俯瞰的アプローチによる福島第一廃止措置の新たな工法検討

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カテゴリ: 第13回
1.緒言
福島第一原子力発電所廃炉の課題を克服するためには、数多くの視点から課題を捉える必要がある。将来が読めない不確実性の高い現象(社会)を完全に予測することは確かに困難である。但し、将来何が起こりそうかリスクを含めて俯瞰し、仮説をたてた上で、あらかじめ何らかの備えをしておくことはできるだろう。この場合、影響度合いが大きいと思われる不確実な事象を徹底的に洗い出し、モニタリングすることによって仮説を検証することが重要となる。 廃炉に本質的に必要な課題を見つけるには、従来の現状から考える意図的計画法と異なるエンドステート(最終状態)から考える仮説指向計画法も有効な手段である[1]。将来の予測が困難な事故炉の廃止措置を俯瞰的視点で捉えるため、燃料デブリ取り出し、廃棄物管理、及び遠隔技術の3分野に分けてブレーンストーミングを実施し、新たな廃炉に関する重要研究課題を抽出した。 ブレーンストーミング実施にあたっては原子力専門家の他、化学プラント、再処理技術、掘削技術、粉塵技術などに関する学内外の専門家の意見を反映して実施した。
2.課題抽出手法
2.1 実施手順 ブレーンストーミングの実施手順を以下に示す。 (1)何故失敗したのか(仮想)を議論[2] ―時間軸を意識した危険ホールの抽出 (2)成功するためにはどうすればよいか、既存概念に 囚われないアイデアを思考展開図の作成より抽出[2]。 (3)外的リスクを踏まえての問題点・課題の議論 (4)リスクを踏まえたアイデア改善案を抽出 (5)時間軸を意識した成功パスを構築 (6)パス毎にリスクを評価 2.2 実施内容 現在までブレーンストーミングで議論した項目(主とし て機能)を以下に示す。 (1)放射性物質の閉じ込め 1何故失敗したのか(仮想)、2放射性物質を閉じ込め るにはどうすべきか、3事故炉の深層防護とは何か (2)燃料デブリ取り出し 1何故失敗したのか(仮想)、2燃料デブリを気中で取 り出すにはどうすべきか、3MCCI を取り出すにはどう すべきか、廃炉における許容状態とは何か (3)廃棄物 1何故失敗したのか(仮想)、2エンドステートとは何 か、3安定化とは何か、4安定化の対象は何か、5将来 の危険ホールは何か 3.抽出された新たな概念 ブレーンストーミングでは本質的に何が幹であるか上位 の概念を見極めることが重要である。以下には、「閉じ 込め」と「取り出し」に関する機能の概要と機構(研究 課題)の一例を示す。 連絡先:鈴木俊一、〒113-8656 東京都文京区本郷 <課題1:閉じ込めで何が重要か?> 7-3-1 東京大学大学院工学系研究科原子力国際専攻 1放射性物質を外にださない、2被曝低減、3事故・故 E-mail:s_suzuki@n.t.u-tokyo.ac.jp 障も想定したリスクマネジメント(共通要因) - 482 - <課題3:PCV a)独立であって他に影響を及ぼさない(多重防護) 内燃料デブリ調査のための遠隔技術> b)それぞれのシステムがノイズの影響を受けにくい 1放射性物質を外にださない、2被曝低減、3調査に時 (ロバスト性の確保) 間を要しない(放射線影響が小さいうちに終了) c)システムに問題(電源喪失等)があっても、回復 4不整地(グレーティング)での調査を可能とする する(レジリエンス概念の適用) 5多数回の調査を可能とする、6事故・故障も想定した 以上の機能から求められる機構は、多重化し、最終壁 リスクマネジメント(共通要因) で閉じ込めることであり、以下に例を示す。 以上の機能から求められる機構(研究課題)の例は、 (例1)PCV での閉じ込めは高線量作業であり極めて困 「グレーティング上での調査の他、上部空間を活用した 難なことから、他建屋を壊してから原子炉建屋の外を 調査を行う」であり、例えば、(例1)放射性感受性の 覆う、あるいはアクセス容易な原子炉建屋の内面をコ 少ない素材をマニュピレータとして導入する、(例2) ーティングする。 ロボットを使ってペデスタル入口と反対側との間にワイ (例2)空調系は負圧管理とともに、α核種も含めた核 ヤーを張り、ワイヤー上に測定機器を吊るして出し入れ 種除去可能な空気浄化系を設置する。 する、(例3)その後の調査を継続可能とするため、空 (例3)核種モニタリング設備を設置し、α核種のモニ 間支持モジュールを自動構築し、搬送ルートを確保する。 タリングも可能とする (例4)燃料デブリ取出時の核種飛散(含むエアロゾル) <課題4:廃棄物の目指すエンドステートとは何か?> の事前シミュレーションを行う。 エンドステートとは、何かしらの安定化した状態を構築 (例5)作業立ち入り制限やマスクの常備などのマネジ することであり、安定化とは 1 核種を閉じ込めて移動 メント方策をたてる。 させないこと(例、STEP1:タンクで水を閉じ込めて移 動させない、STEP2:固化する、ドライアップする)、 <課題2:PCV底部のMCCI取り出しで何が重要か?> 2外部に影響を与えないことの機能を有する。 1放射性物質を外にださない( a.切断時の粉塵を飛散 以上の機能を満たすために必要な課題例は、 させない、b.切断時の汚染水を外に出さない) (例1)新たな処分概念の構築(取り出し作業工程と深 2被曝低減、3取り出しに長期間を要しない(建屋損傷 くリンク)、(例2)インベントリー評価、(例3)燃 前に取出す)、4再臨界防止、5事故・故障も想定した 料デブリ性状変化の把握、(例4)識別技術 (例5) リスクマネジメント(共通要因) 収納容器からの廃棄物(燃料デブリ、二次廃棄物等)取 以上の機能から求められる機構(研究課題)の例は、 出し、つめ直し遠隔操作技術、(例6)高濃度プルーム (例1)コンクリート等でMCCI を安定化してから取り の位置と量の推定・測定等があげられる。 出すことにより(デブリ経年劣化、飛散防止、廃棄体 処理の観点から)、以下の利点が得られる。 4.今後の進め方 ・取り出し時にα核種を含めた粉塵を飛散させない 引き続き、本質的に何が幹であるか上位の概念を見極 ・炉水がMCCI に接する量を制限し、汚染度を下げる めるための議論を継続する。(既存概念に囚われない ・固体として廃棄物を収納可能 (例)変化を許容する、許容状態(変形を許す)) ・上部アクセスの場合等、下部まで到達するのに時間が また、時間軸を見据えた要求機能の徹底的洗い出し後、 かかるが、その間、安定状態を維持可能 可能な機構を議論し、新規の研究課題を抽出する。 ・横アクセスでも、ペイロードが小さいマニュピレータ (その際、深層防護の考え方を導入する) を使用すると取り出し終了まで長期間を有するが、そ の間においても安定状態を維持可能 参考文献 (例2)小片デブリ、粉塵は水を使って搬送する [1] Clayton M. Christensen, イノベーションのジレンマ、 PCV底部、ベント管に水搬送ラインを設置し、ベント Harvard business school press 管穿孔ルートを活用して小ループ化等 [2] 畑村洋太郎編、実際の設計、日刊工業新聞社 - 483 -“ “俯瞰的アプローチによる福島第一廃止措置の新たな工法検討“ “鈴木 俊一,Shunichi SUZUKI,田村 雄介,Yusuke TAMURA,岡本 孝司,Koji OKAMOTO
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