多核種高除染性空気浄化システム開発による作業被曝低減化研究 (1)全体計画
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カテゴリ: 第13回
1.緒論
福島第一原子力発電所の廃炉においては、原子炉建屋や格納容器内の汚染は深刻で、廃炉作業を実施するためには、作業者の被曝低減と敷地外の放射性物質の漏洩防止を徹底しなくてはならない。原子炉建屋は排風機で負圧に維持し、排気中に含まれる放射性物質を除去する高除染性空気浄化システムの設置が必須で、しかも長期運転する必要がある。 2.解決すべき課題 各地の原子力発電所に設置される過酷事故対策用のフ ィルターベントの運転は10日足らずであるが、廃炉においては、その作業が終了するまで長期運転する必要がある。図1に多核種高除染性空気浄化システムの概念を示す。福島第一原子力発電所の取り出し工法は現在、検討中で、機械式切断や破砕する工法と、プラズマやレーザ加工による高温融解して切断する手法がある。更に格納容器内壁面には多量の放射性物質が付着していると考えられ、これを除染するために用いるドライアイス・ブラスト除染などでは、多核種の粉塵やエアロゾルの発生が不可避である。本研究は、いずれの工法に対しても必要となる、作業員の被曝防護のための空気浄化システムである。炉内や格納容器内の状況把握から燃料デブリ取出しに至るまでの全工程で被曝低減に貢献する技術である。
Fig.1 Concept of high decontamination air cleaning system. 図2に示す米国Zion発電所の廃炉作業では、プラズマ カッターなどの熱が入る作業は格納容器内の線量が上が り断念し、ワイヤカッターに切り替えたとのことであり、 福島第一原子力発電所の廃炉作業では、高除染性空気浄 化システムのニーズが高い。
Fig.2 Decommissioning of Zion NPP FP Plasma プラズマカッター Cutter Laser レーザー切断 Cutter release protection Wire Drilling Etc. ドライアイス除染 ワイヤーカッター による粉塵発生 for Cutter machine Debris Aerosol Filters 漏えい FPガス 熱膨張TIPチューブ 継手 FPガスと蒸気噴 圧力抑制室 サンド クッション部 原子炉格納容器 原子炉 圧力容器 主蒸気管 熱膨張 と変形 FP漏洩防止 空気浄化システム 汚染フィル ター処分 3.本研究の目的 本研究では、提案代表者らが開発した高除染性フィル ターベントの技術を基に、多核種除染性能の向上による フィルターエレメントの減容、遮蔽性能の向上、汚染さ れたフィルターエレメントの廃棄物処分評価技術の開発 を実施することを研究目的とする。 具体的には、福島第一原子力発電所の廃炉においては、 原子炉建屋や格納容器内の汚染は深刻で、廃炉作業を実 施するためには、作業者の被曝低減と敷地外の放射性物 質の漏洩防止を徹底しなくてはならない。これが開発す べき課題である。格納容器の開閉やデブリの切断加工に 伴い発生する放射性物質を吸引し、排気中に含まれる放 射性物質を除去する高除染性空気浄化システムの開発を 研究目標とする。 4.本研究の実施内容および成果 本研究では、多核種高除染性空気浄化システムの開発 に必要な基礎研究を実施している。 特に、多核種の濾過・吸着技術の高性能化を目的に、湿 式フィルターや乾式のメタルファイバーフィルター、銀 ゼオライトなどの各種フィルターのフィルター分離メカ ニズムの解明や多様な組み合わせによるフィルターの総 合性能の向上を目指している。 また、濾過・吸着したフィルターエレメントやゼオライ トにトラップされた多核種の放射性物質の放射能評価の 基礎研究として、多核種解析評価プログラムを整備して いる。 以下に3カ年の全体計画と平成27年度の研究成果を 述べる。 (1) 高除染線性フィルターによる被曝低減技術 1 被曝低減技術の基本コンセプトの立案 北海道大学にて開発した「ゼオライトを用いたヨウ素・ セシウム高除染性フィルターベントシステム」の湿式フ ィルターと、メタルファイバーフィルター、高除染線性 銀ゼオライトAgXなどを組み合わせた格納容器内の空気 浄化システムについて検討する。特に、最も除染係数(DF: Decontamination Factor)を上げることが困難とされる、ヒ Fig.3 Wet-type filter Fig.4 Dry-type filter ューム(プラズマカッターやレーザ切断装置などで発生 するナノサイズエアロゾル)に対する対策として、スク ラビングノズルを改良した図2の湿式フィルターや蒸気 注入により表面凝縮式させるフィルターなどの吸着特性 等についての基礎実験を実施し、図4の乾式フィルター については、メタルファイバーの線径と充填率がキーパ ラメータであることが明らかとなり、除染係数DFの向上 に向けた研究の糸口を見いだした。 2 実験装置の仕様検討と実験装置の準備 1にて実施したコンセプト検討に基づき実験装置の仕 様の検討と実験装置の設計製作を実施した(図5)。湿式 フィルターについてはスクラビングノズルの形状パラメ ータを、また メ タルファイバーフ ィルターについて はファイバー径や ファイバーの充填 率を変えることが 可能な装置とし、 フィルター機能の 多様な組み合わせ による総合試験と 基本的な機能が備 わっていることを 予備実験および据 え付けられた実験 装置の調整運転に より確認した。 このような構成の 多核種高除染性空 気浄化システムは 世界初である。 Fig.5 Test apparatus of filter system (2) 銀ゼオライトの吸着剤設計法の構築と希ガス分離メ カニズム評価に関する基盤研究 1 異なる結晶サイズを有するゼオライト結晶の合成 ゼオライト細孔内へ迅速に拡散物質を吸着させる上で、 結晶サイズをナノレベルで合成する必要があるため、北 海道大学にて開発した「逆ミセルを利用したゼオライト 合成法」を応用して、銀ゼオライトの担体となるゼオラ イト合成を実施した。図6は各種のゼオライトの分子 Fig. 6 Various types of Zeolite for sub-Nano sizes - 477 - サイズである。O-15 とシクロヘキサン混合溶液に対す る水溶液量を増加させることで、100nm、300nm と異 なる結晶サイズのMFI型ゼオライトを合成できた。さ らに合成方法2を用いることで、マイクロオーダーの 結晶サイズを有する MFI 型ゼオライトが合成された。 以上から、合成方法および合成溶液組成を変えること で異なる結晶サイズを有する MFI 型ゼオライトを合 成できた。A型を主な対象としたが、MFI型等他のゼオ ライトについてもナノサイズのゼオライト結晶合成の条 件を明らかにした(図7,図8)。 Fig. 7 Result of X-ray analysis for MFI type Zeolite. Fig. 8 Obtained FE-SEM image for MFI-Type Zeolite 2 FAU 型ゼオライト(X型、Y型) FAU 型ゼオライトの合成は、コロイダルシリカ(Si源)、 アルミン酸ナトリウム(Al源)、NaOH およびNaBrを混 合した水溶液を調整し、388K、24時間の水熱条件で合成 した。得られた白色粉末は蒸留水で洗浄、乾燥した後、 空気中823K で焼成した。以上により得られた粉末の結晶 構造は粉末X 線回折、細孔特性については窒素吸着、形 態については電子顕微鏡により確認した。 3 銀ゼオライトの細孔内の炭化水素分子の拡散係数の 測定 既有の拡散係数測定装置を用いて、定容法により希ガス、 参照MFI型ゼオライト 2θ [degree] 試料3 試料2 試料1 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 100 nm 100 nm 1 μm - 478 - C1 から C3 炭化水素およびヨウ化メチルの拡散係数を実 測した。ゼオライトとして、A型、Ag/A 型に加えて他の 候補ゼオライトであるMFI などの試料を用いた。測定に より、ゼオライト細孔内を拡散する分子1つの移動度と、 ゼオライト細孔内とゼオライトが接する気相中の濃度比 を測定することで、細孔内拡散の機構解析を解明した(図 9)。 1.0 0.8拡散物質 : ヨウ化メチル 0.6 吸着剤 : silicalite-1 温度 : 473K 9:36:00D=7×10-16 [m2 s-1] 実験値 計算値 0.2 00 1000 2000 3000 4000 Fig. 9 Capture trends time of organic on stream iodine [s] by diffusion (3) 銀ゼオライトを用いた放射性核種吸着脱離に関する 研究(東北大学) 1 バッチ式吸着実験装置の製作 銀ゼオライト吸着剤を用いる高除染性空気浄化シス テムは一年を通していろいろな環境の下で使用される ため、銀ゼオライトの放射性核種吸着能を評価するには、 流量、温度、湿度等の幅広い条件下において吸着実験を 行う必要があり、図 10 に示す、流量、温度、湿度が調 整可能な実験装置を製作した。 Fig. 10 Modified capture test apparatus for radioactive organic iodine 2 125I トレーサーを添加したヨウ化メチルの調製と放射 能の計測 本実験では主要な放射性核種として 125I トレーサーを添 加したヨウ化メチルを用いた。これは Na125I と CH3I を 所定時間撹拌させることによる同位体交換反応により 調製した。放射能測定はNaI シンチレーションカウンタ ーを用い、試料調製のための最適な撹拌時間を評価した。 Fig. 11 Measured result of γ-ray spectrum for CH3125I (4)汚染されたフィルターエレメントの多核種放射能減衰 評価に関する基礎研究 多核種高除染性空気浄化システムのフィルターエレメ ントにトラップされた多核種の放射性物質の放射能の評 価解析プログラム開発とフィルターの保管・処分方法に ついての検討を行った。平成27年度は特にフィルター エレメントにトラップされた多核種放射性物質の放射能 の評価解析プログラムの基本構想と解析システムのハー ドウエアを検討した。なお、フィルターエレメントの保 管・処分については、ウクライナのチェルノブイリ原子 力発電所4号炉の廃棄物処分の調査結果を踏まえて基礎 的な検討を実施した(図12)。 Fig. 12 Decay heat analysis results for U235 after fission pulse 溶融デブリが圧力容器下部を溶融貫通して、格納容 器下部のペデスタル部分に落下したと推定されている。 そこで、溶融燃料が原子炉の下部に溶融して原子炉建 屋下部に流下したチェルノブリ原子力発電所4号機の 溶融燃料の調査結果をもとに、空気浄化システムとし ての基本コンセプトの検討を行った。核種や化学的な 形態などについての詳細な調査結果がウクライナの国 立研究所から提供されていた。表1 は、事故前の炉内 35.5keV 線 2173/10/141000010001900/04/091010.10.01 0 20 40 60 80 100 120 140 Energy (keV) Na125I CH3125I 1.5h CH3125I 28h BG の燃料に蓄積されていた主な核種とその量(インベン トリ)の一覧である。セシウムCs やセリウムCe、ロ ジウムRh が量としては多いことが分かる。 Table 1 Estimated radioactivity for major materials in Chernobyl さらに、チェルノブイリ原子力発電所の近隣にある放射 性廃棄物埋設所「ブリャコフカ」の調査を行った。放射 性廃棄物埋設所は図13に示すように、放射性廃棄物を保 管する単一モジュール(塹壕)は、いわゆる土塚で、長 さ155.2 m 、幅88.0 m、高さ 9.7 m 。部粘土防水遮蔽板 の厚さは1.5 m,下部粘土濾過防止遮蔽板 は1.0 m, 塹壕 一つあたりの設計容量は、20,000 ~25,000 m3である。 本システムの導入を以て、福島第一原子力発電所の液体 の多核種放射性物質の除去に加え、気相の多核種放射性 物質の除去が可能となり、廃炉作業の被曝低減、作業効 率の改善・スピードアップにつながることが期待される。 平成30年には福島第一の初号機の取り出し工法が確定 することから、平成29年度までの3年間で実施予定であ る。本研究は文部科学省「英知を結集した原子力科学技 術人材育成推進事業」の採択テーマとして実施中である。 参考文献 (1)奈良林直、佐藤修彰、「銀ゼオライトを用いた高除染性フィルターベントシ ステムの開発と可視化実験」、エネルギーレビュー(2014,11). (2) 奈良林ら, 銀ゼオライトを用いた高除染性フィルターベントシステムのロ バスト化、第20回動力エネルギーシンポ, B211, (2015) . - 479 - Fig. 13 Radioactive disposal Center in Chernobyl 5.期待される効果とスケジュール“ “多核種高除染性空気浄化システム開発による作業被曝低減化研究 (1)全体計画 “ “奈良林 直,Tadashi NARABAYASHI,増田 隆夫,Takao MASUDA,中坂 佑太,Yuta NAKASAKA,千葉 豪,Go CHIBA,佐藤 修彰,Nobuaki SATO,秋山 大輔,Daisuke AKIYAMA
福島第一原子力発電所の廃炉においては、原子炉建屋や格納容器内の汚染は深刻で、廃炉作業を実施するためには、作業者の被曝低減と敷地外の放射性物質の漏洩防止を徹底しなくてはならない。原子炉建屋は排風機で負圧に維持し、排気中に含まれる放射性物質を除去する高除染性空気浄化システムの設置が必須で、しかも長期運転する必要がある。 2.解決すべき課題 各地の原子力発電所に設置される過酷事故対策用のフ ィルターベントの運転は10日足らずであるが、廃炉においては、その作業が終了するまで長期運転する必要がある。図1に多核種高除染性空気浄化システムの概念を示す。福島第一原子力発電所の取り出し工法は現在、検討中で、機械式切断や破砕する工法と、プラズマやレーザ加工による高温融解して切断する手法がある。更に格納容器内壁面には多量の放射性物質が付着していると考えられ、これを除染するために用いるドライアイス・ブラスト除染などでは、多核種の粉塵やエアロゾルの発生が不可避である。本研究は、いずれの工法に対しても必要となる、作業員の被曝防護のための空気浄化システムである。炉内や格納容器内の状況把握から燃料デブリ取出しに至るまでの全工程で被曝低減に貢献する技術である。
Fig.1 Concept of high decontamination air cleaning system. 図2に示す米国Zion発電所の廃炉作業では、プラズマ カッターなどの熱が入る作業は格納容器内の線量が上が り断念し、ワイヤカッターに切り替えたとのことであり、 福島第一原子力発電所の廃炉作業では、高除染性空気浄 化システムのニーズが高い。
Fig.2 Decommissioning of Zion NPP FP Plasma プラズマカッター Cutter Laser レーザー切断 Cutter release protection Wire Drilling Etc. ドライアイス除染 ワイヤーカッター による粉塵発生 for Cutter machine Debris Aerosol Filters 漏えい FPガス 熱膨張TIPチューブ 継手 FPガスと蒸気噴 圧力抑制室 サンド クッション部 原子炉格納容器 原子炉 圧力容器 主蒸気管 熱膨張 と変形 FP漏洩防止 空気浄化システム 汚染フィル ター処分 3.本研究の目的 本研究では、提案代表者らが開発した高除染性フィル ターベントの技術を基に、多核種除染性能の向上による フィルターエレメントの減容、遮蔽性能の向上、汚染さ れたフィルターエレメントの廃棄物処分評価技術の開発 を実施することを研究目的とする。 具体的には、福島第一原子力発電所の廃炉においては、 原子炉建屋や格納容器内の汚染は深刻で、廃炉作業を実 施するためには、作業者の被曝低減と敷地外の放射性物 質の漏洩防止を徹底しなくてはならない。これが開発す べき課題である。格納容器の開閉やデブリの切断加工に 伴い発生する放射性物質を吸引し、排気中に含まれる放 射性物質を除去する高除染性空気浄化システムの開発を 研究目標とする。 4.本研究の実施内容および成果 本研究では、多核種高除染性空気浄化システムの開発 に必要な基礎研究を実施している。 特に、多核種の濾過・吸着技術の高性能化を目的に、湿 式フィルターや乾式のメタルファイバーフィルター、銀 ゼオライトなどの各種フィルターのフィルター分離メカ ニズムの解明や多様な組み合わせによるフィルターの総 合性能の向上を目指している。 また、濾過・吸着したフィルターエレメントやゼオライ トにトラップされた多核種の放射性物質の放射能評価の 基礎研究として、多核種解析評価プログラムを整備して いる。 以下に3カ年の全体計画と平成27年度の研究成果を 述べる。 (1) 高除染線性フィルターによる被曝低減技術 1 被曝低減技術の基本コンセプトの立案 北海道大学にて開発した「ゼオライトを用いたヨウ素・ セシウム高除染性フィルターベントシステム」の湿式フ ィルターと、メタルファイバーフィルター、高除染線性 銀ゼオライトAgXなどを組み合わせた格納容器内の空気 浄化システムについて検討する。特に、最も除染係数(DF: Decontamination Factor)を上げることが困難とされる、ヒ Fig.3 Wet-type filter Fig.4 Dry-type filter ューム(プラズマカッターやレーザ切断装置などで発生 するナノサイズエアロゾル)に対する対策として、スク ラビングノズルを改良した図2の湿式フィルターや蒸気 注入により表面凝縮式させるフィルターなどの吸着特性 等についての基礎実験を実施し、図4の乾式フィルター については、メタルファイバーの線径と充填率がキーパ ラメータであることが明らかとなり、除染係数DFの向上 に向けた研究の糸口を見いだした。 2 実験装置の仕様検討と実験装置の準備 1にて実施したコンセプト検討に基づき実験装置の仕 様の検討と実験装置の設計製作を実施した(図5)。湿式 フィルターについてはスクラビングノズルの形状パラメ ータを、また メ タルファイバーフ ィルターについて はファイバー径や ファイバーの充填 率を変えることが 可能な装置とし、 フィルター機能の 多様な組み合わせ による総合試験と 基本的な機能が備 わっていることを 予備実験および据 え付けられた実験 装置の調整運転に より確認した。 このような構成の 多核種高除染性空 気浄化システムは 世界初である。 Fig.5 Test apparatus of filter system (2) 銀ゼオライトの吸着剤設計法の構築と希ガス分離メ カニズム評価に関する基盤研究 1 異なる結晶サイズを有するゼオライト結晶の合成 ゼオライト細孔内へ迅速に拡散物質を吸着させる上で、 結晶サイズをナノレベルで合成する必要があるため、北 海道大学にて開発した「逆ミセルを利用したゼオライト 合成法」を応用して、銀ゼオライトの担体となるゼオラ イト合成を実施した。図6は各種のゼオライトの分子 Fig. 6 Various types of Zeolite for sub-Nano sizes - 477 - サイズである。O-15 とシクロヘキサン混合溶液に対す る水溶液量を増加させることで、100nm、300nm と異 なる結晶サイズのMFI型ゼオライトを合成できた。さ らに合成方法2を用いることで、マイクロオーダーの 結晶サイズを有する MFI 型ゼオライトが合成された。 以上から、合成方法および合成溶液組成を変えること で異なる結晶サイズを有する MFI 型ゼオライトを合 成できた。A型を主な対象としたが、MFI型等他のゼオ ライトについてもナノサイズのゼオライト結晶合成の条 件を明らかにした(図7,図8)。 Fig. 7 Result of X-ray analysis for MFI type Zeolite. Fig. 8 Obtained FE-SEM image for MFI-Type Zeolite 2 FAU 型ゼオライト(X型、Y型) FAU 型ゼオライトの合成は、コロイダルシリカ(Si源)、 アルミン酸ナトリウム(Al源)、NaOH およびNaBrを混 合した水溶液を調整し、388K、24時間の水熱条件で合成 した。得られた白色粉末は蒸留水で洗浄、乾燥した後、 空気中823K で焼成した。以上により得られた粉末の結晶 構造は粉末X 線回折、細孔特性については窒素吸着、形 態については電子顕微鏡により確認した。 3 銀ゼオライトの細孔内の炭化水素分子の拡散係数の 測定 既有の拡散係数測定装置を用いて、定容法により希ガス、 参照MFI型ゼオライト 2θ [degree] 試料3 試料2 試料1 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 100 nm 100 nm 1 μm - 478 - C1 から C3 炭化水素およびヨウ化メチルの拡散係数を実 測した。ゼオライトとして、A型、Ag/A 型に加えて他の 候補ゼオライトであるMFI などの試料を用いた。測定に より、ゼオライト細孔内を拡散する分子1つの移動度と、 ゼオライト細孔内とゼオライトが接する気相中の濃度比 を測定することで、細孔内拡散の機構解析を解明した(図 9)。 1.0 0.8拡散物質 : ヨウ化メチル 0.6 吸着剤 : silicalite-1 温度 : 473K 9:36:00D=7×10-16 [m2 s-1] 実験値 計算値 0.2 00 1000 2000 3000 4000 Fig. 9 Capture trends time of organic on stream iodine [s] by diffusion (3) 銀ゼオライトを用いた放射性核種吸着脱離に関する 研究(東北大学) 1 バッチ式吸着実験装置の製作 銀ゼオライト吸着剤を用いる高除染性空気浄化シス テムは一年を通していろいろな環境の下で使用される ため、銀ゼオライトの放射性核種吸着能を評価するには、 流量、温度、湿度等の幅広い条件下において吸着実験を 行う必要があり、図 10 に示す、流量、温度、湿度が調 整可能な実験装置を製作した。 Fig. 10 Modified capture test apparatus for radioactive organic iodine 2 125I トレーサーを添加したヨウ化メチルの調製と放射 能の計測 本実験では主要な放射性核種として 125I トレーサーを添 加したヨウ化メチルを用いた。これは Na125I と CH3I を 所定時間撹拌させることによる同位体交換反応により 調製した。放射能測定はNaI シンチレーションカウンタ ーを用い、試料調製のための最適な撹拌時間を評価した。 Fig. 11 Measured result of γ-ray spectrum for CH3125I (4)汚染されたフィルターエレメントの多核種放射能減衰 評価に関する基礎研究 多核種高除染性空気浄化システムのフィルターエレメ ントにトラップされた多核種の放射性物質の放射能の評 価解析プログラム開発とフィルターの保管・処分方法に ついての検討を行った。平成27年度は特にフィルター エレメントにトラップされた多核種放射性物質の放射能 の評価解析プログラムの基本構想と解析システムのハー ドウエアを検討した。なお、フィルターエレメントの保 管・処分については、ウクライナのチェルノブイリ原子 力発電所4号炉の廃棄物処分の調査結果を踏まえて基礎 的な検討を実施した(図12)。 Fig. 12 Decay heat analysis results for U235 after fission pulse 溶融デブリが圧力容器下部を溶融貫通して、格納容 器下部のペデスタル部分に落下したと推定されている。 そこで、溶融燃料が原子炉の下部に溶融して原子炉建 屋下部に流下したチェルノブリ原子力発電所4号機の 溶融燃料の調査結果をもとに、空気浄化システムとし ての基本コンセプトの検討を行った。核種や化学的な 形態などについての詳細な調査結果がウクライナの国 立研究所から提供されていた。表1 は、事故前の炉内 35.5keV 線 2173/10/141000010001900/04/091010.10.01 0 20 40 60 80 100 120 140 Energy (keV) Na125I CH3125I 1.5h CH3125I 28h BG の燃料に蓄積されていた主な核種とその量(インベン トリ)の一覧である。セシウムCs やセリウムCe、ロ ジウムRh が量としては多いことが分かる。 Table 1 Estimated radioactivity for major materials in Chernobyl さらに、チェルノブイリ原子力発電所の近隣にある放射 性廃棄物埋設所「ブリャコフカ」の調査を行った。放射 性廃棄物埋設所は図13に示すように、放射性廃棄物を保 管する単一モジュール(塹壕)は、いわゆる土塚で、長 さ155.2 m 、幅88.0 m、高さ 9.7 m 。部粘土防水遮蔽板 の厚さは1.5 m,下部粘土濾過防止遮蔽板 は1.0 m, 塹壕 一つあたりの設計容量は、20,000 ~25,000 m3である。 本システムの導入を以て、福島第一原子力発電所の液体 の多核種放射性物質の除去に加え、気相の多核種放射性 物質の除去が可能となり、廃炉作業の被曝低減、作業効 率の改善・スピードアップにつながることが期待される。 平成30年には福島第一の初号機の取り出し工法が確定 することから、平成29年度までの3年間で実施予定であ る。本研究は文部科学省「英知を結集した原子力科学技 術人材育成推進事業」の採択テーマとして実施中である。 参考文献 (1)奈良林直、佐藤修彰、「銀ゼオライトを用いた高除染性フィルターベントシ ステムの開発と可視化実験」、エネルギーレビュー(2014,11). (2) 奈良林ら, 銀ゼオライトを用いた高除染性フィルターベントシステムのロ バスト化、第20回動力エネルギーシンポ, B211, (2015) . - 479 - Fig. 13 Radioactive disposal Center in Chernobyl 5.期待される効果とスケジュール“ “多核種高除染性空気浄化システム開発による作業被曝低減化研究 (1)全体計画 “ “奈良林 直,Tadashi NARABAYASHI,増田 隆夫,Takao MASUDA,中坂 佑太,Yuta NAKASAKA,千葉 豪,Go CHIBA,佐藤 修彰,Nobuaki SATO,秋山 大輔,Daisuke AKIYAMA