浜岡 1,2 号機の廃止措置状況と研究について(その2)
公開日:
カテゴリ: 第13回
1.緒言
浜岡原子力発電所 1,2 号機は,平成 21 年 1 月 30 日に運転を終え,平成 22 年 11 月 18 日に認可を受けた廃止措置計画に基づき廃止措置を進めている。 これまでに廃止措置の第 1 段階の燃料の搬出や系統除染,汚染状況の調査を終え,平成 27 年 3 月 16 日に第 2 段階の廃止措置計画変更認可申請を提出し, 現在第 2 段階に移行している。第 2 段階の廃止措置 では,あわせて材料劣化に関する研究を実施する計画としており,以下に,浜岡原子力発電所 1 号機を活用した研究の概要について報告する。
2.廃止措置プラントを活用した研究概要
2.1 研究の目的
原子力発電所の原子炉圧力容器やコンクリート 構造物の経年劣化に対し,新規制基準では特別点検 が規定されるなど,これまで以上に詳細な劣化管理 が求められるようになってきた。そこで廃止措置中 の浜岡原子力発電所1号機から試料を採取・調査す ることで,これまでの劣化管理方法の高度化や新し い検査手法の確立につなげることを目的に,平成 26 年度から研究に着手した。[1] 2.2 研究の対象 浜岡原子力発電所1号機を対象として,原子炉 圧力容器の金属材料,および原子炉建屋のコンクリ ート材料について,実機から試料を採取し,実際に 長期間にわたり熱や放射線照射環境下にあった構造 材料を分析・評価する。(図 1) 非破壊検査手法の開発等 連絡先: 横倉一洋, 〒437-1695 静岡県御前崎市佐倉 5561, 中部電力(株)原子力安全技術研究所, 電話: 0537- 85-2353, E-mail:Yokokura.Kazuhiro@chuden.co.jp 図 1 研究のイメージ [1] 3.個別研究の概要 3.1 コンクリート材料を対象とした研究 本研究では,従来の材料強度に基づく評価ではな く,部材耐力や建屋振動特性に着目した,健全性評 価の新たな枠組みの構築を目指している。原子炉建 屋の健全性評価のために,コア採取・試験によるデ ータベース構築,および非破壊検査方法や数値解析 による評価法の実機検証を行う計画としている。そ のため,浜岡原子力発電所1号機原子炉建屋の様々 な場所から実機コア試料を採取する。(図 2) 【コア採取予定部位】 1格納容器外側壁 2RPVペデスタル 3MSトンネル 4使用済燃料プール 6原子炉建屋外部壁 7基礎マット 8原子炉ウェル部 9床スラブ 10建屋内壁(耐震壁) 11建屋内壁打継部等 図 2 コア採取予定部位 - 441 - 現行管理方法の確認 原子炉圧力容器 金調査 属試料 原子炉圧力容器の 照射脆化 原子炉格納容器 コンクリートの 熱・放射線・経年による劣化 コンクリート試料 調査 以下,これまでの実施内容について記載する。 (1)実機コア試験 平成 27 年度においては,平成 28 年度以降に予定 している本格的な研究実施に先立ち,浜岡原子力発 電所1号機原子炉建屋耐震壁(図 2 の10)について, 異なる階面 3 カ所からコアを採取し,その取得性を 確認した。また,採取したコアについて,強度・静 的剛性・動的剛性・密度・超音波試験を実施した。 1.5m 厚の耐震壁から材厚方向に均等に切り出した 試験体の強度は,いずれの試験体においても設計基 準強度を超える値であった。これらの試験体につい ては,水分量・塩分量・細孔径分布の各試験,およ び各種のアルカリ骨材反応試験・中性化試験を実施 し,それらの分析結果に考察を加えたのち,順次コ ンクリートデータベースとしてまとめる予定である。 (2)高経年評価手法の適用性検討 今後の高経年評価手法の適用性を検討すべく,数 値解析モデルを用いて,打設直後から材齢 43 年ま での浜岡 1 号機原子炉建屋の耐震壁の断面内コンク リート強度予測を実施した。予測値は実機コア強度 と概ね一致し,数値解析モデルの適用性に関する見 通しを得た。なお,今後の数値解析に資するよう, 改めて当時のコンクリート打設記録類を整理し,有 用な記録のデジタル化も同時に進めている。 3.2 金属材料を対象とした研究 原子炉圧力容器は耐圧部材であることから,供用 期間中に大きなサンプルの採取はできない構造物で ある。また,圧力容器の中性子照射脆化はプラント 寿命延長の際に必要な高経年化技術評価上の重要評 価項目であり,圧力容器は重要な研究対象となって いる。以上のような背景を踏まえ,以下の研究目標 を考えた。 1実機で既存の監視試験の妥当性を確認 2実機が有する破壊裕度の確認 3実機ミクロ組織の確認 以下,これまでの実施内容について記載する。 (1)サンプル採取計画立案 浜岡原子力発電所1号機の圧力容器の胴部の中性 子フラックス分布を試算した結果,最大フラックス 高さは F.L.12,000 付近と推定した。そこで,サンプ ル採取位置は F.L.12,000 を中心とした 7 カ所×2 列 の合計 14 カ所とした。(図 3) これらの採取サンプルの累積照射量はほぼ同じで, 1018n/cm2(E>1MeV)台と試算した。 原子炉 高速中性子 フラックス分布 - 442 - FL.12800 #1#2#3#4#5#6#7 サンプル 採取位置 12586#812500 12300 #912150 #10 1932/11/07#11 1932/06/10#12 11700#13 1931/06/26#14 11351 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 FL.10200 1200011000270° 354° 0° 6° 図 3 サンプル採取位置 (2)UTブロック調査 実機のクラッド近傍の母材は,クラッド施工時の 入熱とその後の中性子照射の影響により,機械特性 がクラッドからの距離に依存して複雑に変化すると 推測される。浜岡原子力発電所1号機圧力容器の非 破壊検査用に用いられてきたUTブロックは,供用 前(中性子照射前)の圧力容器母材,内面クラッド およびその境界部の状況が把握できる貴重な試料で あるため,硬さ分布等を調査した。 (3)サンプル採取 実際の浜岡原子力発電所1号機の圧力容器内面か らのサンプル採取は,平成 27 年 5 月に完了した。 (4)実機サンプル調査 実機サンプルは,試験機関に輸送して材料試験を 行う予定である。本格的試験の前に,以下の基礎的 試験を実施した。 ・マクロ組織観察,硬さ分布測定 ・サンプル採取時の入熱影響範囲の確認 現在は結果の取りまとめ中である。 4.今後の展開 浜岡原子力発電所1号機から採取した試料を用い たコンクリート材料,および金属材料に対する各研 究ともに緒に就いたばかりであり,今回は概要の報 告に留まるが,研究成果については機会をとらえて 報告していきたい。 参考文献 [1]https://www.chuden.co.jp/corporate/publicity/pub_rele ase/press/3253013_19386.html 0°180° 高速中性子照射量 (×1018n/cm2) 90°“ “浜岡 1,2 号機の廃止措置状況と研究について(その2) “ “横倉 一洋,Kazuhiro YOKOKURA,熊野 秀樹,Hideki YUYA
浜岡原子力発電所 1,2 号機は,平成 21 年 1 月 30 日に運転を終え,平成 22 年 11 月 18 日に認可を受けた廃止措置計画に基づき廃止措置を進めている。 これまでに廃止措置の第 1 段階の燃料の搬出や系統除染,汚染状況の調査を終え,平成 27 年 3 月 16 日に第 2 段階の廃止措置計画変更認可申請を提出し, 現在第 2 段階に移行している。第 2 段階の廃止措置 では,あわせて材料劣化に関する研究を実施する計画としており,以下に,浜岡原子力発電所 1 号機を活用した研究の概要について報告する。
2.廃止措置プラントを活用した研究概要
2.1 研究の目的
原子力発電所の原子炉圧力容器やコンクリート 構造物の経年劣化に対し,新規制基準では特別点検 が規定されるなど,これまで以上に詳細な劣化管理 が求められるようになってきた。そこで廃止措置中 の浜岡原子力発電所1号機から試料を採取・調査す ることで,これまでの劣化管理方法の高度化や新し い検査手法の確立につなげることを目的に,平成 26 年度から研究に着手した。[1] 2.2 研究の対象 浜岡原子力発電所1号機を対象として,原子炉 圧力容器の金属材料,および原子炉建屋のコンクリ ート材料について,実機から試料を採取し,実際に 長期間にわたり熱や放射線照射環境下にあった構造 材料を分析・評価する。(図 1) 非破壊検査手法の開発等 連絡先: 横倉一洋, 〒437-1695 静岡県御前崎市佐倉 5561, 中部電力(株)原子力安全技術研究所, 電話: 0537- 85-2353, E-mail:Yokokura.Kazuhiro@chuden.co.jp 図 1 研究のイメージ [1] 3.個別研究の概要 3.1 コンクリート材料を対象とした研究 本研究では,従来の材料強度に基づく評価ではな く,部材耐力や建屋振動特性に着目した,健全性評 価の新たな枠組みの構築を目指している。原子炉建 屋の健全性評価のために,コア採取・試験によるデ ータベース構築,および非破壊検査方法や数値解析 による評価法の実機検証を行う計画としている。そ のため,浜岡原子力発電所1号機原子炉建屋の様々 な場所から実機コア試料を採取する。(図 2) 【コア採取予定部位】 1格納容器外側壁 2RPVペデスタル 3MSトンネル 4使用済燃料プール 6原子炉建屋外部壁 7基礎マット 8原子炉ウェル部 9床スラブ 10建屋内壁(耐震壁) 11建屋内壁打継部等 図 2 コア採取予定部位 - 441 - 現行管理方法の確認 原子炉圧力容器 金調査 属試料 原子炉圧力容器の 照射脆化 原子炉格納容器 コンクリートの 熱・放射線・経年による劣化 コンクリート試料 調査 以下,これまでの実施内容について記載する。 (1)実機コア試験 平成 27 年度においては,平成 28 年度以降に予定 している本格的な研究実施に先立ち,浜岡原子力発 電所1号機原子炉建屋耐震壁(図 2 の10)について, 異なる階面 3 カ所からコアを採取し,その取得性を 確認した。また,採取したコアについて,強度・静 的剛性・動的剛性・密度・超音波試験を実施した。 1.5m 厚の耐震壁から材厚方向に均等に切り出した 試験体の強度は,いずれの試験体においても設計基 準強度を超える値であった。これらの試験体につい ては,水分量・塩分量・細孔径分布の各試験,およ び各種のアルカリ骨材反応試験・中性化試験を実施 し,それらの分析結果に考察を加えたのち,順次コ ンクリートデータベースとしてまとめる予定である。 (2)高経年評価手法の適用性検討 今後の高経年評価手法の適用性を検討すべく,数 値解析モデルを用いて,打設直後から材齢 43 年ま での浜岡 1 号機原子炉建屋の耐震壁の断面内コンク リート強度予測を実施した。予測値は実機コア強度 と概ね一致し,数値解析モデルの適用性に関する見 通しを得た。なお,今後の数値解析に資するよう, 改めて当時のコンクリート打設記録類を整理し,有 用な記録のデジタル化も同時に進めている。 3.2 金属材料を対象とした研究 原子炉圧力容器は耐圧部材であることから,供用 期間中に大きなサンプルの採取はできない構造物で ある。また,圧力容器の中性子照射脆化はプラント 寿命延長の際に必要な高経年化技術評価上の重要評 価項目であり,圧力容器は重要な研究対象となって いる。以上のような背景を踏まえ,以下の研究目標 を考えた。 1実機で既存の監視試験の妥当性を確認 2実機が有する破壊裕度の確認 3実機ミクロ組織の確認 以下,これまでの実施内容について記載する。 (1)サンプル採取計画立案 浜岡原子力発電所1号機の圧力容器の胴部の中性 子フラックス分布を試算した結果,最大フラックス 高さは F.L.12,000 付近と推定した。そこで,サンプ ル採取位置は F.L.12,000 を中心とした 7 カ所×2 列 の合計 14 カ所とした。(図 3) これらの採取サンプルの累積照射量はほぼ同じで, 1018n/cm2(E>1MeV)台と試算した。 原子炉 高速中性子 フラックス分布 - 442 - FL.12800 #1#2#3#4#5#6#7 サンプル 採取位置 12586#812500 12300 #912150 #10 1932/11/07#11 1932/06/10#12 11700#13 1931/06/26#14 11351 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 FL.10200 1200011000270° 354° 0° 6° 図 3 サンプル採取位置 (2)UTブロック調査 実機のクラッド近傍の母材は,クラッド施工時の 入熱とその後の中性子照射の影響により,機械特性 がクラッドからの距離に依存して複雑に変化すると 推測される。浜岡原子力発電所1号機圧力容器の非 破壊検査用に用いられてきたUTブロックは,供用 前(中性子照射前)の圧力容器母材,内面クラッド およびその境界部の状況が把握できる貴重な試料で あるため,硬さ分布等を調査した。 (3)サンプル採取 実際の浜岡原子力発電所1号機の圧力容器内面か らのサンプル採取は,平成 27 年 5 月に完了した。 (4)実機サンプル調査 実機サンプルは,試験機関に輸送して材料試験を 行う予定である。本格的試験の前に,以下の基礎的 試験を実施した。 ・マクロ組織観察,硬さ分布測定 ・サンプル採取時の入熱影響範囲の確認 現在は結果の取りまとめ中である。 4.今後の展開 浜岡原子力発電所1号機から採取した試料を用い たコンクリート材料,および金属材料に対する各研 究ともに緒に就いたばかりであり,今回は概要の報 告に留まるが,研究成果については機会をとらえて 報告していきたい。 参考文献 [1]https://www.chuden.co.jp/corporate/publicity/pub_rele ase/press/3253013_19386.html 0°180° 高速中性子照射量 (×1018n/cm2) 90°“ “浜岡 1,2 号機の廃止措置状況と研究について(その2) “ “横倉 一洋,Kazuhiro YOKOKURA,熊野 秀樹,Hideki YUYA