGA サイズ(640×480 ピクセル)で切り出し、300fpsで高速キャプチャする。また、水の濁りが生じた場合にもLEDマトリックス発光点が正しく認識できるように、二値化処理時の閾値を可変的に設定可能とした。システムのデータ送信 1 回当たりの転送ビット数は、点灯するLEDの総数 64 個にうち誤り訂正の補符号に用いる32個を除いた64-32=32個に対応する32ビットである。例えばサンプリング周期を30 秒とすれば、システム 送信速度は32 / 30 = 約1ビット/秒となる。
3.3 システム電子部品の耐放射線性
LED の照射試験と同様に、γ 線の積算線量に対する各電子部品の挙動変化を調べた。照射中の特性評価が可能なものは、データロガーやデジタルカメラ等を用いて照射中の挙動変化等をその場で取得し評価した。それ以外のものについては、照射後に測定器等を用いて照射前後の特性変化を評価した。 2.3 節で選定した表面実装型 LED を用いて製作した 2次元マトリックスを照射室内に設置し、照射室外の電源および制御回路である固定パターンで発光させた状態で照射試験を行った。その結果、積算線量が 1MGyを超えても発光に乱れ等はみられず、送信部品として使用可能であることがわかった。 制御回路は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)を検討した。FPGA はプログラミングによって様々な制御機能を実装可能な集積回路である。照射室外から電源供給し、制御回路として動作させながらケーブルを介してPCを接続することで照射中の挙動をモニタリングした。その結果、約12kGy時においてFPGAにプログラミングした指令内容に異常が認められた。そこで、照射を一旦中断し、FPGAに再プログラミングを行ったところ、照射前と同等の状態に復帰した。プログラムした指令内容は FPGAメモリ部に記録されることから、約12kGy 時に発生した異常はFPGA メモリ部が γ 線による電離作用の影響を受け、ソフトエラーが生じたことが原因であると考えられる。 電源は、二次電池の中で最も電圧が高く、エネルギー 密度が大きいリチウムイオン電池を 2 種用意し、照射試験に供した。照射前後の放電試験から、400~600kGy 程度の照射によって放電容量は60~85%程度まで減少するものの、電圧の異常な降下等はみられなかった。Fig.7 に照射後のリチウムイオン電池の放電試験結果の一例を示す。 その他の電子部品として、レギュレータ、ダイオード、 オペアンプ、トランジスタ、水晶発振器、GaNFET、セラミックコンデンサについて複数メーカの製品を用意し、照射前後で特性評価を行った。その結果、各部品とも 200kGy以上の耐放射線性を有するものが存在することがわかった。 AD変換器は、市販品の照射試験を行ったところ、1kGy程度で機能を喪失することがわかった。そこで、上述した 200kGy 以上の耐放射線性を有するオペアンプや GaN FET等を用いて、R-2R型DA 変換部を内蔵するAD変換回路を製作した。コンパレータ回路を8つ配置し、0~+5V のアナログ入力に対して8bit(256 階調、1LSB=19.6mV)の デジタル出力が可能な設計とした。Fig.8 に照射前及び照射中のAD変換結果を示す。0V→+5V→0Vの模擬アナログ信号を線形入力し、出力されたデジタル値を評価した。 照射前に入力アナログ値を5LSB ずつ変化させながらデジタル変換を行ったところ、入力値に相当するLSB値にデジタル変換されることが確認された(Fig.8 (a))。一方、吸収線量率0.8kGy/hで照射中に入力アナログ値を10LSBずつ変化させながらデジタル変換を行った。その結果、最大で下位10LSB程度は線形性が乱れたものの、それ以上のアナログ入力値に対しては 120kGyまで至っても 255LSBまで正しくデジタル変換されることがわかった (Fig.8 (b))。 以上の結果から、システム電子部品については、FPGAは百分の一程度、その他は最大で十分の一程度の遮蔽能力を有する容器内に設置すれば 1MGyまで使用が可能となる見通しが得られた。 3.4 水中環境模擬試験
過酷事故時の水中環境における開発システムの水中無線伝送性能を評価するため、水中環境模擬試験装置を製作した。 想定される使用箇所である使用済燃料プールにおける水中伝送距離を約5mと考え、最大で6mまでの水中伝送経路を再現可能な円筒状の水槽ユニットを開発した。通常、ガラスやアクリル等を用いた円筒状の水中経路を用いると、入口側から入射した光は筒内面で反射を繰り返し、出口側で集光する。一方、実際の使用済燃料プール内ではこうした反射光成分は少ないと考えられ、むしろ 内面の存在しない無限に広い水中環境に近似しうる。そこで、筒内面の反射光が出口側に到達しないよう、内面 の光反射を低減する構造を考案した[8]。Fig.9 に内面反射低減構造の原理図と実物写真を示す。光源から内壁面に到達した光は、不透明な側壁構造体が反射・吸収し、反射成分は透明体を通って円筒水槽ユニット外に導かれる 構造とした(Fig.9 (a))。結果、出口側には光源の直接光のみが到達し、内面反射の存在しない水中環境を実現可能となる。透明体は無着色のアクリル樹脂、不透明体は黒色に着色したアクリル樹脂を用いて作成し、これらを内部に取り付けた 1m長の円筒状アクリル水槽ユニットを複数個製作した(Fig.9 (b))。端部を互いに連結及び取り外しが可能な構造とし、水中環境模擬試験装置の可変長水中光路として用いた。また、過酷事故時には気泡や浮遊物、水の濁りが生じる可能性を考慮し、これらを模擬的に再現した。気泡は、上述した 1m 長のアクリル水槽ユニットを光路上に縦置きし、下部にコンプレッサで空気を導入して発生させた。 浮遊物は、両面をガラスで封じた薄板状の箱の中に多数のプラスチック球を置き、箱に繋がったホースから内部 に水を導入して水流を発生させて、これを光路上に設置して模擬した。水の濁りは、受信光量の減少に相当するものと考えられるため、受信側のカメラレンズを NDフィルタによって覆うことで模擬した。Fig.10 に水中環境模擬試験系の概略図を示す。内面反射を低減した水槽ユニットを水平に最大で 5 個連結でき、さらに 1 個を縦置きして水中環境を模擬的に再現する構造とした。水平部の端部に設置したLEDマトリックスから送信されたパターン及び点滅信号は、水平部の逆側の端部に達すると鏡で鉛直上向きに方向を変え、縦置き部の上端に設置したカメラで受信される。受信画像は解析用PCにデータ転送され、リアルタイムで復号化処理が行われる。 水中における伝送特性を評価する為、水中伝送試験装置の伝送経路を水で満たし、水中伝送距離を5mとして連続20回の試行回数で受信信号を復号化し成功率を評価す る伝送試験を実施した。まず、気泡等の模擬環境の無い条件下で送受信成功率を評価したところ、復号値はすべて送信値と一致し、成功率は100%であった。したがって、開発した水中無線伝送システムは、水中距離5mの無線伝送に十分な性能を有していることが確認された。 想定される模擬環境として、まず気泡発生時の伝送性能を評価するため、1分間に最大152個の気泡を縦置きユニット内に発生させた条件で伝送試験を実施した。Fig.11に、気泡が100個/分の条件におけるカメラのコマ数30fpsと 300fps 時の典型画像例を示す。一般的なデジタルカメラのコマ数である30fpsでは、気泡によって発生した水面揺らぎの影響が大きく、画像のLED マトリックスが軌跡 を描くように乱れて各発光点の弁別は不可能である (Fig.11 (a))。一方、300fps時の画像では、LED マトリックスの乱れが大幅に軽減され、各発光点は十分に弁別可能 であることがわかる(Fig.11 (b))。Fig.12に気泡の数と送受信成功率の関係を示す。50個/分以下の気泡個数では、パ Fig.10 Schematic of measurement system of in-water simulation test Fig.11 Typical received image of LED matrix by (a) 30fps and (b) 300fps with 100/min bubbles. (a) (b) Fig.12 Success rate of transmission with number of bubble Fig.14 Success rate of transmission with ND value - 385 - 7Fig.13 Success rate of transmission with coverage rate of LED matrix ており、無線伝送が十分に可能であることが示され、シ ターン及び点滅信号はともに送受信成功率は 100%であ った。また、100 個/分を超えて150 個/分に至っても、成 ステム開発に目途を付けた。 功率は90%以上を維持した。 今後は、水中伝送性能のさらなる安定性向上や、放射 次に、浮遊物によるランダムな光点の遮蔽が送受信に 線環境下におけるセンサ計測データ処理を確証し、シス 与える影響を調べるため、LED マトリックス被覆率を最 テムの技術的な完成を目指す。 大で36.7%として条件で伝送試験を実施した。Fig.13に被 覆率と送受信成功率の関係を示す。被覆率が0~18.3%ま 謝 辞 では送受信成功率が 100%であり、被覆率が 36.7%では、 本研究開発は、経済産業省資源エネルギー庁からの受 送受信成功率はパターン信号で90%、点滅信号で 85%を 託事業として実施した「発電用原子炉等安全対策高度化 維持した。 技術基盤整備事業(特殊環境下で使用可能な監視システ 最後に、水の濁りが送受信に与える影響を調べるため、 ム高度化)」の成果である。 光学濃度を最大で 1.2、すなわち光量を 16 分の 1 まで減 少させた条件で伝送試験を実施した。Fig.14 に光学濃度と 参考文献 送受信成功率の関係を示す。光学濃度が0.9 までは、ND [1] 原子力災害対策本部編、原子力安全に関する IAEA フィルタなしの際に用いた二値化閾値である輝度 100(0 閣僚会議に対する日本国政府の報告書-東京電力福 ~255 まで設定可能)で送受信成功率は100%であった。一 島 原 子 力 発 電 所 の 事 故 に つ い て - 、 方、光学濃度を1.2にした時、パターン及び点滅信号の送 http://www.kantei.go.jp/jp/topics/2011/iaea_houkokusho.h 受信成功率はともに 80%程度にまで低下した。しかし、 tml. 二値化閾値を輝度 50 に下げたところ、送受信成功率は [2] 原子力安全・保安院編、東京電力株式会社福島第一 100%となった。 原子力発電所事故の技術的知見について、 以上の結果から、開発した水中無線伝送システムは、 http://www.meti.go.jp/press/2011/03/20120328009/20120 過酷事故時に想定される気泡や浮遊物、濁りのある水中 328009.html. 環境におけるロバスト性を有しており、比較的安定した [3] 日立GEニュークリア・エナジー株式会社,株式会社 無線伝送が可能であることが示された。得られた伝送試 東芝, 三菱重工業株式会社編、「過酷事故用計装シス 験データを踏まえ、今後は送信及び受信信号処理の最適 テムに関する研究(フェーズI) 概要説明資料」、 化を図り、送受信成功率の向上を目指す。また、二次電 SA計装開発情報:クラスC、 2012 年 5 月、資源エ 池で駆動させた送信機で実際の計測データ(温度、圧力な ネルギー庁技術アイデア公募説明資料(平成 24 年 6 ど)に基づいたアナログ信号からデジタル変換し、LED マ 月 29 日 ) 、 http://www.enecho.meti.go.jp/notice/ トリックスの発信信号を生成するプロセスを放射線環境 event/029/. 下で実施し、システム全体の耐放射線性を確証する。 [4] 日本工業規格、JIS Z 8120:2001 光学用語、 2001. [5] R. M. Pope and E. S. Fry, “Absorption spectrum 4.結言 (380-700nm) of pure water. II. Integrating cavity measurements”, Appl. Opt., 36, 1997, pp. 8710-8723. 東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の経験や [6] N. Kimura et al., “Development of In-reactor Observation 教訓を踏まえ、過酷事故時においても水中における信号 System Using Cherenkov Light (IV)”, KURRI Progress 伝送が可能な無線システムの高度化に向けた基盤技術開 Report 2012, 2013, pp. 209. 発に取り組んだ。 [7] 清藤一ほか、“電子線・ガンマ線照射施設データ ―1 使用する送受信方式の選定や構成部品の耐放射線性評 号加速器・コバルト60照射施設―”、JAEA-Technology 価を終え、要素的な技術開発を完了した。さらに、これ 2008-071、 (2008). らの要素技術を踏まえた送受信系を試作して水中環境を [8] 柴垣太郎ほか、 “側壁反射低減構造、該構造を有す 模擬した伝送試験を実施した。その結果、気泡や浮遊物 る中空体および該中空体を用いた光伝送環境構築装 等が存在する水中環境においても環境ロバスト性を有し 置“、 特開2015-087620、2015 8 - 386 -“ “耐放射線性を有する水中無線伝送システムの開発 “ “武内 伴照,Tomoaki TAKEUCHI,大塚 紀彰,Noriaki OTSUKA,柴垣 太郎,Taro SHIBAGAKI,駒野目 裕久,Hirohisa KOMANOME,上野 俊二,Shunji UENO,土谷 邦彦,Kunihiko TSUCHIYA
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