東北大学における 原子炉廃止措置基盤研究・人材育成事業の実施状況
公開日:
カテゴリ: 第13回
1.はじめに
東北大学は東日本大震災からの復興・新生を先導することを歴史的使命であると考えており、平成25年に制定した全学ビジョン(里見ビジョン)の中でも「復興・新生の先導」を2大目標の一つとした[3]。この目標を達成するため、震災直後に開始した8つの全学的プロジェクト と100を越える構成員提案型プロジェクトを継続的に 推進すると共に、復興を加速するための新規プロジェクトを立案・開始することとした。その一つが本事業を位置づけている「福島第一原子力発電所1-4号機の廃止 措置に向けた基礎・基盤研究と人材育成の推進」である。 東北大学の伝統的な強みである材料分野のポテンシャルを活用すべく広範な分野が連携した、工学系を中心とした全学横断組織を形成し、さらに福島大学及び福島高専の専門家の協力を得て、本事業を実施することにより、基盤研究を加速する。また、そのような基盤研究のプラットフォームの上に学生教育カリキュラムを構築して、長期にわたる安全な廃止措置をリードできる中核人材の育成を図る。 本プログラムの基盤研究では、最優先すべき研究課題の中でも下記2つの課題に取り組む。(1)格納容器・建屋等の健全性・信頼性確保のための基礎・基盤研究 (2)燃料デブリの処理と放射性廃棄物の処分に関する基 礎・基盤研究 ここでは、人材育成活動を中心に本事業の実施状況と 課題について述べる。 2.事業の概要 2.1 基盤研究の内容 東北大学では以下に示す内容の基盤研究及び人材育成 に取り組んでいる。 (1) 格納容器・建屋等の健全性・信頼性確保のための基礎・ 基盤研究 1格納容器・注水配管など鋼構造物の防食と長期寿命予 測技術(Fig.1) a) 放射線下での劣化塗膜下の腐食速度と形態を推定 連絡先:青木孝行、〒980-8579 仙台市青葉区荒巻字 青葉 6-6-01-2、東北大学大学院工学研究科、E-mail: できる数理モデルの開発(格納容器の腐食減肉) b) 複合影響下での局部腐食発生・進展による強度低 takayuki.aoki@qse.tohoku.ac.jp 下推定モデルの開発(炭素鋼配管の腐食減肉) - 433 - Fig. 1 Research tasks by the corrosion and corrosion protection TG c) 強度評価・検査・補修と連携した長期健全性維持方 法の検討 2コンクリート構造物の長期性能評価技術(Fig.2) 福島第一原子力発電所の廃炉が完了するまでのコンク リート構造物の要求機能を維持できる構造性能健全性 評価のための下記手法の開発 a) 将来の健全性予測も含めた精確な評価手法 ・ コンクリート・鉄筋などの材料 ・ 柱・梁・壁など構造部材 ・ 建物全体 b) 必要に応じた補修/補強の要否判定手法 3遠隔操作に対応可能な非破壊検査技術(Fig.3) 格納容器や建屋等の重要部位に適用できる非破壊検 格納容器等の損傷部位の補修・補強、局所的な穴あき部 の封止、防食被膜などの施工技術の開発 a) コールドスプレー条件低エネルギー化技術の確立 b) 鋼の水中摩擦攪拌接合(FSW)基本技術の開発 c) 遠隔操作に対応するための課題の検討 5廃止措置時のリスクに関する調査 a) 廃止措置時における安全性と経済性の考え方整理 b) 廃止措置時におけるリスク源の調査 (2) 燃料デブリの処理と放射性廃棄物の処分に関する基 礎・基盤研究 1 燃料デブリ-コンクリート系の相関係と放射性核種 溶出挙動把握(Fig.5) 2 冠水環境におけるセメント系材料とウランとの相互 作用の解明、閉じ込め性向上を目指した処分システム の提示(Fig.6) Fig.2 Research tasks by the concrete structure evaluation TG - 434 - 査・モニタリング技術の基礎的開発 a) 渦電流探傷(ECT)を用いた探傷の予備的評価 b) 電磁超音波(EMAT)を用いた肉厚モニタリングの検討 c) 構造材料を対象としたサブテラヘルツイメージン グのための基礎的特性評価 e) 遠隔操作に対応するための課題の検討 4遠隔操作に対応可能な構造物補修技術(Fig.4) 3市民との対話に基づく社会的受容性醸成の実践 a) 廃炉に関する市民の認識に関する基本調査 b) 廃炉に関する市民との対話の実施 2.2人材育成 (1)原子炉廃止措置工学プログラムの構築 福島第一原子力発電所の原子炉廃止措置は、長期を要 するプロジェクトであること、今後を長期的に展望する と、他の原子力発電所の原子炉廃止措置も継続的に実施 されることになると予測されることから、原子炉廃止措 置工学の履修コースを恒常的な教育カリキュラムとして 本学の教育プログラム内に位置づけるための検討・準備 を初年度(平成26年度)に行った。 福島第一原子力発電所の原子炉廃止措置は、現場調査 等が進むにしたがって状況が常に変化し、それに伴って Fig.5 Research tasks by the fuel debris processing technology TG Fig.4 Research tasks by the repair technology TG 現場工事工程も常に変化することが予測されるため、原 子炉廃止措置に取り組む人材にはこのようなに変化に対 し的確かつ重層的に対応できる能力が要求される。この ため、原子炉廃止措置工学コースの構築に当たっては、 基盤研究への学生の主体的な参画を促し、下記能力を持 Fig.3 Research tasks by the inspection technology TG つ中核人材を育成することを念頭にプログラム設計した。 ? 原理・原則に立ち戻って課題解決を図る能力 ? 課題の本質(幹と枝葉)を的確に見分ける能力 ? 異分野専門家との高度コミュニケーション・協働能力 上記の成果を踏まえ、平成27年度から「原子炉廃止措 置工学プログラム」を学生便覧に位置付け、正式に本プ ログラムを開設し、人材育成に当たっている(Fig.7)。 「原子炉廃止措置工学プログラム」は、研究課題の基 礎を成す広範な分野の科目を系統的に配置したカリキュ ラムとなっている。博士課程前期(修士)は、座学20科 目と廃止措置に向けた技術開発を行っている機関への国 内外インターンシップ等を組み合わせた専門家養成カリ キュラムを、博士課程後期は、より高度な専門科目に加 えてリーダー論等の指導的人材育成のための科目を配置 している。 本事業で研究補助を行うリサーチアシスタント(博士) - 435 - Fig.6 Research tasks by the fuel debris disposal technology TG または産学官連携研究員(修士)として雇用された大学 院生は、研究への主体的参画と研究遂行能力の育成を図 るとともに、原子炉廃止措置工学プログラムを履修する ことにより、各自の工学分野での専門性を高めながら原 子炉廃止措置遂行のための技術的課題全般についての認 識を深めることができる。また、別途行う本事業の専門 家会議において各自のテーマの進捗、問題点、解決方策 を報告し、国内外の専門家並びに原子炉廃止措置技術開 発を行っている企業等の技術者等との議論を定期的に経 験できる。これらの座学・研修を通じて、(i)常に原理・ 原則に立ち戻って課題解決を図り、(ii)課題の本質(幹と 枝葉)を的確に見極め、そして(iii)課題解決に向けて異分 野の専門家と高度にコミュニケーションを図ることがで きる能力を涵養するプログラムとしている。 平成27年度は、以上のような意図で企画された「原子 炉廃止措置工学プログラム」を本格運用し、本プログラ ムに基づく「原子炉廃止措置工学概論」の集中講義を実 施した。 本講義では本学の原子力工学分野の教員(6名)のほか、 米国MPR社、中部電力(株)、東京電力(株)、日本原電 (株)、東北電力(株)、電力中央研究所、原子力損害賠 償・廃炉等支援機構(NDF)、国際廃炉研究開発機構(IRID)、 日立GEニュークリア・エナジー(株)、(独)日本原子力研究 開発機構(JAEA)から専門家(11名)を講師に迎えて講 義を行った。本講義のスケジュールをTable 1に示す。 (2)産学連携セミナーの実施 平成27年度は、セミナーシリーズ「大規模複雑システ ムのリスクを考える」と題して5回のシリーズで産学連携 セミナーを企画し、実施した。 第1回セミナー「改めて原子力安全を考える」 a) 講演「Dealing with Accidents in Commercial Nuclear Power Plants - Fukushima Daiichi D&D Project Experience」 講師:米国MPR社上級顧問 Dr. Douglas M. Chapin(米 国工学アカデミー会員) b) 東京電力(株)福島第一廃止措置プロジェクトの International Expert Group議長としてのDr. Chapinの経験 を踏まえ、福島第一の廃止措置はどのように対応すべき か、日本の原子力界はどうあるべきかなどについて話を 聞くとともに、同氏との質疑応答を通じて学んだ。 第2回セミナー「福島第一原子力発電所の炉心で何が起 Fig.7 Education curriculum “Nuclear Decommissioning Engineering Program” in the project - 436 - Table 1 Schedule of the intensive course of nuclear decommissioning engineering 9月26日(土) 9月27日(日) 9月28日(月) 9月29日(火) 1限 ( 8:50-10:20) 10:20-10:30 開講趣旨説明 渡邉 豊(東北大学) 確率論的リスク評価と その使い方の基礎 (電中研: 平野光將) 我国におけるシビアアクシデント 対策の歴史と新規制基準要求 (東北電力:佐藤大輔) リスク・コミュニケーションの基礎 (東北大学:高橋 信) 2限 (10:30-12:00) 福島第一の廃炉のための 技術戦略プラン (NDF 福田俊彦) 燃料の固体化学と 燃料デブリの基礎 福島第一の廃炉研究開発の 現状と課題 (東北大学:佐藤修彰) (IRID:桑原浩久) 3限 (13:00-14:30) Effectively Achieving Safety in Commercial Nuclear Power Plants (米国MPR社:Douglas Chapin) 福島第一原子力発電所の 現状と今後の展望 (東京電力:山下理道) 原子力発電所の 安全管理、設備管理の考え方 (東北大学:青木孝行) TMI及びチェルノブイリの経験から 学ぶもの、福島へ反映できるもの (東北大学名誉教授:若林利男) 廃炉作業に伴うロボット技術の 開発と現場適用の状況 (日立GE:米谷 豊) 燃料デブリの処理 (JAEA:鷲谷忠博) 4限 (14:40-16:10) 浜岡原子力発電所1,2号機を 活用した材料研究 原子炉廃止措置への取り組み状況 (東海発電所の現場工事経験を 踏まえて) (中部電:熊野秀樹) (原電:山内豊明) 腐食に及ぼす放射線影響 (JAEA:山本正弘) 放射性廃棄物の処分 (東北大学:新堀雄一) 5限 (16:20-17:50) 鋼構造物健全性確保における 腐食劣化評価の重要性と考え方 (東北大学:渡邉 豊) ? こったか」 b) フランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)の研究部 a) 講演「福島第一原子力発電所の炉心では何が起こった 門のディレクターである Dr. FERON に CEA の か」 Generation 2,3 &4に関する研究、放射性廃棄物保管に 講師:元北海道大学教授 石川迪夫(元日本原子力技 関する研究及び廃止措置に関する研究について話を聞 術協会 理事長) き、同氏との質疑応答を通じて原子炉廃止措置研究に如 b) 福島第一1~3号機の事故時における炉内の現象に 何に取り組めばよいかなどについて学んだ。 関する解説を聞くとともに、原子炉廃止措置研究で注 第5回セミナー「放射性廃棄物処分のために求められる 意すべきことは何かなどについて同氏との質疑応答 研究とは」 を通じて学んだ。 a) 講演「Examples of ongoing chemistry research applied to a 第3回セミナー「原子力産業と他産業のリスク管理の違 nuclear waste repository」 いを考える」 講師:米国ロスアラモス国立研究所 Dr. Jean-Francois a) 講演「化学プラントにおけるリスク管理の考え方 ~ LUCCHINI リスク管理のポイントは何か?~」 b) 放射能毒性の高いアクチノイドを含む廃棄物を処分 ? 講師:旭化成ケミカルズ(株) 中原 正大 するために求められる研究とはどのようなものか? b) 化学プラントの経年劣化を考慮したリスク管理の方法 米国で現在進められている、核兵器開発により生じた 等についての話を聞くとともに、原子力発電所と化学プ 廃棄物の地層処分プロジェクトのメンバーである、Dr. ラントのリスク管理の考え方の違いについて、同氏との LUCCHINIとの質疑応答を通して学んだ。 質疑応答を通じて学んだ。 (3)原子炉施設の現地調査 第4回セミナー「原子炉廃止措置研究は如何にあるべき 本事業には、原子力を専攻する量子エネルギー か」 工学専攻を中心に、材料、機械、建築、土木、技 a) 講演「Materials research concerning 術社会システム、情報科学などの幅広い専門分野 decommissioning of nuclear plants」 の専攻の人材が参画している。このため、原子力 講師:仏CEA(仏原子力庁) Dr. Damien FERON 関係の知識を十分に持っていない、あるいは原子 - 437 - 議を開催し、廃止措置技術開発実施機関等の専門家と専 炉施設等を訪問したことのない若手研究者や学生 が一定数存在する。そこで、必ずしも原子力関係 門的な意見交換が実施される枠組みが構築されている。 の知識を十分に持っていない若手研究者と学生が さらに、昨年度(平成27年度)は、本学の提案をきっか 「原子力発電所は巨大システムであり、発電所建 けに検討が開始された、人材育成を目的とした学生研究 屋や主要機器などがどのようなものか」を体感で 発表会である「次世代イニシアティブ廃炉技術カンファ きる機会を提供するため、平成27年度は原子炉建 レンス」が開催され、廃止措置に関する工学を学ぶ全国 屋の中心部深く立ち入りが可能な日本原子力発電 の学生及び産業界の専門家との交流も促進されることと (株)東海第二発電所を、また隣接する原子炉廃止措 なった。 置中の東海発電所を調査した。この機会に合わせ 以上のように、人材育成面の制度構築は順調に進んで て、隣接する日本原子力研究開発機構の原子力科 いるが、今後は原子炉廃止措置工学の学術基盤整備と教 学研究所を調査した。本研究所には米国TMI原子 科書の作成に取り組む予定である。 力発電所の事故後、炉心から取り出された燃料デ ブリが保管されていることから燃料デブリを直接 観察するとともに、事故時の炉心損傷シミュレー ション解析の結果や燃料デブリの分析・試験方法 等について学んだ。 験のある学生については、福島第一原子力発電所 が現在どのような状況にあるかをつぶさに確認し、 所員や作業員が働く様子を見る機会を提供するた め、同発電所を調査した。 の対応力強化を目的に設立された日本原子力発電 (株)の「原子力緊急事態支援センター」を調査し た。原子力災害を想定した緊急事態支援活動は福 島第一原子力発電所の廃止措置活動と共通する部 分が多いことから大変参考となった。 一方、平成26年度に原子力発電所を訪問した経 また、上記とは別に平成27年度は原子力災害へ 育成実績を活用して、被災地域に立地する総合大学とし ての使命を果たすべく開始した廃止措置等基盤研究・人 材育成プログラムの概要を紹介したものである。 廃止措置のために必要とされる重要な技術開発分野の中 から、 (1)格納容器・建屋等の健全性・信頼性確保のための基礎・ (2)燃料デブリの処理と放射性廃棄物の処分に関する基 の2課題を採り上げた。 前述のように順調に本格的な基盤研究及び人材育成に取 り組んでいる。今後も福島第一原子力発電所の廃止措置 4.結言 本事業では、福島第一原子力発電所の安全かつ着実な 本事業は既に5年プログラムの3年目を迎えており、 本報告は、東北大学が有する研究ポテンシャルと人材 基盤研究 礎・基盤研究 3.人材育成活動に関する今後の課題 に貢献すべく、基盤研究及び人材育成に積極的に取り組 人材育成面では、教育カリキュラム「原子炉廃止措置 んでいく予定である。 工学プログラム」を構築するための検討が精力的に行わ れた結果、平成27度から同プログラムが学生便覧に位置 謝辞 づけられ、正式に開設されることとなった。現在では本 本研究は、「文部科学省英知を結集した原子力科学技 プログラムに従って、原子炉廃止措置工学概論の集中講 術・人材育成推進事業」により実施された「廃止措置の 義等が行われ、履修要件を満たした学生には「修了証」 ための格納容器・建屋等信頼性維持と廃棄物処理・処分 が授与される制度が確立された。この他、学生による原 に関する基盤研究及び中核人材育成プログラム」の成果 子力発電所等の原子炉施設の現地調査、学生の基盤研究 である。 への主体的参画の開始など、人材育成活動が計画的に進 められるようになっている。また、基盤研究と人材育成 の両面で重要なポイントとして位置づけている専門家会 - 438 -“ “東北大学における 原子炉廃止措置基盤研究・人材育成事業の実施状況“ “青木 孝行,Takayuki AOKI,渡邉 豊,Yutaka WATANABE,新堀 雄一,Yuichi NIIBORI,原 信義,Nobuyoshi HARA
東北大学は東日本大震災からの復興・新生を先導することを歴史的使命であると考えており、平成25年に制定した全学ビジョン(里見ビジョン)の中でも「復興・新生の先導」を2大目標の一つとした[3]。この目標を達成するため、震災直後に開始した8つの全学的プロジェクト と100を越える構成員提案型プロジェクトを継続的に 推進すると共に、復興を加速するための新規プロジェクトを立案・開始することとした。その一つが本事業を位置づけている「福島第一原子力発電所1-4号機の廃止 措置に向けた基礎・基盤研究と人材育成の推進」である。 東北大学の伝統的な強みである材料分野のポテンシャルを活用すべく広範な分野が連携した、工学系を中心とした全学横断組織を形成し、さらに福島大学及び福島高専の専門家の協力を得て、本事業を実施することにより、基盤研究を加速する。また、そのような基盤研究のプラットフォームの上に学生教育カリキュラムを構築して、長期にわたる安全な廃止措置をリードできる中核人材の育成を図る。 本プログラムの基盤研究では、最優先すべき研究課題の中でも下記2つの課題に取り組む。(1)格納容器・建屋等の健全性・信頼性確保のための基礎・基盤研究 (2)燃料デブリの処理と放射性廃棄物の処分に関する基 礎・基盤研究 ここでは、人材育成活動を中心に本事業の実施状況と 課題について述べる。 2.事業の概要 2.1 基盤研究の内容 東北大学では以下に示す内容の基盤研究及び人材育成 に取り組んでいる。 (1) 格納容器・建屋等の健全性・信頼性確保のための基礎・ 基盤研究 1格納容器・注水配管など鋼構造物の防食と長期寿命予 測技術(Fig.1) a) 放射線下での劣化塗膜下の腐食速度と形態を推定 連絡先:青木孝行、〒980-8579 仙台市青葉区荒巻字 青葉 6-6-01-2、東北大学大学院工学研究科、E-mail: できる数理モデルの開発(格納容器の腐食減肉) b) 複合影響下での局部腐食発生・進展による強度低 takayuki.aoki@qse.tohoku.ac.jp 下推定モデルの開発(炭素鋼配管の腐食減肉) - 433 - Fig. 1 Research tasks by the corrosion and corrosion protection TG c) 強度評価・検査・補修と連携した長期健全性維持方 法の検討 2コンクリート構造物の長期性能評価技術(Fig.2) 福島第一原子力発電所の廃炉が完了するまでのコンク リート構造物の要求機能を維持できる構造性能健全性 評価のための下記手法の開発 a) 将来の健全性予測も含めた精確な評価手法 ・ コンクリート・鉄筋などの材料 ・ 柱・梁・壁など構造部材 ・ 建物全体 b) 必要に応じた補修/補強の要否判定手法 3遠隔操作に対応可能な非破壊検査技術(Fig.3) 格納容器や建屋等の重要部位に適用できる非破壊検 格納容器等の損傷部位の補修・補強、局所的な穴あき部 の封止、防食被膜などの施工技術の開発 a) コールドスプレー条件低エネルギー化技術の確立 b) 鋼の水中摩擦攪拌接合(FSW)基本技術の開発 c) 遠隔操作に対応するための課題の検討 5廃止措置時のリスクに関する調査 a) 廃止措置時における安全性と経済性の考え方整理 b) 廃止措置時におけるリスク源の調査 (2) 燃料デブリの処理と放射性廃棄物の処分に関する基 礎・基盤研究 1 燃料デブリ-コンクリート系の相関係と放射性核種 溶出挙動把握(Fig.5) 2 冠水環境におけるセメント系材料とウランとの相互 作用の解明、閉じ込め性向上を目指した処分システム の提示(Fig.6) Fig.2 Research tasks by the concrete structure evaluation TG - 434 - 査・モニタリング技術の基礎的開発 a) 渦電流探傷(ECT)を用いた探傷の予備的評価 b) 電磁超音波(EMAT)を用いた肉厚モニタリングの検討 c) 構造材料を対象としたサブテラヘルツイメージン グのための基礎的特性評価 e) 遠隔操作に対応するための課題の検討 4遠隔操作に対応可能な構造物補修技術(Fig.4) 3市民との対話に基づく社会的受容性醸成の実践 a) 廃炉に関する市民の認識に関する基本調査 b) 廃炉に関する市民との対話の実施 2.2人材育成 (1)原子炉廃止措置工学プログラムの構築 福島第一原子力発電所の原子炉廃止措置は、長期を要 するプロジェクトであること、今後を長期的に展望する と、他の原子力発電所の原子炉廃止措置も継続的に実施 されることになると予測されることから、原子炉廃止措 置工学の履修コースを恒常的な教育カリキュラムとして 本学の教育プログラム内に位置づけるための検討・準備 を初年度(平成26年度)に行った。 福島第一原子力発電所の原子炉廃止措置は、現場調査 等が進むにしたがって状況が常に変化し、それに伴って Fig.5 Research tasks by the fuel debris processing technology TG Fig.4 Research tasks by the repair technology TG 現場工事工程も常に変化することが予測されるため、原 子炉廃止措置に取り組む人材にはこのようなに変化に対 し的確かつ重層的に対応できる能力が要求される。この ため、原子炉廃止措置工学コースの構築に当たっては、 基盤研究への学生の主体的な参画を促し、下記能力を持 Fig.3 Research tasks by the inspection technology TG つ中核人材を育成することを念頭にプログラム設計した。 ? 原理・原則に立ち戻って課題解決を図る能力 ? 課題の本質(幹と枝葉)を的確に見分ける能力 ? 異分野専門家との高度コミュニケーション・協働能力 上記の成果を踏まえ、平成27年度から「原子炉廃止措 置工学プログラム」を学生便覧に位置付け、正式に本プ ログラムを開設し、人材育成に当たっている(Fig.7)。 「原子炉廃止措置工学プログラム」は、研究課題の基 礎を成す広範な分野の科目を系統的に配置したカリキュ ラムとなっている。博士課程前期(修士)は、座学20科 目と廃止措置に向けた技術開発を行っている機関への国 内外インターンシップ等を組み合わせた専門家養成カリ キュラムを、博士課程後期は、より高度な専門科目に加 えてリーダー論等の指導的人材育成のための科目を配置 している。 本事業で研究補助を行うリサーチアシスタント(博士) - 435 - Fig.6 Research tasks by the fuel debris disposal technology TG または産学官連携研究員(修士)として雇用された大学 院生は、研究への主体的参画と研究遂行能力の育成を図 るとともに、原子炉廃止措置工学プログラムを履修する ことにより、各自の工学分野での専門性を高めながら原 子炉廃止措置遂行のための技術的課題全般についての認 識を深めることができる。また、別途行う本事業の専門 家会議において各自のテーマの進捗、問題点、解決方策 を報告し、国内外の専門家並びに原子炉廃止措置技術開 発を行っている企業等の技術者等との議論を定期的に経 験できる。これらの座学・研修を通じて、(i)常に原理・ 原則に立ち戻って課題解決を図り、(ii)課題の本質(幹と 枝葉)を的確に見極め、そして(iii)課題解決に向けて異分 野の専門家と高度にコミュニケーションを図ることがで きる能力を涵養するプログラムとしている。 平成27年度は、以上のような意図で企画された「原子 炉廃止措置工学プログラム」を本格運用し、本プログラ ムに基づく「原子炉廃止措置工学概論」の集中講義を実 施した。 本講義では本学の原子力工学分野の教員(6名)のほか、 米国MPR社、中部電力(株)、東京電力(株)、日本原電 (株)、東北電力(株)、電力中央研究所、原子力損害賠 償・廃炉等支援機構(NDF)、国際廃炉研究開発機構(IRID)、 日立GEニュークリア・エナジー(株)、(独)日本原子力研究 開発機構(JAEA)から専門家(11名)を講師に迎えて講 義を行った。本講義のスケジュールをTable 1に示す。 (2)産学連携セミナーの実施 平成27年度は、セミナーシリーズ「大規模複雑システ ムのリスクを考える」と題して5回のシリーズで産学連携 セミナーを企画し、実施した。 第1回セミナー「改めて原子力安全を考える」 a) 講演「Dealing with Accidents in Commercial Nuclear Power Plants - Fukushima Daiichi D&D Project Experience」 講師:米国MPR社上級顧問 Dr. Douglas M. Chapin(米 国工学アカデミー会員) b) 東京電力(株)福島第一廃止措置プロジェクトの International Expert Group議長としてのDr. Chapinの経験 を踏まえ、福島第一の廃止措置はどのように対応すべき か、日本の原子力界はどうあるべきかなどについて話を 聞くとともに、同氏との質疑応答を通じて学んだ。 第2回セミナー「福島第一原子力発電所の炉心で何が起 Fig.7 Education curriculum “Nuclear Decommissioning Engineering Program” in the project - 436 - Table 1 Schedule of the intensive course of nuclear decommissioning engineering 9月26日(土) 9月27日(日) 9月28日(月) 9月29日(火) 1限 ( 8:50-10:20) 10:20-10:30 開講趣旨説明 渡邉 豊(東北大学) 確率論的リスク評価と その使い方の基礎 (電中研: 平野光將) 我国におけるシビアアクシデント 対策の歴史と新規制基準要求 (東北電力:佐藤大輔) リスク・コミュニケーションの基礎 (東北大学:高橋 信) 2限 (10:30-12:00) 福島第一の廃炉のための 技術戦略プラン (NDF 福田俊彦) 燃料の固体化学と 燃料デブリの基礎 福島第一の廃炉研究開発の 現状と課題 (東北大学:佐藤修彰) (IRID:桑原浩久) 3限 (13:00-14:30) Effectively Achieving Safety in Commercial Nuclear Power Plants (米国MPR社:Douglas Chapin) 福島第一原子力発電所の 現状と今後の展望 (東京電力:山下理道) 原子力発電所の 安全管理、設備管理の考え方 (東北大学:青木孝行) TMI及びチェルノブイリの経験から 学ぶもの、福島へ反映できるもの (東北大学名誉教授:若林利男) 廃炉作業に伴うロボット技術の 開発と現場適用の状況 (日立GE:米谷 豊) 燃料デブリの処理 (JAEA:鷲谷忠博) 4限 (14:40-16:10) 浜岡原子力発電所1,2号機を 活用した材料研究 原子炉廃止措置への取り組み状況 (東海発電所の現場工事経験を 踏まえて) (中部電:熊野秀樹) (原電:山内豊明) 腐食に及ぼす放射線影響 (JAEA:山本正弘) 放射性廃棄物の処分 (東北大学:新堀雄一) 5限 (16:20-17:50) 鋼構造物健全性確保における 腐食劣化評価の重要性と考え方 (東北大学:渡邉 豊) ? こったか」 b) フランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)の研究部 a) 講演「福島第一原子力発電所の炉心では何が起こった 門のディレクターである Dr. FERON に CEA の か」 Generation 2,3 &4に関する研究、放射性廃棄物保管に 講師:元北海道大学教授 石川迪夫(元日本原子力技 関する研究及び廃止措置に関する研究について話を聞 術協会 理事長) き、同氏との質疑応答を通じて原子炉廃止措置研究に如 b) 福島第一1~3号機の事故時における炉内の現象に 何に取り組めばよいかなどについて学んだ。 関する解説を聞くとともに、原子炉廃止措置研究で注 第5回セミナー「放射性廃棄物処分のために求められる 意すべきことは何かなどについて同氏との質疑応答 研究とは」 を通じて学んだ。 a) 講演「Examples of ongoing chemistry research applied to a 第3回セミナー「原子力産業と他産業のリスク管理の違 nuclear waste repository」 いを考える」 講師:米国ロスアラモス国立研究所 Dr. Jean-Francois a) 講演「化学プラントにおけるリスク管理の考え方 ~ LUCCHINI リスク管理のポイントは何か?~」 b) 放射能毒性の高いアクチノイドを含む廃棄物を処分 ? 講師:旭化成ケミカルズ(株) 中原 正大 するために求められる研究とはどのようなものか? b) 化学プラントの経年劣化を考慮したリスク管理の方法 米国で現在進められている、核兵器開発により生じた 等についての話を聞くとともに、原子力発電所と化学プ 廃棄物の地層処分プロジェクトのメンバーである、Dr. ラントのリスク管理の考え方の違いについて、同氏との LUCCHINIとの質疑応答を通して学んだ。 質疑応答を通じて学んだ。 (3)原子炉施設の現地調査 第4回セミナー「原子炉廃止措置研究は如何にあるべき 本事業には、原子力を専攻する量子エネルギー か」 工学専攻を中心に、材料、機械、建築、土木、技 a) 講演「Materials research concerning 術社会システム、情報科学などの幅広い専門分野 decommissioning of nuclear plants」 の専攻の人材が参画している。このため、原子力 講師:仏CEA(仏原子力庁) Dr. Damien FERON 関係の知識を十分に持っていない、あるいは原子 - 437 - 議を開催し、廃止措置技術開発実施機関等の専門家と専 炉施設等を訪問したことのない若手研究者や学生 が一定数存在する。そこで、必ずしも原子力関係 門的な意見交換が実施される枠組みが構築されている。 の知識を十分に持っていない若手研究者と学生が さらに、昨年度(平成27年度)は、本学の提案をきっか 「原子力発電所は巨大システムであり、発電所建 けに検討が開始された、人材育成を目的とした学生研究 屋や主要機器などがどのようなものか」を体感で 発表会である「次世代イニシアティブ廃炉技術カンファ きる機会を提供するため、平成27年度は原子炉建 レンス」が開催され、廃止措置に関する工学を学ぶ全国 屋の中心部深く立ち入りが可能な日本原子力発電 の学生及び産業界の専門家との交流も促進されることと (株)東海第二発電所を、また隣接する原子炉廃止措 なった。 置中の東海発電所を調査した。この機会に合わせ 以上のように、人材育成面の制度構築は順調に進んで て、隣接する日本原子力研究開発機構の原子力科 いるが、今後は原子炉廃止措置工学の学術基盤整備と教 学研究所を調査した。本研究所には米国TMI原子 科書の作成に取り組む予定である。 力発電所の事故後、炉心から取り出された燃料デ ブリが保管されていることから燃料デブリを直接 観察するとともに、事故時の炉心損傷シミュレー ション解析の結果や燃料デブリの分析・試験方法 等について学んだ。 験のある学生については、福島第一原子力発電所 が現在どのような状況にあるかをつぶさに確認し、 所員や作業員が働く様子を見る機会を提供するた め、同発電所を調査した。 の対応力強化を目的に設立された日本原子力発電 (株)の「原子力緊急事態支援センター」を調査し た。原子力災害を想定した緊急事態支援活動は福 島第一原子力発電所の廃止措置活動と共通する部 分が多いことから大変参考となった。 一方、平成26年度に原子力発電所を訪問した経 また、上記とは別に平成27年度は原子力災害へ 育成実績を活用して、被災地域に立地する総合大学とし ての使命を果たすべく開始した廃止措置等基盤研究・人 材育成プログラムの概要を紹介したものである。 廃止措置のために必要とされる重要な技術開発分野の中 から、 (1)格納容器・建屋等の健全性・信頼性確保のための基礎・ (2)燃料デブリの処理と放射性廃棄物の処分に関する基 の2課題を採り上げた。 前述のように順調に本格的な基盤研究及び人材育成に取 り組んでいる。今後も福島第一原子力発電所の廃止措置 4.結言 本事業では、福島第一原子力発電所の安全かつ着実な 本事業は既に5年プログラムの3年目を迎えており、 本報告は、東北大学が有する研究ポテンシャルと人材 基盤研究 礎・基盤研究 3.人材育成活動に関する今後の課題 に貢献すべく、基盤研究及び人材育成に積極的に取り組 人材育成面では、教育カリキュラム「原子炉廃止措置 んでいく予定である。 工学プログラム」を構築するための検討が精力的に行わ れた結果、平成27度から同プログラムが学生便覧に位置 謝辞 づけられ、正式に開設されることとなった。現在では本 本研究は、「文部科学省英知を結集した原子力科学技 プログラムに従って、原子炉廃止措置工学概論の集中講 術・人材育成推進事業」により実施された「廃止措置の 義等が行われ、履修要件を満たした学生には「修了証」 ための格納容器・建屋等信頼性維持と廃棄物処理・処分 が授与される制度が確立された。この他、学生による原 に関する基盤研究及び中核人材育成プログラム」の成果 子力発電所等の原子炉施設の現地調査、学生の基盤研究 である。 への主体的参画の開始など、人材育成活動が計画的に進 められるようになっている。また、基盤研究と人材育成 の両面で重要なポイントとして位置づけている専門家会 - 438 -“ “東北大学における 原子炉廃止措置基盤研究・人材育成事業の実施状況“ “青木 孝行,Takayuki AOKI,渡邉 豊,Yutaka WATANABE,新堀 雄一,Yuichi NIIBORI,原 信義,Nobuyoshi HARA