福島第一原発事故廃棄物の処理・処分技術開発
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カテゴリ: 第13回
1.はじめに
本研究は、経済産業省受託事業「平成25年度発電用原子炉等廃炉・安全技術基盤整備(事故廃棄物処理・処分概念構築に係る技術検討調査)」、経済産業省/平成25年度「廃炉・汚染水対策事業費補助金(事故廃棄物処理・ 処分技術の開発)」及び平成 26 年度補正予算「廃炉・汚染水対策事業費補助金(固体廃棄物の処理・処分に関する研究開発)」の成果を含んでいる。また、本研究は、技術研究組合国際廃炉研究開発機構(以下、IRID)の組合員として国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(以下、JAEA)、東京電力ホールディングス株式会社(以下、東電)、株式会社東芝、日立GEニュークリアエナジー株式会社、三菱重工業株式会社、株式会社アトックスが実施したものである。
2.研究開発の目的 福島第一原子力発電所(以下、1F)の事故により発生した廃棄物は、事故に伴い炉心溶融が起こっていることから炉心燃料に由来した放射性核種を含んでおり、高線量のものが多いなど、通常操業している原子力発電所の 廃棄物とは異なった特徴がある。また、事故の初期段階で炉心冷却に海水を注入したため、発生する廃棄物にも海水成分が含まれている。海水成分として、塩分やその他ミネラルの成分が含まれるので、通常施設から発生する廃棄物を処理・処分とは異なった難しさがある。さらに、水処理をした際に発生するゼオライトやスラッジといった、これまでに放射性廃棄物として処理や処分を想定していなかったものが発生してくることも課題である。また、汚染レベルが低いものから非常に高いところまで多岐にわたっていて、それぞれの発生量も多いことが特徴になる。 これらの廃棄物の処理・処分に際しては、汚染状況に応じた研究開発を実施することが必要になる。本研究では、特殊な廃棄物について、処分に関する安全性の見通しを確認すること、及び、現在1Fの現場でおこなわれて いる廃炉・汚染水対策を円滑に進めるために必要な技術 の整備、データの整備を行っていくことを目的としてい る。 3.研究開発の進め方 図 1 に放射性廃棄物の処理・処分に係る研究開発項目 を示す。放射性廃棄物処理・処分に関する研究開発の実施にあたっては、廃棄物を安全に処理処分するための廃 棄物ストリームの策定を目的として取り組んでいる。廃棄物ストリームは、事故廃棄物の発生・保管から処理処分までの一連の放射性廃棄物の取扱いを示すものである。
廃棄物の性状把握、処理検討、長期保管方策検討、処分 検討といった個別研究開発項目と相互に関連させること により、廃棄物ストリームの成立性を高めていく。 図1 放射性廃棄物の処理・処分に係る研究開発項目 3.汚染水処理二次廃棄物の核種濃度評価 3.1 セシウム吸着装置吸着塔 汚染水処理に伴う二次廃棄物として発生する廃ゼオラ イト、スラッジ等は高線量であるために試料採取が困難 であり、直接放射能分析できていない。これらのインベ ントリ評価の方法として、処理設備の前後の汚染水の分 析データの差分推定によりインベントリを評価した。セ シウム吸着塔(KURION)ついて評価した結果を図 2 に 示す。 図2 セシウム吸着装置吸着塔の放射能量評価例 汚染水分析で装置入口水濃度が非検出となる核種につ いては、入口水の検出下限値を入口濃度とし、これに総 処理水量をかけることで総核種量を求めた。結果として、 水分析で検出された137Cs等8核種に加え、非検出の 41Ca、 241Pu 等24 核種についても保守的な核種量を推定できた。 この推算結果は、汚染水分析により不検出であった核種 が分析下限値で全量吸着するという非常に保守的な評価 となっており、41Ca、129I、90Srについては、今後より現実 図3 多核種除去設備スラリーの核種分析結果 スラリーに含まれる核種は 90Srが支配的であり、1×106 ~107Bq/ccの放射能濃度となっている。90Sr以外にも、核 分裂生成物(125Sb, 137Cs)、放射化生成物(54Mn, 60Co)、ア クチニド核種(238,239Pu, 241Am, 244Cm)が除染されている。 アクチニド核種の除去には鉄共沈処理が効果的であり、 1F 事故廃棄物の処理処分に関する技術開発を進める上 では、廃棄物ストリームに関する総合的な検討が重要で ある。特に性状評価については、分析値と文献値及び解 析的手法を併用し、様々な不確実性を考慮してより信頼 性の高い廃棄物中の核種インベントリを設定する必要が ある。 的な補正を行う必要がある。 3.2 多核種除去設備スラリー 多核種除去設備(ALPS)から発生する鉄共沈スラリー 及び炭酸塩共沈スラリーの核種分析結果を図 3 に示す。 スラリーは、鉄共沈によるスラリーと炭酸塩のスラリー の 2 種類が発生する。既設 ALPS からは鉄共沈と炭酸塩 のスラリーがそれぞれ発生し、増設 ALPS については炭 酸塩のスラリーのみが発生する。 スラリー中のPu濃度は1×101Bq/cc程度であった。 4.おわりに - 481 -“ “福島第一原発事故廃棄物の処理・処分技術開発 “ “宮本 泰明,Yasuaki MIYAMOTO
本研究は、経済産業省受託事業「平成25年度発電用原子炉等廃炉・安全技術基盤整備(事故廃棄物処理・処分概念構築に係る技術検討調査)」、経済産業省/平成25年度「廃炉・汚染水対策事業費補助金(事故廃棄物処理・ 処分技術の開発)」及び平成 26 年度補正予算「廃炉・汚染水対策事業費補助金(固体廃棄物の処理・処分に関する研究開発)」の成果を含んでいる。また、本研究は、技術研究組合国際廃炉研究開発機構(以下、IRID)の組合員として国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(以下、JAEA)、東京電力ホールディングス株式会社(以下、東電)、株式会社東芝、日立GEニュークリアエナジー株式会社、三菱重工業株式会社、株式会社アトックスが実施したものである。
2.研究開発の目的 福島第一原子力発電所(以下、1F)の事故により発生した廃棄物は、事故に伴い炉心溶融が起こっていることから炉心燃料に由来した放射性核種を含んでおり、高線量のものが多いなど、通常操業している原子力発電所の 廃棄物とは異なった特徴がある。また、事故の初期段階で炉心冷却に海水を注入したため、発生する廃棄物にも海水成分が含まれている。海水成分として、塩分やその他ミネラルの成分が含まれるので、通常施設から発生する廃棄物を処理・処分とは異なった難しさがある。さらに、水処理をした際に発生するゼオライトやスラッジといった、これまでに放射性廃棄物として処理や処分を想定していなかったものが発生してくることも課題である。また、汚染レベルが低いものから非常に高いところまで多岐にわたっていて、それぞれの発生量も多いことが特徴になる。 これらの廃棄物の処理・処分に際しては、汚染状況に応じた研究開発を実施することが必要になる。本研究では、特殊な廃棄物について、処分に関する安全性の見通しを確認すること、及び、現在1Fの現場でおこなわれて いる廃炉・汚染水対策を円滑に進めるために必要な技術 の整備、データの整備を行っていくことを目的としてい る。 3.研究開発の進め方 図 1 に放射性廃棄物の処理・処分に係る研究開発項目 を示す。放射性廃棄物処理・処分に関する研究開発の実施にあたっては、廃棄物を安全に処理処分するための廃 棄物ストリームの策定を目的として取り組んでいる。廃棄物ストリームは、事故廃棄物の発生・保管から処理処分までの一連の放射性廃棄物の取扱いを示すものである。
廃棄物の性状把握、処理検討、長期保管方策検討、処分 検討といった個別研究開発項目と相互に関連させること により、廃棄物ストリームの成立性を高めていく。 図1 放射性廃棄物の処理・処分に係る研究開発項目 3.汚染水処理二次廃棄物の核種濃度評価 3.1 セシウム吸着装置吸着塔 汚染水処理に伴う二次廃棄物として発生する廃ゼオラ イト、スラッジ等は高線量であるために試料採取が困難 であり、直接放射能分析できていない。これらのインベ ントリ評価の方法として、処理設備の前後の汚染水の分 析データの差分推定によりインベントリを評価した。セ シウム吸着塔(KURION)ついて評価した結果を図 2 に 示す。 図2 セシウム吸着装置吸着塔の放射能量評価例 汚染水分析で装置入口水濃度が非検出となる核種につ いては、入口水の検出下限値を入口濃度とし、これに総 処理水量をかけることで総核種量を求めた。結果として、 水分析で検出された137Cs等8核種に加え、非検出の 41Ca、 241Pu 等24 核種についても保守的な核種量を推定できた。 この推算結果は、汚染水分析により不検出であった核種 が分析下限値で全量吸着するという非常に保守的な評価 となっており、41Ca、129I、90Srについては、今後より現実 図3 多核種除去設備スラリーの核種分析結果 スラリーに含まれる核種は 90Srが支配的であり、1×106 ~107Bq/ccの放射能濃度となっている。90Sr以外にも、核 分裂生成物(125Sb, 137Cs)、放射化生成物(54Mn, 60Co)、ア クチニド核種(238,239Pu, 241Am, 244Cm)が除染されている。 アクチニド核種の除去には鉄共沈処理が効果的であり、 1F 事故廃棄物の処理処分に関する技術開発を進める上 では、廃棄物ストリームに関する総合的な検討が重要で ある。特に性状評価については、分析値と文献値及び解 析的手法を併用し、様々な不確実性を考慮してより信頼 性の高い廃棄物中の核種インベントリを設定する必要が ある。 的な補正を行う必要がある。 3.2 多核種除去設備スラリー 多核種除去設備(ALPS)から発生する鉄共沈スラリー 及び炭酸塩共沈スラリーの核種分析結果を図 3 に示す。 スラリーは、鉄共沈によるスラリーと炭酸塩のスラリー の 2 種類が発生する。既設 ALPS からは鉄共沈と炭酸塩 のスラリーがそれぞれ発生し、増設 ALPS については炭 酸塩のスラリーのみが発生する。 スラリー中のPu濃度は1×101Bq/cc程度であった。 4.おわりに - 481 -“ “福島第一原発事故廃棄物の処理・処分技術開発 “ “宮本 泰明,Yasuaki MIYAMOTO