福島廃炉に向けた燃料取出しのための技術開発
公開日:
カテゴリ: 第13回
1.はじめに
福島第一原子力発電所の廃炉作業は,震災後の建屋, 機器の損傷状況や雰囲気線量等の現場情報の収集結果を その後の作業計画等へ反映しながら進められる。 また,災害現場においては,高い放射線環境となる等, 情報収集や建屋内での各種作業に対して遠隔操作型ロボットの適用を求められる状況にある。 このような環境の中,日立グループでは,廃炉作業を 進めるための大きな作業ステップとなる使用済燃料プールに保管中の使用済燃料取り出し,原子炉圧力容器から格納容器内に一部が溶出したと推定される燃料デブリの取り出しに向けた技術開発を進めている。[1][2] 本稿では,使用済燃料プールからの燃料取出し,原子炉あるいは格納容器内の燃料デブリ取出しに向けた日立グループの取り組みについて紹介する。
2.使用済燃料プールからの燃料取出し 使用済燃料プールからの使用済燃料取出しは,福島第 一原子力発電所4号機で実施され,2014 年12月に完了し ている。現在,1~3号機でも取り出しが計画されてお り,各号機の燃料状況や現場環境に合わせた作業計画, 技術開発を行っている。 (1)4 号機での取り組み 4 号機では,2013 年 11 月~2014 年 12 月の約 1 年間 で使用済燃料プールに保管されていた 1,533 体の燃料の 取出しが行われた。使用済燃料プール内の燃料取り出し に先立ち,既存の設備,床面や水中に堆積したコンクリ ート片等のガレキ撤去を行う必要があった。 このため,遠隔装置を用いた燃料プール内のガレキの 落下状況や燃料状況を目的にした水中調査の実施,プー ル内ガレキ撤去のための遠隔ツールの開発を行い,燃料 取り出しに向けた環境整備を行った。また,天井クレー ン,燃料取扱機等の燃料取出し・移送に使用する設備の 製作・納入を行った。 (2)1 号機での取り組み 1 号機の使用済燃料プールからの燃料取出しを推進す るためには,4号機での取組みと同様に最上階の状況を調 査・把握する必要がある。 しかし,1号機では,爆発損傷により原子炉建屋の最上 階が屋根・天井の鉄骨,コンクリート片等が堆積する環 境であり,かつ,震災後に設置された建屋カバーにより 覆われていたため,内部の状況把握が困難な状態が続い ていた。 このような環境において,最上階のガレキ撤去・使用 済燃料プールからの燃料取り出しに向けた作業準備とし 連絡先: 木下 博文 て,2012年10月に原子炉建屋内の大物搬入口から気球を 〒101-8601 東京都千代田区外神田1-18-13 日立GE ニュー クリア・エナジー(株) 福島プロジェクト本部 福島技術部 E-mail:hirofumi.kinoshita.rg@hitachi.com - 474 - 用いた最上階の状況や雰囲気線量の遠隔調査,2015 年 9 月以降の既存カバーの解体にあわせて実施した長尺ポー ルによる遠隔調査にて,建屋最上階の環境,構造物の状 況把握を進めている。 Fig.1 Outline of long pole-type remote investigation tool 今後は,これまでの調査結果と,必要に応じた追加調 査による情報を元に,ガレキ撤去に必要となる遠隔技術 の開発,および,使用済燃料プールの燃料取り出しに必 要となる工法・遠隔技術の開発を行い,取出し作業への 準備を進める。 3.燃料デブリ取出しへの取り組み 福島第一原子力発電所では,格納容器内地下階まで溶 融流出したと推定される燃料デブリを調査し,燃料デブ リの取出し工法の検討を進めることが求められている。 こうした状況に対して,日立GEニュークリア・エナジ ー(株)は,原子炉格納容器内部の調査ロボットの開発 を行い,現地建屋内での調査を進めると共に,燃料デブ リを取出す工法についての検討と工法を実現するための 要素試験を実施している。 なお,これらの調査や工法の検討は,国際廃炉研究開 発機構(IRID)の組合員として,資源エネルギー庁 の補助事業の交付を受けて進めている。 (1)原子炉格納容器内調査 原子炉格納容器内部の調査用ロボット投入には,開口 となる直径100 mmの管内走行と床面上の安定走行を両立 する課題があった。この課題に対し,移動機構を変化さ せ,狭あい空間通過可能なI字型姿勢と,床面を安定走 行可能なコの字型姿勢への変化を可能とした形状変化型 ロボットの開発を行った。この形状変化型ロボットによ り 1 号機の原子炉格納容器内部 1 階グレーチング上の調 査を行い,地下階における燃料デブリの分布調査を進め るための有益な情報を得た(B1調査)[3]。また,1 号機の 地下階の調査に向けた準備を進めている(B2調査)。 燃料デブリを取出す工法について,実現性が高いと考 えられる代表の3工法(冠水・上アクセス工法,気中・ 上アクセス工法,気中・横アクセス工法)を対象として 燃料デブリ・炉内構造物取り出し工法・システム・装置 の検討を行うと共に,工法の実現性を評価するために必 要なデータ・情報を取得するため,要素試験を実施して いる。 3工法の実現性を見極めるために必要な要素試験とし ては,燃料デブリ・炉内構造物の取り出しにおける汚染 拡大防止技術に関する要素試験,燃料デブリへのアクセ ス技術に関する要素試験及び燃料デブリ取出しにおける 遠隔操作技術に関する要素試験を実施している。 Fig.3 Conceptual plan of fuel debris removal 参考文献 [1] 木下博文,米谷 豊 他,“福島復興に向けた新技術の 開発”,日立評論,Vol.95,2013,12,pp.41-46. [2] 木下博文 他,“原子力発電の安全性向上技術”,日立 評論,Vol.97,2015,12,pp 43-51 [3] 東京電力ホールディングス(株) HP動画解説“前人 未到の挑戦 ロボットが伝える原子炉格納容器内部” http://www.tepco.co.jp/tepconews/library/archive-j.html?vid eo_uuid=q5o348ib&catid=69619 X-100B 貫通部 - 475 - Fig.2 Access route of PCV interior investigation (2)燃料デブリ取出し工法の検討“ “福島廃炉に向けた燃料取出しのための技術開発“ “木下 博文,Hirofumi KINOSHITA,吉田 拓真,Takuma YOSHIDA,清水 禎人,Sadato SHIMIZU,米谷 豊,Yutaka KOMETANI
福島第一原子力発電所の廃炉作業は,震災後の建屋, 機器の損傷状況や雰囲気線量等の現場情報の収集結果を その後の作業計画等へ反映しながら進められる。 また,災害現場においては,高い放射線環境となる等, 情報収集や建屋内での各種作業に対して遠隔操作型ロボットの適用を求められる状況にある。 このような環境の中,日立グループでは,廃炉作業を 進めるための大きな作業ステップとなる使用済燃料プールに保管中の使用済燃料取り出し,原子炉圧力容器から格納容器内に一部が溶出したと推定される燃料デブリの取り出しに向けた技術開発を進めている。[1][2] 本稿では,使用済燃料プールからの燃料取出し,原子炉あるいは格納容器内の燃料デブリ取出しに向けた日立グループの取り組みについて紹介する。
2.使用済燃料プールからの燃料取出し 使用済燃料プールからの使用済燃料取出しは,福島第 一原子力発電所4号機で実施され,2014 年12月に完了し ている。現在,1~3号機でも取り出しが計画されてお り,各号機の燃料状況や現場環境に合わせた作業計画, 技術開発を行っている。 (1)4 号機での取り組み 4 号機では,2013 年 11 月~2014 年 12 月の約 1 年間 で使用済燃料プールに保管されていた 1,533 体の燃料の 取出しが行われた。使用済燃料プール内の燃料取り出し に先立ち,既存の設備,床面や水中に堆積したコンクリ ート片等のガレキ撤去を行う必要があった。 このため,遠隔装置を用いた燃料プール内のガレキの 落下状況や燃料状況を目的にした水中調査の実施,プー ル内ガレキ撤去のための遠隔ツールの開発を行い,燃料 取り出しに向けた環境整備を行った。また,天井クレー ン,燃料取扱機等の燃料取出し・移送に使用する設備の 製作・納入を行った。 (2)1 号機での取り組み 1 号機の使用済燃料プールからの燃料取出しを推進す るためには,4号機での取組みと同様に最上階の状況を調 査・把握する必要がある。 しかし,1号機では,爆発損傷により原子炉建屋の最上 階が屋根・天井の鉄骨,コンクリート片等が堆積する環 境であり,かつ,震災後に設置された建屋カバーにより 覆われていたため,内部の状況把握が困難な状態が続い ていた。 このような環境において,最上階のガレキ撤去・使用 済燃料プールからの燃料取り出しに向けた作業準備とし 連絡先: 木下 博文 て,2012年10月に原子炉建屋内の大物搬入口から気球を 〒101-8601 東京都千代田区外神田1-18-13 日立GE ニュー クリア・エナジー(株) 福島プロジェクト本部 福島技術部 E-mail:hirofumi.kinoshita.rg@hitachi.com - 474 - 用いた最上階の状況や雰囲気線量の遠隔調査,2015 年 9 月以降の既存カバーの解体にあわせて実施した長尺ポー ルによる遠隔調査にて,建屋最上階の環境,構造物の状 況把握を進めている。 Fig.1 Outline of long pole-type remote investigation tool 今後は,これまでの調査結果と,必要に応じた追加調 査による情報を元に,ガレキ撤去に必要となる遠隔技術 の開発,および,使用済燃料プールの燃料取り出しに必 要となる工法・遠隔技術の開発を行い,取出し作業への 準備を進める。 3.燃料デブリ取出しへの取り組み 福島第一原子力発電所では,格納容器内地下階まで溶 融流出したと推定される燃料デブリを調査し,燃料デブ リの取出し工法の検討を進めることが求められている。 こうした状況に対して,日立GEニュークリア・エナジ ー(株)は,原子炉格納容器内部の調査ロボットの開発 を行い,現地建屋内での調査を進めると共に,燃料デブ リを取出す工法についての検討と工法を実現するための 要素試験を実施している。 なお,これらの調査や工法の検討は,国際廃炉研究開 発機構(IRID)の組合員として,資源エネルギー庁 の補助事業の交付を受けて進めている。 (1)原子炉格納容器内調査 原子炉格納容器内部の調査用ロボット投入には,開口 となる直径100 mmの管内走行と床面上の安定走行を両立 する課題があった。この課題に対し,移動機構を変化さ せ,狭あい空間通過可能なI字型姿勢と,床面を安定走 行可能なコの字型姿勢への変化を可能とした形状変化型 ロボットの開発を行った。この形状変化型ロボットによ り 1 号機の原子炉格納容器内部 1 階グレーチング上の調 査を行い,地下階における燃料デブリの分布調査を進め るための有益な情報を得た(B1調査)[3]。また,1 号機の 地下階の調査に向けた準備を進めている(B2調査)。 燃料デブリを取出す工法について,実現性が高いと考 えられる代表の3工法(冠水・上アクセス工法,気中・ 上アクセス工法,気中・横アクセス工法)を対象として 燃料デブリ・炉内構造物取り出し工法・システム・装置 の検討を行うと共に,工法の実現性を評価するために必 要なデータ・情報を取得するため,要素試験を実施して いる。 3工法の実現性を見極めるために必要な要素試験とし ては,燃料デブリ・炉内構造物の取り出しにおける汚染 拡大防止技術に関する要素試験,燃料デブリへのアクセ ス技術に関する要素試験及び燃料デブリ取出しにおける 遠隔操作技術に関する要素試験を実施している。 Fig.3 Conceptual plan of fuel debris removal 参考文献 [1] 木下博文,米谷 豊 他,“福島復興に向けた新技術の 開発”,日立評論,Vol.95,2013,12,pp.41-46. [2] 木下博文 他,“原子力発電の安全性向上技術”,日立 評論,Vol.97,2015,12,pp 43-51 [3] 東京電力ホールディングス(株) HP動画解説“前人 未到の挑戦 ロボットが伝える原子炉格納容器内部” http://www.tepco.co.jp/tepconews/library/archive-j.html?vid eo_uuid=q5o348ib&catid=69619 X-100B 貫通部 - 475 - Fig.2 Access route of PCV interior investigation (2)燃料デブリ取出し工法の検討“ “福島廃炉に向けた燃料取出しのための技術開発“ “木下 博文,Hirofumi KINOSHITA,吉田 拓真,Takuma YOSHIDA,清水 禎人,Sadato SHIMIZU,米谷 豊,Yutaka KOMETANI