浜岡原子力発電所の津波対策「防波壁」の 設計・建設工事の概要
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カテゴリ: 第13回
1.緒 言
中部電力浜岡原子力発電所では、東北地方太平洋沖地震における東京電力福島第一原子力発電所の事故等の被災事例を踏まえ、津波対策をはじめとする安全対策の強化に早急に着手した。本稿では、当発電所の主要な津波対策である「防波壁」の設計および建設工事の概要について紹介する。 2.防波壁の設計 2.1 防波壁の構造 防波壁は津波の敷地内への直接的な侵入を防止するも ので、高さ海抜 22m、総延長約 1.6km の強固な壁を敷地 海側に構築している。その両端部は海抜22~24mのセメ ント改良土を主体とした改良盛土に接続し、敷地背後の 高台を含め発電所周囲を取り囲む形で津波防護ラインを 形成している。 浜岡原子力発電所は、南海トラフによる巨大地震が想 定されるエリアに位置する。このため従来から、設計外 力を大きく超える場合でも大変形を生じない、余裕を持 たせた設計を行っている。 防波壁の構造については、地震や津波に対して粘り強 い構造とするため、岩盤の中から立ち上げた鉄筋コンク リート構造の地中壁基礎の上に、鋼構造のたて壁と鉄 骨・鉄筋コンクリートの床版との複合構造である L 型の 壁部を結合する、これまでの防潮堤等にない新たな構造 形式を採用した(Fig.1)。 Fig.1 Structural overview of tsunami protection wall 防波壁の耐震設計は、南海トラフによる巨大地震を考 慮した設計用の地震動に基づき地震応答解析を実施し構 連絡先:和仁雅明、〒461-8680 名古屋市東区東新町1 造設計を行っている。地中壁等に用いる鉄筋はD51 等の 中部電力(株)原子力本部原子力土建部設計管理G E-mail: Wani.Masaaki@chuden.co.jp 太径鉄筋を主体とし、構造上特に重要なたて壁下部につ いては、内部にコンクリートを充填した複合構造とする
ことで耐震性を高めている。 耐津波設計については、地震と同様、南海トラフの巨 大津波を考慮し、防波壁前面で海抜22m に達する津波を 設計用の津波高さとした。 なお、たて壁は鋼構造であることから、表面には鉄筋 コンクリート製のパネルを設置するなどの防錆対策を施 している。 2.2 実験による検証 防波壁の耐震性・耐津波性および設計の妥当性につい て、実験による検証を行った。 耐震性については、防波壁と砂丘堤防を含む地盤を 1/30 スケールのせん断土槽試験体(Fig.2)で再現し、遠 心載荷装置による30G 場の加振実験を行い、防波壁の地 震時挙動を検証した。その結果、実スケール換算で最大 2000 ガル相当の入力加速度に対しても、地中壁の応答が 弾性範囲内であることを確認した[2]。 Fig.2 Centrifugal model experiment 耐津波性については、防波壁の設計波力の妥当性を確 認するため、大型造波水路に現地地形を1/40 スケールで 再現した波力実験を行い、朝倉ら[4]の知見を参照し設定 した防波壁の設計波力に十分な保守性があることを確認 した[3]。 3.防波壁の建設 防波壁の建設は、東北地方太平洋地震から8 か月後の 2011年11月に地中壁基礎工事に着手した。 地中壁は、防波壁のたて壁に直交するように6m間隔で 218 基構築した。専用の掘削機を用いて所定の深さまで掘 削し、現地で組み立てた鉄筋かごを建込後、高流動コン クリートを打設する工法により施工した。 壁部は、海抜6~8mの敷地に対して高さ14~16mのL 型壁で、延長12mを1ブロックとして全体で109ブロッ ク構築した。壁部の鋼構造部分は、1 ブロックを15ピー スに分割して工場製作し、これらを現地で添接板と約 14,000本の高力ボルトにより接合し組み上げた。 1ブロックの壁部は2基の地中壁で支持され、その接合 部については、スタッドを溶接した床版の鉄骨に地中壁 頂部の鉄筋を挟みこむ形で配置し、その周囲にも鉄筋を 配置後、高流動コンクリートを流し込むことで構造の一 体化を図った。 地中壁工事と並行して、壁部の鋼構造部を工場で製作 し、基礎の構築が完了したブロックから壁部の組立て行 う等の工夫や、昼夜連続作業で工事を進めたことにより 工期短縮を図り、2014 年 12 月に海抜22m の高さまで構 築を完了した(Fig.3)。 本稿では、浜岡原子力発電所の主要な津波対策である 防波壁の耐震設計・耐津波設計の概要と、実験による設 計性能の検証および建設工事における様々な工夫につい て紹介した。 参考文献 [1] 和仁雅明:“浜岡原子力発電所の防波壁-様々な技 術を投入して連続構築-”,土木学会誌,Vol.99, pp.16-17(2014) [2] 仲村治朗,田中良仁,和仁雅明:“遠心模型実験に よる防波壁の地震時挙動の検討”,電力土木, No.365,pp.37-41(2013) [3] 松山昌史,内野大介,橋和正ほか:“盛土を越流す る津波に対する防波壁の効果に関する実験”,土 木学会論文集B2(海岸工学),Vol. 68(2012) [4] 朝倉良介,岩瀬浩二,池谷毅ほか:“護岸を越流した 津波による波力に関する実験的研究”,海岸工学論 文集,第47 巻,pp.911-915(2014) - 466 - Fig.3 Tsunami protection wall 4.結言“ “浜岡原子力発電所の津波対策「防波壁」の 設計・建設工事の概要“ “和仁 雅明,Masaaki WANI,佐藤 芳仁,Yoshihito SATO
中部電力浜岡原子力発電所では、東北地方太平洋沖地震における東京電力福島第一原子力発電所の事故等の被災事例を踏まえ、津波対策をはじめとする安全対策の強化に早急に着手した。本稿では、当発電所の主要な津波対策である「防波壁」の設計および建設工事の概要について紹介する。 2.防波壁の設計 2.1 防波壁の構造 防波壁は津波の敷地内への直接的な侵入を防止するも ので、高さ海抜 22m、総延長約 1.6km の強固な壁を敷地 海側に構築している。その両端部は海抜22~24mのセメ ント改良土を主体とした改良盛土に接続し、敷地背後の 高台を含め発電所周囲を取り囲む形で津波防護ラインを 形成している。 浜岡原子力発電所は、南海トラフによる巨大地震が想 定されるエリアに位置する。このため従来から、設計外 力を大きく超える場合でも大変形を生じない、余裕を持 たせた設計を行っている。 防波壁の構造については、地震や津波に対して粘り強 い構造とするため、岩盤の中から立ち上げた鉄筋コンク リート構造の地中壁基礎の上に、鋼構造のたて壁と鉄 骨・鉄筋コンクリートの床版との複合構造である L 型の 壁部を結合する、これまでの防潮堤等にない新たな構造 形式を採用した(Fig.1)。 Fig.1 Structural overview of tsunami protection wall 防波壁の耐震設計は、南海トラフによる巨大地震を考 慮した設計用の地震動に基づき地震応答解析を実施し構 連絡先:和仁雅明、〒461-8680 名古屋市東区東新町1 造設計を行っている。地中壁等に用いる鉄筋はD51 等の 中部電力(株)原子力本部原子力土建部設計管理G E-mail: Wani.Masaaki@chuden.co.jp 太径鉄筋を主体とし、構造上特に重要なたて壁下部につ いては、内部にコンクリートを充填した複合構造とする
ことで耐震性を高めている。 耐津波設計については、地震と同様、南海トラフの巨 大津波を考慮し、防波壁前面で海抜22m に達する津波を 設計用の津波高さとした。 なお、たて壁は鋼構造であることから、表面には鉄筋 コンクリート製のパネルを設置するなどの防錆対策を施 している。 2.2 実験による検証 防波壁の耐震性・耐津波性および設計の妥当性につい て、実験による検証を行った。 耐震性については、防波壁と砂丘堤防を含む地盤を 1/30 スケールのせん断土槽試験体(Fig.2)で再現し、遠 心載荷装置による30G 場の加振実験を行い、防波壁の地 震時挙動を検証した。その結果、実スケール換算で最大 2000 ガル相当の入力加速度に対しても、地中壁の応答が 弾性範囲内であることを確認した[2]。 Fig.2 Centrifugal model experiment 耐津波性については、防波壁の設計波力の妥当性を確 認するため、大型造波水路に現地地形を1/40 スケールで 再現した波力実験を行い、朝倉ら[4]の知見を参照し設定 した防波壁の設計波力に十分な保守性があることを確認 した[3]。 3.防波壁の建設 防波壁の建設は、東北地方太平洋地震から8 か月後の 2011年11月に地中壁基礎工事に着手した。 地中壁は、防波壁のたて壁に直交するように6m間隔で 218 基構築した。専用の掘削機を用いて所定の深さまで掘 削し、現地で組み立てた鉄筋かごを建込後、高流動コン クリートを打設する工法により施工した。 壁部は、海抜6~8mの敷地に対して高さ14~16mのL 型壁で、延長12mを1ブロックとして全体で109ブロッ ク構築した。壁部の鋼構造部分は、1 ブロックを15ピー スに分割して工場製作し、これらを現地で添接板と約 14,000本の高力ボルトにより接合し組み上げた。 1ブロックの壁部は2基の地中壁で支持され、その接合 部については、スタッドを溶接した床版の鉄骨に地中壁 頂部の鉄筋を挟みこむ形で配置し、その周囲にも鉄筋を 配置後、高流動コンクリートを流し込むことで構造の一 体化を図った。 地中壁工事と並行して、壁部の鋼構造部を工場で製作 し、基礎の構築が完了したブロックから壁部の組立て行 う等の工夫や、昼夜連続作業で工事を進めたことにより 工期短縮を図り、2014 年 12 月に海抜22m の高さまで構 築を完了した(Fig.3)。 本稿では、浜岡原子力発電所の主要な津波対策である 防波壁の耐震設計・耐津波設計の概要と、実験による設 計性能の検証および建設工事における様々な工夫につい て紹介した。 参考文献 [1] 和仁雅明:“浜岡原子力発電所の防波壁-様々な技 術を投入して連続構築-”,土木学会誌,Vol.99, pp.16-17(2014) [2] 仲村治朗,田中良仁,和仁雅明:“遠心模型実験に よる防波壁の地震時挙動の検討”,電力土木, No.365,pp.37-41(2013) [3] 松山昌史,内野大介,橋和正ほか:“盛土を越流す る津波に対する防波壁の効果に関する実験”,土 木学会論文集B2(海岸工学),Vol. 68(2012) [4] 朝倉良介,岩瀬浩二,池谷毅ほか:“護岸を越流した 津波による波力に関する実験的研究”,海岸工学論 文集,第47 巻,pp.911-915(2014) - 466 - Fig.3 Tsunami protection wall 4.結言“ “浜岡原子力発電所の津波対策「防波壁」の 設計・建設工事の概要“ “和仁 雅明,Masaaki WANI,佐藤 芳仁,Yoshihito SATO