過酷事故対応のドライウェル冷却器の除熱特性
公開日:
カテゴリ: 第13回
1.諸言
福島第一原子力発電所の事故を受け、新規制基準が制定され、過酷事故に対して基準を満たす設備の設置が義務化された。過酷事故対策の主な規制要求として、炉心損傷防止対策、格納容器破損防止対策、使用済み燃料プールにおける燃料損傷防止対策が挙げられる。 本研究では、過酷事故時の沸騰水型原子炉の格納容器破損防止策を対象としている。現状、格納容器ベントで破損を防止することとしている。格納容器ベントで放射性物質の環境への放出を極小化するため、フィルタベントで対応している。一方、原子力プラントの更なる安全性向上のため、格納容器冷却手段の多様化が検討されている。格納容器内のガスを環境に放出しないで格納容器破損が防止でき、既設炉への適用を考慮すると設備対応が比較的容易な手段であることが望ましい。 そこで、格納容器内で蒸気を凝縮させ、格納容器内のガスを環境へ放出することなく格納容器の加圧を抑制する新型ドライウェル冷却器(DWC)を開発している。過酷事故時には、格納容器内での動的機器の作動が期待できない場合があることから、自然力を用いて必要な除熱量を達成できる DWCを開発することとした。通常運転時には、格納容器内は窒素で置換されている。窒素は非凝縮性ガスであり、伝熱管表面での蒸気の凝縮熱伝達を阻害する要因となる。一方で、窒素は蒸気よりも密度が大きいため、蒸気の凝縮に伴い DWC内の窒素濃度が上昇すると、DWC内の混合ガスの平均密度がDWC周囲の混合ガスの平均密度よりも大きくなり、混合ガスはDWC 内を下方へ向かって流れる。下方から排出された混合ガスの量だけ、DWC上部から周囲の混合ガスがDWC内に流入し、DWC内部を上から下へ向かう自然循環流が形成される。この自然循環流により、継続的にDWC 内に混合ガスが流入して、混合ガス中の蒸気が伝熱管表面で凝縮し、動的機器がなくても冷却が可能となる。 窒素による凝縮熱伝達の阻害効果と自然循環流の形成を確認するため、小規模の試験体を用いた要素試験を実施し伝熱データを取得した。
2.新型ドライウェル冷却器の構造
図1に DWC を適用した冷却システムの概略構成を示 す。格納容器内に DWC を設置し、原子炉格納容器外に 設置した熱交換器と冷却水循環ポンプに接続して、DWC の伝熱管に冷却水を通水して格納容器を冷却する。外部 熱交換器では、二次冷却水として海水等を用い、格納容 器内の熱を海等の最終ヒートシンクへ放出する。使用す る外部熱交換器と冷却水循環ポンプは可搬式のものを想 定している。 図2に DWC の概念構造を示す。水平および鉛直方向 に正方格子配列で並べた複数の伝熱管を上下面が開口し たケーシングで囲っている。このようにして、鉛直方向 の流れを妨げないようにしている。また、伝熱管表面で の凝縮熱伝達率が気体の強制対流熱伝達率よりも十分に 大きいことから、既設のドライウェル冷却器のように伝 熱フィンは取り付けていない。このため、フィンで生じ る流動抵抗がない。さらに、煙突効果を得るために、ケ ーシングを設置スペースが許す限り高さを大きくし、伝 熱管の下に高さh [m]のチムニ空間を設けている。チムニ により、Δρgh [Pa](Δρ [kg/m3]:DWCの内外密度差、 g [m/s2]:重力加速度)の水頭差が加わるため、自然循環 流量が増大し、DWCにより多くの混合ガスを取り込むこ とができるようにしている。 Primary containment vessel h Lower chimney Fig.2 Conceptual design of a new dry-well cooler 3.要素試験 3.1 試験目的 DWC 性能を評価する上で考慮するべき現象として以 下が挙げられる。 1 非凝縮性ガス(窒素)による伝熱阻害効果 2 凝縮に伴う窒素濃度の変化による自然循環の発生 3 多段効果(鉛直方向の窒素濃度分布) これらの現象を再現した伝熱データを取得し、窒素濃 度が高い条件でも、自然循環により冷却が継続されるこ DWC とを確認することを目的として、小型の試験装置を用い The pumps are driven by power supply from た要素試験を実施した。 mobile power supply vehicles 3.2 試験ループと試験体 図3に試験ループを示す。最大圧力3.5MPa、最大流量 3.3t/h で蒸気を供給可能なボイラから試験容器に蒸気を 供給した。試験体で蒸気を凝縮させ、凝縮水は試験容器 Mobile Connector heat exchanger To Sea 下部から排出した。試験体での蒸気の凝縮にともない、 試験体を通過した混合ガスは窒素濃度が高くなって密度 が大きくなり、試験容器下部に滞留しやすくなる。この Circulating pump ため、試験容器下部に蒸気注入管を配置し、注入される 蒸気によって窒素濃度の高い混合ガスを撹拌し、試験体 Sea pumpwater の上から流入する混合ガスの窒素濃度が一定になるよう にした。 Fig.1 Cooling system with the dry-well cooler 試験体には、循環ポンプを用いて所定の流量で冷却水 を供給した。冷却水流量は電磁流量計で測定した、試験 体を通過して温度が上昇した冷却水を熱交換器でクーリ - 455 - Coolant Inlet Steam header + N2 Copper tube Coolant header Casing Outlet Steam + N2 (Higher fraction) - P T Ncylinder 2 gas PPressurizer Tube bundle - - P T Container:φ600mm Flow meter Heater:50kW Steam injection tube Heat Texchanger Drain potDP Cooling tower Boilers:3.0MPa、3.3t/h TP: Pressure gage P TDP : Differential pressure gage Flow meter T Circulating pump T : Thermo-couple Circulating pump Fig.3 Diagram of the test loop ングタワーからの二次冷却水で冷却し、所定の温度で試 験体に供給できるようにした。また、試験体の伝熱管内 で冷却水が沸騰しないように、加圧器を冷却水ループに 設置し、加圧器内に窒素を封入して冷却水を約0.2MPa ま で加圧した。 図4に試験体を示す。伝熱管群は外径15.9mm、厚さ1.2 mmの銅管を用いた3列×5段構成とし、仕切板で伝熱管 群を囲っている。水平方向ピッチ33mm、鉛直方向ピッチ 38 mmの正方格子の伝熱管群である。伝熱管長さは、伝熱 管出入口の冷却水の温度差を十分に確保できる1m とし た。水平方向に3列とすることで、中央の伝熱管で両側 にある伝熱管の影響を考慮した。また、鉛直方向には、 上段から滴下する凝縮水や凝縮に伴う窒素濃度増加の影 響(多段効果)を受け、下段の伝熱管ほど除熱量が小さ くなるため、5段の伝熱管の除熱量の変化から、多段効 果を確認した。15 本の伝熱管すべての出入口に熱電対を 挿入し、冷却水温度を測定した。熱電対の測定部が伝熱 管中心になるようにスペーサで位置を固定した。図4の 下側の図に示すように、各段の間の伝熱管外側に窒素濃 度評価用の熱電対を設置した。蒸気と窒素の混合ガスの 温度は、蒸気分圧での飽和温度となるため、測定した温 度T [°C]における蒸気の飽和圧力Psat [MPa]を算出するこ とで、試験容器内圧力 Ptot [MPa] から(1)式により窒素の 体積濃度α [vol%]を求めることができる。 - 456 - Copper tube Unit : mm ( tot sat ) P totα = P - P T (1) 331900/02/061900/12/25Partition Fig.4 Tube bundle for the element test Spacer T.C. for measurement of heat removal 1900/01/14 21:36:00T.C 117T.C. for measurement of N2 fraction 3.3 試験条件と試験方法 表 1 に試験条件を示す。圧力は、沸騰水型原子炉でベ ント基準となる 0.85MPa までとした。この条件は、改良 型沸騰水型原子炉のベント基準である 0.62MPa を包括し ている。冷却水温度は、外部熱交換器の想定される仕様 を考慮して、30~85°Cの範囲とした。冷却水流速は基本 仕様である2m/sをベースとしているが、伝熱管内部の強 制対流熱伝達の影響を確認するため、窒素濃度 0vol%の 条件で 1m/s と 4m/s に流速を変えてデータを取得した。 想定している過酷事故事象(大破断冷却水喪失+全電源 喪失+緊急炉心冷却システム機能喪失)では、事故進展 中のドライウェルの窒素濃度は最大で30vol%と見込んで いるため、窒素濃度の範囲は0~30vol%とした。 試験では、まず、伝熱管に冷却水を流し、ドレン弁を 開けたまま試験容器に蒸気を供給し、初期に試験容器に ある空気を排出する。試験容器内で測定している温度が すべて飽和温度以上になったら空気がすべて排出された と判断し、ドレン弁を閉じる。その後、蒸気供給量を減 らして試験容器圧力を低下させたのち、窒素ボンベから 所定量の窒素を試験容器に封入する。試験容器内上部の 熱電対で測定した温度から評価した飽和蒸気圧と、試験 容器内圧力との比から、所定の窒素濃度になっているこ とを確認する。所定の試験容器圧力と冷却水温度となる ように、蒸気ラインの供給圧力と熱交換器への冷却水の 分岐流量を調整する。蒸気の供給量と凝縮量が釣り合っ て圧力が一定となったことを確認してからデータを取得 した。 Table 1 Element test conditions 3.4 試験結果 各伝熱管の除熱量Q [W]を(2)式で評価した。 Q = G ? c p ? ( T out - T in ) (2) ここで、G [kg/s]:冷却水流量、cp [J/kgK]:冷却水の定 圧比熱、Tin [°C]:伝熱管入口冷却水温度、Tout [°C]:伝熱 管出口冷却水温度である。 図5に上から1段目の中央伝熱管の除熱量と窒素濃度 の関係を示す。1段目では、上段から滴下する凝縮水の 影響を排除して、非凝縮性ガスである窒素による伝熱阻 害効果を評価することができる。除熱量は、各圧力での 純粋蒸気条件での除熱量で規格化している。窒素濃度の 増加に伴い、除熱量が単調に低下している。窒素濃度が 低い領域で除熱量低下の勾配が大きく、窒素濃度が高く なると除熱量の低下が緩やかになる。窒素による伝熱阻 害効果で除熱量は低下するが、小規模の要素試験体系で 窒素濃度30vol%でも純粋蒸気条件の15%程度の除熱量を 確保できることを確認した。窒素による伝熱阻害効果は、 蒸気が凝縮することにより伝熱管表面に窒素が集積する ためであるが、伝熱管段数が多い実機 DWC では、より 多くの混合ガスを DWC 内に引き込むことができ、混合 ガス流速が増加するため、集積した窒素を撹拌する効果 が期待でき、除熱量の低下が抑制されると予想される。 ] -[etarl avomert aehd ezilamroN1.0 1.0 0.80.60.40Coolant temp. : 30°C ●:0.2MPa 0.8Coolant vel. : 2.0m/s ▲:0.4MPa ◆:0.62MPa ●:0.85MPa 0.6 0.40.2 0.2 00 0 10 10 20 20 30 30 40 40 N2 fraction [vol%] Pressure in the container 0.2 ? 0.85 MPa Temperature in the container 120 ? 180 °C Fig.5 N2 volume fraction vs heat removal rate Coolant pressure 0.2 MPa Coolant temperature 30 ? 85 °C Coolant velocity 1.0 - 4.0 m/s N2 volume fraction 0 ? 30 vol% 図6に中央伝熱管の1~5段目の除熱量の変化を示す。 各段の除熱量は1段目の除熱量で規格化している。上段 から下段に向かって除熱量は単調に低下していく。上段 から落下してくる凝縮水による伝熱阻害効果、および伝 熱管での蒸気の凝縮にともなって下段にいくにつれて窒 素濃度が増加して伝熱を阻害する効果が大きくなること によるものである。試験容器内の窒素濃度が低いほど、 除熱量の低下がやや大きくなる傾向にある。これは、図 5に示したように窒素濃度が低い領域では、窒素濃度の 増加に対する除熱量低下の感度が大きいためである。 - 457 - 4.結言 ] -[etarl avomert aehd ezilamroN過酷事故時の格納容器冷却手段の多様化の一つとして、 蒸気を凝縮して格納容器を減圧する新型ドライウェル冷 却器(DWC)を開発している。窒素による伝熱阻害効果 と蒸気と非凝縮性ガスである窒素との密度差によって生 じる自然循環流の形成を確認するため、外径15.9 mm、厚 さ1.2mm、長さ1mの銅管を用いた3列×5段の伝熱管群 を用いた要素試験を実施し、以下の結論を得た。 (1) 窒素濃度の増加に伴い除熱量は低下するが、想定して いる過酷事故事象での最大窒素濃度 30vol%の条件で も、純粋蒸気に対する除熱量の15%程度は確保できる。 (2) 蒸気と窒素の密度差によりDWC内を上から下に向か う自然循環流が形成される。この自然循環流により常 にDWC内に蒸気が供給され、継続的に除熱が行われ る。 今後、要素試験で取得した伝熱特性データを基にDWC の伝熱モデルを構築して精度を確認し、実機仕様の検討 に適用していく。また、実機 DWC では、自然循環力が 大きくなり、除熱性能が向上すると予想されることから、 CFD を活用した評価と実機大の試験を計画していく予定 である。 - 458 - 1.0 1.0 0.8 0.8 0.6 0.6 0.4 0.4 N●: 2 fraction 5vol% 0.2 0.2 ▲:10vol% ◆:20vol% ●:30vol% Pressure : 0.62MPa Coolant temp. : 30°C 0.0 0.0 Coolant vel. : 2.0m/s 0 1 1 2 2 3 3 4 4 5 5 6 Tube level from the top [-] Fig.6 Tube level vs heat removal rate 図7に伝熱管各段の間に設置した熱電対で測定した温 度から(1)式で評価した窒素濃度分布を示す。伝熱管を通 過するたびに窒素濃度が単調に増加している。窒素濃度 が単調に増加していることから、蒸気と窒素の混合ガス が上部から伝熱管群内に流入し、伝熱管で蒸気が凝縮し ながら伝熱管群を下に向かって流れていると推定できる。 60 60 Pressure : 0.62MPa ] %lov[noitcarf5050404030302020 Coolant Coolant temp. vel. : 2.0m/s : 30°C N1010000 1 1 2 2 3 3 4 4 5 5 Tube level from the top [-] Fig.7 N2 volume fraction distribution 以上から、蒸気よりも密度の大きい窒素を含む混合ガ スは、伝熱管で蒸気が凝縮して窒素濃度が上昇し密度が 増加することにより、伝熱管群を上から下に向かう自然 循環流が発生し、常に DWC に蒸気が供給されることを 確認した。また、窒素による伝熱阻害効果はあるが、一 定の除熱量を確保できることを確認した。“ “過酷事故対応のドライウェル冷却器の除熱特性“ “石田 直行,Naoyuki ISHIDA,綿引 直久,Naohisa WATAHIKI,細井 秀章,Hideaki HOSOI,渡邉 亮平,Ryohei WATANABE,佐藤 大樹,Daiki SATO
福島第一原子力発電所の事故を受け、新規制基準が制定され、過酷事故に対して基準を満たす設備の設置が義務化された。過酷事故対策の主な規制要求として、炉心損傷防止対策、格納容器破損防止対策、使用済み燃料プールにおける燃料損傷防止対策が挙げられる。 本研究では、過酷事故時の沸騰水型原子炉の格納容器破損防止策を対象としている。現状、格納容器ベントで破損を防止することとしている。格納容器ベントで放射性物質の環境への放出を極小化するため、フィルタベントで対応している。一方、原子力プラントの更なる安全性向上のため、格納容器冷却手段の多様化が検討されている。格納容器内のガスを環境に放出しないで格納容器破損が防止でき、既設炉への適用を考慮すると設備対応が比較的容易な手段であることが望ましい。 そこで、格納容器内で蒸気を凝縮させ、格納容器内のガスを環境へ放出することなく格納容器の加圧を抑制する新型ドライウェル冷却器(DWC)を開発している。過酷事故時には、格納容器内での動的機器の作動が期待できない場合があることから、自然力を用いて必要な除熱量を達成できる DWCを開発することとした。通常運転時には、格納容器内は窒素で置換されている。窒素は非凝縮性ガスであり、伝熱管表面での蒸気の凝縮熱伝達を阻害する要因となる。一方で、窒素は蒸気よりも密度が大きいため、蒸気の凝縮に伴い DWC内の窒素濃度が上昇すると、DWC内の混合ガスの平均密度がDWC周囲の混合ガスの平均密度よりも大きくなり、混合ガスはDWC 内を下方へ向かって流れる。下方から排出された混合ガスの量だけ、DWC上部から周囲の混合ガスがDWC内に流入し、DWC内部を上から下へ向かう自然循環流が形成される。この自然循環流により、継続的にDWC 内に混合ガスが流入して、混合ガス中の蒸気が伝熱管表面で凝縮し、動的機器がなくても冷却が可能となる。 窒素による凝縮熱伝達の阻害効果と自然循環流の形成を確認するため、小規模の試験体を用いた要素試験を実施し伝熱データを取得した。
2.新型ドライウェル冷却器の構造
図1に DWC を適用した冷却システムの概略構成を示 す。格納容器内に DWC を設置し、原子炉格納容器外に 設置した熱交換器と冷却水循環ポンプに接続して、DWC の伝熱管に冷却水を通水して格納容器を冷却する。外部 熱交換器では、二次冷却水として海水等を用い、格納容 器内の熱を海等の最終ヒートシンクへ放出する。使用す る外部熱交換器と冷却水循環ポンプは可搬式のものを想 定している。 図2に DWC の概念構造を示す。水平および鉛直方向 に正方格子配列で並べた複数の伝熱管を上下面が開口し たケーシングで囲っている。このようにして、鉛直方向 の流れを妨げないようにしている。また、伝熱管表面で の凝縮熱伝達率が気体の強制対流熱伝達率よりも十分に 大きいことから、既設のドライウェル冷却器のように伝 熱フィンは取り付けていない。このため、フィンで生じ る流動抵抗がない。さらに、煙突効果を得るために、ケ ーシングを設置スペースが許す限り高さを大きくし、伝 熱管の下に高さh [m]のチムニ空間を設けている。チムニ により、Δρgh [Pa](Δρ [kg/m3]:DWCの内外密度差、 g [m/s2]:重力加速度)の水頭差が加わるため、自然循環 流量が増大し、DWCにより多くの混合ガスを取り込むこ とができるようにしている。 Primary containment vessel h Lower chimney Fig.2 Conceptual design of a new dry-well cooler 3.要素試験 3.1 試験目的 DWC 性能を評価する上で考慮するべき現象として以 下が挙げられる。 1 非凝縮性ガス(窒素)による伝熱阻害効果 2 凝縮に伴う窒素濃度の変化による自然循環の発生 3 多段効果(鉛直方向の窒素濃度分布) これらの現象を再現した伝熱データを取得し、窒素濃 度が高い条件でも、自然循環により冷却が継続されるこ DWC とを確認することを目的として、小型の試験装置を用い The pumps are driven by power supply from た要素試験を実施した。 mobile power supply vehicles 3.2 試験ループと試験体 図3に試験ループを示す。最大圧力3.5MPa、最大流量 3.3t/h で蒸気を供給可能なボイラから試験容器に蒸気を 供給した。試験体で蒸気を凝縮させ、凝縮水は試験容器 Mobile Connector heat exchanger To Sea 下部から排出した。試験体での蒸気の凝縮にともない、 試験体を通過した混合ガスは窒素濃度が高くなって密度 が大きくなり、試験容器下部に滞留しやすくなる。この Circulating pump ため、試験容器下部に蒸気注入管を配置し、注入される 蒸気によって窒素濃度の高い混合ガスを撹拌し、試験体 Sea pumpwater の上から流入する混合ガスの窒素濃度が一定になるよう にした。 Fig.1 Cooling system with the dry-well cooler 試験体には、循環ポンプを用いて所定の流量で冷却水 を供給した。冷却水流量は電磁流量計で測定した、試験 体を通過して温度が上昇した冷却水を熱交換器でクーリ - 455 - Coolant Inlet Steam header + N2 Copper tube Coolant header Casing Outlet Steam + N2 (Higher fraction) - P T Ncylinder 2 gas PPressurizer Tube bundle - - P T Container:φ600mm Flow meter Heater:50kW Steam injection tube Heat Texchanger Drain potDP Cooling tower Boilers:3.0MPa、3.3t/h TP: Pressure gage P TDP : Differential pressure gage Flow meter T Circulating pump T : Thermo-couple Circulating pump Fig.3 Diagram of the test loop ングタワーからの二次冷却水で冷却し、所定の温度で試 験体に供給できるようにした。また、試験体の伝熱管内 で冷却水が沸騰しないように、加圧器を冷却水ループに 設置し、加圧器内に窒素を封入して冷却水を約0.2MPa ま で加圧した。 図4に試験体を示す。伝熱管群は外径15.9mm、厚さ1.2 mmの銅管を用いた3列×5段構成とし、仕切板で伝熱管 群を囲っている。水平方向ピッチ33mm、鉛直方向ピッチ 38 mmの正方格子の伝熱管群である。伝熱管長さは、伝熱 管出入口の冷却水の温度差を十分に確保できる1m とし た。水平方向に3列とすることで、中央の伝熱管で両側 にある伝熱管の影響を考慮した。また、鉛直方向には、 上段から滴下する凝縮水や凝縮に伴う窒素濃度増加の影 響(多段効果)を受け、下段の伝熱管ほど除熱量が小さ くなるため、5段の伝熱管の除熱量の変化から、多段効 果を確認した。15 本の伝熱管すべての出入口に熱電対を 挿入し、冷却水温度を測定した。熱電対の測定部が伝熱 管中心になるようにスペーサで位置を固定した。図4の 下側の図に示すように、各段の間の伝熱管外側に窒素濃 度評価用の熱電対を設置した。蒸気と窒素の混合ガスの 温度は、蒸気分圧での飽和温度となるため、測定した温 度T [°C]における蒸気の飽和圧力Psat [MPa]を算出するこ とで、試験容器内圧力 Ptot [MPa] から(1)式により窒素の 体積濃度α [vol%]を求めることができる。 - 456 - Copper tube Unit : mm ( tot sat ) P totα = P - P T (1) 331900/02/061900/12/25Partition Fig.4 Tube bundle for the element test Spacer T.C. for measurement of heat removal 1900/01/14 21:36:00T.C 117T.C. for measurement of N2 fraction 3.3 試験条件と試験方法 表 1 に試験条件を示す。圧力は、沸騰水型原子炉でベ ント基準となる 0.85MPa までとした。この条件は、改良 型沸騰水型原子炉のベント基準である 0.62MPa を包括し ている。冷却水温度は、外部熱交換器の想定される仕様 を考慮して、30~85°Cの範囲とした。冷却水流速は基本 仕様である2m/sをベースとしているが、伝熱管内部の強 制対流熱伝達の影響を確認するため、窒素濃度 0vol%の 条件で 1m/s と 4m/s に流速を変えてデータを取得した。 想定している過酷事故事象(大破断冷却水喪失+全電源 喪失+緊急炉心冷却システム機能喪失)では、事故進展 中のドライウェルの窒素濃度は最大で30vol%と見込んで いるため、窒素濃度の範囲は0~30vol%とした。 試験では、まず、伝熱管に冷却水を流し、ドレン弁を 開けたまま試験容器に蒸気を供給し、初期に試験容器に ある空気を排出する。試験容器内で測定している温度が すべて飽和温度以上になったら空気がすべて排出された と判断し、ドレン弁を閉じる。その後、蒸気供給量を減 らして試験容器圧力を低下させたのち、窒素ボンベから 所定量の窒素を試験容器に封入する。試験容器内上部の 熱電対で測定した温度から評価した飽和蒸気圧と、試験 容器内圧力との比から、所定の窒素濃度になっているこ とを確認する。所定の試験容器圧力と冷却水温度となる ように、蒸気ラインの供給圧力と熱交換器への冷却水の 分岐流量を調整する。蒸気の供給量と凝縮量が釣り合っ て圧力が一定となったことを確認してからデータを取得 した。 Table 1 Element test conditions 3.4 試験結果 各伝熱管の除熱量Q [W]を(2)式で評価した。 Q = G ? c p ? ( T out - T in ) (2) ここで、G [kg/s]:冷却水流量、cp [J/kgK]:冷却水の定 圧比熱、Tin [°C]:伝熱管入口冷却水温度、Tout [°C]:伝熱 管出口冷却水温度である。 図5に上から1段目の中央伝熱管の除熱量と窒素濃度 の関係を示す。1段目では、上段から滴下する凝縮水の 影響を排除して、非凝縮性ガスである窒素による伝熱阻 害効果を評価することができる。除熱量は、各圧力での 純粋蒸気条件での除熱量で規格化している。窒素濃度の 増加に伴い、除熱量が単調に低下している。窒素濃度が 低い領域で除熱量低下の勾配が大きく、窒素濃度が高く なると除熱量の低下が緩やかになる。窒素による伝熱阻 害効果で除熱量は低下するが、小規模の要素試験体系で 窒素濃度30vol%でも純粋蒸気条件の15%程度の除熱量を 確保できることを確認した。窒素による伝熱阻害効果は、 蒸気が凝縮することにより伝熱管表面に窒素が集積する ためであるが、伝熱管段数が多い実機 DWC では、より 多くの混合ガスを DWC 内に引き込むことができ、混合 ガス流速が増加するため、集積した窒素を撹拌する効果 が期待でき、除熱量の低下が抑制されると予想される。 ] -[etarl avomert aehd ezilamroN1.0 1.0 0.80.60.40Coolant temp. : 30°C ●:0.2MPa 0.8Coolant vel. : 2.0m/s ▲:0.4MPa ◆:0.62MPa ●:0.85MPa 0.6 0.40.2 0.2 00 0 10 10 20 20 30 30 40 40 N2 fraction [vol%] Pressure in the container 0.2 ? 0.85 MPa Temperature in the container 120 ? 180 °C Fig.5 N2 volume fraction vs heat removal rate Coolant pressure 0.2 MPa Coolant temperature 30 ? 85 °C Coolant velocity 1.0 - 4.0 m/s N2 volume fraction 0 ? 30 vol% 図6に中央伝熱管の1~5段目の除熱量の変化を示す。 各段の除熱量は1段目の除熱量で規格化している。上段 から下段に向かって除熱量は単調に低下していく。上段 から落下してくる凝縮水による伝熱阻害効果、および伝 熱管での蒸気の凝縮にともなって下段にいくにつれて窒 素濃度が増加して伝熱を阻害する効果が大きくなること によるものである。試験容器内の窒素濃度が低いほど、 除熱量の低下がやや大きくなる傾向にある。これは、図 5に示したように窒素濃度が低い領域では、窒素濃度の 増加に対する除熱量低下の感度が大きいためである。 - 457 - 4.結言 ] -[etarl avomert aehd ezilamroN過酷事故時の格納容器冷却手段の多様化の一つとして、 蒸気を凝縮して格納容器を減圧する新型ドライウェル冷 却器(DWC)を開発している。窒素による伝熱阻害効果 と蒸気と非凝縮性ガスである窒素との密度差によって生 じる自然循環流の形成を確認するため、外径15.9 mm、厚 さ1.2mm、長さ1mの銅管を用いた3列×5段の伝熱管群 を用いた要素試験を実施し、以下の結論を得た。 (1) 窒素濃度の増加に伴い除熱量は低下するが、想定して いる過酷事故事象での最大窒素濃度 30vol%の条件で も、純粋蒸気に対する除熱量の15%程度は確保できる。 (2) 蒸気と窒素の密度差によりDWC内を上から下に向か う自然循環流が形成される。この自然循環流により常 にDWC内に蒸気が供給され、継続的に除熱が行われ る。 今後、要素試験で取得した伝熱特性データを基にDWC の伝熱モデルを構築して精度を確認し、実機仕様の検討 に適用していく。また、実機 DWC では、自然循環力が 大きくなり、除熱性能が向上すると予想されることから、 CFD を活用した評価と実機大の試験を計画していく予定 である。 - 458 - 1.0 1.0 0.8 0.8 0.6 0.6 0.4 0.4 N●: 2 fraction 5vol% 0.2 0.2 ▲:10vol% ◆:20vol% ●:30vol% Pressure : 0.62MPa Coolant temp. : 30°C 0.0 0.0 Coolant vel. : 2.0m/s 0 1 1 2 2 3 3 4 4 5 5 6 Tube level from the top [-] Fig.6 Tube level vs heat removal rate 図7に伝熱管各段の間に設置した熱電対で測定した温 度から(1)式で評価した窒素濃度分布を示す。伝熱管を通 過するたびに窒素濃度が単調に増加している。窒素濃度 が単調に増加していることから、蒸気と窒素の混合ガス が上部から伝熱管群内に流入し、伝熱管で蒸気が凝縮し ながら伝熱管群を下に向かって流れていると推定できる。 60 60 Pressure : 0.62MPa ] %lov[noitcarf5050404030302020 Coolant Coolant temp. vel. : 2.0m/s : 30°C N1010000 1 1 2 2 3 3 4 4 5 5 Tube level from the top [-] Fig.7 N2 volume fraction distribution 以上から、蒸気よりも密度の大きい窒素を含む混合ガ スは、伝熱管で蒸気が凝縮して窒素濃度が上昇し密度が 増加することにより、伝熱管群を上から下に向かう自然 循環流が発生し、常に DWC に蒸気が供給されることを 確認した。また、窒素による伝熱阻害効果はあるが、一 定の除熱量を確保できることを確認した。“ “過酷事故対応のドライウェル冷却器の除熱特性“ “石田 直行,Naoyuki ISHIDA,綿引 直久,Naohisa WATAHIKI,細井 秀章,Hideaki HOSOI,渡邉 亮平,Ryohei WATANABE,佐藤 大樹,Daiki SATO