東通原子力発電所における安全対策工事について
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カテゴリ: 第13回
1.緒言
東通原子力発電所の安全性向上対策のうち、原子炉冷却材圧力バウンダリが高圧状態の場合の炉心損傷を防止する機能として、「高圧代替注水系」を追設する予定である。高圧代替注水系用ポンプは、福島第一事故のような全交流電源喪失や機器の水没時においても原子炉冷却機能が要求されるため、これらの条件を満たす海外製品の「TWLポンプ」を採用している。 導入にあたっての検討状況や海外工場での試験状況をご紹介する。
2.高圧代替注水系の系統概要 高圧代替注水系(High Pressure Alternate Cooling system; HPAC)は、原子炉冷却材圧力バウンダリが高圧の場合であって設計基準事故対処設備(Design Basis Accident設備) が機能喪失[原子炉隔離時冷却系(Reactor Core Isolation Cooling system; RCIC)の起動失敗,SRV(Safety Relief Valve) 機能喪失による減圧失敗等]による重大事故時(Severe Accident)に、原子炉への冷却水注水を行うことにより炉心の著しい損傷を防止することができる機能を有する設備である。 RCICの代替設備であるHPACは、ポンプ、配管、弁類及び計測制御機器等により構成されるが、蒸気ライン及び給水ラインの一部は、設計条件が同じである RCICと共用とした構成としている。一方で、原子炉への注水配管については、RCIC と独立した配管構成とすることで、高圧条件による配管ラプチャー等の両系統機能喪失に対 するリスク低減を図った設計としている(図1参照)。また、ポンプについては、原子炉建屋の最地下階(B3F)に 設置されたRCICポンプより上階(B2F)に設置することにより、位置的分散、耐浸水性向上を図っている。 HPACに使用されるCUP-TWLTMの特徴については、以 下のとおり。
Fig.1 System Overview - 459 - Trip Device Throttle Mechanism Steam Inlet Steam Exhaust Baseplate Nozzles Turbine Wheel Turbine Wheel Pump Discharge Pump Discharge Venturi
3.CUP-TWLTMの特徴 CUP-TWLTM は、英国スコットランドの Clyde Union Pumps 社(CUP)にて製造されており、これまで国外の原子力発電所及び海軍用給水ポンプとして多数の納入実績がある。 CUP-TWLTMは、遠心ポンプと駆動用タービンを1本のシャフトに据え付けた一体ケーシングに内包された一体型ポンプであり、ポンプ流量については、機械式圧力ガバナーの制御により一定の流量を保持する。 軸受潤滑、ガバナーの制御は自己水圧を利用し、機械式過速度トリップとしてシャフトに内蔵されたトリップ構造により、運転に際して一切の外部サービス(電源、冷却水、潤滑油、ガバナー油圧等)が不要である。
Fig.2 Shop Location MAP Fig.3 Sectional Drawing
グラスゴー
Pump Suction
既設の高圧注水系(RCIC)と同様な性能を有しているが、ポンプ・タービン一体型設計により、RCIC ポンプと 比較しコンパクトであるため、既設の原子力発電所における配置設計に対し有利である。 Throttle Spindle Fig.6 Principle of Operation Pressure Governor Piston Venturi Venturi - 460 - タービン制御装置(スロットル機構・圧力ガバナー) によるタービン蒸気量を調整することにより、一定流量 にて高圧水を供給する。 Fig.5 Throttle Mechanism & Pressure Governor Fig.4 CUP-TWLTM Outline Dimensions 1770mm 1100mm CUP-TWLTMと既設RCICポンプの仕様について比較し た表をTable 1 に記す。 Table 1 Comparison of CUP-TWLTM and RCIC Pump CUP-TWLTM RCICポンプ 構造 ポンプ・タービン 一体型 ポンプ・タービン 結合型 Flow (m3/h) 136 136 Generated Head (m) 882 / 186 (高圧時/低圧時) 882 / 186 (高圧時/低圧時) Size (mm) L 1770 × W 1100 × H 1295 L4550 × W 2000 × H 1200 Auxiliary Devices Not required Condensate Pump etc. Power Supply Not required Condensate Pump etc. Lubricating Oil Not required Bearing Water Resistant ○ × 4.水没試験による検証 本 HPAC は、重大事故等の際の使用を目的としている ことから、原子炉建屋が水没した場合でも CUP-TWLTM が起動できることを確認するため、メーカにて以下の条 件による試験を行った。 ・水没状態による起動試験 ・運転中での水没試験 各試験において、以下の図のとおり本体をタンク内に 水没させて行った。 各試験結果より、ポンプの運転状態及び性能(圧力、 流量、回転数、温度、振動 など)に影響がなく、重大 事故等によるポンプ設置エリアの浸水に対しても原子炉 への高圧注水が可能であることを確認できた。 Fig.7 Submergence Test Landscape - 461 -
5.工場立会試験 当発電所への CUP-TWLTM 納入に際し、以下の試験に ついて現地(SPX FLOWS Clyde Union Pumps 工場@スコ ットランド)にて立会による試験(記録確認による試験 も含む)を行い、国内の技術基準に適合することを確認 している。 試験概要は以下のとおり。 (1) 耐圧・漏えい検査 圧力バウンダリを形成する部位について、水圧によ る設定圧力に対し、圧力降下(耐圧試験)及び各部か らの漏えい(漏えい試験)がないことを確認(安全上 の観点から、試験中、試験室への入域ができないため、 遠隔カメラによる漏えい確認を行った) (2) 材料検査 材料については、ほとんどがASME材であり、ASME の規定に適合していることを確認している他、重要部 材である一部の部品については、相当材として日本国 内の規格(JSME、JIS)に適合した材料、強度であるこ とを確認 (3) 寸法検査 設計図等で規定された寸法であることを実測及び記 録にて確認 (4) ポンプ性能試験 試験施設による蒸気を使用し、高圧/低圧条件での ポンプ性能及び機械式/電気式によるトリップ試験を 実施 Fig.8 Hydraulic Test (Confirm of Pressure Gauge) (5) 開放検査(性能試験後) ポンプ性能試験後、ポンプを再開放し、各部位に摩 耗、熱的影響等の判定基準を逸脱するような事象が発 生していないかを確認 性能試験において蒸気を使用しているため、開放検 査実施までクールダウンによる 1 日のインターバルを 要した。 6.結言 東通原子力発電所の安全性向上対策のうち、高圧代替 注水系(HPAC)及びCUP-TWLTMの概要、特徴について 紹介した。 今後、ポンプの納入に際して、海外での使用実績によ る知見等を収集し、CUP-TWLTMポンプに係る点検計画を 策定し、東通原子力発電所における安全対策設備として、 これらの保全活動への万全な体制を構築する。 - 462 -“ “東通原子力発電所における安全対策工事について“ “小林 隆,Takashi KOBAYASHI,高橋 直明,Naoaki TAKAHASHI
東通原子力発電所の安全性向上対策のうち、原子炉冷却材圧力バウンダリが高圧状態の場合の炉心損傷を防止する機能として、「高圧代替注水系」を追設する予定である。高圧代替注水系用ポンプは、福島第一事故のような全交流電源喪失や機器の水没時においても原子炉冷却機能が要求されるため、これらの条件を満たす海外製品の「TWLポンプ」を採用している。 導入にあたっての検討状況や海外工場での試験状況をご紹介する。
2.高圧代替注水系の系統概要 高圧代替注水系(High Pressure Alternate Cooling system; HPAC)は、原子炉冷却材圧力バウンダリが高圧の場合であって設計基準事故対処設備(Design Basis Accident設備) が機能喪失[原子炉隔離時冷却系(Reactor Core Isolation Cooling system; RCIC)の起動失敗,SRV(Safety Relief Valve) 機能喪失による減圧失敗等]による重大事故時(Severe Accident)に、原子炉への冷却水注水を行うことにより炉心の著しい損傷を防止することができる機能を有する設備である。 RCICの代替設備であるHPACは、ポンプ、配管、弁類及び計測制御機器等により構成されるが、蒸気ライン及び給水ラインの一部は、設計条件が同じである RCICと共用とした構成としている。一方で、原子炉への注水配管については、RCIC と独立した配管構成とすることで、高圧条件による配管ラプチャー等の両系統機能喪失に対 するリスク低減を図った設計としている(図1参照)。また、ポンプについては、原子炉建屋の最地下階(B3F)に 設置されたRCICポンプより上階(B2F)に設置することにより、位置的分散、耐浸水性向上を図っている。 HPACに使用されるCUP-TWLTMの特徴については、以 下のとおり。
Fig.1 System Overview - 459 - Trip Device Throttle Mechanism Steam Inlet Steam Exhaust Baseplate Nozzles Turbine Wheel Turbine Wheel Pump Discharge Pump Discharge Venturi
3.CUP-TWLTMの特徴 CUP-TWLTM は、英国スコットランドの Clyde Union Pumps 社(CUP)にて製造されており、これまで国外の原子力発電所及び海軍用給水ポンプとして多数の納入実績がある。 CUP-TWLTMは、遠心ポンプと駆動用タービンを1本のシャフトに据え付けた一体ケーシングに内包された一体型ポンプであり、ポンプ流量については、機械式圧力ガバナーの制御により一定の流量を保持する。 軸受潤滑、ガバナーの制御は自己水圧を利用し、機械式過速度トリップとしてシャフトに内蔵されたトリップ構造により、運転に際して一切の外部サービス(電源、冷却水、潤滑油、ガバナー油圧等)が不要である。
Fig.2 Shop Location MAP Fig.3 Sectional Drawing
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Pump Suction
既設の高圧注水系(RCIC)と同様な性能を有しているが、ポンプ・タービン一体型設計により、RCIC ポンプと 比較しコンパクトであるため、既設の原子力発電所における配置設計に対し有利である。 Throttle Spindle Fig.6 Principle of Operation Pressure Governor Piston Venturi Venturi - 460 - タービン制御装置(スロットル機構・圧力ガバナー) によるタービン蒸気量を調整することにより、一定流量 にて高圧水を供給する。 Fig.5 Throttle Mechanism & Pressure Governor Fig.4 CUP-TWLTM Outline Dimensions 1770mm 1100mm CUP-TWLTMと既設RCICポンプの仕様について比較し た表をTable 1 に記す。 Table 1 Comparison of CUP-TWLTM and RCIC Pump CUP-TWLTM RCICポンプ 構造 ポンプ・タービン 一体型 ポンプ・タービン 結合型 Flow (m3/h) 136 136 Generated Head (m) 882 / 186 (高圧時/低圧時) 882 / 186 (高圧時/低圧時) Size (mm) L 1770 × W 1100 × H 1295 L4550 × W 2000 × H 1200 Auxiliary Devices Not required Condensate Pump etc. Power Supply Not required Condensate Pump etc. Lubricating Oil Not required Bearing Water Resistant ○ × 4.水没試験による検証 本 HPAC は、重大事故等の際の使用を目的としている ことから、原子炉建屋が水没した場合でも CUP-TWLTM が起動できることを確認するため、メーカにて以下の条 件による試験を行った。 ・水没状態による起動試験 ・運転中での水没試験 各試験において、以下の図のとおり本体をタンク内に 水没させて行った。 各試験結果より、ポンプの運転状態及び性能(圧力、 流量、回転数、温度、振動 など)に影響がなく、重大 事故等によるポンプ設置エリアの浸水に対しても原子炉 への高圧注水が可能であることを確認できた。 Fig.7 Submergence Test Landscape - 461 -
5.工場立会試験 当発電所への CUP-TWLTM 納入に際し、以下の試験に ついて現地(SPX FLOWS Clyde Union Pumps 工場@スコ ットランド)にて立会による試験(記録確認による試験 も含む)を行い、国内の技術基準に適合することを確認 している。 試験概要は以下のとおり。 (1) 耐圧・漏えい検査 圧力バウンダリを形成する部位について、水圧によ る設定圧力に対し、圧力降下(耐圧試験)及び各部か らの漏えい(漏えい試験)がないことを確認(安全上 の観点から、試験中、試験室への入域ができないため、 遠隔カメラによる漏えい確認を行った) (2) 材料検査 材料については、ほとんどがASME材であり、ASME の規定に適合していることを確認している他、重要部 材である一部の部品については、相当材として日本国 内の規格(JSME、JIS)に適合した材料、強度であるこ とを確認 (3) 寸法検査 設計図等で規定された寸法であることを実測及び記 録にて確認 (4) ポンプ性能試験 試験施設による蒸気を使用し、高圧/低圧条件での ポンプ性能及び機械式/電気式によるトリップ試験を 実施 Fig.8 Hydraulic Test (Confirm of Pressure Gauge) (5) 開放検査(性能試験後) ポンプ性能試験後、ポンプを再開放し、各部位に摩 耗、熱的影響等の判定基準を逸脱するような事象が発 生していないかを確認 性能試験において蒸気を使用しているため、開放検 査実施までクールダウンによる 1 日のインターバルを 要した。 6.結言 東通原子力発電所の安全性向上対策のうち、高圧代替 注水系(HPAC)及びCUP-TWLTMの概要、特徴について 紹介した。 今後、ポンプの納入に際して、海外での使用実績によ る知見等を収集し、CUP-TWLTMポンプに係る点検計画を 策定し、東通原子力発電所における安全対策設備として、 これらの保全活動への万全な体制を構築する。 - 462 -“ “東通原子力発電所における安全対策工事について“ “小林 隆,Takashi KOBAYASHI,高橋 直明,Naoaki TAKAHASHI