配管内壁検査技術の開発
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1.緒言
現在、解体中のふげんや原電1号機はもとより、 既に 4基の廃炉が決定しており、高経年化した原発の再稼働にかかるコストを考えると、今後多くの軽水炉が廃炉措置の対象となる。再稼働が認可される場合でも高経年化した原子炉に対して、検査基準は一層厳しくなる。流れ加速腐食の生じやすい配管の狭隘部分や熱膨張による応力を受ける長尺配管の溶接部などは、さらに入念な検査が必要となる。 そこで我々は、直管部においては渦電流探傷 試験(ECT)による検査、肉盛溶接部においては磁粉探傷試験(MT)による検査で、各検査方法の欠点を補完した検査技術の高度化を目指す。これまでに、伝熱管内壁の減肉をレーザ肉盛溶接する補修装置の開発に成功した[1]。本装置はコノスコピック法を原理としており、肉盛の凹凸をマイクロメートルの精度で計測できる。また、伝熱管内壁の 溶接部に発生する割れを検出するために蛍光磁粉マイクロカプセルの開発を進めてきた[2]。蛍光磁粉マイクロカプセルとは磁粉と蛍光色素をポリスチレンマイクロカプセルに内包したものである。MTの磁粉分散液の代わりに蛍光磁粉マイクロカプセルを用いることで、MT後の欠陥内部に付着 する磁粉の除去を容易にする。 本報告では、肉盛の凹凸をマイクロメートルの精度で計測するシステムの原理および方法について述べる。
2.非接触による配管内壁検査装置
配管内壁では主に光ファイバや ECT を用いた 観察が行われている。これは欠陥の発見に有用で あるが、沈着したスケールの厚み、配管の減肉量 の把握には適していない。近年、工業製品の精密 検査および品質管理などの分野で高精度 3 次元形 状計測技術の需要が高まっている。そこで、本実 験ではこの 3 次元計測技術を配管内壁の検査技術 に適用することにした。 2.1 コノプローブを用いた計測方法 図 1 に配管内壁検査装置の概要図を示す。コノプロ ーブ (1)[3]から出射したレーザ光は、平凸レンズ (2)、
Fig. 1 Schematic diagram of the inspection system of piping inner wall (1: ConoProbe (Mark10.0, Optimet), 2: Plane-convex lens, 3: mirror, 4: Stepping motor, 5: lens-barrel of the Plane-convex lens, 6: lens-barrel of the mirror)
折り返しミラー (3)を経て、配管内壁に照射され、 照射されたレーザ光は対象物壁面で散乱する。散乱 したレーザ光の戻り光は折り返しミラー (3)、平凸 レンズ (2)を経て、コノプローブ内の CCD カメラに 結像し、距離計測が行われる。平凸レンズ (2)が配 置されている鏡筒 (5)と折り返しミラー (3)が配置 されている鏡筒 (6)は別々である。ステッピングモ ータにより鏡筒(6)を回転させ、折り返しミラー (2) の位置が変更できる。これにより、配管内壁の距離 計測が可能となる。 2.2 結果 図 2 に示す配管を用いて配管内壁の形状測定をお こなった。鏡筒(6)の折り返しミラー(3)はステッピン グモータにより 10°毎に回転させた。その結果、実 測値が 29.7 mm および 25.4 mm の内壁を内壁検査装 置で計測した場合、それぞれ 23.5 mm および 18 mm であり、計測結果は実測値より低い値を示した。鏡 筒(5)に配置されている平凸レンズの直径は 12.5 mm であるため、対象表面からの戻り光は少なくなった と考えられる。また折り返しミラー(1)の角度は155° のため、戻り光が少なくなり、結果として計測に誤 差が生じた。 2.3 応用例 数多い応用例の中で2例について以下に考察す る。1)配管内壁の減肉量の定量的把握 緒言で述べたように、これまで、蛍光磁性を含 有したマイクロカプセルが磁性体表面の傷からの 漏洩磁束に集まることを利用して、配管突合せ溶 接部分などに生じる厚み方向に深い割れを検知す る技術を開発している。従ってこの蛍光磁粉探傷 法は、2.2 で示したような浅く緩やかな減肉状の欠 陥には適さない。オリフィス下流に生成する渦な どにより減肉が広範囲に加速され、減肉した表面 には特徴的なうろこ状の紋様が現れる。ここで開 発したプローブは、このような流れ加速腐食によ る減肉量の定量的把握には最適なツールといえる。 29.7 mm 25.4 mm Fig. 2 Photograph of inspection pipe and the measuring result Fig. 3 Photograph of inspection pipe and the measuring result 2)レーザ肉盛り補修溶接量の確認 配管内壁が平滑な状態にあり、そこに微小な突 起物が存在するような場合、その形状を測定する 必要がある場合にも本プローブは有用である。レ ーザ加熱部分にワイヤー或いは粉体等を供給する ことで、表面に耐食性を持たせる技術開発が進ん でいる。ここでは、専用レーザ肉盛用ヘッドを用 いて、φ4mm の溶接ワイヤーを長軸方向に 3 列の レーザ肉盛り溶接されている配管内壁の計測を行 った。配管の端面から 5.5mm、6.5mm、11.5mm、 16.5mm の 4 か所を計測した。 図 3 より、配管の端面から 11.5mm の位置まで のピーク高さはほぼ同じであり、配管に肉盛り溶 接ができたことを確認した。また、すべてφ4mm の溶接ワイヤーを使用したにも関わらず、矢印で 示すピークは、他のピークに比べて高い結果であ った。これは矢印部分のみ肉盛り溶接が多くなっ たためと考えられる。 3 結言 これまでに開発した配管内部のファイバスコー プ観察とレーザ加工の技術に加えて、コノプロー ブにより内壁形状を定量的に計測することが可能 となった。今後は、2次元の高速スキャン機能の 付加を行うことで、より高度な検査補修システム の確立を目指す。 参考文献 [1] 寺田ら、保全学、13(4), 87-94, 2015. [2] 伊東ら、EJAM、Vol.4, 57-63, 2012. [3] オプティメット HP (http://www.optimet.com/jp/index.php) - 418 -
現在、解体中のふげんや原電1号機はもとより、 既に 4基の廃炉が決定しており、高経年化した原発の再稼働にかかるコストを考えると、今後多くの軽水炉が廃炉措置の対象となる。再稼働が認可される場合でも高経年化した原子炉に対して、検査基準は一層厳しくなる。流れ加速腐食の生じやすい配管の狭隘部分や熱膨張による応力を受ける長尺配管の溶接部などは、さらに入念な検査が必要となる。 そこで我々は、直管部においては渦電流探傷 試験(ECT)による検査、肉盛溶接部においては磁粉探傷試験(MT)による検査で、各検査方法の欠点を補完した検査技術の高度化を目指す。これまでに、伝熱管内壁の減肉をレーザ肉盛溶接する補修装置の開発に成功した[1]。本装置はコノスコピック法を原理としており、肉盛の凹凸をマイクロメートルの精度で計測できる。また、伝熱管内壁の 溶接部に発生する割れを検出するために蛍光磁粉マイクロカプセルの開発を進めてきた[2]。蛍光磁粉マイクロカプセルとは磁粉と蛍光色素をポリスチレンマイクロカプセルに内包したものである。MTの磁粉分散液の代わりに蛍光磁粉マイクロカプセルを用いることで、MT後の欠陥内部に付着 する磁粉の除去を容易にする。 本報告では、肉盛の凹凸をマイクロメートルの精度で計測するシステムの原理および方法について述べる。
2.非接触による配管内壁検査装置
配管内壁では主に光ファイバや ECT を用いた 観察が行われている。これは欠陥の発見に有用で あるが、沈着したスケールの厚み、配管の減肉量 の把握には適していない。近年、工業製品の精密 検査および品質管理などの分野で高精度 3 次元形 状計測技術の需要が高まっている。そこで、本実 験ではこの 3 次元計測技術を配管内壁の検査技術 に適用することにした。 2.1 コノプローブを用いた計測方法 図 1 に配管内壁検査装置の概要図を示す。コノプロ ーブ (1)[3]から出射したレーザ光は、平凸レンズ (2)、
Fig. 1 Schematic diagram of the inspection system of piping inner wall (1: ConoProbe (Mark10.0, Optimet), 2: Plane-convex lens, 3: mirror, 4: Stepping motor, 5: lens-barrel of the Plane-convex lens, 6: lens-barrel of the mirror)
折り返しミラー (3)を経て、配管内壁に照射され、 照射されたレーザ光は対象物壁面で散乱する。散乱 したレーザ光の戻り光は折り返しミラー (3)、平凸 レンズ (2)を経て、コノプローブ内の CCD カメラに 結像し、距離計測が行われる。平凸レンズ (2)が配 置されている鏡筒 (5)と折り返しミラー (3)が配置 されている鏡筒 (6)は別々である。ステッピングモ ータにより鏡筒(6)を回転させ、折り返しミラー (2) の位置が変更できる。これにより、配管内壁の距離 計測が可能となる。 2.2 結果 図 2 に示す配管を用いて配管内壁の形状測定をお こなった。鏡筒(6)の折り返しミラー(3)はステッピン グモータにより 10°毎に回転させた。その結果、実 測値が 29.7 mm および 25.4 mm の内壁を内壁検査装 置で計測した場合、それぞれ 23.5 mm および 18 mm であり、計測結果は実測値より低い値を示した。鏡 筒(5)に配置されている平凸レンズの直径は 12.5 mm であるため、対象表面からの戻り光は少なくなった と考えられる。また折り返しミラー(1)の角度は155° のため、戻り光が少なくなり、結果として計測に誤 差が生じた。 2.3 応用例 数多い応用例の中で2例について以下に考察す る。1)配管内壁の減肉量の定量的把握 緒言で述べたように、これまで、蛍光磁性を含 有したマイクロカプセルが磁性体表面の傷からの 漏洩磁束に集まることを利用して、配管突合せ溶 接部分などに生じる厚み方向に深い割れを検知す る技術を開発している。従ってこの蛍光磁粉探傷 法は、2.2 で示したような浅く緩やかな減肉状の欠 陥には適さない。オリフィス下流に生成する渦な どにより減肉が広範囲に加速され、減肉した表面 には特徴的なうろこ状の紋様が現れる。ここで開 発したプローブは、このような流れ加速腐食によ る減肉量の定量的把握には最適なツールといえる。 29.7 mm 25.4 mm Fig. 2 Photograph of inspection pipe and the measuring result Fig. 3 Photograph of inspection pipe and the measuring result 2)レーザ肉盛り補修溶接量の確認 配管内壁が平滑な状態にあり、そこに微小な突 起物が存在するような場合、その形状を測定する 必要がある場合にも本プローブは有用である。レ ーザ加熱部分にワイヤー或いは粉体等を供給する ことで、表面に耐食性を持たせる技術開発が進ん でいる。ここでは、専用レーザ肉盛用ヘッドを用 いて、φ4mm の溶接ワイヤーを長軸方向に 3 列の レーザ肉盛り溶接されている配管内壁の計測を行 った。配管の端面から 5.5mm、6.5mm、11.5mm、 16.5mm の 4 か所を計測した。 図 3 より、配管の端面から 11.5mm の位置まで のピーク高さはほぼ同じであり、配管に肉盛り溶 接ができたことを確認した。また、すべてφ4mm の溶接ワイヤーを使用したにも関わらず、矢印で 示すピークは、他のピークに比べて高い結果であ った。これは矢印部分のみ肉盛り溶接が多くなっ たためと考えられる。 3 結言 これまでに開発した配管内部のファイバスコー プ観察とレーザ加工の技術に加えて、コノプロー ブにより内壁形状を定量的に計測することが可能 となった。今後は、2次元の高速スキャン機能の 付加を行うことで、より高度な検査補修システム の確立を目指す。 参考文献 [1] 寺田ら、保全学、13(4), 87-94, 2015. [2] 伊東ら、EJAM、Vol.4, 57-63, 2012. [3] オプティメット HP (http://www.optimet.com/jp/index.php) - 418 -