原子力プラントにおけるレジリエンス評価法の開発 (その2:静的機器の劣化要因に対する信頼性評価モデルの構築)
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カテゴリ: 第13回
1.緒 言
原子力発電プラントにおいて、設計想定を超える事象に対して一時的に喪失した安全機能をアクシデントマネジメントにより回復させることを想定したレジリエンス指標が提案され、検討が進められている[1]。その検討の中で、静的機器の破壊や漏洩の確率(以下、損傷確率)を算出する必要があるが、そこには経年劣化の影響も考慮する必要がある。著者らによる過去の検討[2]では、低サイクル疲労が損傷確率に影響を及ぼす主要な劣化要因として抽出された。低サイクル疲労は、運転年数とともに直積することを前提に設計される。具体的には、設計上許容される負荷繰返し数に対して、実際に発生すると想定される繰返し数の比をUF(Usage Factor)と定義し、プラント運転期間中にUFが1を超えないように設計される[3]。そして、プラント運転開始後も、実績の繰返し数に対するUFが1を超えないように管理されている。しかし、運転年数とともにUF は確実に増加するので、その影響を損傷確率の算出に考慮することが必要となる。 本報では、経年劣化の程度(UFの大きさ)とハザードレベル(地震荷重の大きさ)に応じた条件付損傷確率を算出する静的機器劣化損傷モデルを構築する。そして、安全 機能上重要や役割を果たすPWR プラントの余熱除去設備(余熱除去系統配管)を対象とした計算例を示す。
2.モデルの構築 2.1 モデルの概要
本モデルの入力条件として対象機器の UF とハザード レベル(地震荷重の大きさおよび余震回数)が与えられる。 これらの入力条件から損傷確率を算出する手順を図 1 に模式的に示す。まず、UFを基に疲労によって発生したき 裂深さとその分布を推定する。き裂は、地震荷重により進き裂深さと損傷確率の関係 入力 ・荷重の大きさが入力値 ? 当該機器のUF ・流動応力にばらつきを考慮 ? ハザードレベル ? 地震荷重の大きさ き裂深さ ? 余震回数 vs. 損傷確率 UF き裂深さ 地震によるき裂進展 損傷確率 き裂深さ分布 0UF 1 地震規模+余震回数 UFからき裂深さ分布 地震によるき裂進展後のき裂深さ分布 Fig. 1 Schematic diagram for the reliability assessment model considering degradation of static components. 2.00.06 Δε = 0.8% % 1.50.05Simulation result Reggresion 0:00:001.E+02 1.E+03 1.E+04 1.E+05 1.E+06 0 50 100 150 200 Number of cycles to failure Nf Nf × 103 , cycles Fig. 2 Fatigue life predicted by probability fracture mechanics analysis and fatigue test. 0:57:361899/12/310:43:1212:00:00pCRESTA: ai=0.1 mm +2S 0.02-2S 0.01 Fatigue test 0Fig. 3 Fatigue life distribution obtained by probability fracture mechanics analysis. 展することを想定する。一方、ある地震荷重を負荷したと きの、き裂深さと損傷確率の関係を算出する。そして、地 震後のき裂深さ分布と、それぞれのき裂深さに対する損 傷確率を積分することで、その UF に地震荷重が負荷さ れた時の損傷確率を算出する。個々の数値の具体的な算 出方法を以下で説明する。 2.2 疲労劣化量(UF)とき裂深さの対応 2.2.1 き裂進展による疲労寿命の予測 疲労寿命はき裂の発生と発生したき裂の成長の 2 つの 期間に分けることができる。そして、設計において対象と なる低サイクル疲労では微小なき裂発生までの発生期間 - 48 - は無視できることが示されている[4]。そこで、微小なき 裂の成長予測で、疲労寿命を再現することを試みる。 室温大気中のステンレス鋼から得た、ひずみ範囲?εで のき裂進展速度(da/dN)は次式で得られている[5] ( )2.85 12 eq 3.33 10 da K dN ? - = × (1) eq K f E a ? ?ε π = (2) ここで、a はき裂深さ、f は形状係数[6]、E はヤング率 (325°Cに対応する174 GPa を適用)を示す。初期深さ が、平均0.1 mm、ばらつきCOV = 0.5 の対数正規分布 にしたがうとして、深さが3 mm に到達するまでの繰返 寿命のばらつき 試験片の破断寿命 +実機特性 (ベストフィット予想) 繰返し数 3 mm 繰返し数 Fig. 4 Schematic drawing representing the meaning of safety margin in the design fatigue curve and correlation with crack depth. し数(疲労寿命)の分布を求める。このとき、き裂形状は アスペクト比 0.5 の半楕円形状とし[7]、試験片形状を想 定したφ10 mm の丸棒表面からのき裂成長を模擬する。 き裂成長速度には標準偏差102.7のばらつきを考慮した [8]。確率論的破壊力学コードp-CRESTA[9]を用いて予想 された疲労寿命を図 2 に示す。図には、予想疲労寿命の 平均と、±2σのばらつきの範囲を示す。予測された疲労寿 命は疲労試験による疲労寿命[10]とよく一致しているこ とが確認できる。つまり、疲労寿命は 0.1 mm のき裂深 さが3 mm に到達するまでの繰返し数と等価と見なせる。 図3 に?ε = 0.8%での疲労寿命の分布を示すが、疲労寿命 はおおよそ対数正規分布で近似できることがわかる。 2.2.2 設計疲労曲線における安全率の意味 疲労劣化量 UF は、機器設計において用いられる許容 繰返し数(設計疲労曲線)と、実働繰返し数の比として定 義される。設計疲労曲線には実験結果の回帰線に対して 繰返し数で20倍の安全率が考慮されていることから、UF = 1に到達するまでの繰返し数と、疲労試験で得られる疲 労寿命との間には大きな乖離が生じることになる。一方、 実機の疲労劣化量はUF で測られることから、UFを用い て損傷確率を評価するためには、UF に対するき裂深さを 推定することが必要となる。 - 49 - 20 倍の安全率には、 (1) データのばらつき(2倍) (2) 表面粗さ(4倍) (3) 寸法効果(2.5倍) (4) 荷重履歴(設定なし) が考慮されているとのNUREG/CR-6909[11]の解説があ る(カッコ内は NUREG によって与えられている数値)。 設計疲労曲線はこれらの影響を考慮した下限近傍の寿命 として定義されていると考えることができる(図 4 の模 式図参照)。そこで、本モデルでは、これらの安全率の 4 つの要因を以下のように、考慮することで、設計疲労線図 の再現を試みた。 (1) データのばらつきは、初期深さとき裂成長速度のば らつきと等価 (2) 表面粗さの影響は初期深さに反映させる (3) 寸法効果は考慮しない(潜伏期間を零とする) (4) 荷重履歴効果(有効ひずみ範囲の変化に反映させる) (2)に対する初期深さは、EN疲労設計規格[12]で機械加 工粗さが0.2 mm とされていることから、これに余裕を見 て平均値を0.3 mm、COVを0.5 に設定した。寸法効果に よる寿命低下は、危険体積の増加に対応している。先の計 算では、潜伏期間を考慮しない場合(初期深さ0.1 mm か らの進展を模擬した場合)でも、3 mm に到達するまでの 繰返し数は、試験の疲労寿命とよく一致した。したがって、 低サイクル疲労においては、危険体積が変化してもき裂 の発生確率は同一、つまり寸法効果を考慮する必要がな いと考えられる。荷重履歴効果は、き裂の開閉口によって もたらされ、疲労寿命を低下させる方向に作用すること が示されている[13]。つまり、荷重履歴によって、疲労き 裂の駆動力となる有効ひずみ範囲?εeffが増加する。一定負 荷?εで試験した場合の?εeff は次式で近似できることが示 されている[13] eff 100 200 E?ε ?ε ?ε + = - (3) 荷重履歴効果によって、き裂の開口が促進されると、?εeff が?εに近くなる。つまり、履歴効果によって、有効ひずみ 範囲は一定負荷時の(3)式と?εの間を変化することになる。 そして、有効ひずみ範囲の増加によって、疲労寿命はマイ ナー則による予測よりも短くなる。この影響を考慮する ために、?Keq の算出に用いる?εとして、次式の?εhis を用 いた。 his uniform 100 200 R E?ε ?ε ?ε + = + (4) -3σ (UF = 1に相当) UF = 0.5 UF = 1 Fig. 7 Relationship between the crack depth and its distribution and the number of cycles for fatigue life. 0:00:00pCRESTA: 2.0ai=0.1 mm (test) pCRESTA: ai=0.3 mm (actual) -3S Fatigue test DFC % 1.5112:00:0001.E+02 1.E+03 1.E+04 1.E+05 1.E+06 Number of cycles to failure Nf Fig. 5 Fatigue life prediction for actual components. 3025201510500.0 0.5 1.0 1.5 2.0 Strain range Δε, % Fig. 6 Change in safety margin with strain range obtained by fatigue life prediction. - 50 - 1:26:240.5UF 0.05 Simulation result y tilibaborP0.04 0.03 Reggresion 0.020.010 1 2 3 Crack depth, mm Fig.8 Crack depth distribution for UF = 0.5, ?ε = 1.2%. ここで、Runiformは一様乱数により与えられる定数を示す。 以上の想定のもと、p-CRASTA によりモンテカルロ計 算を実施した。進展速度、およびそのばらつきは、(1)式、 および標準偏差102.7を適用した。図 5 に得られた疲労寿 命の平均と-3σの線を示す。予測された疲労寿命の-3σが 設計疲労線図とよく対応していることがわかる。 平均値の寿命を-3σの寿命で除したもの(安全率に対応) とひずみ範囲の関係を図 6 に示す。正規化した疲労寿命 は 18.2 から 26.4 まで変化した。?εが 0.4%~2.0%の場合 の正規化寿命の単純平均は20.1 となり、設計疲労線図の 20 倍の安全率にほぼ一致した。ちなみに、この正規化疲 労寿命の平均は、初期き裂の深さ分布COV、初期き裂深 さの平均値μmなどに依存し、20倍の安全率を再現する解 析条件は複数存在する。 2.2.3 UFとき裂深さの関係 初期き裂深さ分布を与え、ばらつきを考慮した進展速 度でき裂を進展させ、深さ 3 mm に到達するまでの寿命 のばらつきを算出した。そして、ばらつきの-3σを設計疲 労曲線(UF = 1)が、設計疲労曲線に対応する寿命として 再現できた。このモデルを用いることで、UF とき裂深さ の分布を図 7 に模式的に示すように取得する。つまり、 モンテカルロ計算で得られるき裂深さの分布を繰返し数 毎に取得して、統計的に近似することで、UF とき裂深さ 分布の関係を算出する。 設計疲労曲線では、丸棒試験片を用いて得られた疲労 実機を想定した場合の寿命 (ベストフィット予想) 繰返し数 3 mm繰返し数 寿命を基本に、実機における影響因子が考慮されている。 したがって、UF = 1 でのき裂深さは3 mm に相当すると 考えられる。実際の評価においては、UF = 1 相当の荷重 と繰返し数が負荷されても、実機の形状によって駆動力 ?Keqが変化し、UF = 1 到達時のき裂深さ(の平均)が 3 mm になるとは限らない。例えば、形状複雑部や大型構造 物などでは、駆動力?Keq に用いる形状係数 f が変化し、 UF = 1 相当の負荷と繰返し数の組み合わせでも、合計の 進展量が同一でなくなる。ここでは、モデルに一般性を持 たせるため、き裂が深さ無限大の平板表面に存在すると 仮定する。つまり、(2)式における形状係数fを、アスペク ト比0.5 の表面き裂に相当するf = 0.896 [14]とした。その 他の計算は、先の計算と同一とした。図8に?ε = 1.2%、 UF = 0.5 相当の繰返し数のき裂深さ分布を示す。ここで、 UF = 1 は図5に示した-3σに相当する曲線で与えた。誤差 はあるものの、き裂深さ分布は対数正規分布で近似でき ている。 UF 毎のき裂深さの分布の平均μcとばらつきCOVcを図 9 に示す。UF が増加する(疲労劣化が進行する)にした がって、き裂深さが増加している様子が再現できている。 UF = 1においてはき裂深さ分布の+3σは、おおよそ3 mm であった。これは、UF をき裂深さ3 mm に到達する疲労 寿命の-3σとしていることに対応している。μcとCOVcの UF に対する変化はひずみ範囲にほとんど依存しなかっ た。そして、?ε = 1.2%に対する最小自乗近似として以下 の式を得た。 μ c = 0.305exp ( 0.178UF ) (5) COV c = 6.319exp ( - 0.097 UF ) (6) これらの式を用いることで、UFに対するき裂分布を得る ことができる。 2.3 損傷確率の算出 2.3.1 損傷確率算出の流れ 図 1 で説明したように、本モデルの入力条件としては UF と地震荷重の大きさとなる。(5)式および(6)式より、UF を入力としてき裂深さ分布が求まった。このき裂に対す る、地震力によるき裂進展、およびき裂の存在する機器 (管)に対する破壊荷重を算出する。 対象となる余熱除去系統の配管の諸元は以下のとおり。 (a) 想定される使用条件 ・ 温度:200°C (a) Mean value (b) COV - 51 - 0.50.40.3μ c = 0.305exp ( 0.178UF ) 0.2 Δε = 0.4% Δε = 0.8% Δε = 1.2% 0.1 Δε = 1.6% Δε = 2% 00.0 0.5 1.0 1.5 2.0 UF 7654COV c = 6.319exp ( - 0.097 UF ) 32100.0 0.5 1.0 1.5 2.0 UF Δε = 0.4% Δε = 0.8% Δε = 1.2% Δε = 1.6% Δε = 2% Fig. 9 Change in crack depth distribution parameters. ・ 圧力:5 MPa を想定 (b) 形状 ・ 外径:267.4 mm (10B、主配管) ・ 肉厚:t = 15.1 mm(Sch80)(Rm/t = 8.35) (c) 材料定数(200°C) ・ オーステナイト系ステンレス鋼 ・ 材料規格(SUS304TP ステンレス鋼)[15] ・ ヤング率:183 GPa ・ 設計応力強さSm:129 MPa ・ 設計降伏強さSy:144 MPa ・ 設計引張強さSu:402 MPa ・ 流動応力Sf:(144+402)×0.5 = 273 MPa 2.3.2 地震荷重によるき裂進展 地震荷重に対するき裂進展は、地震力による?Keq を算 出し、日本機械学会維持規格[16]、添付E-2-10に記載され ているオーステナイト系ステンレス鋼の大気中の疲労き 裂進展速度である次式により進展させる。 ( )3.3 12 2.93 10 da K dN ? - = × (7) 計算には?K の代わりに?Keqを用いた。また、形状係数 f としては、深さ無限大の平板の値である 0.896 を適用し た。荷重の大きさはPm + Pbで与え、ひずみ範囲の算出に はKe係数[3]を用いた。 図 10 にき裂進展後のき裂深さ分布を示す。地震荷重 (Pm + Pb)は、設計降伏強さSyで正規化しており、2Syが 設計上の上限荷重となる。1 回の地震により60 回の繰返 し荷重が負荷されると仮定しているが[17][18]、地震荷重 が1.0Syの場合は、繰り返しによるき裂進展は小さく、き 裂深さ分布が地震荷重付与前後でほとんど変化しない。 一方、地震荷重が2.5Syの場合は、き裂の進展が確認でき る。そして、大きいき裂は管厚t = 15.1 mm の75%を超え Fig. 11 Relationship between failure probability and crack depth [2]. 1進展前 0.1進展後:(Pm+Pb)/Sy=1 進展後:(Pm+Pb)/Sy=2 進展後:(Pm+Pb)/Sy=2.5 1.E-02 0.0010.00010.000010 2 4 6 8 10 12 き裂深さ, mm Fig. 10 Crack depth distribution before and after seismic loading. 10.010.00010.0000010.000000010.0000000001UF=0.5 UF=1 UF=2 0 1 2 3 一次応力(膜+曲げ)/Sy - 52 - 0.0000000000010.00000000000001Fig. 12 Failure probability for various amplitudes of seismic loading. た。本モデルではき裂深さが0.75tに到達すると漏洩と判 断した。 2.3.3 き裂深さと損傷確率の関係 き裂の存在する管の損傷確率は維持規格の極限荷重評 価法を適用した。深さa、表面長さ2c の周方向き裂を有 する管の許容曲げ荷重Pb'を次式により算出した[16]。 P b ′ = 2 σ f π ? │ ? 2sin β - a t sin c ? │ ? (8) β = 12 ? │ ? π - Pact - π mσ f ? │ ? (9) 膜応力Pmとしては5 MPa の内圧に相当する値を用いた。 流動応力σfは、平均308.5 MPa(Sf/0.885)[2]、COV = 0.1 の分布を考慮した。算出されたき裂深さと損傷確率の関 係は図11のようになった[2]。 2.3.4 損傷確率 き裂進展後のき裂深さ分布に対して、図11 の関係を積 分することで、UF と地震力に対する損傷確率を算出する ことができる。図12に地震荷重と損傷確率の関係を示す。 地震荷重が大きくなるほど損傷確率が増加している。設 計限界である2Syにおける損傷確率はおおよそ0.01%であ った。一方、損傷確率に対するUFの影響はほとんど見ら れない。図11 に示すように、損傷確率はき裂深さにほと んど影響を受けない。極限荷重は、き裂面におけるき裂で ない断面の面積(リガメントの面積)を用いて算出される。 3.2 1.E+00 地震荷重に対する余震の影響 地震評価においては、余震の影響も無視できない。図13 1.E-02 は、余震による損傷確率の変化を示している。余震には、 1.E-04 本震と同じ規模(繰り返しの一次応力、繰り返し数60回) 0.000001を想定した。つまり、余震 1 回の場合は、繰り返し数が 0.00000001120回になり、き裂進展量が増えることになる。先のUF 0.00000000010.000000000001の影響と同様に、余震によりき裂進展量が増えても破壊 余震0回 余震1回 強度にはほとんど影響しない。一方、負荷が大きくなると 余震2回 余震によるき裂進展量の増加で、漏洩による損傷確率が 1.E-14 0 1 一次応力(膜+曲げ)/S2 3 増加している。つまり、余震は配管の破断ではなく、漏洩 のリスクを高くしている。 y Fig. 13 Failure probability for various amplitudes of 3.3 機器設計における疲労劣化の妥当性 seismic loading (influence of aftershocks). 図12 に示すように、損傷確率はUF にほとんど依存し なかった。UF が2よりも大きくなると、漏洩による損傷 UFの変化に対応するリガメントの面積の変化は、管全体 の断面積に対して限定的であったため、損傷確率はほと んど変化しなかった。UF 確率が増加しているのは、き裂進展による漏洩の影響に よる。 確率の増加が見込まれるが、UF = 2 においては、その影 響はほとんど見られない。とくに、一次応力に対する設計 == 2において、1.6Sy以上で損傷 限界は2Syであるが、実際の想定荷重はこれを大きく下回 っていると想定される。そして荷重が 1.7Sy以下では UF = 2 の損傷確率はUF = 1 とほぼ一致した。このことは、 現状のUF = 1 の設計限界をUF = 2としても、つまり現状 の安全率 20 倍を 10 倍に変更しても、地震荷重に対する 3.考察 損傷確率には影響しないことを意味している。 3.1 疲労寿命に及ぼす環境効果の考慮 本モデルでは環境効果については陽には考慮していな 4.結言 い。用いるき裂進展速度や疲労寿命は大気中の疲労試験 の結果を適用している。実機の疲労劣化評価において、疲 労寿命に対する環境効果は係数 Fenを用いて考慮され[19]、 (大気中のUF)/ Fenが評価に用いるUFとなり、これが 本モデルの入力となることを想定している。Fenは実験値 のベストフィットとなるよう近似されている。もし、環境 効果がFenによって誤差なく考慮されているとすれば、本 モデルにおいて環境効果は、き裂進展の速度をFen倍して いると解釈することができる。その場合、UF とき裂深さ 分布の関係には環境効果は影響を及ぼさないことになる。 したがって、本モデルの検討では環境効果は陽には考慮 していないが、実機の評価においては、環境効果を考慮し た UF を本モデルの入力に用いても、大気中と同様に損 傷確率が算出できる。 ちなみに、進展速度で考慮した標準偏差102.7はPWR環 境中の疲労き裂進展試験のばらつきから決定した[8]。 UFと地震荷重の大きさを入力に機器(配管)の損傷確 率を算出できる静的機器劣化損傷詳細モデルを構築した。 モデルでは、確率論的破壊力学手法を適用したモンテカ ルロ計算により設計疲労線図(UF = 1 の繰返し数)を寿 命のばらつきの-3σと等価であるとして、UF に対するき 裂深さ分布を求めた。また、地震による繰返し荷重による き裂進展も考慮した。そして、き裂深さに対する損傷確率 を掛け合わせることで、UFに対する損傷確率を算出した。 得られた結果は以下のように要約できる。 (1) き裂進展解析によって実験の疲労寿命は再現できた。 そして、寿命のばらつきの-3σが、寿命に対する 20 倍の安全率とほぼ等価とすることができた。 (2) UF に対するき裂深さ分布は対数正規分布で近似で きた。その平均とばらつき(COV)はひずみ範囲に ほとんど依存せず、UF と分布定数の相関式を導く ことができた。 (3) 機器損傷確率は、UF にはほとんど依存せず荷重の - 53 - curve 大きさに対して単調増加した。設計限界である 2Sy for austenitic stainless steels in PWR environment”, における損傷確率はおおよそ0.01%であった。 Proc. 2004 ASME Pressure Vessels and Piping Division (4) 損傷確率はき裂深さにほとんど依存しない。したが Conference, PVP-Vol. 480 (2004), pp.63-70. って、保全活動によって損傷を小さく(き裂を小さ [9] K. Hojo, S. Hayashi, W. Nishi, M. Kamaya, J. Katsuyama, K. く)する努力をしても、損傷確率の改善に対する寄 Masaki, M. Nagai, T. Okamoto, Y. Takada and S. 与は小さい。 Yoshimura, “Benchmark analyses of probabilistic fracture (5) 損傷確率に対する余震の影響は顕著ではなかった。 mechanics for cast stainless steel pipe”, Bulletin of the 余震回数が多くなると漏洩の発生確率が大きくなる。 JSME, submitted. つまり、余震は配管の破断ではなく、漏洩のリスク [10] M. Kamaya, M. Kawakubo, “Mean stress effect on fatigue を高くしている。 strength of stainless steel”, International Journal of Fatigue, (6) 低サイクル疲労による経年劣化は地震発生時の配管 Vol. 74 (2015), pp. 20-29. 漏洩の発生確率を増加させるが、配管の破損確率に [11] Chopra OK, Shack WJ. Effect of LWR coolant 与える影響は小さいことから、レジリエンス評価手 environments on the fatigue life of reactor materials. 法の開発において静的機器の経年劣化を考慮する必 NUREG/CR-6909, ANL-06/08, USA, 2007. 要はないことが明らかとなった。 [12] EN Standards. Unified pressure vessels design. EN13445- 3:2002, BSI; 2002. 参考文献 [13] M. Kamaya, M. Kawakubo, “Loading sequence effect on [1] 出町他, ”原子力プラントにおけるレジリエンス評価 fatigue life of Type 316 stainless steel”, International 法の開発(その1:原子力プラントの事故時安全性評 Journal of Fatigue, Vol.81 (2015), pp.10-20. 価指標としてのレジリエンス指標の提案)”, 保全学, [14] Raju, I. S. and Newman, J. C. Jr., “Stress-intensity factors for Vol. 15, No. 1 (2016), pp.65-70. internal and external surface cracks in cylindrical vessels”, [2] 中村隆夫, 釜谷昌幸, ”原子力プラントにおけるレジ Journal of Pressure Vessel Technology, Vol.104 (1982), リエンス評価法の開発(その2:静的機器の劣化要因 pp.293-298. に対する信頼性評価法の検討)”, 保全学, Vol. 15, No. [15] 日本機械学会, “発電用原子力設備規格 材料規格 1 (2016), pp.71-76. (2012年版)”, JSME S NJ1-2012 (2012). [3] 日本機械学会, “発電用原子力設備規格 設計・建設規 [16] 日本機械学会, “発電用原子力設備規格 維持規格 格(2012年版)”, JSME S NC1-2012 (2012). (2012年版)”, JSME S NA1-2012 (2012). [4] M. Kamaya, M. Kawakubo, “Strain-based modeling of [17] 原子力安全基盤機構, ”原子力発電施設耐震信頼性実 fatigue crack growth ? 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原子力発電プラントにおいて、設計想定を超える事象に対して一時的に喪失した安全機能をアクシデントマネジメントにより回復させることを想定したレジリエンス指標が提案され、検討が進められている[1]。その検討の中で、静的機器の破壊や漏洩の確率(以下、損傷確率)を算出する必要があるが、そこには経年劣化の影響も考慮する必要がある。著者らによる過去の検討[2]では、低サイクル疲労が損傷確率に影響を及ぼす主要な劣化要因として抽出された。低サイクル疲労は、運転年数とともに直積することを前提に設計される。具体的には、設計上許容される負荷繰返し数に対して、実際に発生すると想定される繰返し数の比をUF(Usage Factor)と定義し、プラント運転期間中にUFが1を超えないように設計される[3]。そして、プラント運転開始後も、実績の繰返し数に対するUFが1を超えないように管理されている。しかし、運転年数とともにUF は確実に増加するので、その影響を損傷確率の算出に考慮することが必要となる。 本報では、経年劣化の程度(UFの大きさ)とハザードレベル(地震荷重の大きさ)に応じた条件付損傷確率を算出する静的機器劣化損傷モデルを構築する。そして、安全 機能上重要や役割を果たすPWR プラントの余熱除去設備(余熱除去系統配管)を対象とした計算例を示す。
2.モデルの構築 2.1 モデルの概要
本モデルの入力条件として対象機器の UF とハザード レベル(地震荷重の大きさおよび余震回数)が与えられる。 これらの入力条件から損傷確率を算出する手順を図 1 に模式的に示す。まず、UFを基に疲労によって発生したき 裂深さとその分布を推定する。き裂は、地震荷重により進き裂深さと損傷確率の関係 入力 ・荷重の大きさが入力値 ? 当該機器のUF ・流動応力にばらつきを考慮 ? ハザードレベル ? 地震荷重の大きさ き裂深さ ? 余震回数 vs. 損傷確率 UF き裂深さ 地震によるき裂進展 損傷確率 き裂深さ分布 0UF 1 地震規模+余震回数 UFからき裂深さ分布 地震によるき裂進展後のき裂深さ分布 Fig. 1 Schematic diagram for the reliability assessment model considering degradation of static components. 2.00.06 Δε = 0.8% % 1.50.05Simulation result Reggresion 0:00:001.E+02 1.E+03 1.E+04 1.E+05 1.E+06 0 50 100 150 200 Number of cycles to failure Nf Nf × 103 , cycles Fig. 2 Fatigue life predicted by probability fracture mechanics analysis and fatigue test. 0:57:361899/12/310:43:1212:00:00pCRESTA: ai=0.1 mm +2S 0.02-2S 0.01 Fatigue test 0Fig. 3 Fatigue life distribution obtained by probability fracture mechanics analysis. 展することを想定する。一方、ある地震荷重を負荷したと きの、き裂深さと損傷確率の関係を算出する。そして、地 震後のき裂深さ分布と、それぞれのき裂深さに対する損 傷確率を積分することで、その UF に地震荷重が負荷さ れた時の損傷確率を算出する。個々の数値の具体的な算 出方法を以下で説明する。 2.2 疲労劣化量(UF)とき裂深さの対応 2.2.1 き裂進展による疲労寿命の予測 疲労寿命はき裂の発生と発生したき裂の成長の 2 つの 期間に分けることができる。そして、設計において対象と なる低サイクル疲労では微小なき裂発生までの発生期間 - 48 - は無視できることが示されている[4]。そこで、微小なき 裂の成長予測で、疲労寿命を再現することを試みる。 室温大気中のステンレス鋼から得た、ひずみ範囲?εで のき裂進展速度(da/dN)は次式で得られている[5] ( )2.85 12 eq 3.33 10 da K dN ? - = × (1) eq K f E a ? ?ε π = (2) ここで、a はき裂深さ、f は形状係数[6]、E はヤング率 (325°Cに対応する174 GPa を適用)を示す。初期深さ が、平均0.1 mm、ばらつきCOV = 0.5 の対数正規分布 にしたがうとして、深さが3 mm に到達するまでの繰返 寿命のばらつき 試験片の破断寿命 +実機特性 (ベストフィット予想) 繰返し数 3 mm 繰返し数 Fig. 4 Schematic drawing representing the meaning of safety margin in the design fatigue curve and correlation with crack depth. し数(疲労寿命)の分布を求める。このとき、き裂形状は アスペクト比 0.5 の半楕円形状とし[7]、試験片形状を想 定したφ10 mm の丸棒表面からのき裂成長を模擬する。 き裂成長速度には標準偏差102.7のばらつきを考慮した [8]。確率論的破壊力学コードp-CRESTA[9]を用いて予想 された疲労寿命を図 2 に示す。図には、予想疲労寿命の 平均と、±2σのばらつきの範囲を示す。予測された疲労寿 命は疲労試験による疲労寿命[10]とよく一致しているこ とが確認できる。つまり、疲労寿命は 0.1 mm のき裂深 さが3 mm に到達するまでの繰返し数と等価と見なせる。 図3 に?ε = 0.8%での疲労寿命の分布を示すが、疲労寿命 はおおよそ対数正規分布で近似できることがわかる。 2.2.2 設計疲労曲線における安全率の意味 疲労劣化量 UF は、機器設計において用いられる許容 繰返し数(設計疲労曲線)と、実働繰返し数の比として定 義される。設計疲労曲線には実験結果の回帰線に対して 繰返し数で20倍の安全率が考慮されていることから、UF = 1に到達するまでの繰返し数と、疲労試験で得られる疲 労寿命との間には大きな乖離が生じることになる。一方、 実機の疲労劣化量はUF で測られることから、UFを用い て損傷確率を評価するためには、UF に対するき裂深さを 推定することが必要となる。 - 49 - 20 倍の安全率には、 (1) データのばらつき(2倍) (2) 表面粗さ(4倍) (3) 寸法効果(2.5倍) (4) 荷重履歴(設定なし) が考慮されているとのNUREG/CR-6909[11]の解説があ る(カッコ内は NUREG によって与えられている数値)。 設計疲労曲線はこれらの影響を考慮した下限近傍の寿命 として定義されていると考えることができる(図 4 の模 式図参照)。そこで、本モデルでは、これらの安全率の 4 つの要因を以下のように、考慮することで、設計疲労線図 の再現を試みた。 (1) データのばらつきは、初期深さとき裂成長速度のば らつきと等価 (2) 表面粗さの影響は初期深さに反映させる (3) 寸法効果は考慮しない(潜伏期間を零とする) (4) 荷重履歴効果(有効ひずみ範囲の変化に反映させる) (2)に対する初期深さは、EN疲労設計規格[12]で機械加 工粗さが0.2 mm とされていることから、これに余裕を見 て平均値を0.3 mm、COVを0.5 に設定した。寸法効果に よる寿命低下は、危険体積の増加に対応している。先の計 算では、潜伏期間を考慮しない場合(初期深さ0.1 mm か らの進展を模擬した場合)でも、3 mm に到達するまでの 繰返し数は、試験の疲労寿命とよく一致した。したがって、 低サイクル疲労においては、危険体積が変化してもき裂 の発生確率は同一、つまり寸法効果を考慮する必要がな いと考えられる。荷重履歴効果は、き裂の開閉口によって もたらされ、疲労寿命を低下させる方向に作用すること が示されている[13]。つまり、荷重履歴によって、疲労き 裂の駆動力となる有効ひずみ範囲?εeffが増加する。一定負 荷?εで試験した場合の?εeff は次式で近似できることが示 されている[13] eff 100 200 E?ε ?ε ?ε + = - (3) 荷重履歴効果によって、き裂の開口が促進されると、?εeff が?εに近くなる。つまり、履歴効果によって、有効ひずみ 範囲は一定負荷時の(3)式と?εの間を変化することになる。 そして、有効ひずみ範囲の増加によって、疲労寿命はマイ ナー則による予測よりも短くなる。この影響を考慮する ために、?Keq の算出に用いる?εとして、次式の?εhis を用 いた。 his uniform 100 200 R E?ε ?ε ?ε + = + (4) -3σ (UF = 1に相当) UF = 0.5 UF = 1 Fig. 7 Relationship between the crack depth and its distribution and the number of cycles for fatigue life. 0:00:00pCRESTA: 2.0ai=0.1 mm (test) pCRESTA: ai=0.3 mm (actual) -3S Fatigue test DFC % 1.5112:00:0001.E+02 1.E+03 1.E+04 1.E+05 1.E+06 Number of cycles to failure Nf Fig. 5 Fatigue life prediction for actual components. 3025201510500.0 0.5 1.0 1.5 2.0 Strain range Δε, % Fig. 6 Change in safety margin with strain range obtained by fatigue life prediction. - 50 - 1:26:240.5UF 0.05 Simulation result y tilibaborP0.04 0.03 Reggresion 0.020.010 1 2 3 Crack depth, mm Fig.8 Crack depth distribution for UF = 0.5, ?ε = 1.2%. ここで、Runiformは一様乱数により与えられる定数を示す。 以上の想定のもと、p-CRASTA によりモンテカルロ計 算を実施した。進展速度、およびそのばらつきは、(1)式、 および標準偏差102.7を適用した。図 5 に得られた疲労寿 命の平均と-3σの線を示す。予測された疲労寿命の-3σが 設計疲労線図とよく対応していることがわかる。 平均値の寿命を-3σの寿命で除したもの(安全率に対応) とひずみ範囲の関係を図 6 に示す。正規化した疲労寿命 は 18.2 から 26.4 まで変化した。?εが 0.4%~2.0%の場合 の正規化寿命の単純平均は20.1 となり、設計疲労線図の 20 倍の安全率にほぼ一致した。ちなみに、この正規化疲 労寿命の平均は、初期き裂の深さ分布COV、初期き裂深 さの平均値μmなどに依存し、20倍の安全率を再現する解 析条件は複数存在する。 2.2.3 UFとき裂深さの関係 初期き裂深さ分布を与え、ばらつきを考慮した進展速 度でき裂を進展させ、深さ 3 mm に到達するまでの寿命 のばらつきを算出した。そして、ばらつきの-3σを設計疲 労曲線(UF = 1)が、設計疲労曲線に対応する寿命として 再現できた。このモデルを用いることで、UF とき裂深さ の分布を図 7 に模式的に示すように取得する。つまり、 モンテカルロ計算で得られるき裂深さの分布を繰返し数 毎に取得して、統計的に近似することで、UF とき裂深さ 分布の関係を算出する。 設計疲労曲線では、丸棒試験片を用いて得られた疲労 実機を想定した場合の寿命 (ベストフィット予想) 繰返し数 3 mm繰返し数 寿命を基本に、実機における影響因子が考慮されている。 したがって、UF = 1 でのき裂深さは3 mm に相当すると 考えられる。実際の評価においては、UF = 1 相当の荷重 と繰返し数が負荷されても、実機の形状によって駆動力 ?Keqが変化し、UF = 1 到達時のき裂深さ(の平均)が 3 mm になるとは限らない。例えば、形状複雑部や大型構造 物などでは、駆動力?Keq に用いる形状係数 f が変化し、 UF = 1 相当の負荷と繰返し数の組み合わせでも、合計の 進展量が同一でなくなる。ここでは、モデルに一般性を持 たせるため、き裂が深さ無限大の平板表面に存在すると 仮定する。つまり、(2)式における形状係数fを、アスペク ト比0.5 の表面き裂に相当するf = 0.896 [14]とした。その 他の計算は、先の計算と同一とした。図8に?ε = 1.2%、 UF = 0.5 相当の繰返し数のき裂深さ分布を示す。ここで、 UF = 1 は図5に示した-3σに相当する曲線で与えた。誤差 はあるものの、き裂深さ分布は対数正規分布で近似でき ている。 UF 毎のき裂深さの分布の平均μcとばらつきCOVcを図 9 に示す。UF が増加する(疲労劣化が進行する)にした がって、き裂深さが増加している様子が再現できている。 UF = 1においてはき裂深さ分布の+3σは、おおよそ3 mm であった。これは、UF をき裂深さ3 mm に到達する疲労 寿命の-3σとしていることに対応している。μcとCOVcの UF に対する変化はひずみ範囲にほとんど依存しなかっ た。そして、?ε = 1.2%に対する最小自乗近似として以下 の式を得た。 μ c = 0.305exp ( 0.178UF ) (5) COV c = 6.319exp ( - 0.097 UF ) (6) これらの式を用いることで、UFに対するき裂分布を得る ことができる。 2.3 損傷確率の算出 2.3.1 損傷確率算出の流れ 図 1 で説明したように、本モデルの入力条件としては UF と地震荷重の大きさとなる。(5)式および(6)式より、UF を入力としてき裂深さ分布が求まった。このき裂に対す る、地震力によるき裂進展、およびき裂の存在する機器 (管)に対する破壊荷重を算出する。 対象となる余熱除去系統の配管の諸元は以下のとおり。 (a) 想定される使用条件 ・ 温度:200°C (a) Mean value (b) COV - 51 - 0.50.40.3μ c = 0.305exp ( 0.178UF ) 0.2 Δε = 0.4% Δε = 0.8% Δε = 1.2% 0.1 Δε = 1.6% Δε = 2% 00.0 0.5 1.0 1.5 2.0 UF 7654COV c = 6.319exp ( - 0.097 UF ) 32100.0 0.5 1.0 1.5 2.0 UF Δε = 0.4% Δε = 0.8% Δε = 1.2% Δε = 1.6% Δε = 2% Fig. 9 Change in crack depth distribution parameters. ・ 圧力:5 MPa を想定 (b) 形状 ・ 外径:267.4 mm (10B、主配管) ・ 肉厚:t = 15.1 mm(Sch80)(Rm/t = 8.35) (c) 材料定数(200°C) ・ オーステナイト系ステンレス鋼 ・ 材料規格(SUS304TP ステンレス鋼)[15] ・ ヤング率:183 GPa ・ 設計応力強さSm:129 MPa ・ 設計降伏強さSy:144 MPa ・ 設計引張強さSu:402 MPa ・ 流動応力Sf:(144+402)×0.5 = 273 MPa 2.3.2 地震荷重によるき裂進展 地震荷重に対するき裂進展は、地震力による?Keq を算 出し、日本機械学会維持規格[16]、添付E-2-10に記載され ているオーステナイト系ステンレス鋼の大気中の疲労き 裂進展速度である次式により進展させる。 ( )3.3 12 2.93 10 da K dN ? - = × (7) 計算には?K の代わりに?Keqを用いた。また、形状係数 f としては、深さ無限大の平板の値である 0.896 を適用し た。荷重の大きさはPm + Pbで与え、ひずみ範囲の算出に はKe係数[3]を用いた。 図 10 にき裂進展後のき裂深さ分布を示す。地震荷重 (Pm + Pb)は、設計降伏強さSyで正規化しており、2Syが 設計上の上限荷重となる。1 回の地震により60 回の繰返 し荷重が負荷されると仮定しているが[17][18]、地震荷重 が1.0Syの場合は、繰り返しによるき裂進展は小さく、き 裂深さ分布が地震荷重付与前後でほとんど変化しない。 一方、地震荷重が2.5Syの場合は、き裂の進展が確認でき る。そして、大きいき裂は管厚t = 15.1 mm の75%を超え Fig. 11 Relationship between failure probability and crack depth [2]. 1進展前 0.1進展後:(Pm+Pb)/Sy=1 進展後:(Pm+Pb)/Sy=2 進展後:(Pm+Pb)/Sy=2.5 1.E-02 0.0010.00010.000010 2 4 6 8 10 12 き裂深さ, mm Fig. 10 Crack depth distribution before and after seismic loading. 10.010.00010.0000010.000000010.0000000001UF=0.5 UF=1 UF=2 0 1 2 3 一次応力(膜+曲げ)/Sy - 52 - 0.0000000000010.00000000000001Fig. 12 Failure probability for various amplitudes of seismic loading. た。本モデルではき裂深さが0.75tに到達すると漏洩と判 断した。 2.3.3 き裂深さと損傷確率の関係 き裂の存在する管の損傷確率は維持規格の極限荷重評 価法を適用した。深さa、表面長さ2c の周方向き裂を有 する管の許容曲げ荷重Pb'を次式により算出した[16]。 P b ′ = 2 σ f π ? │ ? 2sin β - a t sin c ? │ ? (8) β = 12 ? │ ? π - Pact - π mσ f ? │ ? (9) 膜応力Pmとしては5 MPa の内圧に相当する値を用いた。 流動応力σfは、平均308.5 MPa(Sf/0.885)[2]、COV = 0.1 の分布を考慮した。算出されたき裂深さと損傷確率の関 係は図11のようになった[2]。 2.3.4 損傷確率 き裂進展後のき裂深さ分布に対して、図11 の関係を積 分することで、UF と地震力に対する損傷確率を算出する ことができる。図12に地震荷重と損傷確率の関係を示す。 地震荷重が大きくなるほど損傷確率が増加している。設 計限界である2Syにおける損傷確率はおおよそ0.01%であ った。一方、損傷確率に対するUFの影響はほとんど見ら れない。図11 に示すように、損傷確率はき裂深さにほと んど影響を受けない。極限荷重は、き裂面におけるき裂で ない断面の面積(リガメントの面積)を用いて算出される。 3.2 1.E+00 地震荷重に対する余震の影響 地震評価においては、余震の影響も無視できない。図13 1.E-02 は、余震による損傷確率の変化を示している。余震には、 1.E-04 本震と同じ規模(繰り返しの一次応力、繰り返し数60回) 0.000001を想定した。つまり、余震 1 回の場合は、繰り返し数が 0.00000001120回になり、き裂進展量が増えることになる。先のUF 0.00000000010.000000000001の影響と同様に、余震によりき裂進展量が増えても破壊 余震0回 余震1回 強度にはほとんど影響しない。一方、負荷が大きくなると 余震2回 余震によるき裂進展量の増加で、漏洩による損傷確率が 1.E-14 0 1 一次応力(膜+曲げ)/S2 3 増加している。つまり、余震は配管の破断ではなく、漏洩 のリスクを高くしている。 y Fig. 13 Failure probability for various amplitudes of 3.3 機器設計における疲労劣化の妥当性 seismic loading (influence of aftershocks). 図12 に示すように、損傷確率はUF にほとんど依存し なかった。UF が2よりも大きくなると、漏洩による損傷 UFの変化に対応するリガメントの面積の変化は、管全体 の断面積に対して限定的であったため、損傷確率はほと んど変化しなかった。UF 確率が増加しているのは、き裂進展による漏洩の影響に よる。 確率の増加が見込まれるが、UF = 2 においては、その影 響はほとんど見られない。とくに、一次応力に対する設計 == 2において、1.6Sy以上で損傷 限界は2Syであるが、実際の想定荷重はこれを大きく下回 っていると想定される。そして荷重が 1.7Sy以下では UF = 2 の損傷確率はUF = 1 とほぼ一致した。このことは、 現状のUF = 1 の設計限界をUF = 2としても、つまり現状 の安全率 20 倍を 10 倍に変更しても、地震荷重に対する 3.考察 損傷確率には影響しないことを意味している。 3.1 疲労寿命に及ぼす環境効果の考慮 本モデルでは環境効果については陽には考慮していな 4.結言 い。用いるき裂進展速度や疲労寿命は大気中の疲労試験 の結果を適用している。実機の疲労劣化評価において、疲 労寿命に対する環境効果は係数 Fenを用いて考慮され[19]、 (大気中のUF)/ Fenが評価に用いるUFとなり、これが 本モデルの入力となることを想定している。Fenは実験値 のベストフィットとなるよう近似されている。もし、環境 効果がFenによって誤差なく考慮されているとすれば、本 モデルにおいて環境効果は、き裂進展の速度をFen倍して いると解釈することができる。その場合、UF とき裂深さ 分布の関係には環境効果は影響を及ぼさないことになる。 したがって、本モデルの検討では環境効果は陽には考慮 していないが、実機の評価においては、環境効果を考慮し た UF を本モデルの入力に用いても、大気中と同様に損 傷確率が算出できる。 ちなみに、進展速度で考慮した標準偏差102.7はPWR環 境中の疲労き裂進展試験のばらつきから決定した[8]。 UFと地震荷重の大きさを入力に機器(配管)の損傷確 率を算出できる静的機器劣化損傷詳細モデルを構築した。 モデルでは、確率論的破壊力学手法を適用したモンテカ ルロ計算により設計疲労線図(UF = 1 の繰返し数)を寿 命のばらつきの-3σと等価であるとして、UF に対するき 裂深さ分布を求めた。また、地震による繰返し荷重による き裂進展も考慮した。そして、き裂深さに対する損傷確率 を掛け合わせることで、UFに対する損傷確率を算出した。 得られた結果は以下のように要約できる。 (1) き裂進展解析によって実験の疲労寿命は再現できた。 そして、寿命のばらつきの-3σが、寿命に対する 20 倍の安全率とほぼ等価とすることができた。 (2) UF に対するき裂深さ分布は対数正規分布で近似で きた。その平均とばらつき(COV)はひずみ範囲に ほとんど依存せず、UF と分布定数の相関式を導く ことができた。 (3) 機器損傷確率は、UF にはほとんど依存せず荷重の - 53 - curve 大きさに対して単調増加した。設計限界である 2Sy for austenitic stainless steels in PWR environment”, における損傷確率はおおよそ0.01%であった。 Proc. 2004 ASME Pressure Vessels and Piping Division (4) 損傷確率はき裂深さにほとんど依存しない。したが Conference, PVP-Vol. 480 (2004), pp.63-70. って、保全活動によって損傷を小さく(き裂を小さ [9] K. Hojo, S. Hayashi, W. Nishi, M. Kamaya, J. Katsuyama, K. く)する努力をしても、損傷確率の改善に対する寄 Masaki, M. Nagai, T. Okamoto, Y. Takada and S. 与は小さい。 Yoshimura, “Benchmark analyses of probabilistic fracture (5) 損傷確率に対する余震の影響は顕著ではなかった。 mechanics for cast stainless steel pipe”, Bulletin of the 余震回数が多くなると漏洩の発生確率が大きくなる。 JSME, submitted. つまり、余震は配管の破断ではなく、漏洩のリスク [10] M. Kamaya, M. Kawakubo, “Mean stress effect on fatigue を高くしている。 strength of stainless steel”, International Journal of Fatigue, (6) 低サイクル疲労による経年劣化は地震発生時の配管 Vol. 74 (2015), pp. 20-29. 漏洩の発生確率を増加させるが、配管の破損確率に [11] Chopra OK, Shack WJ. Effect of LWR coolant 与える影響は小さいことから、レジリエンス評価手 environments on the fatigue life of reactor materials. 法の開発において静的機器の経年劣化を考慮する必 NUREG/CR-6909, ANL-06/08, USA, 2007. 要はないことが明らかとなった。 [12] EN Standards. Unified pressure vessels design. EN13445- 3:2002, BSI; 2002. 参考文献 [13] M. Kamaya, M. 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