福島第一原子力発電所冷却系配管の腐食評価に関する研究

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カテゴリ: 第13回
1.緒言
福島第一原子力発電所の廃止措置を安全に進めるためには、必要な期間にわたり、燃料デブリや使用済み燃料の冷却機能を維持することが重要である。通常の状態の原子力発電所の冷却水は高度に管理されている。しかし、事故後の福島第一原子力発電所では、電源喪失時に一時的に海水が注入され、設計の想定を逸脱した環境となっているため、腐食による経年劣化が懸念される。冷却系配管の構造材は主に炭素鋼である。酸素が存在する中性溶液中の炭素鋼の腐食は、酸素の拡 散律速であるため、環境中の溶存酸素濃度、流速によって腐食速度が大幅に異なることが知られている[1]。 本研究は、溶存酸素濃度ならびに流動条件をパラメータとして、回転円筒電極を用いた分極抵抗測定により腐食速度の経時変化を評価した。分極抵抗測定前後の重量変化を測定し、分極抵抗測定から求めた減肉速度の妥当性を検証すると供に、得られた減肉速度と試験片に形成された酸化皮膜の性状の関係を考察した。
2.試験方法 2.1 試験条件 供試材には、円柱状の一般圧延鋼材(SS400)を用いた。 供試材の化学組成をTable.1 に示す。供試材をエメリー 紙#600まで湿式研磨した後、純水、エタノール、アセ トンの順に洗浄した。作用電極の構成概略図を Fig.1 に示す。参照電極には飽和カロメル電極、対極にはカ ーボングラファイト棒を用いた。ポンプを用いて、恒 温槽内の水を二重ビーカーの外側に流し、温度を 30 ±1°Cに保った。試験溶液は、Cl-濃度 200ppm の NaCl 溶液を用いた。試験前のpH は6.9~7.2、試験中の溶存 酸素濃度は脱気条件下では10ppb 以下、曝気条件下で Table.1 Chemical compositions of SS400 (wt%) C Si Mn P S 0.19 0.24 0.80 0.014 0.040 電極ホルダー シール剤 試験片 テフロン ネジ 14mm Fig.1 Schematic diagram of rotating cylinder electrode
は7.3ppm 程度であった。 2.2分極抵抗測定と重量測定 回転速度は、脱気条件では2000rpm のみ、曝気条件 iでは、0、2000、10000rpm その後半5分間を測定値として採用して分極抵抗を測 とした。分極は8分間行い、 定した。試験前後で自然浸漬電位が異なる場合があり、 その場合は、分極中に自然浸漬電位が線形に推移した と仮定して内挿し、補正した自然浸漬電位を用いて分 極を計算した。10000rpm に関しては、試験中の電位変 動が大きかったことから、測定値の10点移動平均を採 用して、自然浸漬電位の補正、分極の算出を行った。 試験時間は48時間として、試験後に取り外した試験片 を純水で洗浄した後に重量を測定した。 3.試験結果および考察 分極抵抗の測定結果を Fig.2 に示す。曝気条件 2000rpmの腐食速度は、0rpm に比べ顕著に増加してお り、流動条件下における物質移動促進による腐食速度 増大が明確に認められた。また、脱気条件2000rpmと 比べると、腐食速度は10 倍以上大きい値であった。し かし、10000rpm まで回転速度を上昇させると腐食速度 が2000rpmに比べて低下した。 次に、試験後に純水で洗浄した後の試験片写真を Fig.3 に示す。脱気条件では、試験片全体が黒色腐食生 成物に覆われていた。一方曝気条件では、試験直後は、 どの試験片も赤褐色の腐食生成物に覆われていた。曝 気条件0rpm、2000rpmの比較的回転速度の低い試験片 では、赤褐色腐食生成物の密着性が低く、洗浄で容易 に剥がれ落ち、その下に黒色の腐食生成物が形成され ていた。しかし、10000rpmの試験片には、密着性が高 い赤褐色皮膜が形成されていた。曝気条件の炭素鋼の 腐食速度は流速に対して極大を持つことが知られてい 純水洗浄 10000rpm □ 10000rpmでは, 洗浄前後で表面 試験直後の試験片 (2000rpm) 状態に変化なし □ 0,2000rpmでは、 試験片表面に赤褐色 □ 表面に緻密な 腐食生成物 □ 赤褐色皮膜 1899/12/31 9:36:00] y/mm[e tarn oisorro1.2 1 0.80.6 9:36:000.20 10 20 30 40 50 60 Time[h] Fig.2 Change with time of corrosion rate by polarization resistance measurement Fig.3 Specimens after measurement 0:00:002000rpm □ 洗浄前後で試験片表面状態変化無し □ 試験片表面全体に黒色腐食性生物 Fig.4 Comparison between corrosion rate by polarization resistance measurement and by weight loss □ 試験片表面に黒色腐食生成物 □ 2000rpmでは凹凸が顕著 2000rpm 曝気条件 脱気条件 10000rpm(曝気) 2000rpm(曝気) 0rpm(曝気) 2000rpm(脱気) 0rpm る[2]。本実験においても、回転速度が増加すると、低 回転域では酸素の拡散が促進され腐食速度が増加する が、ある回転速度を超えると、金属表面に保護性の皮 膜が形成され、腐食速度が低下した可能性が考えられ る。 1.4 1.2重量測定 ※10000rpm(曝気)は試験 前後で重量が増加したた めブランクとした。 0(曝気) 2000(曝気) 10000(曝気) 2000(窒素脱気) Rotational speed (rpm) 分極抵抗測定から求めた腐食速度と、重量変化から 求めた腐食速度はほぼ一致した。(Fig.4) 4.結言 流動条件をパラメータとして、分極抵抗法を用いた 長時間試験により腐食速度の経時変化を評価した。得 られた減肉速度と試験片に形成された酸化皮膜の性状 の関係を考察した。重量測定で求めた腐食速度との比 較を行い、分極抵抗測定によって求めた腐食速度が妥 当であることを確認した。溶存酸素を含む環境におい ては、流動条件下における物質移動促進による腐食速 度増大が明確に認められた。また、本試験範囲におい て溶存酸素濃度と流動条件の組み合わせによって環境 中で形成される酸化物の特徴が異なり、形成された酸 化皮膜の保護性の大小が腐食速度に影響していると考 えられた。今後は、実機で想定される物質移動係数の 下での腐食速度評価、未臨界管理のためのホウ酸塩添 加環境での腐食挙動評価を進めていく予定である。 謝辞 本研究は、「文部科学省英知を結集した原子力科学 技術・人材育成推進事業」により実施された「廃止措 置のための格納容器・建屋等信頼性維持と廃棄物処 理・処分に関する基盤研究および中核人材育成プログ ラム」の成果である。 参考文献 [1] 木下和夫ら, 塩素イオンを含む流動水中における ポンプ用材料の腐食,32,pp31-36(1983) [2]村田正廣ら, 水道水中における炭素鋼腐食に及ぼ - 468 - 10.80.6 0.40.20:00:00分極抵抗 す溶存酸素濃度と流速の影響, Zairyo-to-Kankyo, 47, pp326-332,(1998) - 469 -“ “福島第一原子力発電所冷却系配管の腐食評価に関する研究“ “佐藤 祥平,Shohei SATO,阿部 博志,Hiroshi ABE,渡邉 豊,Yutaka WATANABE
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